長編11
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第五話 転落者

「神崎、夜に児島さんからメッセージ来ててよ」

「うん、どこに行くんだ?」

 

 児島さんはキャリア組と言われるエリート街道から転落した人だった

 

「この家だってよ、俺のアパートに鍵送るって」

 スマホの地図を俺に見せる

「鍵?」

 とりあえず午前中だけ大学に出て一旦帰宅、駅前に集まり出発

 

「今日はサポート出来ねぇってよ」

「知らなかったよな」

 俺達が動く時、児島さんは俺達の連絡に沿って動いていた、この前マンションの管理人に説明に来た時、児島さんは事故現場に証拠集めに来ていたのだ、

早すぎる理由はそれだった

 

「で?今回は?」

「孤独死した家調べろってよ」

 何で孤独死?

 

 電車で現地に着く、砂利道の農道から入った山の中に立派な日本家屋があるらしい、しかしバスさえ少ない土地だった

「どんだけ歩くんだよコレ!」

「バイクの方が良かったか…」

 ラーメン食べる時のように汗をかく俺

 駅から何キロ歩いたか

 

「またトトロの田舎か、うお!ここかすげぇな!」

「廃屋かコレ?」

 入り口の門は立派で家というか城?蔵みたいな建物がいくつもある、しかし庭は雑草だらけ、クモの巣に野良猫、剪定されていただろう庭木は綺麗だが…

 

「よし、入るぞ」

 立派な玄関の鍵を開ける、引き戸を開けると広い!玄関だけで一部屋ある!

 靴を脱いで上がる

「お邪魔しまーす……」

 なんか臭い

「一応清掃業者が片付けたらしいぜ?」

「それなのに何でこんなに散らかってるんだ?」

 家そのものは割りと綺麗なのに家具が散乱している

「空き家泥棒とかなwけどお前何か勘違いしてね?」

 ニヤリと笑う

「勘違い?」

「清掃業者って孤独死の清掃業者だぜ?w」

「うっ!」

 まさかこの臭い!

「クセェなw」

 

 廊下、居間、座敷…襖の座敷がいっぱい、時代劇かよ…台所、トイレ、風呂場

「…何もいねぇな」

 壁をコツコツ叩く

「じゃあ…」

 残った一部屋…恐らく寝室…恐らく孤独死した現場…

「開けるぜ…」

 襖に手を掛けて…

 ごくり…

 いるならここだ

 

襖を「ガラッ!!」

 

「なんだこれ!」

「え?何で?」

 その部屋は畳も床板も剥がされ、地面にいくつも穴を掘った跡がある

 臭いから亡くなったのは間違いなくココだろうが…

 

「何もいねぇ、霊がいねぇよ」

「どうする?」

 上を見ると額縁に入った遺影?ずらりと並んでいる

 

 

「児島さんに連絡だな」

 木村はスマホを取り出す

スピーカーから

「そうか…なるほど、一旦引き揚げてくれ」

 

 ……………

 数日後

 児島さんから通話

「現地に集まって貰いたい」

「児島さん、霊は居なかったぜ?俺達は何もできねぇって」

「今度は少々手間だ、私も向かう、徒歩で来なさい」

 

「ちょっと!児島さん!」

 切れてた、また歩くの?

 

 次の日現地に着くと白いバンが止まっている

「来たか、着替えてくれ」

「疲れたぁ!…何だよコレ?」

「なぜヘルメットに作業着?」

 

「何を言っている?警察が調査してるなんて言えないだろう」

 眼鏡を直す

「車も作業着も警察は持っている、張り込みの小道具だからな」

 いや、警察の調査で良くない?

 滅多に人が来ないとは言え道端で着替えるの恥ずかしいんだけど?

