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中編7
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第十二話 蝿

「後藤さん、尾形がただの占い師ではなく…霊能者である事を知っていたんですね?」

 山からの帰り道、駅前で木村と神崎を降ろした後

 

「…………そうなんだがなぁ……」

 倒した助手席で電子タバコを吸う後藤

 

「私の予想ですが…体型や顔立ち、それに霊感……」

 

「……あぁそうだよ児島、この尾形の元の名字は木村だ」

「やはり、貴女は木村君の祖母なんですね?」

 ミラー越しに見る

 

「あぁ、あいつはアタシの孫だ、直ぐに分かった」

 後ろの席で咥えタバコに仏頂面で腕組み

 

「後藤さん、知っていたんですね?なぜ尾形と会わせたく無かったんですか?」

 

「この女に取り込まれそうでなぁ」

 

「バカ言ってんじゃないよ!」

 

「尾形、名乗る気は無いのか?」

 

「この能力のせいで苦労したし子供に追い出されたんだよ?あの子にも同じ苦労はさせたくないさ」

 煙を吐くと

「元気でいればそれで良いさねw」

 その後占い師は街に居着いた

 

 …………………………

 

 中庭、昼休みで駄弁る

「神崎、夏休みは実家帰るのか?」

「…弟達がなぁ」

 俺の弟は所謂不良、中卒で出ていったと思ったら妊娠した彼女を連れて来た、真面目な両親は拒絶反応を起こしたが子供が生まれた途端に豹変、弟夫婦が家の中心になってしまい、今年には家に居場所が無くなった

 木村は霊感のせいで家族と折り合い悪いし

 

「お互い何なんだろうな」

 家族に恵まれていない…のか?

 

「あ!木村!神崎!」

「麻理恵さん」

「麻理恵さん、何で引っ越し来なかったんだよ?」

「それは………分かるじゃん?w」

 めっちゃ良い笑顔

 

 まぁ分かりますけどねw

「千尋さん新しいアパート散らかしてないですか?」

 

「あははは……」

 苦笑い、それだけで全て分かる

「あのさ、駅前に凄く当たる占い師が出るって知ってる?」

「あ!もしかして尾形さんですか?」

 木村が睨む、そうだこれは説明が面倒だ

「えっ?!名前まで知ってんの?!」

「あ、あー…その……」

 木村が『ほれ見ろ』と呆れ顔

 やっちまったか?

 …………………………

 駅前の空き店舗の軒下

 小さな折り畳みの机と椅子、小さな占いの看板、そして本人は良く分からないアクセサリーがジャラジャラ

「おやお前らか」

「尾形さん、この前はありがとうございます」

「婆さんココで始めたのかw」

「何だい?冷やかしなら商売の邪魔だよ?」

「婆さん客はこっちだぜ?」

 麻理恵さんに振ると

「お願いします」

 椅子に座るといきなり

「……ほぅ、男絡みか?」

「そうです!」

「……で、別れるか迷ってると」

「はい!えっ!?凄い!」

「良く聞きな?アンタも彼氏も常に変化してるんだ、成長すりゃ考え方も価値観も変わるのが当然さね、アンタだってこれから社会に出るんだろ?アンタ自身も変わるんだ、そろそろ学生の恋愛は終わりにして大人の恋愛を考える時じゃないか?」

 端から聞いていると分かる、占いなどしていない

 が、麻理恵さんは満足そうに帰って行った

 

「…尾形さん、コールドリーディングとか使ってます?」

「何だいそりゃ?」

 知りもしない、タバコ吸い始める

「いや婆さんw占ってなかったんじゃね?って神崎は聞いてんだよw」

 

 煙を吐くと

「あの位の歳で悩みって言えば男か進路だろ?何千人って見てりゃ解るんだw」

 千円札を財布に入れると

「ただねぇ……」

「?」

「付き合ってる男、少し臭いね」

「臭い?」

「独占欲の強い女がいる」

「二股……」

 リア充め……

 

「いやぁw複数いそうだよ?これだけ恨みがあるって事はw」

 煙を吐く

「複数っ?!」

 リア充爆発しろ!

「恨み買ってるのかよ、何とかならないのか?」

「あ?人は誰でも知らずに恨み買ってるもんさ、そんなもんいちいち祓ってられるかい……まぁどうしてもってんなら…」

 煙を吐くとニヤリと笑い

「有料だよwww」

 

 …………………………

 

数日後

 あれから少し気になってた事がある、後藤さんの『あの占い師の客は自殺する』だ、

 麻理恵さんの様子が気になるが人の恋愛事情に立ち入れる経験値などオタクには無い

 心の隅に追いやって期末試験を終えた頃

「あ、神崎君」

 少しは小綺麗になった千尋さんと中庭で会った

「どうですか?新しい部屋?」

 やっぱり苦笑いの千尋さん、でしょうねw

「あのさ、麻理恵の事なんだけど」

「?、何かありました?」

「最近来てないんだよ、LINEしても具合悪いって……」

 

 まさか…まさか!?

