中編4
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ソファ2

「ん・・・」と陽の光に照らされ、重い目が徐々に開いてきた。

先程の蟲地獄を思い出しガバッと飛び上がった。

虫を振り払う手振りをしたがそこには一匹もいなかった。

荒くなった呼吸も徐々に落ち着いてくる。

外が明るいのでもう朝になってしまったのかと時計を見やったら寝てから時間が1時間程度しか経っていなかったことに驚いた。

現実での出来事の片鱗が夢に現れてくると聞いたことがあるが、最近虫にまつわる出来事を経験した覚えがない。過去の忘れ去ってしまった記憶が再起したのだろうか。

「はぁ、気分最悪だ」とため息を溢したところで、スマホからメッセージの受信音が流れる。

スマホを手に取ると、明美からのメッセージだった。

明日楽しみにしているという旨の内容だった。

俺も彼女も月曜日が祝日でお互い休みのため、日曜日に泊まりにくる約束をしていたのを思い出し俺の気分は徐々に持ち直していった。

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「どう?お気に入りのソファは快適?私も早く座りたい!」と新しい家具に興味津々の彼女を家にあげた。

「座り心地は最高だけど、寝落ちしたら悪夢見たよ」と昨日の事実を淡々と述べた。

「慣れない所で寝るからだよ。寝る時はちゃんと布団でね」と流し気味で彼女は言った。

大の虫嫌いの彼女には具体的な夢の内容は伏せることにした。

「おぉ、本当にふかふかだ!これで本当にその値段だったの?形がちょっと変わってるけどオシャレだし、お値段以上だね」

「お店から出た時に気付けなかったら、こうして出会ってなかったよ」

まるで彼女との馴れ初めのような言い方をしたが、現に気づけていなかったらソファがこうして家にある生活にはならなかった。偶然というものは本当に奇妙なものだとしみじみと思った。

映画を観たり、仕事の話をしたりしていると陽がだいぶ沈んでいた。

「ゆっくりとくつろいでくれよ、今日の晩御飯は俺が作るからさ」

「やった〜、お言葉に甘えてだらだらとさせて頂きます」と嬉々として彼女は言い、ソファに寝転んだ。

それほど凝った料理は出来ないが、これでも人並みには出来る。

俺はキッチンに立ち料理開始のゴングを鳴らした。

炒めものが終わり、コンロの火を消すとソファから「すー、すー」っと吐息が聞こえてくる。

あれ、と思い覗くと彼女が吐息を漏らしながら熟睡している。

人には寝るなと言っていたのに、と苦笑しながらも彼女の幸せそうな寝顔を見てこのままにしてくことにした。

彼女が起きるまで間、テレビを見て時間を潰そうと思い、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。

テレビを見ている間にも彼女の吐息が一定のリズムを刻みながら聞こえてくる。

「すー、」

気持ちの良さそうな吐息だ。

「すー、すー、」

聞いているこっちも幸せな気持ちになってくる。

「すー、すー、すー」

さぞ幸せな夢を見ているんだろう

「すー、、、す、、、ん」

すると徐々にリズムが乱れてきた。

「ん、、ぁあ、、、あが」

と喉の奥からくぐもったような音が出てきた。

あれ、どうしたんだろうと彼女の方向を見やった瞬間

「がぁ、あぁ、、、、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

と今までに聞いたことのない音を発し、急いで寝ている彼女に駆け寄る。

顔を見やると、額には脂汗が滲み出てきている。

目は一向に閉じているままだ。

喉奥が容易に見えるほどに口は開き切っており、そこから奇怪な音を発している。

痙攣を起こしており、全身が小刻みに震えている。

それも動きが徐々に大きくなっていっている。

俺は彼女の肩を揺らし、起こす為に精一杯叫んだ。

「おい、明美、起きろ、明美。大丈夫か?おい、起きろ!!!」

恐らく、俺と同じように悪夢にうなされているはずだ。

虫の夢だったら明美の場合はトラウマになってしまう。

「おいっ、起きろってば」と肩の揺らす力も徐々に強まっていく。

目を覚ましてくれない。

どんな悪夢を見ているか分からないが、表情をみる限りさらに悪化している気がする。

どうすれば。

「お、、、、、、、」

彼女が何かを言いかけている。

「ね、、、は、し、、、」

耳を傾け集中して聴く。

「お、、ねが、、、い。はなし、、、て」

お願い、離して?

はっと思い、急いで彼女を持ち上げるようにする。

結構華奢な体型だから楽々持ち上がるはずなのだが、何かに引っ張られているような重さを感じた。

どうにか持ち上げて、ベットへと移動をさせた。

ソファの中から「ドンっ」と内側から殴ったような音が聞こえた気がして、振り返ったが特に変な様子はなかった。

ベッドに横たわらせた彼女の表情は徐々に和らいできて痙攣も治まってきた。

タオルを持ってきて、額の汗を拭っていく。

目がピクピクと動き出した。

徐々に目が開き「はっ」とした表情になる。

ガバッと起き上がり、俺に抱きついてきた。

その手が徐々に震え始め、号泣し始めた。

俺は彼女の恐怖が治るまで背中をさすりながら声をかけ続けた。

やがて荒れていた呼吸も落ち着いてきたようだ。

「凄くうなされていたみたいだけど、何を見たの」と俺は訊く。

「手が、振り払っても振り払っても手が迫ってきて」

どうやら、まだ頭の中の整理が追いついておらず、情報が断片的で要領を得ない。

「掴まれたりしたってこと?」

「掴まれたというか、引きづり込まれるような感じだった。振り払っても振り払っても手が迫ってきて・・・ひたすら逃げ回ってる夢だった」

「嫌な夢だったな、それは。手だけが出てきたの?」

「あと、確か・・・」とぼんやりとした表情で言った。

「十字架があった気がする」

(続)

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