 

 エリートから脱線した理由だが児島さんはある女性と偶然付き合う事になった、その頃なぜか捜査内容が漏れた

 付き合っていた女性が犯罪組織の債務者で利用されていた

 つまりハニートラップに引っ掛かった

 通常ならココで警察を辞めるが警察庁官僚の父親の計らいで降格処分、つまりノンキャリになった

「辞めるよりも恥を抱えて警察の信頼を回復しろ」

 そういう意味らしい

 

 

「よし、入ろう」

 靴を持ったまま入る

 

「…なるほど、散々家捜ししたな」

 見回す児島

「家捜し?」

 

「そう、孤独死した爺さんは子供が五人いた」

 倒れたタンスを開ける

「爺さんが生きていた時、長男だけに言ってたそうだ」

 今度は柱時計

「この家には凄いモノがあると」

 中を覗くが何もない

「ところがそれを他の姉弟や家政婦にも聞かれてしまった」

 

「だから子供達が家捜ししたとか?」

 遺産の取り合い?子供って言っても中年過ぎたくらいか?

 

「そうか、子供に、子供の誰に殺されたか調べるって話なのか」

 木村は壁を叩く

 

「そう、それを調べて貰いたかった、だが出来れば遺産の方だ」

 襖を開ける

「うっ!!ヒドイ臭いだな!」

 児島はマスクを着ける

「なんだよ!児島さんだけズリィ!!」

「一度来たのだろう、用意しておくべきだろう?」

 

 いやそうだけど

 

 「ほう、なるほど、家主の真下にあると思ったのか」

 児島さんは靴を履いて地面に降りるとライトで床下を覗く、小さいのに強力なLEDライトだ

 

「むっ?」

 児島さんの動きが止まる

「?」

 

「ふむ、二人共、見てくれ」

 二人で降りると

「あれが見えるか?」

 真っ黒の埃とクモの巣の向こう、かなり遠くに茶色い何か…壁?

 

「床板を剥がしたのは好都合だったな、行ってみよう」

「ええっ?!汚れますよ?」

「そんな事気にしていられないのでね」

 そのまま床下に潜り込む児島さん

 正直エリートに似合わない、

 でも貪欲というか手段を選んでられない理由がある

 普通はそんな不名誉な失敗したなら辞表を出す、ところが降格で納められ警察組織に残る事になった、恥を晒しているようなモノだ

 当然笑ってくる元同期、見下していたのにバカにしてくるノンキャリを見返す為には『叩き上げ』になるしか道は残っていない

 貪欲になるしかない

 

 三人で匍匐全身、児島さんの持ったライトがすごく明るい

 

 到達するが

「木村君、霊が見えるか?」

 

 木村は壁を触る

「何かおかしい、それだけは分かるぜ?」

 普通は石の土台の上に柱が載っている、床下だから当然だ、なのにここだけ土から直接壁がある

 台所や風呂場、トイレなら分かるがコンクリートの壁は違う方に見える

 

「漆喰だな」

 児島さんも茶色の壁を触る

 

「シックイ?」

「シックイって何ですか」

「まったく君達は…いや、そんなものかもな…二人とも良く覚えるんだ、この場所の距離と方向を」

 元の部屋まで匍匐全身

「キタねぇ!げほっ!」

「土入ってる!」

 作業着の襟元から土と埃が入り気持ち悪い、クモの巣だらけ

「さて、次だ」

 児島さんは気にせず作業着をバタバタ払うと

「いくぞ」

 移動する…が

 

「あれ?」

「この辺だよな?」

「ふむ…」

 

 畳の座敷をウロウロする

「変だぜ?床下と家の位置」

 木村が慎重に歩く

「俺達は何か錯覚してんのかな?」

 方向は合ってるはず

 

「……」

 無言の児島

 

「児島さん、そろそろ教えてくれよ、この家の事も」

「ん、話しても良いか」

 この屋敷は昔からの大地主の一族の物、噂を聞いた限りでは古くから改築と修繕をを繰り返しているが、建て替えた事が無いらしい

「それって…何十年も?」

「亡くなった爺さんが生まれるもっと前、少なくとも大正末期からこの形だそうだ」

 

 そんなことが…あぁ

「あれ(シックイ?)があるから変えられないんですね?」

 

「恐らくな、全部解体したらバレる恐れがあったんじゃないかと思う、多分隠し財産がある、子供達はそれぞれが大会社の会長や株主、まぁ資産家だ」

 天井を照らしてみる

「不思議な事に買う土地、株、全てが買った途端に値上がりを起こす、こんなことはありえない、実際は損失があるがそれを密かに補填しているはずだ、その証拠を押さえたい」

 

