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長編8
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第三話 鍵穴 前

「つまり加工すると加工硬化で…」

 やばい、講義の声が遠退く

 隣を見ると木村は既に夢の中

「内部に残っている応力を…」

 限界………

「つまり金属強度は温度により…」

 

 

「あ、児島さんからメッセージ来てたわ」

 講義の後、一コマ空いたので中庭で駄弁る

「終わったら行けってよ、あとライン教えてくれだとさ」

「………」

 頭痛と眠気でフラフラ

 

「しっかりしろよ?」

 

「いや、お前は爆睡だったろ?」

「飲み過ぎたな」

 

 あの事件の後、児島さんに三度呼び出された

 そして未解決の轢き逃げの解決を依頼された

 木村は中学以来、それで後藤さんと出会い協力していた

 しかし定年が近い事もあり、児島さんが引き継ぐ格好に

 

 依頼された内一件がスピード解決した後児島さんが

「君達の実力は本物だな、助かった…そこでだ」

 いつもの大学の会議室

「正式に予算を取った、学費と家賃の心配はしなくて良いよ?」

 人の良い笑顔が神に思えた、

 貧乏学生に神が降りてきた

 そしてバイトを辞めて自堕落になってきた

 

「少し怠け過ぎた…頭痛い」

「神崎、酒弱いのにムリすっからだぜ?」

 ペットボトルの水がうまい

 昨日は缶ビールで祝杯を挙げた、居酒屋のバイトで培った冷凍食品のツマミ作りが役に立つ

 

「えーと、今回の場所は…」

 スマホから地図を開く

 

 夕方

「なんだ、ここかよ」

「まさかこんな近くか」

 初めて木村の霊感を知った場所だった

 大学近くの駅、大きい交差点

「ずっと向こう見てんだよこの娘」

「じゃあ…」

 木村の肩を触る、途端に黒い人影、最初は驚いたけど真っ黒で良かった、木村は事故直後の姿が見えている

 俺はグロくて耐えられそうに無い

 三秒程で

「あぁ、白っぽいワンボックスだな」

「それは防犯カメラで写ってるぜ?」

 道端で肩を触ってブツブツ喋るキモオタ二人、皆が距離を取っている

「轢かれる直前…ちゃんと見てる…男だ、隣に派手な女…ナンバー…車種も分かる」

 目を瞑った視界の中で車が迫って来る、視界が突然グルンと回る

「ドンッ!!」と音が聞こえそうだ

 6~7m程飛ばされ転がり、上を見た瞬間

「うぐっ!!」

 思わず踞る

「神崎?」

 そのまま轢かれた、聞こえない事が幸せだ

「…あー…慣れないな…」

 吐き気が来る、マジ吐きそう

 

 木村は児島さんへメッセージを送る、ナンバーを送った

「仕事終わりだ」

「…はは…」

 割りが良すぎて笑いが出る、この程度で生活出来る、そして俺達以外に出来ない仕事

 

「あれ、もう次の依頼来たぜ?」

 そうも言ってられない様だ

「明日行けってよ」

 スマホで地図を見せる

 

 次の日

 ギリギリ徒歩圏内だった

「電車賃とか交通費請求しても良いのかな?」

「もちろん大丈夫だろ?今度言ってみようぜ、そんで歩けば丸儲けだw」

 

 GPSで確認する、迷わず来られるスマホは便利だ

「これ団地ってヤツじゃねぇの?」

 建物はキレイだがズラリと並んでいる

「多分児島さん現場来て無いんだ、それに育ち良くて分からないんじゃないか?」

 二人で歩くが

「あーダメだ、敷地内で地図が必要だこれ」

 見回す、目的地が分からない

「人に聞こう」

 ベビーカーを押す主婦に話を聞くとすぐに分かった、そっちへ向かうと

 

 

