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長編16
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不思議なマジシャン

久しぶりに3人娘たちと商店街の喫茶店へ行ってみた

帰りに人たがりができていた

なんだろうと思い寄ってみたらストリートマジシャンが手品をしていた

指をパチンパチンと鳴らすたびに何かが出てきた

「すごい、パパ、指を鳴らすたびに何かが出てくる、すごい」と楓の驚いた声

「すごいな、TVしか見たことがない、生で見るとすごい迫力だな」

しばらく見てると指をパチンと鳴らすと花や小鳥が出てきた

ところが、しばらくたつと指をパチンと鳴らしても何も出てこなくなった

「あれ、もうタネ

が無くなったのかな」

マジシャンも頭を横に振っていた

「おかしいな・・出てこない」

野次馬たちも飽きてきたのかゾロゾロといなくなった

「さぁ、帰ろうか・・・」

「うん、パパ」

「しかし、どうやってあんなに仕込んたんだろうね、結構な数が出てきたよね」

「うん、手品はタネ、仕込みたからね、でも・・・どうやって仕込んたんだろう

私の手にも花束が出てきたよ、あの人とははじめてだし、タネの仕込みなどできないんだけどね、パパ」

「それ、それ、不思議だよな、あれこそ本当の手品なのかな」

「うん、不思議」

私は少し興味が湧いてきた

「すいません、先程から手品を見させてもらいました、どうしたらあんなにたくさん出すことが出来たんですか?」

「え・・・いや・・単に指をパチンと鳴らすと何かが出るんです、普通に出るんですよ」

「え?普通に?タネ、仕込みとかじゃないんですか?」

「いえいえ、僕の場合は普通に指を鳴らすだけです、TVでやってるような一流の手品師みたいなことはしてないんですよ」

どういうこと?

