長編8
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第四話 鍵穴 後

 管理人から鍵を借りた

「そういえば大体ついてるよな鍵穴」

「そんな目的があったのか」

 エレベーターの奥の壁、管理人に聞いたらこの奥は狭いスペースがあるそうだ、

 理由は寝たきりの人を運ぶ時ベッドを乗せるために、もう一つは…棺を乗せるために

「カチャッ」

「よし、空いうおっ!!」

 肩を触る、そのスペースに子供の影

「うわあああっ!!」

 目の前!尻餅ついて後退り

「落ち着け!!」

「ヒイイィ…」

 こんな至近距離で三人の影、しかも真正面、怖い怖い怖い

「神崎、落ち着け」

「ううう…」

 俺は目を瞑る、この子供達の記憶は…

 「あそぼ」

 そんな声が聞こえた気がした

 扉が開くとダッシュする映像、しかし元の位置へ

「何だ?」

 耳を澄ます

「どうした?」

「分からない、木村、試しに外に出て見よう」

 閉まる扉、ボタンを押すと

「ポーン」

 正面から見る、開く扉、奥から走る三人、そして突然消える

「何か分かったか?」

「…木村、もう一度」

「ポーン」

 開く扉、三人、ダッシュ

「木村、どんな様子なんだ?」

「競争してるみてぇだな、一人は女の子、皆小一位だな」

「ポーン」

 開く扉、ダッシュ

「あ!!」

「何だ?」

「木村!子供の死因って何だ?!」

「なんでも原因不明の突然死だってよ」

「木村!三人の首の辺りだ!」

 開く扉、ダッシュする三人

「何だ?何か延びてる」

「なんだこれ?」

 黒い紐?

「残像だと思ったぜ」

「もう一度だ」

 今度はまたエレベーターの中に入る

 開く扉

 走る子供

 その首の辺りに延びる残像

 何度も繰り返す

 その残像の伸びた先…

 …床?

 

「木村、床だ」

 指差す

「…ここか…?」

 狭いスペース、黒い子供の立っている場所

 そこの床にはメンテナンス用の扉だろうか、鍵穴がある

「もしかしたらこの鍵で開くんじゃね?」

 木村は霊の足元に平然と近付き四つん這いに

 試してみると

「カチャッ」

 空いた、開けると機械の鉄臭い、オイルの匂い、そして下水の様な臭い、四つん這いで覗き込む

「そうだったのか…」

「木村?」

「四人目だ、俺に触ったまま見てみろ」

 俺も四つん這いになり恐る恐る近付く

 三人の足元へ、覗くと

「うげっ!!」

 そこには暗い中に黒い人影、腕が細長く伸びている、それは上の三人の影まで伸びているようだ

 目を瞑り記憶を見る、五歳位の男の子だろうか、視界が低いし自分の手も小さい

 突然場面が変わる

 大人から自分が殴られている、見たことある男が何か怒鳴りながら俺を殴る、奥には派手な化粧の女

 場面が変わる、ビルの隙間?狭くコンクリートの壁に囲まれている

 見上げてる、俺が見上げている、何を?スコップを持った男を

 俺の顔目掛けて何かを…

 また視界が真っ黒に

 

 今度は子供の後ろ姿

 扉が開くと出て行く、何度も何度もその場面、子供達が自分の所に来てくれる、なのに直ぐに出て行ってしまう

 なんでぼくはうごけないんだろうなんでみんなにげちゃうんだろうねえあそんであそぼあそぼあそぼあそぼ

 

 

「…木村、分かったよ…児島さんに連絡だ」

 悪霊なんて確かに居ない

 この子は…遊びたかっただけ

 ただそれだけで連れて行ってしまった

 いや悪霊?

 悪霊って何だ?

 

 

「おう」

「ちょっと面倒だから通話にしてくれるか?」

 

 児島に全て話した

 

 ……………

「なるほど、ありがとう」

 児島はスマホを一度オフにする

「まったく、通話禁止は緊急時に面倒だな」

 駅のホーム、通話の為に一回降りた

「…もしもし、後藤さん、面白そうな話が…やはり繋がってました」

 

 ……………

 次の日警視庁の取り調べ室に若い男が連れて来られた

 

 他の刑事達

「何であの二人だけで取り調べなんすか?」

「しょうがねぇ、上からの話だし、あの後藤のやる事だ」

 刑事達は取り調べ室を一瞥すると

「しかし令状無しで…」

「定年寸前だからな、怖いもの無しだ」

「伝説…かぁ」

「たった4~5年で殺人と轢き逃げ事件70件の解決に貢献、総監賞数知れず」

 耳を掻くと

「伝説だ」

 

 

 取り調べ室

「さて…何から話そうか」

 後藤はニンマリ笑う

 

「刑事さん、無理やり過ぎないか?冤罪で訴えても良いんだぜ?」

 態度が悪い二十半ばの若い男

 広瀬 一弥

 

調書を読むと

 「ふーん…補導歴は数知れず…暴行障害もあり…おぉ、薬もか、未成年で軽い刑、保釈金も親がたんまり…ま、教科書通りだな」

「だったら何だ?」

 明らかに取り調べに馴れているし、親の金で生きているのが良く分かる

「今日は面白い証言とな」

 部屋の隅で記録を録る児島に振る

「ええ、面白い影像が」

 児島はモバイルを持って来て画面を見せる

「◯◯駅近くの防犯カメラに写った影像です、ナンバーがハッキリ写ってます、ついでにフロントの凹みとガラスのヒビも」

 

「しらねー、前も言ったろ?」

 