「…これか…」

「いかにも…」

 そこにあったのは改装中なのか外壁に足場が組んである建物、外壁は中途半端に塗装されている

 他の棟はキレイなのにここだけ中止になった様だ

 団地だった名残だろう、子供が遊ぶ砂場や鉄棒まである

 自動ドアの前に立つと開く、電気は来ている、中に入ると

「うおお…」

「なんかキレイだな」

 小さなエントランスとエレベーター

「これ改装ってレベルなのかよ…」

 隅の方にある観葉植物を触るとプラスチックのイミテーションだけど、ボロアパートに比べたら別世界

 

 ここは格安のマンションと言えば聞こえは良いが、改装途中で住人が出て行ってしまった

 理由は三人の子供が連続して亡くなり悪い噂が立ったのだ

 

「その原因調べろだってよ」

 

「大雑把過ぎないか?」

 目的が見えない

「仕方ないわな、色々やらせてお前の能力の仕様を知りたいんだろ?」

 

 そう、俺自身も漸く分かって来たんだ

 俺は死者の記憶を見る

 だけど昨日の女の子みたいに自分の死の瞬間、相手を見ていなければ何の意味もない

 

 エレベーターのボタンを押す

「で木村?亡くなったのはどこだ?」

 

「それがよ」

「ポーン」エレベーターの扉が空いた

「うおっ!!」

「え?!」

「エレベーターああっ!!」

 まるでパントマイムで後退りした木村、そのまま固まった

 

「…木村?」

「…消えた」

「は?」

「三人飛び出して来たんだ、でも消えた」

 木村の肩を触るが

「何も居ない…」

 

「当然だ、今見えねぇもん」

 エントランスから外へ走った?自動ドアは当然開閉していない

 外に出るが

「外にも居ねぇ…どうすんだよコレ…」

 

「好き勝手動くタイプか?」

 交通事故現場など、自分の死の瞬間、思いがあれば霊はその場にいる

 しかし自分が何で死んだか分からない人はフラフラ動いているらしい

 ここの子供はそのタイプ?

 

 

 どこに行ったのか分からないので、とりあえず一階を歩く

「何かホテルみてぇ」

「ドアなんか新品だ」

 ドアノブに青いビニールが着いた部屋もある

 住人が住み始めてすぐに起こった事件なのか?

 

「このドアだけでもアパートにくれないかな」

「それいいな!っていうか解決したらタダで住めたりしねぇかな!w」

「おお!!」

 夢が広がる

 ドアに手を掛けると

「あ、空いてる」

「どれ!」

 中を覗くと

 

「これ新品じゃん」

 玄関の壁紙もキレイ

「すっげー」

 フローリングも新品

 入ってみる、広い!

「本当に団地か?」

「多分壁ブチ抜いて、元は二軒を一軒にしたんだ」

 内装も全部新品

「風呂場広い!アパートの倍以上あるぜ!!」

 

「お前ら!!何してる!!」

 振り返ると地味なおじさんが立っていた

 

 ……………

 

「君らみたいなヤツが噂聞いてな、入って来て困るんだ」

「「はい…」」

 二人で謝る、別棟にある管理室に不審者の話が来て探しに来たそうだ

 考えてみればキモオタ二人が心霊スポットを聞いたのだ、当然だろう

 

「動画の撮影でもしようと思ったか?下見か?」

 

「いえ、そういう訳では…」

 小さな事務室の椅子に座り小さくなる

 

「ハッキリしないな、身分証は?通報するか?」

 高圧的な禿げたおじさん

 大学名を言ったら…即退学かも、ただでさえ警察が会いに来たから印象最悪

 親に知られたら…

 

 どうする…

 

 

「コンコン」

「ん、ちょっと待て」

 おじさんはドアを開けると

「警察の者です」

「「児島さん!」」

 

 ……………

 

「まったく…君達は社会通念を学ぶべきだ、事前に連絡して無かったら逮捕されていたかも知れないんだぞ」

 

「…………」

 ぐうの音も出ない

「最低限スーツの着用、持っているだろう?」

「その頭髪は人から信用されない、切って来なさい」

「無精髭など十年早い、だらしなく見えるだけだ」

 警察の協力者だと説得して貰えたが、児島さんは言いたい事を言って帰って行った

 木村がうつ向いてる振りをしながらメッセージを送っていたのだ

 