意味がわからない

「え・・と・・どう説明したらいいんだろう

こうやって、指をパチン・・・おお、出てきた」

確かに指をパチンと鳴らしたら小鳥が出てきた・・・

どんな仕掛けなんだろう・・・

指を鳴らすだけで物が出てくるわけがない

「どうでしょう・・・もそろそろ日も落ちてきましたし、もし、お時間があれば我が家へ来ませんか?」

「え?・・・いや・・そのぉ・・初対面の人ですし・・・それは・・・」

「たしかにですね、しかし、私、すごく興味が湧きました、我が家で手品を披露してほしいんです、もちろんギャラは払います」

「え・・そのぉ・・」

しばらくマジシャンは考え込んでしまった

当たり前だよね、どこの人がわからないのに・・

「わかりました、手品をします」

3人娘たちが大喜び

道中、この若いマジシャンと話しながら家路についた

話を聞くと、小学生の時に風邪をひいて1週間ほど寝ていたとか

熱も39度もあり母親がずっと付き添っていた

1週間ほどして体調も良くなり学校へ行けるようになった

クラスの中に指をパチンとキレイに鳴らす子が居て歌を歌いながら指をパチンパチンと

リズムよく鳴らして歌っていた

それを真似して指をパチンとやってみた

はじめは音が鳴らずに何回も練習をしたらしい

なんとか音が鳴りはじめもっと綺麗に音がなるように毎日練習した

そんな、ある日にやっとパチンと綺麗な音が鳴った

ついつい嬉しくなりどんどん指を鳴らした

ところが何回も鳴らしていくうちに段々と気持ち悪くなってきた

その場に座り込んでしまった

なんとなく周囲の空気が重い

あちこちで人の声がする

何を話しているのか聞き取りにくい

やっと空気が軽くなってきたような気がしてきた

体を上げて周囲を見回した

何も変化はなかった

人の話声も聞こえない

また指鳴らしの練習をはじめた

そのときに、胸ポケットに何かが入り込んだ気がした

気になったのでポケットに指を入れて出してみた

チョコレートだった

はて、チョコレートなど買った覚えはないし入れた覚えもない

なんでだろうとしばらく考えてみたが思い当たらない

また指を鳴らした

今度は近くにあったバケツに花束が出てきた

え!?と思いながらまた指を鳴らした

今度は小鳥が出てきた

さすがにこれはおかしいと思いその日の練習はやめた

次の日も指鳴らしの練習をした

いろいろなものが指を鳴らしたら出てきた

もう、どう理解したらいいのかわからなくなった

夕食時にTV番組で手品ショーが放映された

それをずっと食事しながら見ていた

いろいろなマジシャンが手品を披露していた

最後の方で指を鳴らすマジシャンが出てきた

パチン、パチンと指を鳴らすといろいろな場所から小鳥や果物や花などが出てきた

「あ、同じだ、同じ人がいるんだ。自分一人じゃないんだ」と叫んだ

父親が「あれはな、仕掛けがあってはじめから仕込んでいるんだよ」と教えてくれた

「仕掛け?そうなんだ」と一応は返事はした

だけど自分のは仕掛けなど一切ない

「父ちゃん、俺もさ、指をパチンと鳴らすと出てくるんだぜ」

「あははははは!!!もうTVを見て洗脳されたんか」

「いや、違う、本当だよ」

「じゃあ、鳴らしてみろ」

父親の目の前で指を鳴らした

食卓のところに清酒が出てきた

父親は日本酒が大好きで毎晩のように飲んでいた

「うわっ!!!びっくりした、おい!なんなんだよ、どうなってるんだ」とびっくりした声を出した

母親と妹は唖然としたままだった

「びっくりした・・いつのまに仕掛けたんだよ」

「いや、仕掛けなどしてないよ、父ちゃん」

「うそだろ、仕掛け無しで手品は出来ないぞ」

「本当だよ、仕掛けはしてない」

父親は息子が嘘をついていないとすぐにわかった

「おい・・・もう指を鳴らすのはやめたほうがいいぞ、手品なら人は喜ぶかもしれないがタネや仕掛けがないのに物が出てくるということはあまりいいことではないぞ、いいか!

手品はきちんとタネや仕掛けがあることはみんな知ってるから安心して見ていられる、だけどな、何も仕掛けがないのに物が出てくるということははじめはみんなびっくりや感心はするだろう、けれど、いずれ恐怖心が出てきてお前を避けるようになるぞ、おまえの周囲に人がいなくなるんだ、もう1度言うぞ、もう指を鳴らすのはやめろ、いいな」

