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懲りない3人のストーカー

長編9
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懲りない3人のストーカー

以下に挙げる作品は、わたくしがこれまで挙げたストーカーたちの中でも特に懲りない3人です。

それでは、お楽しみください。

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その1

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「お姉ちゃん、どうやら私の行動、筒抜けみたいなのよ」

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東京で一人暮らしをしている今年29歳になる妹からライン電話があったのは、昨晩のことだ。

どうやら最近元カレによるストーカー被害を受けているみたいということだった。

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私は尋ねた。

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「筒抜けって、いったい、どういうことよ?」

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「あのね、先日仕事から帰った時アパートの集合ポストを覗くと奇妙な白い封筒が入っててね。

宛名を見ると、なんと去年別れた篤志からのもので、中の便箋には、最近お前ちゃんと晩飯食べてるのか?インスタントじゃあ栄養つかないぞって書かれてて、、、

確かに私、その日の前日の晩御飯は疲れていたからカップ麺だったのよ。

それまでも無言電話とかはあったんだけど、今回のはさすがに度を越してると思ってね。

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あいつ、私の部屋に盗聴機とか仕掛けてるのかな?

それともまさか天井裏に潜んでいるとか?

ああ、気持ち悪い、気持ち悪い、、、

お姉ちゃん、私どうしたらいいのかな?」

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妹の元カレは板前だったそうなのだが、異常に粘着質で短気な性格だったようで、3年ほど前、当時勤めていた店の大将と口論のあげく包丁でケガを負わせ、しばらく刑務所に入っていたそうだ。

そんなこともあって去年の始め、最終的には別れたそうなのだが、それからもちょくちょく連絡があって復縁を迫られていたようだ。

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「弘毅さんには相談した?」

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弘毅さんというのは、妹の新しい彼氏だ。

最近お付き合いしだしたようで、私はまだ会ったことがない。

とても優しい彼氏らしく、妹が仕事で疲れている時とかは代わりに掃除とか晩御飯の準備とかまでしてくれたりするそうだ。

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「うん、昨日うちに来た時、話した。

そしたら、今度一緒に警察署に相談に行こうって言ってくれた」

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「それが良いと思うよ」

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最後に妹はこう言った。

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「ねぇ、お姉ちゃん、他にも相談したいことあるから、今度うちに来ない?」

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ということで私は翌日の日曜日、東京のアパートで独り暮らしをしている妹に会いに行くことにした。

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 東京駅に着いたのは午後5時過ぎだった。

それから地下鉄に乗り換え、妹の住むアパート最寄りの駅に着いたのは午後6時。

その日、妹は夕方から用事があるので少し遅れるかもしれないが、彼氏はいるはずだから部屋に入って待っていて欲しいということだった。

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 入口ドア横の呼び鈴を押す。

しばらくすると鍵を開ける音が聞こえ、静かにドアが開いた。

隙間から妹の彼氏の顔がのぞく。

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「こんにちは。あの、、妹がいつもお世話に……」

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突然色白で吊目の若い男の顔が現れたので、私はドギマギしながら頭をさげる。

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「ああ、お姉さんですね、はじめまして。

僕今、妹さんとお付き合いさせてもらってる上條弘毅と言います。あいつ、もうちょっとしたら帰ってくると思うので、どうぞ中で待ってて下さい」

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上條は爽やかに微笑みながらドアを大きく開いた。

私は奥の居間のソファに座りテレビを見ながら、妹の帰りを待っていた。

しばらくすると煮魚の良い香りと包丁の音がしだしたので振り向いて見ると、上條は奥のキッチンでなにやら料理の最中のようだ。

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「あの、、どうぞ、お構い無く!」

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私は上條の背中に声をかける。

すると彼は振り向くと肩越しにこちらを見ながら、

「いやいや、どうせ今晩は僕が晩御飯作るつもりだったから、ついでにお姉さんの分まで作ってますよ。」と言ってニッコリ微笑んだ。

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私が恐縮しながら「どうもすみません」と頭を下げると、上條はまた振り返り、

「なんだか、あいつ最近忙しいようで、まともに晩飯食ってないみたいでね。たまには良いもの食わせてやろうと思って、今日は奮発して金目鯛の煮付けをね」と言って笑った。

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 そうしているうちに、ラインの着信を伝えるチャイムが鳴る。

私は傍らのバッグから携帯を出した。

妹からだ。

そしてディスプレイに並ぶ文字を読み終えた途端に「え?」と目を疑い、もう一度改めて読んだ後、一瞬で背筋が凍りついた。

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お姉ちゃん、ごめん(´`:)