「そうか、昔からの隠し財産、凄いモノがある場所ってかw」

 足踏みする木村

 

「なあ木村、何でさっきから壁叩いたりしてんだ?」

「それがよ、何て言うか…」

「木村君、ハッキリ言いなさい」

「いや、何も見えて無いんだぜ?それは確かなんだけどよ」

 見回す

「何か家全体…この家そのものに違和感があんだよ」

 

「…仕方ないか、神崎君、荷台からバールを持ってきて貰えるか?」

「壊すんですか?!」

「やむを得ず、だ」

 出世のためなら手段を選ばない、後藤さんに師事しているのは伝説の『叩き上げ』になるため

 俺がバールを持ってくると児島さんと木村は畳を片付けていた

「バキッ!」

 床板が剥がされ

「見てみよう」

 ライトを咥えて児島さんは見る、と顔を上げ

「すぐそこだ」

 指差すが…壁?

「どういう事だ?」

 木村は隣の部屋へ

「何にもないぜ?」

 

「ふぅ」

 マスクを取ると

「金塊でもあるかと思ったが、あてがハズレたかな?」

 眼鏡を拭く

 

「待ってくれ…」

「木村?」

「神崎、隣から壁叩いてくれ」

 俺は隣へ行き壁を拳で叩く

「ドン!」

 

「木村君、もしかして」

「あぁ、この壁の中は空洞だ」

 コンコン壁を叩く

「となれば」

 バールを振りかぶる児島

「ちょ!ちょっと児島さん!良いのかよそれ!」

「木村、どうし」

 バールを持った児島さんを木村が抑えている

「なにしてんですか!?」

 

 児島さんは時に強引だ、この前の交通事故のカメラ映像、警察が調べ尽くしたはずなのに今更出て来た、それは何故か

「加工しただけだが?」

 悪びれもせず淡々と言う、

 証拠捏造だと言うと

「我々警察が一番恐れるのは冤罪による国民の信頼失墜だ」

 眼鏡を上げると

「君達の霊視によって犯人は確定している、強引に逮捕しても問題無い」

 

 俺は児島さんを「色々大人な人」だと思っていたが、徹底して利己主義なだけだ

 

「何か開ける方法があるはずですよ」

 俺と木村は壁を触りながら調べる

 ゲームやアニメでは小さなボタンとか…

 

「日が暮れる、警察庁まで車で二時間は掛かるんだぞ」

 座敷から廊下、台所、外とグルリと歩くと

 「よし、ここにしよう」

「ガツッ!!」

 壁にバールを刺す

 廊下から壊し始めた

 

「ちょっと!児島さん!」

「アンタ何考えてんだ!」

「何を言っている?この面積なら直せと言われても一番経費が掛からない」

 何度も刺して突き崩す

 俺と木村はアイコンタクトすると

「しょうがねぇ」

 バールを構える

「やるか」

 俺も持つ

「ガツッ!!ガツッ!!ガスッ!ガリッ!ガラガラ…」

 男三人で一緒に壊すと楽に崩れたが

「なんだこれ?」

「また壁?」

「なるほど」

 深さ五センチ、幅四十センチ程の壁が崩れ、その奥には漆喰の壁

「年代が違うようだ、層になっているな」

「ガツッ!!」

 躊躇ってモノが無いのかこの人!

 奥に行くほど古くて劣化しているのか簡単に全体が崩れた、縦150、幅40cm位の…部屋?

 

「ひっ!!」

 木村が飛び退き尻餅をつく

「木村?」

「や!やべぇ!やべぇよ!!」

 奥を指差す

「木村!」

 肩を触って見る

 

 幅40センチ位の空間に人影、すっぽり挟まりこっちを向いて座っているっぽい

「木村、亡くなった爺さんか?」

「人間じゃねぇっ!!」

「え?!」

 その瞬間

「ドオオオーーーン!!!」

 轟音、暴風、地響き

 俺は意識を失った

 

 ……………

 

「起きなさい」

 ビクッとなり起きると児島さんが上から見ている、俺は倒れてるのか?