と強い口調で言われた

子供心に父親の言った意味がわからなかった

後々に父親が言ったとおりになった

父親から言われた次の日も指を鳴らす練習をした

出てくる、出てくる

指を鳴らすたびにどんどん出てくる

練習成果も上がったので今度は教室でしようと思った

これが悲惨な事になった

みんなの前で指をパチン、すると机の上に花束が出てきた

クラスメートたちは「すげぇ!!!」と声を上げた

調子に乗りどんどん指を鳴らした

どんどん出てくる

ところが、段々とクラスメートたちの反応がなくなってきた

一人のクラスメートが

「おい・・どのくらい、仕掛けをしたんだよ」と言ってきた

「いや、仕掛けはしてないよ、指を鳴らすだけ」

「おい・・・」と言ったきり呆然としていた

クラスメートたちもソワソワとしはじめてきた

クラスメートの一人が

「もういいよ、わかったぜ」と言い独演会は終わった

次の日、学校へ行った、教室へ入るとなんとなくクラスメートたちの様子がおかしい

いつもなら挨拶をしてくるんだが挨拶がない

こちらから「おはよ!」と挨拶をしたが返事はない

完全に無視された

次の日も無視

次の日も無視

完全に浮いた存在となってしまった

クラス全員がKさんを避けるようになった

結果的に不登校となり小学校を卒業したというか追い出された感じ

中学校では1学期はきちんと通ったのだが夏休みが終わり2学期からまた不登校となった

中学生時代も友達を作れずにひきこもりの生活をした

なんとか夜間の学校で高卒の資格は取れた

父親が言ったとおりになってしまった

我が家へ着いた

「ただいま、どうぞ」

リビングへ行った

「お邪魔します」

「あれ、アニキ、お客様、あ、ちょっと待って、S子姉さんに一人追加を頼んでくるね」とF子はあわてて厨房に行った

S君が座っていた

「お・・珍しいな」

「ああぁ・・この方、マジシャンだよ」

「え?ほんと?」

「そう、今から手品をしてもらうから」

「手品?見たい」

「では」

パチンと指を鳴らした

テーブルの上にワインが出てきた

「お、お、まじかよ、ワインが出てきたぞ、すんげぇ」

また指を鳴らした

小皿の上にチーズが出てきた

「うわっ、今度はチーズか・・・どうなってるんだよ」

「すごいだろ、これ、タネも仕掛けもないんだよ」

「仕掛けは無理だろ、今さっき会ったばかりだ」

「そう、本当の手品だよ」

「た、たしかにな・・・でもよ、こりゃ、超能力だよ」

「あ、そうだよな」

話が盛り上がってる時に洗濯場の方で何か物が落ちた音がした

「うわっ!奥で何か音がしましたよ」とKさんの驚いた声

「あ・・・今日のはすごいな、洗濯場ですよ」

「そうですか、誰かが洗濯物を落としたんですね」

「ううん、洗濯場には誰も居ないよ」

「え???じゃあ、自然に落ちたんですね」

「ううん、自然に落ちることはあるけど、今のは恐らく通りすがりの幽霊がいたずらしたと思う」

「はい?幽霊?」

「ええ、我が家は「お化け屋敷」と言われていますから」

「お化け屋敷?うううう・・・」

Kさんの顔色が一気に変わった

よほど幽霊が怖いのかな

「大丈夫ですか?」

「あ、はい・・・幽霊と聞いてゾクッとしました」

やはり、幽霊が怖いんだ

「昔のTVって結構、幽霊番組が多かったでしょ?」

「たしかに多かった」

「その中の某番組を見て背筋がゾクッとした放送が流れたんです」

「背中に?どんな内容だったの?」

「え・・と、裏覚えしか覚えてないですけど・・・たしか、廃村で

投稿者の方がカメラをもってあちこち撮影していたんです

あちこち映してて木と木の間を子供が走っていく姿が映っていたんです

その服装が現代の子供が着る服装じゃなかったんですよ

なんか江戸時代の服装というかあまり詳しくないんですけど

その女の子が走っていったんです

それを見てゾワッと背筋に氷を当てられたような感じがして寒気が来たんです

一瞬でしたけれど・・・番組でこの場面を紹介すると思っていたのだけど

誰一人そのことには触れなかったんです

おかしいなと思っても番組は終わってしまったんですね

今みたいにレコーダーがあれば見直しが出来たのにと思いますが

