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長編9
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第一話 我が家 前

「えぇ…まただ…」

 黄色い錆びたカーブミラー

 もう何回目だ?また村に戻った

 行方不明者が出る村という噂だった

 ネットにも前からしっかり出ている、

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こういうのは女とイチャつく場所と相場が決まっているのだ

 行方不明だって怖がらせる為の根拠の無い話だろう、どうせ誰かがバカをやりケガでもしたのだ、それに尾ひれが付いただけ

 と思って軽い気持ちで入ってしまった

 

 ここはギリギリ中部地方の山の中、調べた記事では昭和の時代ダム建設が盛んな頃に候補地に上がった村、しかし直前になり候補から外れたらしい

 賛成派住人はその辺りで移住して、建設反対してた人だけ取り残された格好になった

 その後は平成初期まで人が住んでいた様だ、だから村に入る一本道のトンネルもそこまでは古くない

 

 またトンネルに入ってみる、百メートルも無いので出口は見えている、車一台が通れる太さ

 春だけどひんやり湿気を感じる

 端の方には落ち葉や錆びた空き缶、ビニール袋などが落ちている

 もうすぐ出る、入り口に停めたバイクが見えて来る筈が

「何回目だよ…いい加減にしてくれ…」

 座り込む

 そこにバイクは無い

 あるのは朽ちた黄色いカーブミラー、その先には廃村があるだけ

 まさか自分が行方不明に?

 携帯は圏外だしGPSは常に同じ辺りに居る

「とじこめられた…のか?…」

 仕方なく村の中を歩く

 良く晴れた青い空、気持ち良い風、一面の田舎風景

 道がしっかりしているし、バイクで走ったら気分良さそう

 

 雨戸が空いた平屋の一軒目

 しっかり施錠されてる二軒目と三軒目

 その他にも土蔵、物置小屋、ボロボロのスレート屋根、剥き出しの鉄骨、トタン、竹と雑草と蔓草に覆われた家が50程の村、

 辛うじてアスファルトの道が残り水路などもあるため村だと分かるが、無かったら緑に飲み込まれ山林にしか見えない

 一軒目に戻る、雨戸が空いた小さな平屋

 一度中を覗いて見たが古い畳の部屋の壁際、踏み台の上に蝋燭と知らない爺さんの写真があり、なんだか仏壇に見えた

「久しぶりだねぇ」

 一瞬そんな声が聞こえた気がして入るのは止めた

 

 …ここにまた入るのはちょっとなぁ…

 フラフラとまた村の奥へ

 

「テメェ何してんだ!」

 急に怒鳴られビックリして振り返る

 そこにはダサいジーンズ、ダサいライダー用ジャケット、赤いバックパック、茶髪メガネでヒョロガリの木村がいる

「先に行きやがって!」

 

「木村ぁ!助かったぁぁ!」

 泣きそうになる俺

「閉じ込められてたんだ!」

 

「何言ってんだ?お前?」

 身体に付いたクモの巣や葉っぱをバタバタ払いながら

 

 俺と木村は同じ貧乏学生、アニオタ気質、彼女居ない歴=年齢、木村はガリ、俺は太め

 …まぁモテない訳だ

 少し違うと言えば、俺はオカルトに興味ありタイプ

 今日はツーリングのついでに噂の村に来てみた

 ビビりなのに怖いモノ好き

 

 そして木村は霊感持ち、割りと素材が良いのにその辺りで苦労して来たらしい

「お前疲れてねぇ?w」

「もう何度も往復した」

「どこを?」

「トンネル」

 

「……ブッ!w」

 ニヤァと笑う木村

「気に入ったんだな…w」

 

「何が?」

 

 木村はトンネル手前で腹痛を我慢できず、雉撃ちに藪へ入ったので俺だけ先にトンネルに入った

 

 辺りを見ると歩き出す

「ふーん…」

「木村…見えるのか?」

「あー、そりゃあ居るわな」

「どっどどこに!」

「トトロに出て来る婆さんな感じだ、今前歩いてる、付いて行ってみようぜ?」

「危なくないのか?!」

「来たがったのお前だろ?w」

 うぅー、怖いけど見たい

 

 

 木村は霊を怖がらない、見える、見えるだけだ

 子供の頃は生きてる人と死んでる人が区別出来ず、なぜ両親と妹の四人暮らしの家に知らない人が居たのか分からなく、普通に接していたためそれが『普通』として育った、そのために家族と上手く行かない

 

 先月大学に入ったばかりの頃、初めて木村のそれを知った時は道端の花束に話し掛けていた

「木村、何してんだ?」

 ポンと肩を叩いた、そして数秒、俺の目にも見えてしまった

「ひっ!」

 

 木村には亡くなった人がそのまま見えるが、おれには真っ黒な人に見える

 そして分かった『見えている』木村に触れると俺まで『見える』のだ

 

