中編3
  • 表示切替
  • 使い方

Anarchy in the U.K.

昔の話です。

nextpage

LONDONに行った僕はまだ若く、興味のある事が多くて夢中になり、怖いもの知らずで、一人でどこでも行ってしまう性格でした。

危ないよ、と言われるエリアでも、楽しそうなら何も考えずに行ってしまいます。

nextpage

一日街を探索してお腹が空いた僕は、何か食べようとお店を探しました。

あまり治安の良くないエリアだったのか、ちゃんとしたお店が見当たりませんでした。

nextpage

「あ!ケンタッキーあった!」と近付くと、そこはケンタッキーそっくりな「テネシーフライドチキン」でした。

「あはは。州が違うww。土産話になるからここにしよう」と店に入りました。

メニューもケンタッキーに似たり寄ったり。迷わずにすみそうです。

nextpage

お店の店員さんを見たら、ハリウッド女優のリー・トンプソンさんの若い頃にそっくりな人でした。キレイだなぁ。

nextpage

「えっと…。これ一つと…」って、英語で頑張ってオーダーする僕の邪魔をして、リーさんにちょっかいを出すお店の掃除夫。

「やめて!接客中よ」みたいな事を言うリーさん。

掃除夫を見たら、若い頃のエディー・マーフィそっくりでした。

nextpage

笑いながらモップの柄でリーさんを突付くをエディー。

「もう!止めてよ!ごめんね。オーダーどうぞ」とリーさん。

エディーめ、リーさんが好きなんだな。好きな人をからかうって、世界共通なんだなぁ。

nextpage

その後、何度オーダーしようとしても、ちょっかいを出して邪魔するエディー。リーさんも困惑してます。

もう!お客さんいないトコでキャッキャしなよ!

いい加減、イラっとした僕を見てリーさんは真顔になり、エディーに「やめなって。仕事に戻って」と強めに言い、オーダーを受け付けてくれました。

エディーもしぶしぶフロアを磨き始めました。

nextpage

ホテルで食べようと、いろいろ買った僕は、お会計を済ませで店を出ます。

「サンキュー!」と笑顔のエディー。なんだよ今さら。

ちぇっ。君のおかげで時間が倍かかったよ。

nextpage

店を出ると、もう薄暗くなっていました。

早く帰んなきゃ。

駅への大通りに向かって暗い道を歩く僕の肩に、どっかりと重いものが乗りました。

nextpage

えっ…?

nextpage

見ると、汚い格好をした巨体の黒人でした。

わっ!何…?

nextpage

彼は簡単な言葉で判り易い要求をして来ました。

「金出せ」

うわ…。強盗だ…。

2mもある様な巨体の、丸太の様な腕が僕の肩にのし掛かり、真上から脅迫のセリフが聞こえます。

nextpage

明日も買い物をするつもりでいた僕は、お金を渡したくありませんでした。

「お金、ないよ…」

「は?無い訳ないだろ。旅行者がよ!」

「本当に無いんだ…」

「金が無きゃこんな買い物も出来ないだろ」

とテネシーフライドチキンの袋を指で弾きます。

nextpage

「この夜ご飯を買ったら、無くなったんだ」

「だったらそのご飯とお釣り全部寄越せよ!」

nextpage

あぁ…。もう出さなきゃダメかな。

危ないエリアなんか来なきゃ良かった…。

おサイフにはお釣りどころか旅行中の全財産。

最悪だ…。どうしよう…。

観念してポケットに手をやったその時です。

nextpage

「おい!その子から離れろよ!」

nextpage

!!??

巨漢の黒人と僕が同時に振り向きます。

nextpage

そこにいたのはモップを持ったエディーでした。

「おい。ウチのお客さんに何してんだ」

巨漢はこの一帯にたむろするゴロツキだったようです。

「あ。えへへ。いや、キミんとこのチキンをくれるって言うから」と巨漢。

エディーもここ一帯では有名な店員さんの様でした。

nextpage

「ねぇ。本当にチキンをあげるって言ったの?」

「ううん。言ってない」

巨漢を睨むエディー。

「いや。もう良いんだ。俺、行くから」と、巨体を小さくして足早に遠ざかる巨漢。

nextpage

「夜になる前に早く帰りな。駅まで行こうか?」とエディー。

「ありがとう。でも大丈夫。走って行くから」と言う僕に握手しながら「また来てね…って言いたいけど、もう来なくて良いよ。明日からは賑やかな街でご飯を食べるんだよ」と店に戻るエディー。

うっとおしく思ってごめんね、エディー。

nextpage

ホテルに着いて食べる頃には、ひえひえに冷えたチキンでしたが、とても暖かい気持ちで美味しく感じたLONDONの夜ご飯でした。

Concrete
コメント怖い
4
3
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

@Y・Y さま

ウケ狙いで入ったテネシーフライドチキンでしたが、違う店に入っていたらエディーが僕を知る事も無かったので、まんまと全てを盗られてしまっていたのでは…と思います。

いつも「すんでの所」で助かっていますね。
我ながら危ないです…。

いつもありがとうございます!

返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信