「なんだ、警察の人なら最初から言ってくれよ…」

 おじさんは不満顔、昨日児島さんから連絡を受け、鍵を開けて電源も入れてくれていた、

 親切に協力してくれたところにキモオタ二人が入り込んだ

 悪い事をしてしまった

 

「あ、あのー、こちらは長いんですか?」

 出来るだけ愛想良く

 

「はぁ?3月にあれだけ調べたろ?聞いてないのか?」

 おじさんは去年仕事を定年、管理人募集に応募して3月からここにいる

 その直後、子供が立て続けにあの建物で死亡

「お陰であの棟は売れなくて困ってんだ、オーナーも改装費掛かってるから取り壊したくないってな」

 壊すなら俺達住みたいです、タダでw

「あの、まだ工事してるのに入居してたんですか?」

「それも前に話したぞ?値段が手頃でな、それに4月直前で学校のタイミングがあってな、外壁塗装が終わってなくても住みたいって言ったそうだ」

 

「言った?おじさんは直接聞いてねぇの?」

 

「オーナーから引き継ぎ事項で聞いた、それに犯人捕まっただろ?何で今更」

 

「「ええっ?!」」

 

 …………

 

 また児島さんに連絡を取ってみると、捕まった訳ではなかった

 それは塗装業者の一人、過去に女児に対するイタズラで前科があった

 しかしアリバイがあり、更に男児には興味が無い、そして死因が外傷ではない

 それで証拠不十分で釈放

「塗装が止まったのそれか…」

「どうしたもんだコレ?」

「もう児島さんにお手上げって言うしか…」

 またあの建物の前

 外に走ったんだよなぁ

 肩を触る

「もしかしたら外に出た瞬間空飛んだとか」

 人影は見えない

 遊具の辺りにもいない

 

「居ねぇ…とりあえず部屋行ってみようぜ?」

 

 亡くなった子供の部屋を順番に

 一階はさっき入った部屋だった

 

「警察が調べた後だしなぁ」

 歩きながら頭をガリガリ掻く木村

「まず霊が見えないのが」

 俺が肩を触ってるのに止めてくんない?フケ付きそう

 一階の端まで歩きドアの鍵を開けると外の非常階段、登ると二階のドア

「あ、鍵掛かってる」

「うわ失敗した、そりゃ当然だわな」

 面倒でそのまま屋上へ直行

「居ない、どうすっか」

「でもこの建物周辺に居るのは確かなんだよな?」

 また一階に降りて中に入る、鍵を閉めてエントランスへと歩く

「次は三階か」

「ポーン」

 エレベーターの扉が開く、と

「うおおっ!!」

「木村?!」

 

「あー…まただ、走って…消えた…」

 木村は入り口の自動ドアを見ている

「どこに走って行ったんだ?」

 

「どうなって…」

 

「…分かった…あのタイプだ、神崎、肩」

 肩に触れる

 エレベーターの扉が開く、と

 飛び出す黒い子供!

「うわあっ!!」

 後退る

「やっぱり!神崎!手ぇ離すな!もう一度だ!」

 扉が閉まるとボタンを押して開ける

 飛び出す子供、しかし

「木村、消えるのが速すぎる、全然ダメだ」

 記憶が見えない

 

「神崎、エレベーターの中で見るぞ?」

「えっ!」

「それしかない!」

 しぶしぶエレベーターの中へ

 扉が閉まると

「じゃあ行くぞ?」

「…分かった」

 肩を掴む

 木村が開ボタンを押す

 

「あそぼ」

 そんな声が聞こえた気がした、と、

「ダン!!」

 そんな音が聞こえそうな程ダッシュして消える影

「くっそー!ここに居るんだ!確かに!」

 またガリガリやる木村

「ずっと飛び降り繰り返す自殺者のタイプだ!ここにいるんだ!」

 

 三秒も無いため記憶が見えない、俺はエレベーターの中を見回す、と、

「なぁ木村、この鍵穴って何だ?」

 

 

 

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