でも・・・その1週間後に体調を崩して熱を出したんですよね」

「う・・・ちょいまち・・・それって某TV局の番組で確か夜8時頃に

2時間スペシャル特番じゃなかった?」

「いや・・・あんまし覚えてないんですよね・・」

「たしか・・番組終了する前に放送したような気がする・・・

廃村で・・結構、雑木林が映ってて、なんか気持ち悪いなと見てた記憶がある・・

木と木の間で・・・記憶が無いな・・・たしか、夕方の撮影で空が曇りというか雲一色だったような・・・」

「曇りだったような・・記憶が思い出せない・・・」

ガタン

「また、落ちたな、今度は何が落ちたんだろう、結構大きな音だったけど」

「す、すいません・・びっくりしてお茶をこぼしてしまいました・・」

Kさんは慌てて自分の持っていたハンカチでこぼれたお茶を拭いた

「俺、ちょっと見てくるわ」とS君は洗濯場へ行った

「こんな感じで毎日、何か起きてるんですか?」

「いや、毎日じゃないけどね、慣れたせいもあるけど気にしてないんですよ

後で仏間へ案内して自分のオヤジを紹介しますね」

Kさんは少し驚いた顔をしていた

「やはりよ、物は落ちてなかったよ、今晩の洗濯はしないほうがいいかも、俺からカナちゃんママに言っておくよ」

物が落ちてる場合はまだいい

けれど

物が落ちてなくてあの大きな音は良くない

「Fさん、Sさんから聞きましたけど、今晩の洗濯は明日の朝にしますね、台所へ行ってお手伝いしてきます」

「あのぉ・・物が落ちてないと洗濯しないんですか?」

「あ・・以前にもああいう感じで大きな音が鳴ったんですけど

洗濯物が溜まっててカナちゃんママが洗濯をしてる時に洗濯機が突然止まったり動いたりすることがあったんです、恐らく通りすがりの幽霊がイタズラをしたんだとは思っていますけど、オヤジが念のために「今後は洗濯場にいない方が良い」ということになったんです」

「そ、そうなんですか・・・怖いですね」

「今から、仏間へいきましょう」

Kさんを連れて仏間へ

「オヤジ、珍しいお客さんだよ」

「は、はじめまして、Kと言います」

ラジオを聞いていたオヤジが振り返った

一瞬オヤジの顔が「まさか」の顔になった気がした

「せがれの親だよ」

「オヤジ、Kさんはマジシャンだよ」

「お・・プロなのか?」

「いえ・・アマです、適当な時間を使って路上でパフォーマンスをしています」

「アマか・・・手品できる?」

「はい、できます」

「お、ここでやれる?」

「はい!」

Kさんは指をパチンと鳴らした

日本酒が出てきた

「うわっ!日本酒が出てきたぞ」

オヤジの驚いた顔

パチン

今度は・・・櫛が出てきた

「え・・・櫛・・・嫌味かよ、俺の頭は坊主頭だぜ、どうやっても櫛を使うことはないぜ」

「おかしいな・・」

「オヤジ、Kさんの手品はガチャ要素が強いんだよ」

パチン

何も出てこない

パチッ、パチン

何も出てこない

「おいおい、何もでてこないぞ、1回だけかよ、本当にマジシャンかよ」

「す、すいません」

私はすぐにオヤジの耳元でKさんの今までの出来事を話をした

「マジかよ、タネがないって・・・たしかにな、日本酒が出てきた時は驚いたけど、はじめてあったばかりだしな、超能力か、ありえるな」

「Kさん、すまんが、後ろを向いて背中を見せてくれ」

「え!背中ですか・・・恥ずかしいです」

「わかってる、確かめたいことがある」

Kさんは躊躇しながらオヤジに背中を見せた

するとKさんの背中を指でなぞっていった

Kさんはゾクゾクと反応を見せた

「やはりな・・・こりゃ、超能力じゃないぜ、背中の真ん中あたりによ、なんか抜けから、というか霊の抜けからというかなんかあるぞ、なんだろうな」

「オヤジ・・・」

「あのな、ここらへんあたりによ、なんか残ってるんだよ、明日によ、病院へ行ったほうがいいかもよ」

「え・・病院ですか・・・」

「そうだよ、今、調子こいて指鳴らしてるけど、たまに何も出てこないときがあるだろ、今さっきも出てこなかった、超能力じゃなくこの背中に居る何かしらの抜けからが原因だぞ、別にすぐに命がなくなるというわけじゃないけど、徐々に運が悪くなっていくぞ、明日に病院へ行ったほうがいいぜ」

