「新婚生活?別にたいして良いこともないかな」
僕は社交辞令として新居に移ったばかりの友人の結婚生活について聞いた。
「だってさあ。休みに排水溝の掃除ばっかりさせられるんよ」
「あー、それは嫌かもな。なんか溶かす液あるじゃん。アレ流しとけばいいんじゃないか?」
「それがさ。そういうの使う前にビニール手袋はめてやらなきゃ取りきれないんよ」
「何が?」
「何ってそりゃ髪の毛よ。フタのとこに裏まで絡んで手じゃなきゃ取れんわあれは」
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後日、引越しをした友人と再会した。
これも社交辞令だろうと理由を聞いた。
「引越しの理由?うーん、強いていうなら排水口かな」
「排水口?引越したところでまた君が掃除係になるんじゃないのか」
「自分で掃除すること自体は別に気にしてなかったよ」
「じゃあなぜ?」
「排水口に絡みついてる髪の毛が僕と妻のものよりも、かなり長いことに気づいたからだよ」
僕は想像してしまった。
ヌメヌメとした排水口に髪の毛をも溶かす塩素系の洗剤を垂らして数分
シャワーで流して溶かした髪も流れ切っただろうとフタを持ち上げる
フタの裏には長い髪が巻きついた六芒星のような模様が見えた
一瞬の停滞の後に髪の毛はぬめりとともにすべり、暗い排水口へと垂れ落ちた
その様子を、幻視した。
作者春原 計都