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24年09月怖話アワード受賞作品
長編10
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いまどこ?

知人から聞いた話です。

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とある高校のショートホームルール。

出席確認が終わり、目の前の誰も座っていない座席を横目にスマホをいじりながら半笑いのケイコ。

『ねぇ、ハナコ、体調不調ってほんと~?』

『うん。昨日から風邪っぽくて…』

『そっか~お大事にね~』

『うん…ありがとう。明日は行けると思う…』

『そうそう、オダ君にもよろしくね~』

『え?!なんで…、あっ!』

ケイコはスマホの位置情報アプリでハナコの現在地を確認していた。

地図上にはハナコと一つ年上の彼氏のオダ君のアイコンが重なって表示されている。

場所はオダ君の自宅だ。

それから数秒後、ハナコとオダ君のアイコンが地図上から消えた。

二人とも位置情報アプリのプライベートモードをオンにしたようだ。

『はしゃぎすぎて風邪悪化しないようにね~お大事に~』

『先生にはサボりって言わないでね…』

『はいはい~んじゃまた明日』

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ハナコとオダ君はケイコと同じテニス部に所属しており、位置情報アプリで共通のグループに登録されている。

去年、部活の打ち上げで位置情報アプリが流行っていると話題になった際、皆で試しにインストールしたのがきっかけだった。

【○○高校テニス部】という名のグループを作成し、参加メンバーの位置情報は常に共有されている。

あらかじめ指定の目的地と日時を設定することで、目的地に到着すると参加メンバーに通知が届く機能もある。

もちろん、グループだけでなく、個別のやりとりも可能だ。

また、他のメンバーのバッテリー残量も確認可能な為、『バッテリー切れるぞー』とか『モバイルバッテリー貸そうか?』とアプリ内のチャットから連絡が来ることもしばしば。

位置情報の確認だけでなく、チャットや通話も完全無料で利用できる為、大変重宝していた。

唯一、残念な点は如何わしい広告が定期的に表示されることだろうか。

数百円支払うことで広告無し版にアップデートも可能だが、ケイコの知る限りではテニス部に広告無し版の利用者はいなかった。

【授業中!眠い!】

ハナコは位置情報アプリの現在ステータスを更新し、机の上に突っ伏した。

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数週間後の休日。

とある繁華街。

ハナコと遊ぶ約束をしているケイコは待ち合わせ場所でスマホをいじっている。

「まだかなぁ…」

待ち合わせの時間になっても現れないハナコ。

ケイコは位置情報アプリを立ち上げ、ハナコの現在地を確認しようとしたが、ハナコのアイコンは表示されない。

電源が入っていないのか、圏外なのか、もしくはプライベートモードがオンになっているのか。

【いまどこ?私は着いてるよ~】

ケイコはチャットを送り、推しのSNSで時間をつぶすことにした。

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数分後。

位置情報アプリの通知がスマホに表示された。

【ハナコが目的地に到着しました】

位置情報アプリを立ち上げると、ケイコのアイコンに重なるようにハナコのアイコンが表示されている。

しかし、周囲を見渡すもハナコは見当たらない。

ケイコはハナコに電話をかけた。

「もしも~し。どこにいる?」

「遅くなってごめん!あ、見えた!右の方だよ~」

「右?」

ケイコは右の方を見るも行き交う人々の中にハナコは見当たらない。

「どこだろ?見えてる?」

ケイコは手を振ってみた。

「見えてるよ~手振ってるでしょ。もう少し右の方だよ~」

ケイコは右に向かって少し歩くもハナコは見当たらない。

「どこ?あ~もしかして…後ろから驚かそうとしてるんでしょ?」

ケイコは咄嗟に振り返り背後を確認するもハナコは見当たらない。

スマホからハナコの笑い声が小さく聞こえたかと思うと通話が切れてしまった。

『パーンッ!』

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ケイコが電話をかけなおそうとした時だった。

これまでに聞いたことの無い破裂音に驚くケイコ。

ケイコから右に1メートルほど離れた地面に折り重なるように二人の男女が倒れている。

「痛ってぇ!誰かぁ!誰かぁ!助けて!!」

女性の飛び降りに巻き込まれた中年男性が苦悶の表情を浮かべながら叫び続けている。

「嘘でしょ…」

ケイコは口元を押さえ、その場に立ち尽くした。

