中編3
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蟹おんな

軽快な電信音が鳴り響く。

「黄色い線の内側に・・・」という、いつもの聴き慣れた音声。

私の仕事は不定期なので、平日が休みという時が多々ある。

平日でお昼時ということも相まってホームには人がまばらにしかいなかった。

電車がゆっくりと停車してドアが開き、私は乗車した。

車内にもほとんど人がおらず、私は入り口付近の席に腰を下ろした。

急行の為、しばらくは停車することがない。

今日は春物の洋服を入手すべく、都会へと繰り出す。

どんな洋服を買おうかとSNSで最近の流行りの洋服を見漁っていた。

一通りリサーチを済まし、ふと周囲を見回す。

私のいる一両には3人ほどの乗客がいたが、優先席付近で立っている人が目に入った。

服装から察するに女性だろう。

座席はこんなに空いているのに、立っているのは健康の為だろうか。私も少しは健康を意識した方がいいかな。などと感心をして見ていると物凄くゆっくりなペースではあるがこちらへと向かってきている。

しかも、その動きは変だ。

正面を向いて普通に歩いてこない。

蟹歩きのように横に体を移動させている。

「うわっ」と思わず声を漏らした。

変な人に遭遇してしまった、なんとも言えないあの焦燥感。

徐々に徐々にとこちら側に近づいてくる。

周りにいる他の乗客はこの変な人に気づいていないようだ。

どうしよう、隣の両に逃げようかなと思っているがちょっとした好奇心が優ってしまいそのまま座り続ける。

そのままそれを見続ける。

距離にしてあと5〜6歩まで近づいてきてしまった。

色褪せたベージュの古びたドレスを着ている。

髪の毛は背中ほどまで伸びている長さだが、大分痛んでチリヂリしている。

ただそれは反対側を向いている為、顔が分からない。

動きに合わせて私の目線も動いていき、目の前でピタッと止まった。

そのまま通り過ぎていくのかと思ったがそのままピタッと止まる。

なんで私の前で止まってしまうのだろうか。

先程の好奇心に後悔し、そこから恐怖心が芽生えてきた。

なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで

と頭の中でぐるぐると同じ言葉が駆け巡る。

怖くて動けない。

徐々にそれが反転し始める。

私はそれから目を離すことができない。

それと対面した瞬間時が止まった。

それはまるで、人間を横から切り取ってしまった断面図のような姿をしていた。

あまりにものグロテスクな衝撃的なものを見た私の意識はそこで途絶えた。

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「・・・し」

肩を揺らされるのを感じる。

「もし・・・・終点・・・・」

意識が徐々に覚醒してくる。

「もしもし、終点ですよ」

とその声の内容を私の耳がきちんと捉えた。

あっと思い目を覚ます。

「お客さん、もう終点ですよ」と駅員さんが声をかけてくれている。

「あ、えっとすいません」と言いながら私は電車から降りる。

どうやら目的の駅からだいぶ過ぎてしまったようだ。

もう買い物する気分も無くなってしまい、そのまま家に帰ることにした。

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「あ〜凄く嫌な夢見たな」とひとりごちた。

極力思い出したくないが、考えないようにすればするほど思い出してしまう。

あの時、どこから現実が消え去って、夢になっていたかその境界線が分からなかった。

でも現実でなくて取り敢えずよかった。

気分転換にハートフルな映画でも観ようと思ったが洗濯物を取り込むのをすっかり忘れていた。

窓を開けると外がすっかり暗くなっていることに気づいた。

3階の高さから下の道路を見やる。

街頭が暗がりな道を照らしている。

そこに人影があることに気づいた。

壁側を向いて立っている。

それはベージュ色のドレスらしき物を着ており、背中ほどまでに髪の毛が伸びていた。

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