 

…………………………………………

 

「こんにちはー」

 インターホンに話す千尋さん、麻理恵さん家は市内の一戸建て

「あらぁ久しぶりね千尋さん、ごめんねぇ、麻理恵がずっと……まぁ上ってちょうだい」 

「あの…男子が居るんですが」 

「えっ?!」

 バタバタ音がすると

「ガチャッ!」

 その期待に満ちた顔が俺達を見た途端に一瞬曇ったのを見逃さない

 期待したんだろう、麻理恵さんの彼氏かと

 そこに現れたのはデブとガリのダサダサオタク

 なんかすいません…

 

一応リビングに通され飲み物を出されたが……オバサンの目線が辛い

「ガチャ」

「あ…木村と神崎……」

 やつれた麻理恵さんが出て来た

「ちょっと麻理恵!クマ凄いよ?!寝てないの?!」

「寝てるんだけど…食欲無いし……」

 その顔だけで明らかに体調不良と解る

「熱は?」

「それが不思議と無いんだ……」

 

「病院にも行ったんだけど原因不明って言われたのよ」

 オバサンは栄養ドリンクを持って来る「これだけでも飲んでおきなさい」

「……多分すぐに吐いちゃう」

 自殺の心配は無さそうだが、これはこれで心配だな

 

「……ハエ?」

「え?」

「いや……麻理恵さんの……」

 木村の目線が宙を泳ぐ

「?。ハエ…いないぞ?」

 俺には見えない……ってことは?いやハエの霊なんてあるか?

 

「……なぁ麻理恵さん、良ければ部屋見せて貰えるか?」

 立ち上がる木村

 

 二階のドア、開けると

「うぼぁっ!!」

 木村は口を抑え駆け下りる!

「どうした木村っ?!」

「ハエの群れだ!」

 

「は?」 

「ハエ?」

「どこに?」

 俺と麻理恵さん、千尋さんも見えない、至って普通の部屋だが?机、ベッド、本棚、縫いぐるみ

 

「どうかしたの?」

「オバサン!殺虫剤あるか?!」

 1分後、若い女性の部屋で殺虫剤を振り撒くガリオタの絵面、ナニコレ?事案?

「おい木村!どうしたんだ?!」

 いくらなんでも頭オカシイとか思われないかコレ?

 

「神崎窓開けろ!」

 

 俺も袖で口を抑えて(殺虫剤吸いたくない)部屋の中へ、窓を開けると辺りを見回す木村

「……それだ!その箱だ!」

 机の窓際の木の箱、アクセサリーケースってやつか?

「神崎!開けてみろ!」

 中には安っぽいクロムハーツ、と

「うぼぁっ!」

 また出て来たらしい

「麻理恵さん!ソレ何だ!?」

「この前彼氏に貰った……趣味じゃなくて」

「いつ?!」

「別れ話した……時?」

「神崎!持って外出るぞ」

 ええっ!ヤバイの多分コレだろ?!俺が持つのかよ!

 

外に出ると 

「収まった、何なんだ?」

「ハエが消えたのか?」

 まじまじ見る、多分鋳造でさえない銀粘土の安物

 そこに

「ガチャ」

「どうするのソレ?」

 玄関から千尋さんが出ると

「うぼぁっ!!」

 また出たらしい

「分かった!女が近付くと出るんだ!神崎!婆さんの所行くぞ!」

 走り出す木村

「ええっ?!」

 俺が持つの?!走る?!

 

 ………………………………

 

「まぁた面白いモン持ってきたねぇw」

 見てないのに

「婆さん……解るのかよ……」

 ぜぇぜぇしてるガリ

「はー……はー……」

 デブに……マラソン…させんな……

「どれ?見せてみな」

 無言で渡す、まだ喋れない

「まぁた基本的な呪いだねぇw若い女を標的にしてるなw」

「呪い?俺にはハエの群れが見えたぜ?」

「そうハエだよ?」

 咥えタバコで手を翳すと

「やっぱりね、嫉妬深い女が他の女に向けて呪う為に作ったな、これを男に持たせて他の女はを追い払おうとしたんだ」

「本当に呪いなんてあんのかよ?ハエが基本的って何だ?」

 

 呪いが出来たのは多分平安の頃だ、呪詛を唱えながら生き物を殺して呪物になるものを置く、毎日骨になるまで呪詛を唱える、そうするとハエが使い魔になるんだよ、昔は三食どころか毎日飯食える時代じゃないだろ?栄養状態が良くないから腐肉を喰ったハエで殺せたんだろうよ、今なら薬もあるし体調不良ってトコさね

 これはカエル使った程度の初歩の呪いだ、ネットってやつに書いてあるのかねぇ

「麻理恵さんどうなるんだ?」

「今は薬もある、明日にはケロッとしてるだろうよ」

「なぁ婆さん、コレ…どうしたら良い?」

「あ?こんなもん捨てりゃ良いだろ?」

 

「で、でも他の人の迷惑に…」

 やっと喋れた、汗が気持ち悪いが

 

「木村、神崎、お前らは『良い奴』なんだなぁw」

 煙を吐くと

「たとえ赤の他人でも自分の影響で悪い目見ると心が痛む訳だな?」

 

 どうだろう?そうかも?

 

「それが良識やモラルってヤツだ、この国の秩序だの平和の根っ子だよ、その気持ちを大事にしな、だけどもう少し図太く生きな?w」

 

「千鶴子さん、この呪いを掛けた人に……ええと…バツを」

 上手く言えない

「フン、呪い返したいか、若いねぇw……でもな?渡した男じゃなく作った女に返るぞ?w」

 どこまでも要領の良い男め!爆発しろ!

「男は何の考えも無く渡したんだろうさw」

「何で麻理恵さんが恨まれてるって分かったんですか?」

「あの娘の周りにハエが一匹見えた、ソレだけさ」

 

 …あの時気付いてたのか

 

「……なぁ婆さん……もしかしてよ?呪い返した事あるのか?自殺が多いって」

 

 睨むと

「商売の邪魔だよ、帰りな」

 

 ………………………………

 

 翌日、実習室の炉の中でクロムハーツを溶かし金属クズに

 呪いは消えた様だ

 

 

Concrete
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