 

 

 見付けた木の棒を振りながら婆さん?の後を付いて歩く

「なに?見てぇの?w」

 ニヤニヤする

「うー…」

 オカルト好きだが怖がりでもある俺、だが一人では無理でも木村が居れば安心だ、コイツは徐霊なんか出来ないが見えるだけでも安心出来る

「トトロの田舎に居るみてぇw」

 その木村の話によれば、悪霊なんて存在しないと言う

 ただ単に自分の思いに忠実なだけだそうだ

 だから怖がる必要は無いらしい

 

 村の奥へ進む婆さん

 どんどん緑が生い茂り、遂には

「何で婆さん藪の中に行くんだ?」

 木村が立ち止まる、道が終わっているのだ、俺達の背丈を越える細い竹や葛の藪、たくさんの松の木、山桜がちらほら咲いている

 木村が言うには藪の中に真っ直ぐ入って行ったらしい

「神崎、見失った、お前見える?」

 言うなり木村が俺の手を掴む

「あっ!おい!」

 数秒後小さな黒い人影が見え…

「何だ…これ…」

「どうした?」

 俺の視界には藪しか見えてない、しかし目を瞑ると

「道が続いてる…」

 何だ?目をパチパチさせる、

 開くと藪の壁

 閉じると土の道があり、黒い人影が歩いている

 

 木村は地面を蹴ると、

「…そうか、舗装されたのは随分後の話か」

 

「どういう事だ?」

「昭和の中期にダムの話があっただろ?その時村の人口が半減したって読んだろ」

 藪を踏み分け一歩入ると

「その後こっちに人が居ないから舗装がここで終わってんだ」

 

「じゃあ今見えてるのは…」

「神崎、お前俺より霊感あるぜ?」

 ガサガサと進む木村

「お前が見てるのは多分婆さんの記憶だ」

「ええっ!」

 気持ち悪っ!

 

 藪と森を50メートル程も進んだだろうか、一面背の低い熊笹に数本の松、大きな楠の…広場?だろうか

 

「何だこれ、何してんだ…」

「どうした木村?」

「変化した、子供になった…グルグル走ってる…」

「?」

 俺は慌てて木村の肩を触る…と

「うわぁっ!」

「神崎?」

「すげぇ…」

 目を開けると黒い子供…三つ編みを揺らしながら走る和服シルエット、

 しかし目を瞑ると大勢の人、屋台、真ん中に二十人位の子供が担ぐ子供神輿が跳ねている

 今にもわっしょいわっしょいと声が聞こえてきそうだ、笛や太鼓、祭囃子まで…それに…

「多分ここが村の中心だったんだ」

 四つ角に建物、目を開ければただの藪だが、土の道が十字になっている

 

「何が見えてんだ?俺には浴衣着た子供が走ってる様に見えるぜ?」

「祭だ、子供神輿の周りを走ってる」

「祭?」

「あぁ」

 木村に説明する、法被を着た大人、鉢巻をした人々、今の屋台と全然違う蚤の市や朝市みたいなスタイル

 その中をはしゃぎながら走り回る黒い子供…と

「ん?神輿が向こうに」

 左を指差す、少し坂道になっている

「アイツも移動し始めたぜ」

「うん、神輿に付いて行ってる」

 後を追いかける、こっちは熊笹を踏み分けながら

 

 目を瞑ると石畳が見えるが、目を開ければガタガタに朽ちて、熊笹がそこら中から生えて歩きにくい

 気を付けながら緩やかな坂を登りきった

「…そうか…」

「木村?」

「触れ、見えるぞ?行方不明者だ」

 肩に触れる

「げっ!」

「分かるか?」

 

 雑草だらけの平坦な場所、目を瞑ると神社だ、鳥居、石の参道、神輿、そこに輪になり踊る人々、その中に真っ黒な三つ編みの子供…の他に四人見える

 

「踊ってる、盆踊りか?」

 踊りの輪の中に混ざっている

 

「皆で同じ動きしてるのそれかw」

 木村が説明する

 一人は作業着にヘルメット

 一人は女性、ロングで前髪が変、膝下ジーンズ?に黄色いシャツ

 一人は派手目な男、黒のジャケット、背も高い

 一人は俺達と同じような格好、荷物背負ってる

「この場所に捕まったのか?」

 

「なあ木村、俺達はどうなるんだ?」

 ヤバくないかこれ

 

「多分一緒に踊ったら捕まる…いや…」

 

「逃げよう!」

 木村の肩を引っ張るが

「まぁ待てよ、ちょっと試して見たい事が」

「相手は幽霊だぞ?!」

「元は人間だぜ?」

「何言ってんだ!話通じないだろ!」

「人の話は聞こえなくても、動物だったらどうかなってな」

「動物?!」

「昔は目覚まし時計なんて無いだろw」

 木村は両手を口へ当てると大声で

「コケコッコー!!!」

「何で!?」

 ざあっと風が吹く

 

 

「…え?あれ?」

 黒い人影が…小さい子供だけに…いや、祭の風景が消えた

 

「おおお!!!マジで効いた!!!婆さんだけになったぜw昔誰かに聞いたんだ!一番鶏の声は魔除けになるって!」

 勘だけで試すなバカヤロウ!

