中編6
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絶滅危惧種

絶滅危惧種とは?

地球上の動植物の中でも、生存する個体数の減少により、絶滅の危険性が著しく高い生物の意。

例えば、食肉目ネコ科【バーバリーライオン】。

雄大なアフリカの大地の上で、豊かな黄金の鬣を風になびかせて野を駆けるその精悍な雄姿は、かつてのローマ帝国の英雄カエサルをも魅了したと言われている。

が、文明人の活動域の拡大に伴い、やがては住処を追われ、また、娯楽としての狩猟や見世物目的の捕獲によって徐々にその数を減らし、2007年の頃には僅か数頭が確認されるだけとなった。

例えば、ハト目ハト科【リョコウバト】。

鳥類史上最も数がいたと言われており、アメリカ全土でも50億羽がいると推測されていた。

この鳥の肉は非常に美味であり、食肉や飼料、さらには羽毛の採取の為に、卵や雛までも含めた無制限な乱獲が行われた。

さらに重火器の進化や交通・通信手段の発展がその乱獲に拍車をかけ、効率的な狩猟や捕獲が行われた結果、僅か数十年でその数は激減した。

一度は、保護すべきではないかという声もあった。

だが、それでもまだ莫大な数がいると推測され、乱獲は続き…、

そして、20世紀初頭。

リョコウバトは、地球上からその姿を消し、絶滅したと考えられている。

これらの生物の他にも、トキやニホンオオカミ等の動物、ワタヨモギやアオヤギバナ等の植物が、絶滅寸前の、又は既に絶滅した生物として名を連ねていた。

そして現在。

ある【種】が、この地球上から姿を消そうとしていた。

あと僅か数匹の命が消えれば、その【種】の存在は、永久にこの世界から消え去るのだ。

絶滅へのカウントダウンは、既に終わろうとしている。

文明人は反省していた。

今、この【種】が絶滅の危機に瀕しているには、我ら文明人に原因があったからである。

我ら文明人による、捕食と娯楽の為の乱獲によって、この【種】は数を激減させたのだ。

その【種】の肉には、文明人にとって有益となる多くの化合物が含まれており、文明人の食生活にとって非常に重宝された。

さらにこの【種】は体毛も少なく、食肉加工もしやすい。

遥かな旅路の果てにこの地に辿り着き、食用に適したその生物種を発見した当時は、歓喜したものである。

また、その【種】は群れで暮らすことを好み、更にはある程度の知能の発達も確認されていた。

【種】は、我らは文明人の乱獲に対して、無力ながらも集団での反撃を試みてきたのだ。

だが、長い旅路で娯楽に飢えていた我ら文明人は、その必死の反撃すらも娯楽として楽しんだ。

一日で何匹を殺せるかを、仲間内で競った。

狙った的を外さずに、一撃で頭部を破壊する技術を争った。

だが、大切な肉を失うわけにはいかない。

如何に肉を無駄にせずに、屠殺するか。

その微妙な加減が難しく、またその手段を考える事が楽しかった。

だがやがて、【種】は数を減らし、反撃する術も力も失っていった。

それは、生物種としての絶滅へのカウントダウンが始まったことと同義である。

だが、我らの乱獲は終わらなかった。

探索し、捜索し、追跡し、屠殺する。種の激減は、我らに新たな楽しみを与えただけだった。

それから数年。

その【種】は更に数を減らし続け、現在は我らに捕獲された僅か数匹だけとなった。

我らの【船】の中、頑強な檻に入れられた数匹の【種】。

その哀れなまでに怯え、痩せ細った体躯を目にした時。

我ら文明人は、考えを改めた。

このままでは、この【種】が絶滅してしまう。

胎生生物であるこの【種】は、繁殖に時間がかかる。

更には、出産した仔が親雌から離れるにも多大な期間を要する。

よって、一度絶滅に瀕すれば、大量繁殖は容易ではない。

…絶滅する前になんとかしなければ。

それは、我ら文明人にとって、倫理的にも、道義的にも、

そして食生活的にも、火急の課題となった。

まずは、この痩せ衰えた体躯を回復させねばならない。

だが、【種】は檻の中で暴れ回り、又力無く項垂れ、我らが与えた餌に手をつけない。

何故だ? この【種】の消化器官は我々とほとんど変わらない。肉ならば摂取出来る筈だ。

同生物種の肉は消化できないのか?