「私もそう思うよ、Kさん」

翌朝にKさんは病院へ

結果的にどこも異常はなかった

ただ、レントゲン写真にはすこし白いものが映っていると言われた

そうオヤジが指をさすったところに白いものが映っていた

「そっか・・・白いものか・・まぁ今のところはいいとは思うけど

日頃から生活習慣には気をつけていたほうがいいかも

体調を崩すとちょっと厄介になるからな」

「そうなんですか・・・その白いものって何です?」

「まぁ・・あんまし言いたくはないけどな・・そのパチンの元だと思ってもいいよ

マジックじゃないんだよ、そのパチンでその白いものが反応して物質化してるんだ、だから、連続パチンや体調の疲れでその白いものは反応が鈍くなっていくんだよ、

だから寝不足など生活習慣が乱れると良くない」

「そ、そうなんですか・・・確かに疲れてくると出にくくなっています・・・」

「それとな、あんましその能力は使わないほうがいいぞ、もしマジックするならきちんとタネがあるマジックをしたほうがいい」

「はい・・・」

その1週間後・・・オヤジが一番恐れていたことが起きた

オヤジの言う事を聞かずに指パチンをほぼ毎日していたらしい

いつものように路上パフォーマンスをしていて倒れた

見物客が救急車を呼んで病院へ搬送された

Kさんが私の家の電話番号を看護婦さんに伝えていたらしく病院から電話がかかってきた

オヤジと私は急いで病院へ向かった

Kさんは集中治療室に居た

外から中を覗いた

酸素マスクをしているKさんが居た

まだ意識はあるようだ

医者が来た

「Kさんのお知り合いですかね」

「まぁ・・はい」

「今のところは意識はありますが・・・心臓のほうが弱くなっています・・・

心臓周辺をいろいろと調べたのですが原因がわからないのです

まだ、若いですから・・心臓が弱くなるということはおかしいなとは思っていますが

今は他に原因があるのか急いで調べています」

「俺にはわかるぜ、一度よ、背中を調べてみろよ」

「背中ですか?・・・調べてみます」

医者は慌てて集中治療室へ入りKさんの体を横にして背中を調べていた

医者の驚いた顔がよく見えた

「今、背中を見てきたのですが、背中の真ん中あたりに何かシコリのものがあるようです

今からレントゲンで調べてみます」

急いでKさんをレントゲン室へ運んでいった

私達も後を追った

レントゲン室へKさんは入っていった

医者が慌てて出てきた

「わかりました、背中に腫瘍なようなものが映りました

今から緊急手術をして摘出します」

「ちょっと待て!手術は無理だ、下手に取ると命にかかわるぞ、

塩を水に混ぜたものをそのシコリあたりにかけてみろ」

「え?・・・塩水をですか?」

「そうだよ、説明は長くなるからとにかく塩水をかけてみろ」

「あ・・・はい・・・やってみます」

医者は看護師に塩水を持って来るように指示を出した

しばらくすると塩水が入ったコップを持ってきた

オヤジは看護師からコップを受け取り

何やらブツブツと呪文を唱えていた

医者と看護師はびっくりした顔で成り行きを見ていた

そのコップをKさんのシコリあたりにかけた

すると、そのシコリが突然動き出した

医者はびっくりして声を出した

「やはりな・・・もう少しだ」

オヤジは呪文を唱えた

「ダメかな・・・せがれ、楓ちゃんを連れてこい、本当はクソ坊主がいいけど病院へ来るのに時間がかかる、大至急だ」

私は慌てて病院を出て家へ戻り3人娘を乗せて再び病院へ向かった

「じいちゃ!!!!来たよ、パパから聞いたよ、私の力を貸すね」

「おう、楓ちゃんの力があれば、こいつを退治できる」

「うん!!!」

楓はオヤジの手を握った

オヤジは呪文を唱えた

シコリみたいなものが激しく動いていた

しばらくすると背中の膨らみが無くなった

「よぉし、退治できたぜ」