 

 木村は歩くと

「ここに居たか」

 元は神社だっただろう焦げた木片と柱の陰、そこに服を着た白骨が四体

 

「あんたがやったんだな?」

 横を見て話す木村、そこに居るんだろう

 俺は動けない、だって白骨だよ?見たくないじゃん

 

「きっ、木村っ、そいつは何て…」

「だから話は出来ねぇよ、ただ…」

「ただ?」

「座ったままだ、婆さんに戻ってる」

 俺の横まで来ると

「何で?って顔して死体見てるぜ?」

 木村の肩に触れる、子供じゃなくなった影は膝を着いて首を傾げて…いるのか?

 

「神崎、帰ろうや、警察に連絡だ」

「うん」

 

 また藪を突っ切りアスファルトへ戻った

「まったく、クモの巣ってのはどこまでも…」

「木村、警察に何て話す?」

「死体見つけた、それだけだろ?」

「お前さ、何か慣れてない?」

 白骨だよ?

「神崎には見えてないけどな、もっとグロいのが普通に歩いてるんだぜ?」

 

 うげぇ、想像したくない

「警察で色々聞かれるよなぁ」

「ただ死体見つけただけで良いんだ、俺達が見える事なんて言わなくても良い」

「四人も…」

「いや、五人だ」

「は?!」

「何だよw気付いてないのか?w」

 

 暫く歩き一軒目の…

「あれ?!雨戸が閉まってる!」

「何言ってんだ?最初から空いてねぇよ?」

「いや、確かに…」

 近づき

「何で?」

「多分呼ばれたんだぜお前、この婆さんと波長が合うのかもな」

 木村は振り返ると

「開けるぜ?」

 多分婆さんに言ってから、木村は十徳ナイフを取り出し、雨戸の隙間に差して広げると

「神崎、そっち持て」

 二人で指を掛けて

「ぐうううっ」

「神崎!力入れろ!」

「バキッ!!!」

 二人ががりで雨戸を一枚外した

 

 カビの匂い、六畳程の畳の部屋

「あ…やっぱりそうだ」

 冷や汗、ぞくりと背中がひきつる

 踏み台に蝋燭、知らない爺さんの写真

 

「神崎、どうした?」

「最初にこの家に…家の中を…見えてた」

 ガタガタ震える

 

「そうか、やっぱりお前は引っ張られた、いや招かれた」

 二人で入り込む、土足で失礼して硝子障子を開けると台所、ホコリだらけの流し台の辺りに煎餅などの袋がいくつかある、

 製造年月日を見ると

「平成元年辺りだな」

 さらに木村は畳の部屋から襖を開ける

「…………いた…」

 そこには朽ちた布団に白骨が寝ていた

 一冊のアルバムを枕元に置いて

 

 …………………

 

 

 黄色い朽ちたカーブミラー

 振り向きもせずに通過する、警察にどう説明したらいいのか

 

 トンネルに入ろうと

「なっ!」

「何だ神崎?」

「塞がってる!」

 一面土嚢の山

「当たり前だろ?」

「何で?!」

 

「お前なぁw…付いて来いw」

 トンネル脇の藪を登る、登りきると

「うわ…」

「俺も来た時驚いた」

 トンネルの上は墓場だった、誰も来なくなって手入れもされないだろう古い墓、藪の中に倒れている墓石も多い

「俺はこっち通って来たんだ」

 通過すると今度は藪と森の下り、急な斜面で何度も滑り擦り傷だらけ、竹に掴まりながら反対側に降りると

「あったぁ!」

 俺の緑のオフロードバイク、泣きそう

 

 その後ろには木村の赤いバイク

「ほら、行ってみようぜ?」

 木村に引っ張られ再びトンネルへ

「!!!」

「な?」

 ほんの20メートル程の所にデカデカと、立ち入り禁止と書かれた看板、さらに金網で塞がれている、その向こうは土嚢

「なっ?!そんな?!なんで!」

「だから引っ張られたんだ、婆さんは…いや、ここの住人は気に入ったヤツだけ通してたんだろ」

 上を指差す、考えてみれば墓の下にいるのだ

 

「何で俺が…」

「家に招かれただろ?それに婆さん、お前の手ぇ引いて連れて行こうとしてたぜ?」

「いつ?!」

 

 振り返るとニヤリと笑い

「誰に怒鳴ったと思ってんだよw」

 

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