用事が早く終わって時間があったから彼氏と買い物出たんだけど、長引いてしまって、、、

あと5分くらいで一緒に家戻るから、アパート玄関の前で待っててね(^^)

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携帯を持つ右手が震えている。

画面からゆっくり顔を上げた時だ。

突然部屋の電気が消えた。

【fin 】

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その2

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「それは、お寂しいでしょう。

あなたのようなまだお若い方がこんなに早く連れ添いを亡くされると。

ああ、すみません、まだ亡くなったと決まったわけではなかったですね。

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まあね私なんかね、今年で60になるわけだけど未だに一人もんですわ。 

いやいや、もうここまでくると寂しさとかはありませんよ

異性に対する関心もほとんどありませんしね。

ただ夜寝るときとかにね、窓ガラスとかが風でガタガタいうときがあるじゃないですか。

特に今のような季節のときは特に。

そんなとき、ああ誰かいてくれたらなあとか思うときはありますけどね。

ハ、ハ、ハ、ハ、ハ……」

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 私は出されたお茶を飲みながら目の前のソファに座るスエット姿の初老の男性の話を聞きながら、夫のことを考えていた。

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 夫がいなくなってから、もう1年になる。

山登りが好きな人で、去年の冬行ってくると言って出て行ったきり今日まで帰ってきていない。

当時警察や地元の消防団の方々が総動員で捜してくれたのだが、結局見つからなかった。

警察は恐らく登山中に遭難されたのでしょうと言っていた

でも私は今でも、夫があの時のままの恰好でひょっこりと帰ってくるような、そんな気がしている。

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 私は今古い二階建ての一軒家で暮らしている。

夫は若い頃からアンティークなものが大好きで、住むところもマンションとかではなく古民家のようなところがいいと言って、わざわざ勤め先から1時間かかるところにある郊外の古い二階建ての一軒家を借りたのだ。

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 今私の目の前に座っているのが大家で、代々家や土地を持っている大地主の子孫らしい。 

毎月末にはこうして、大家の屋敷に家賃を持っていくのである。

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 大家はいつも真っ赤なスエットの上下といういでたちである。

でっぷりとだらしなく肥えており、頭はおかしな具合に禿げている。

おかしな具合というのは頭頂部だけがきれいさっぱり頭髪がなく、まるでカッパのような禿げ方なのである。

初めて会ったとき、私は頭に目がいかないようにするのに大変だった。

私が住んでいる一軒家の裏手にある大きな屋敷に一人で暮らしており、特にこれといった仕事をしているような感じではないのだが、町内会の会長であり、町内の様々な行事とかボランティアとかを積極的にやられているようだ。

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「何かご不便とかはありませんかね?」

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大家は家賃の入った茶封筒を受け取りながら、上目遣いでギョロリと私の顔を見た。

本当のところいくつかはあるのだが、私は「ありません」と言った。

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「女性の独り暮らしは物騒なものですから、くれぐれも用心して下さい。

特にこの季節空き巣も多いですから、戸締まりもしっかりして下さいね」

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そう言って大家はもう一度私の顔を見ると、また「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ……」と何がおかしいのか、また可笑しそうに笑った。

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 本当を言うと最近家の中でおかしなことが起こっていた

いや正確にいうと、今年の1月くらいからだ。

初めのうちは具体的にどうこうということではなかった。

誰もいないはずの部屋に人の気配がしたり、ふとしたときにぞくっとするような誰かの視線を感じたりと、ほとんどが心理的なものだった。

それがだんだんと目に見えるようなことになってきた。

朝方テーブルに広げていた雑誌が、夜仕事から帰ってきたら、きちんと片付けられていたり、一つだけ洗い忘れていた湯呑みが洗われてシンクに置かれていたり……。

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─夫が家のどこかにいるのでは……。

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 私はそんな変なことを思ったりもした。

そう思ったのには理由がある。

私は畳部屋にフトンを敷いて寝るのだが、寂しさから夫が寝ていたフトンを並べて寝ている。

ある日朝起きてふと隣を見ると、さっきまで誰かが寝ていたかのようにシーツが乱れており、触ると少し温かい。

さらに驚いたのは、枕から夫の使っていたヘアートニックの香りがするのだ。

枕カバーはもちろん、きれいに洗濯している。

すぐ洗面所に行き鏡の横にある棚を確認した。

棚の一番上に夫の洗面道具一式がまだあるのだが、そこを見た瞬間私は驚いた。

ヘアートニックだけが2段目に移動している!