このままでは、この【種】は我らの目の前で死に絶えてしまう。

それだけは断じてならない。

我々は、【種】の手足を縛り付け、無理矢理に経口から肉を摂取させた。

それでも拒否をするようならば、腹部に穴を開けてチューブを通し、ミキサーにした肉を流し込んだ。

「体重の増加が確認されました。このまま栄養摂取を続ければ、身体の機能は回復することでしょう。」

嬉しい報告である。

次は、繁殖だ。

絶滅に瀕した生物は、強制的に繁殖させる必要がある。

この生物は雌雄で交配し、単為生殖で繁殖する。

我らは比較的健康そうな雌雄を選び、自然交配を試みた。

交配対象は、生後40年程のオスと、生後10年程のメスだ。

この2匹だけを裸で別室の檻に入れる。

我らの見守る中、オスが顔を上げた。

その向かいでメスが小さく縮こまる。

だが、再びオスは力無く顔を伏せ、それっきり2匹は動きを止めてしまった。

自然交配による繁殖は失敗であった。

ならば次の手段、我らは人工繁殖を試みる事にした。

この【種】の近隣種である【猿】という生物のメスを代理母として卵子を搾取する。

また、捕獲しているオスからも精子を搾取し、受精卵を【猿】に着床させ、代理出産させる。

結果、人工繁殖は成功した。

【猿】と【種】両種の遺伝子を受け継ぐこの新たな【種】は、元となった【種】と比べ毛深くなり、肉としての加工はし辛くなった。

だが、成功は成功である。我らは偉大な一歩を踏み出したのだ。

我らはこれからも、

この【種】を、

檻に隔離し手厚く保護し、

餌を与え、体調を管理し、

飼育し、繁殖させる。

産めよ増やせよ。柵の中で、地に満ちよ。

昨今の研究で判明したことがある。

この【種】の絶滅の原因は、我ら文明人による乱獲だけではなかった。

繁殖しにくい事は既に周知であったが、他にもこの【種】に生物的性質による欠陥が認められたのだ。

この【種】は、過去、幾度とも同じ星に住む動植物を絶滅させてきていた。

自らの種の安定の為に、星の自然を削り、生物を死滅させ、毒を撒き散らせてきていた。

おそらくもとより、他生物と共存できる性質を持ち合わせていないのだ。

更に驚くことに、この【種】は同族殺しすらも安易に行いえる特性も持っているのだった。

見た目が異なる。色が異なる。住処が異なる。言葉が異なる。思想が異なる。

そんな理由で、簡単に争い、同族同士で大量に虐殺し合っていた。

事実、我ら文明人が乱獲を行っていた最中でさえあっても、残された食料や土地を略奪し合う形跡が確認されていた。

我々がこの星に来た時には既にもう、この【種】は滅びに向かってのカウントダウンを始めていたのかもしれない。

この星においての、この【種】の呼び名が判明した。

哺乳綱霊長目ヒト科ヒト亜科ヒト亜族

ホモ・サピエンスの進化系

その種の名は、

【ニンゲン】

【船】のデッキの中で、文明人はタブレットを操作する触手を止める。

ニンゲンの大量生産計画は順調に進んでいる。

もうニンゲンが絶滅する事は無い。

我ら文明人も、飢える事は無くなった。

デッキからは、かつては青く美しい星であった、だが今は灰色に澱んだ星…地球が見える。

その星で繁殖してきた生物、ニンゲン…。

自らを滅亡させかねない愚かしい性質を持ち、自然への感謝を忘れ、共に星に共存する動植物を蹂躙し続けてきた地球生物。

そのニンゲンより、遥かな高みにある文明人は、つぶやいた。

「我々が、保護してやろう」

と。

文明人である彼らにとって、

下等な生物種は、管理する対象である。

…自由に奪える対象である。

そして、

『保護してやる』、対象である。

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