中年男性の右半身に覆いかぶさるように倒れている女性。

手足はあらぬ方向に折れ曲がり、皮膚を突き破った骨も見える。

中年男性のものか女性のものかは分からないが、地面には血が広まっていく。

女性は首もあらぬ方向に折れ曲がっており、口をぱくぱくしながらケイコを見つめる。

「ハナコ…どうして…」

「…う……し、………った…」

「え?ハナコ?何?」

今にも事切れそうなハナコは口をぱくぱくさせながら何かをケイコに伝えようとしていた。

ケイコはハナコの口元に耳を近づけた。

最期に発したハナコの言葉はしっかりと聞き取れた。

「もう少し、右だったね」

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数週間後。

高校の帰り道。

肩を並べて歩くオダ君とケイコ。

ケイコはずっと心ここにあらずだ。

ハナコの最期の言葉の意味は明らかだった。

ケイコを巻き込んで死のうとしていたに違いない。

しかし、ハナコとはずっと仲良しで喧嘩もしたことが無かった。

何より、オダ君という彼氏までいてハナコは幸せそのものだった。

自殺なんてするはずがない。

本当に自殺だったんだろうか。

それとも何か悩んでいたのだろうか。

ケイコはハナコが死んだ理由が分からず、もしかすると自分にも何か原因があるのではないかと自責の念に苛まれた。

そんなケイコの気持ちを少しでも紛らわせようと、オダ君は色々な話題を振ってくれたり、突拍子もない冗談を言って笑わせようとしてくれたが、どれも空回りだった。

「ん?」

ふいに、位置情報アプリの通知がスマホに表示された。

「え?」

【ハナコがスタンプで反応しました】

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ケイコは届いた通知をオダ君に見せた。

「あのさ…。警察から事情聴取された時に聞いたんだけど、ハナコのスマホ見つかってないんだって…」

「…」

「まさか、ハナコがあの世から…」

「…」

オダ君は無言のままその場で立ち止まると、通学カバンを漁り始めた。

「どうしたの?」

「おかしいな…落としたかな…」

「?」

ケイコが訝しげな表情を浮かべていると、オダ君が真剣な眼差しで見つめながら口を開いた。

「ハナコが死んだ日、俺もハナコと待ち合わせしてたんだよね」

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「え?」

「前日にちょっと喧嘩になってさ…それで…」

「え?なんで?」

「…」

「ねぇ!」

「別れ話だよ。他に好きな人が出来たから…」

「はぁ?それでハナコは?」

「誰を好きになったのか問い詰めてきたよ。相手が誰かまでは話す気無かったんだけど、あまりにしつこくて…」

「え?言ったの?」

「うん。言うまで終わらなさそうな雰囲気になったから言った。ケイコだよって」

「え?え?私?」

「うん」

「ねぇ…馬鹿じゃないの…」

「なんで?」

「私が原因で別れるようなことになったら、私とハナコがこれまで通り仲良しでいられなくなるかも知れないって考えなかった?」

「うん」

「はぁ…。それでどうなったの?」

「泣きながら帰ってったよ。で、その後に明日話がしたいって連絡が来て待ち合わせることなったんだよ」

「どこで?」

「ハナコが飛び降りたビルの屋上。花火がよく見える穴場スポットでさ、そこで花火見ながら告白して付き合ったんだよね」

「…」

「でもさ、当日はハナコに会えなかったんだよ。屋上に着いた時にはもうハナコいなくて…」

「…」

「んで、電話かけたら屋上で着信音が聞こえてきてさ、手すりの近くにハナコのスマホが落ちてたんだよね」

「…」

「とりあえずポケットにしまってビルを下りたら飛び降り自殺で大騒ぎになってて…」

「…」

「怖かったんだよ!俺がビルから突き落としたんじゃないかと疑われるのが!」

「…」

「そうじゃなくてもハナコのスマホの中身を確認されたら俺との別れ話が原因で自殺って思われるんじゃないかって…」

「…」

「だからハナコのスマホは電源切ってとりあえず通学カバンに入れておいたんだよ」

「…」

「で、ハナコのスマホの居場所は分かる?拒否されているみたいでアイコン表示されてないや」

ケイコがスマホを確認すると○○高校の正門付近にハナコのアイコンが表示されている。

ここから徒歩10分くらいの距離だ。

「いつの間に落としたんだろ?電源も切ってたはずなんだけどなぁ…。ちょっと戻って拾ってくるから待ってて」

そう言うとオダ君はハナコのスマホの場所に向かって駆け出した。

「ちょっと待っ…」

あっという間にオダ君は視界から消えてしまった。

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ケイコはすぐ近くにあったコンビニのイートインコーナーに座り、位置情報アプリを確認した。