こうなると、いかに鈍感な私も気味が悪くなってきた。

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元来私は心霊現象などというものは信じていない。

夫がいるなどということを思ったりもしたが、やはり心のどこかで疑念があった。

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 そこで、家の中の3カ所に防犯カメラを設置することにした。

一つは洗面所、一つは居間、そしてもう一つは寝室の畳部屋。

私は昼間は介護の仕事をしており、帰宅するのは毎日夜である。

朝カメラを作動させ、仕事に出かける。

そういうことを3日ほど続けてみた。

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4日目、仕事から帰ってきた私はパソコンを開いて、少し緊張しながら録画された映像を確認した。

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1日目は、3カ所ともこれといった異常は見られなかった

だが2日目、早送りしながら同時に3カ所を見ていると、洗面所を映した画面に何かが映り込んでいた。

そこは洗面台を正面から撮っていて、画面右下の時計が16:05のとき、突然右端から赤い人影のようなものが現れた。

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─何だろう?

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と停止して通常スピードで再生したとき、私は目を疑った

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 それは大家だった。

いつもの赤いスエット姿の大家が背中を向け洗面台の前に立っている!

彼はしばらく自分の顔を覗き込んでいたが、やがて私が使っているスキンクリームを念入りに顔に塗り込んだり、夫が使っていたヘアートニックを少なくなった髪になでつけ鏡に向かい流し目をしている。

私は寒気がした。

その後大家は洗面所の画面から消えた。

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 これで終わったかと思ったが、まだあった。

寝室、畳部屋 23:08

ここのカメラは天井に設置した。

パジャマ姿の私がフトンを二つ敷いているところが上から撮られている。

画面中央にフトンが縦に二つ並んで敷かれた。

電気を消しフトンに入る私。

同時にカメラが暗視モードに切り替わった。

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 異変は夜中の2時過ぎに起こった。

02:13

向かって左側のフトンで私は熟睡していて、時折右や左に寝返りをうっている。

すると画面下方に突然、人の頭が現れた。

私は目をこらして見る。

見覚えのある特徴ある頭……。

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 それはやはり大家だった。

しかも驚くことに、夫のベージュのスエットを

着ている。

そろりそろりとハイハイをしながら、フトンのところまで近づくと、ゆっくりと私の隣に仰向けになり枕に頭を乗せた。

それから横を向き、しばらくじっと私の顔を眺めていたかと思うと、自分の手のひらを私の手のひらに重ねてみたり、私の頬に自分の頬をくっつけてみたり、再び横を向き、私の顔をじっと見つめながらニヤニヤ笑ったり、最後は頭のてっぺんから足先まで、クンクンと匂いだした。

およそ1時間以上もの間、そんなことを延々とやり続けていた。

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03:11

私の枕元にある目覚まし時計を見ると大家は起き上がり、またハイハイしながら画面下方に消えた。

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 翌朝すぐ警察に電話をしたのだが、今回の大家の事件で私はどうしても理解できないことがあった。

それは寝室の画面に映っていた大家の服装である。

実はあれは去年の冬、夫が失踪したときに持参したスエットと同じものなのだ。 

同じものは今自宅にはない。

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ではなぜ大家がそれを着ていたのか?

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私の心の中に恐ろしい疑念が

生じ始めていた。

【fin 】

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その3

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あまりの寒さで何度か深夜に目が覚めた。

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─そろそろ夏布団一枚ではダメみたいね。

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朝方眠い目を擦りながら私は1人愚痴る。

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季節は11月。

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今年女子大を卒業と同時に都内にある某総合商社に就職し、春先にこのマンション4階に引っ越して初めての冬を迎える私は、冬の寝具をまだ買い揃えてなかった。

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翌日はたまたま日曜日だったから、私は寝具を買いに出かけることにする。

準備をして部屋を出て一階まで降り、マンション入口から外に出ると、ジャージ姿の管理人のおじさんがエントランスを箒ではわいていた。

160センチの私よりも小柄な小太りのおじさんだ。

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「おや、○○さん、おはようございます。

こんな早くからお出かけですか?」

と声をかけてくるので、

私も会釈して「はい、ちょっと買い物に」と応える。

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するとおじさんはニヤニヤと笑いながら、

「そうですね、もうこんなに寒くなったら夏布団ではダメですよね」と言った。

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この瞬間背筋がゾッとして、

私はこのマンションを引っ越そうかと思った。

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Presented by Nekojiro

Concrete
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