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中編3
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墓場の主

馳沼凪斗(はせぬま・なぎと)です。

就職して以降、御盆や御彼岸に墓参りが出来なくなって、致し方無く季節外れに御墓に行って、その時は居ないかも知れない御先祖様に、顔を見せております。

そんな中での奇妙な事と御話を致しましょう。宜しく御願い致します。

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学生時代の終わり辺りだったろうか、就職活動が中々厳しかった僕は、息抜きも兼ねてと言うと語弊が有るかも知れないが、一息つく目的も有って墓参りに来ていた。

「────どなたですか」

「え?」

ちょっとした焚き火をしながら線香に火を点け、供え場所に置いたタイミングで声を掛けられたので顔を上げると、キョトンと背広姿の眼鏡を掛けた青年と目が合う。

僕は座り込んでいたのに気付いて腰を上げて、彼の目を見ながら答える。

「あっ、孫です。馳沼の」

御先祖様と言うか、僕の生まれる数年前に他界した、父方の祖父が眠っているので、別段隠す事も無い。

「そうでしたか。では」

(────おり?)

御辞儀をして、彼は僕が墓石に掛ける水を汲んだ井戸の方へと去って行った。

(全然見た事無いな。ありゃ誰だろ)

僕以外は誰も墓地には居ないし、身内に彼の様な知り合いが居る話も聞いた事が無いのと、従兄も再従弟(はとこ)も男ばかりなのだが、そう言えば私以外は全然眼鏡を掛けていない。

家族に話した所で、怪訝(けげん)な顔をされるだけだろうと踏んで、僕は今回の事を誰にも話さない事にした。

*********************

市街地に熊が出没するニュースが頻発しており、山菜や筍(タケノコ)、茸(キノコ)を採りに行った先で襲われたり、農家さんの納屋で急に出くわして怪我をするケースが少なからず有って、いずれも高齢者が被害を受けているのを知って、喋れないにせよ熊の側の言い分も有るだろうが、僕は何故か「怪我させてんじゃ無ェ!」と身勝手な怒りを滲ませていた。

そんな矢先、夜更けの墓地で酒盛りをしていたと言う若者が襲われ、怪我をすると言う或る意味自業自得な事態が起きる。

しかもアルコールが回っていて出血も酷く、逃げ出す際に藪みたいな場所や砂利と土の未舗装の場所も有ったから、切り傷に擦り傷、引っ掻き傷が酷かったとの話である。

僕は用心を兼ねて、地方局に周波数を合わせた携帯ラジオを持ち込んで、季節外れの墓参りに来ていた。

「グォルルルルルル………」

「え?え、嘘っ………」

線香に火を点ける為に焚き火をしていた際、視線を感じて見上げると………喰い物も無いのに、巨大な黒い塊がのし掛かって来る。

「ウォォゥ!」

「ひぐっ!」

ガリリと鋭い爪が、幸い墓場を仕切るボロボロの、低いコンクリート塀を抉って、更に焚いていた火に前足を突っ込んだか、低い唸り声にドスが利き始める。

「動けない………どどどどど………」

「どうしよう」さえ言えず、頭を守ろうと手を置いた瞬間、ビュンと刃物を振り回す様な風を切る音が響く。

(ああ………ズタズタにされる………)

何故か目に涙を浮かべて、諦めの境地に達した瞬間、

パァーン!

派手に爆竹を破裂させた様な音が木霊(こだま)する。

「グルルァァァォォォルルルァ!」

毒を喰らった様に絶叫し始めた黒い塊は、悶え苦しみながら赤黒い液体を狭い通路にボタボタと落としながら、よりによって焚き火の場所に倒れ込んで動かなくなる。

「────御免なさい、驚かせてしまいました。大丈夫ですか」

通常なら「あんた!怪我は無いか!」と大声が響きそうな所を、穏やか且つ冷静な声で………眼鏡を掛けた背広姿の青年が、いわゆる猟師の格好で僕の前に現れた。

「ピーンピーン」と今更ながら、あの強烈な破裂音の余韻が来て、暫く僕の耳は聞こえなかったが、段々と聴力も戻って来て、「ああ………大丈夫です」と返せるタイミングになる。

何でも、今回仕留めたのが酒盛りをしていた若者の集団を襲った奴らしい。逃げて仕留め損ねたらしく、僕の来るタイミングと待ち構えていたタイミングとが、悪い意味で重なったのだと言う。

だが、彼も彼で猟銃を構えている際に、過去に逢った男だと気付かなかったらしく、仕留めた際の余韻が落ち着いた所で、僕の顔を見てビックリしていた。

Concrete
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