「まったく…面倒な事になりましたよ…」

 隣を見ると木村が寝ている、が、やたら明るい…え?!空!!?

「な!何ですかこれ!!」

「だから面倒ですよ…落雷でしょうか」

 俺達が壊した壁と廊下を挟んで反対側の…全てが吹き飛んでいた…壁も柱も床も、っていうか家の半分程

 これって…何かが…出て来たんじゃ…

「うわあぁっ!!」

「木村!起きたか!爺さん見たのか?!」

「…信じられねぇ!やべぇよ!」

 辺りを見るが

 

「人間じゃないって言ってたぞ?」

「奥にな!爺さんがいたんだ!」

「やっぱり居たのか」

「挟まってるみたいにな、ただな、目が真っ赤なんだよ」

「…充血?」

「違う!白目が無いんだ!その、真っ赤で光ってんだ!」

 想像する、気持ち悪い

「そんでよ…ニターッって笑った…歯が…人じゃ…無かった」

 それは…何だ…

 

「ふむ、そうですか、あれに関係ありますか?」

「!!!」

 壊した壁の奥、そこには平たい重なった石、鏡餅みたいな、それに藁と紙屑?もしかしたら…墓石?

 しかも

「これは…」

「壁一面ですね」

 壁の内側、文字がびっしり書いてある

 壊した壁の一部を拾い、見ると

「…何を書いてあるのやら、さて」

 児島さんはポイッと放ると中を照らす、壁に文字、天井にも、床に大量の御札だろうか

 間違いなく封印だ、ここにいた「何か」が出て行ったんだ

 

「この石が関係している様ですね」

「児島さん!」

「それ絶対ヤバいっ!!」

 木村は逃げようとするが

「…よし、何とか届く」

 体を横にして入り込みバールで

「ゴロン…」

 そんな音がした瞬間

「うおおお!」

「木村!」

「神崎!見ろ!」

 俺の手を掴む

 一面真っ黒、いや違う!人影がゾロゾロ出て来て…

 人影の一人が目の前に

そうだ!目を瞑る

 

 山の中…目の前に…これはデカイヘビ?

 口をパクパク動かす、話しているみたいに

 ちょっと待て、何メートルあるんだこの蛇?!

 デカイ!!頭だけで人間程も…あれ?見えない

 

 目を開けると人影が消えて行く

「神崎、消えていくぞ…」

「うん…」

 

「君達はそういう関係ですか?」

 見下ろす児島

 手を繋いだまま座り込む俺達

「は…はは…」

 見えないってのは…強いな…

 

「人骨しか見あたりません」

「は?!!」

 

 ………………

「残業になりました」

 よくこんな時に…

 近くの駅まで送って貰う

「農道はナビにも無い所がありますねぇ」

 舗装もされていない

 

「…児島さん、俺達何かの封印解いたかも知れないんですよ?」

 木村は外を見たまま黙っている

 

「封印?ゲームに興味ありません、金塊でもあるかと思ってたんですが…」

 運転しながら

「あの家は◯◯社の創業者の家です、CM毎日見てませんか?系列だけで100社越えます」

 

「え?!」

 1日に何度も…凄い人達じゃ?

「子供五人もそれぞれ大成功してます、脱税の証拠でも出るかと期待したんですが…」

 

「脱税?」

 

「子供の事は話したでしょう?父親から援助されていたかもしれません」

 

「えー…と」

 難しい

 

「解りませんか?贈与税や粉飾決算、所得隠し…巨額脱税の証拠が掴めるかと期待しましたが…骨折り損でした」

 

 

 こういう人だ、霊を怖がる処か手柄に利用したいだけなのだ

 

「長男に役目を継げと言っていたようですが、長男も事業がありますし、都内に拠点も家族も居ます、こんな田舎に帰りたくは無かったんでしょう」

 

「役目?」

 

「その役目こそが隠し財産の管理だと思っていたんです…経産省の同期に恩を売れると思いましたが…着きましたよ?」

 

 

Concrete
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