「えーと…」

 後藤は指を舐めてページを捲る

「…その後山の中で事故、車が燃えてしまった…と…おー?君の親の別荘近く?」

「そうだよ、何か変か?」

「派手な女乗せて運転してたらしいなぁ?」

「だったら何だ?」

 

「最近になって運転していたのは君だと証言が出ました」

 モバイルを持って席に戻る

 

「何ヵ月も前だろ?覚えてねぇよ?」

 

「ふーん、そう数ヶ月前だ、当時の内縁の女…の子供、行方不明だってなぁ」

 

「知らねー」

 

「児童相談所からの連絡…んー?幼稚園にも入れてない…虐待疑い?」

 さらに調書を読む

「おぉ?随分探したらしいな警察は、別荘の中を…排水口までかw」

 笑う後藤

「ははは、だろ?誘拐かも知れねぇのに俺を疑ってよw」

 

 一緒に笑う広瀬

 

「常識的に考えたらお前の事だ、子供殺して死体の処理に別荘向かった、って考えるわなぁw」

 

「そんな証拠あんのかよw」

 

 後藤は笑うのを止める、と広瀬の目を真っ直ぐ見る

「なんだよ爺さん?」

 睨み、見返す広瀬

 

 後藤は低く、呟く様に囁く

「◯◯マンション、◯◯号棟のエレベーターの基礎」

 

「つっ!!」

 広瀬は目をそらす

 

「今度は言い逃れ出来ないな、お前元は管理人だもんなぁ」

 何をやっても長続きしない甘ったれのボンボン

 バカ親は仕方なく、自分がオーナーのマンションに住まわせ管理人をやらせた

「このまま何十年か後まであの建物解体しなければ、お前の殺人は立証できないかもな?わざわざ取り壊すのは面倒だ、そうだろう?」

 後藤は顔を近付けながら

「車燃やしたのは『轢き逃げ』の証拠隠滅だよな」

 囁く

「殺人と轢き逃げ、どっちが軽い?自首が付いたら執行猶予まであるかもなぁ」

 ニンマリ笑う

 

 ……………

 

「轢き逃げで自首かよ!」

 木村が不満

「何か納得出来ないです」

 俺も

 

 後日、ここは児島のマンション、都内一等地の最上階

 モデルルームの様な室内

「まぁ待て、続きがある」

 児島は高級ソファーに身を沈ませグラスを傾ける

 

 ………………

 

 広瀬が轢き逃げを認め、児島はそれを外の刑事に伝える

「何て早さだよ…」

「もう自白か…」

 広瀬に手錠を掛けて連れて行く刑事達

「毎回どんな手使うんだ?」

「秘密だとよ…」

 

「さぁて本番だw」

 後藤と児島は隣の取り調べ室へ

 中にはボロボロの髪と爪の若い女、明らかに薬物中毒

 後藤は座ると

「広瀬が轢き逃げを認めたよ」

 ガバッと顔を上げる女

「しかし困ってなぁ…運転してたのはアンタだって言うんだ」

 

「ちょっと!アタシじゃないよ!!」

 崩れた化粧に虫歯、若いのに

 

「そう、あんたじゃあない、俺もそう思うよ?でもこのままじゃあ…」

 ニンマリ笑って顔を近付けながら

「◯◯マンション◯◯号棟のエレベーターの地下」

 女はビクッと目をそらす

「改装中…エレベーターの取り付け直前だよなぁ」

 

 囁く

「これも押し付けられるかもなぁw広瀬はひどいヤツだなぁw」

 

 ……………

 

「それでどうなるんだ?」

 木村がビールを飲む、発泡酒じゃない

 

「あの子供の霊は…可哀想に」

 俺は白ワインを貰って飲む

 革張りのソファーは馴れなくて緊張する

 

「なぁにあの頭の軽さだ、罪の擦り付け合いになるからな、後藤さんが煽ったから女の方からマンションの話が出る」

 赤ワイン?をグラスに注ぐ

「当然広瀬は否定する、となれば現場を調べようって話になる、取り壊しは時間の問題だ」

 赤い液体を飲むと

「埋められた子供も直ぐに供養出来るさ」

 

 眼鏡を中指で直しながら俺達を見る

「犯罪は一人でやらないと必ずボロが出るんだ」

 この人真面目なエリートタイプなのに未成年に飲酒させてる、俺達に何を言わせたいんだ?

 

「何かよ、俺はアンタが分からねぇ」

「何がです?」

「アンタは何者なんだよ」

 

 そう、警察官って給料凄いの?何でこんなところ住んでるんだ?

「…何者か、ですか、範囲が広すぎてどうにも」

 見た目からしてエリート、神経質な数学教師

 

「あ、あの、この部屋は買ったんですか?」

 

「あぁ、このマンションは父の資産の一部です」

 

「え?帰ってきますよね、お邪魔してて…」

 酒までご馳走になって怒られそう

 

「ここは私の部屋ですよ?」

「?」

「このマンション全部が父の物です」

 ここにもいたよボンボンが!

 

「児島さん、俺はアンタの目的が分からねぇ」

 木村が立ち上がる

「アンタは…何かよ…後藤さん利用してないか?」

 睨む

「利用してますよ?」

 平然と

「アンタ…信用出来ねぇ」

 

「…若いですね」

 いやアンタもだろ!

 確か25歳だったはず

 

 グラスを置くと木村を眼鏡越しに見据える

「君達も私を利用してるんです、学費、家賃が出ているでしょう?」

 

 これを言われると言い返せない

「木村君、君は後藤さんが手柄を挙げる度に小遣いを貰っていたでしょう?相互に利用してきたんです」

 

 そうなの?

 

「君達も大人です、子供の馴れ合いの延長は止めて、少し考えなさい」

 

 

Concrete
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