医者は呆然としていた

「シコリのものはなくなったぜ、確認してくれ」

「は、はい」

医者は背中あたりを触った

「え・・・シコリがなくなってる・・・どういうことだ」

「だろ、これで一応は俺の治療は終わったぜ、あとは医者のあんたが判断してくれ」

「え・・・はい・・・」

医者は背中のシコリがなくなっているのを信じられないという顔をしていた

レントゲンも調べた

「うそだろ、白いものが無くなってる、ありえない、どういうことだ」と

驚きの声を上げていた

ところが・・・Kさんは目を開けなかった

息はしてる

もうそろそろ目を開けてもいいはずだ

「おかしいな、もうそろそろ目を開けてもいいはずだぜ、なんで起きないんだ」

しばらく待ったが目を開ける気配がない

「おかしいぜ、シコリは無くなってるんだ、目を開けないってことはないはずだぜ」

「じいちゃ・・・」

医者がKさんの手首を握った

「脈が弱くなっています・・・一旦、集中治療室へ入れます」

再び、Kさんは集中治療室へ

酸素マスクをかけられ目を閉じたままのKさん

オヤジは腕を組んで何か考えことをしていた

「はっ・・・まさか」

「じいちゃ!!!、そのまさかかも」

オヤジと楓は同時に声を上げた

オヤジは膝を曲げて「そっか・・そういうことか・・・」と涙声になっていた

「じいちゃ・・・気づくの遅かったよ・・・」と楓も泣き出した

「オヤジ、大丈夫か」

「いや・・・俺の責任だ・・・気づくのが遅かった・・・」と頭を垂れて泣いていた

「パパ・・・Kさん、寿命なんだよ、見た目は20代でも体と魂はもう90歳を超えている・・原因はね、指パチンだよ、パパ・・・指をパチンと鳴らすと1日分の寿命を使い果たすんだよ・・・つまり、指パチンで命と交換していたんだよ・・・私達に会ったときにはもう90歳を超えていたんだよ・・・じいちゃんが体調管理と指パチンはやめるようにと強く言ったのに・・・また指パチンをしたから・・寿命が来たんだよ」

「え!???うそだろ、パチンで命が減るなんで・・・信じられん」

「せがれ、うそじゃないぜ、気づくのが遅すぎた・・・本当にすまないことをしたよ、

全然気づかなかった・・・しまった・・・」

「そんな・・・マジかよ」

医者が集中治療室から飛び出して行った

中が慌しい

看護婦の慌てぶり

担当医がもう一人の医者を連れてきて入っていった

Kさんの心臓あたりを強く押したりしている

しばらくすると・・・静寂になった

担当医が治療室から出てきた

「患者さん・・・心肺停止しました・・・午後3時25分・・・死亡を確認しました・・・御臨終です」

その声で私達家族は頭が真っ白になった

「そんな!!!〇〇(Kさんの名前)、目を覚まして!!!」と背後から大きな声がした

後ろを見ると中年の男女が立っていた

女性は泣き崩れていた

「だから・・「あれほどするな」と言っていたのに」と男性が泣いていた

Kさんの両親だった

Kさんの両親は医者の案内で集中治療室へ入っていった

オヤジの落胆した姿、初めて見た

3人娘たちは泣きながらお互いの体を抱き寄せていた

Kさんは両親と一緒に安置室へ・・・私達もついて行った

母親の泣き声で心が折れそうだ

「す、すまない、気づくのが遅すぎた」とオヤジはKさんの両親に頭を下げた

「いえいえ・・あなたのせいじゃない・・・あれだけ私達の息子に治療をしてくれた、あなたかた家族のことは息子から聞いていましたよ、本当に息子のことを心配してくれて、ありがとう、息子がすごくうれしそうに話してくれた、本当にありがとう」とKさんの父親はオヤジの手を握っていた

オヤジがあれだけ泣くとは思ってもみなかった

Kさんの葬儀も無事に終えた

Concrete
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