オダ君のアイコンが徐々に高校に近づく。

「あれ?」

先ほどまでは○○高校の正門付近に表示されていたハナコのアイコンが少し移動している。

「誰かに拾われた?え?」

突然、ハナコのアイコンが見たことのない速さで○○高校の周囲をぐるぐると移動し始めた。

「何これ…。バグってる?」

ケイコはオダ君に状況を伝えようと電話をかけたが繋がらない。

「もぉ…」

ケイコは立ち上がり、耳にイヤホンを付け、○○高校に向かった。

お気に入りリストに登録された軽快な音楽が大音量で耳を通り抜ける。

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10分後。

もう少しで○○高校沿いの大通り。

位置情報アプリを確認すると、オダ君のアイコンは正門前で止まっており、ハナコのアイコンは相変わらず物凄い速さで○○高校の周辺を時計回りに移動している。

高速移動するハナコのアイコンは何度もオダ君のアイコンと重なり、すれ違っているように見えた。

「ハナコのスマホは車とかバイクに載せられてる?」

あれこれ考えてるうちに○○高校が見えてきた。

正門前にはオダ君が座り込んでいる。

ケイコに気が付いたのか、手を振るオダ君。

ケイコも手を振り返し、大通りの横断歩道で信号が青になるのを待った。

位置情報アプリを確認すると、ハナコのアイコンが次の右折で○○高校の大通りに出てくるところだった。

曲がり角を凝視するケイコ。

数台の車が右折せずに直進していったが、ハナコのアイコンは右折し、再度オダ君のアイコンとすれ違った。

アイコンがすれ違うタイミングで正門前にはオダ君の姿しかなかった。

「やっぱり、バグってただけか~」

安堵したケイコがスマホをバッグにしまうと、いつの間にか横断歩道の向かいにオダ君の姿。

いままで見たことのない形相で口をパクパクさせている。

首を傾げ、きょとんとした表情でオダ君を見つめるケイコ。

「オダ君?どうしたの?」

イヤホンを外しながら大声でオダ君に問いかけるケイコ。

軽快な音楽の代わりに聞こえて来たのはオダ君の叫び声と鳴り続ける車のクラクションだった。

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数日後。

○○高校テニス部の部室。

二人の男子が向かい合って椅子に座っている。

「部員が立て続けに二人も死ぬとかやばいよな」

「…」

「ハナコは自殺、ケイコは事故死…」

あの日、居眠り運転をしたタクシードライバーの車が歩道に乗り上げ、そのまま歩道を走り続け、最後には加速して信号待ちをしていたケイコを轢き殺し、電柱に激突して停車。

ケイコは頭を強く打って即死。

首から上が原形を留めておらず、噂では目玉が二つ付いた頭蓋骨が綺麗に飛び出して道路に落ちていたらしい。

「で、オダは見たの?死体?」

「無理無理、110番通報しただけ。それよりさ、これ見てよ…」

「ん?何?」

「これさ、事故の直後に届いた通知なんだよ…」

オダのスマホには位置情報アプリの通知履歴が表示されている。

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【ケイコが目的地に到着しました】

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「目的地って…どこ?あの世ってこと?」

「じゃない?」

「あ~こわこわ。もうアプリ消そうかな」

「どうぞどうぞ。俺はまだ使うけどね。あ、そろそろ来るんじゃない」

「だね~」

「ユーチューバーと会うの初めてかも」

「俺はフェスで替え歌の人に会ったことあるかな」

「そうなんだ。今日来るのは心霊スポットに行ったりホラーゲーム実況してる人だよね。チャンネル登録数はそんなに多くないけど…」

「そそ。んじゃ、最後に念の為、確認しますか」

「だね。確実な心霊体験が売りだからね」

二人きりの部室で男子部員は位置情報アプリを同時に起動した。

地図上には複数のアイコンが表示された。

男子部員が二人。

女子部員が二人。

「よかった。今日もちゃんと来てるね」

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