中編4
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ソファ1

社会人になってから俺は念願の一人暮らしを満喫していた。

それほど高価なものは買えないがお気に入りの家具で囲まれる生活は本当に幸せだ。

そんな中、未だにソファの購入だけが滞っていた。

良いソファに出会っても、手の届かない値段で購入に踏み切れない。

しかし妥協してしまうと結局座らなくなってしまう、、、なんてことにもなる可能性がある。

ここは慎重に考えようと思っているうちに月日だけが流れてしまっていた。

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特にやることのない休日、暇つぶしがてらに中古の家具屋へと足を運んだ。

中古といえど、見た目としては新品に近しい商品ばかりで、ついつい無駄な買い物をしてしまいそうになるが、お目当てのソファのコーナーへと足を運ぶ。

一人掛け用から家族用まで色々な種類のソファが置かれていた。

良いソファだと思うものはやはりタグを見るとギョッとしてしまう値段だった。

中古と言えど、良い物は高いんだ。というか中古でこの値段なら新品だとどうなるんだろうか。と疑問に思いながらグルグル見回っていたが、結局買えそうなものがなく店の外に出ることにした。

店を出ると、隅の方にソファが置かれていたことに気づいた。

あれ、来た時にあんなソファ置かれていたか?と思いながら俺はそのソファに近づいていった。

見た感じ西洋のアンティーク調であり、不思議な形をしていた。

頭を置くほうが大きく、下にいくに連れて徐々に細くなっていくデザインになっていた。

試しに座ってみると、思いのほかふかふかで座りやすい。

足も伸ばしきっても足先がはみ出ることがなく、ゆったりとくつろぐことが出来そうだ。

そのオシャレなデザインにも惹かれて俺はこのソファが気に入ってしまった。

きっと高価なんだろうなと思い、恐る恐るタグをひっくり返してみると思っていた値段よりも0が一つ少ない気がする。

キョロキョロ見回していると、店員と思われる女性が近づいてきた。

「そのソファ素敵ですよね」と声をかけてきた。

「座り心地も良くて、見た目もオシャレで気に入りました。ただ値段ですがこれって間違っていたりしませんか?思っているよりも遥かに安いので」と俺は念のための確認をした。

「その金額でお間違いございませんよ。ただ型が少し古いタイプなので、この金額になっております。お客様のおっしゃる通り、座り心地も申し分なく、デザイン性にも優れてこのお値段。非常にお買い得な商品となっております」と優しく微笑んできた。

ここで逃したら次はなさそうだと思い、俺は即決で購入をすることにした。

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翌週の土曜日、14時頃。

念願のソファが搬入された。

部屋のインテリアともマッチしており、大満足である。

早速ソファで寝転ぶ。

この包み込まれる感覚。ふ〜っと俺の口から至福の空気が漏れ出てきた。

お昼ご飯も食べた後だからかもしれないが、うつらうつらとしてきた。

このままお昼寝するかと思ったのも束の間。俺の記憶はそこで途切れた。

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目を覚ますとあたりは暗闇に包まれていた。

お昼寝では済まず、どうやら本気で寝てしまったみたいだ。

時間を知るべく、ソファの周囲にあるはずのスマホを探した。

すると、右手の小指にコツンと何やら硬いものがぶつかった。

スマホか?と思いその物体を軽く掴んだ時に額に脂汗が一気に広がった。

太さは親指程度。

長さもはそれなりにありそうだ。

手の中で無数の足が蠢いているのが分かる。

今度は左手に硬い物体が当たった。俺は急いでその物体を掴み、ライトをつけて右手にその光を当てた。

手にはムカデがうにょうにょと蠢いていた。

「ひっ」と声にならない声が漏れ出て俺はバッと投げ捨てた。

どっから入ってきたんだ。

と思っている間に今度は足にくすぐったさを覚えた。

すかさず足にライトをかざすと、ムカデが這っていた。

しかも一匹だけではない。

無数のムカデが足元で絡まりながらガサガサと動いていた。

思考が停止した。体が硬直して動かない。

すると今度は首のあたりから何かが背中の中へと入り込んでいく感覚に襲われた。

ビクッとしてようやく体が動いた。

すぐさま俺は背中に手をやると「ぬちゃ」っとたくさん何かを掴んだ。

何を?

手を抜き出し、光をかざす。

それはムカデではなかった。

大量のウジが手の中に収まっていた。

力が抜け左手からスマホが転げ落ちる。

照らされた光の先には得体のしれない無数の虫が、カサカサ、ゴソゴソ、ガサガサ、うにょうにょと所狭しと蠢き合っていた。

意識が遠くなり、俺の記憶は再び途切れることになった。(続)

Concrete
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