中編3
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ゲイム 2

あれから一体どれだけの月日が流れたのだろう。

一週間ぶりに姿を見せたお父さんは、僕にいつもの痛い注射と幾つかの合成薬が入ったカプセルを呑ませると、何も言わずにさっさと部屋を出て行ってしまった。

「行かないで、もっと僕のそばにいて」

僕の声は届かない。

この注射を打たれると、数時間は身体を動かすどころか声を出す事すらも出来ないのだ。

お父さんはこの家を研究所と呼び、僕を実験体に使っている。

なんでもゲノム開発とかで限りなくエコに近い人間を造り出す事が、近い将来確実に訪れるであろう食料危機に向けての対策なんだと言っていた。

でもそれはあくまでも研究所からお金を貰う為の建前で、お父さんは三年前に事故で死んだお母さんの身体を再生し、生き返らせる事が本当の目的らしい。

この話は、僕の様子を見に三日に一度この家を訪れる助手の祥子さんが教えてくれた。

最初は僕も父さんや祥子さんの言う通り、いつか完全体になれるんだと信じていたがこの薬はなんか変だ。最近、呑む度に身体から腐った匂いがしてくる。

僕は、お父さんの作ったこの薬は失敗作だと思っている。

その証拠に僕の髪の毛は全て抜け落ち、眼球は両方共に飛び出し、全身の皮という皮もたるんでしまい、もうお化けみたいな姿になっている。

ただ、不思議な事に頭だけは異様に冴えていて、眠たくもならないし、絶えず色々な思考が電流の様に頭の中を駆け巡っているのだ。

僕は自分の醜い姿を見たくない一心で、祥子さんに頼んで部屋の電気を外して貰った。

お陰で、毎日天井に現れる僕の先祖だというお婆ちゃんとクイズを出し合ったり、時にゲームなんかをしたりして、この毎日の退屈な時間を潰せるようになった。

「お婆ちゃん、早くこないかな?」

暫くして、ガチャリという音と共に暗い部屋に廊下の明かりが差し込んだ。

お父さんだ!と僕の胸は踊ったが、それが祥子さんだと分かると、僕はいつもの様に寝たふりをして目を閉じた。

「ちっ!なんだまだ死んでないのか」

祥子さんが僕の胸に耳を押し当てながら舌打ちをした。

「私がすり替えた薬を使えば二、三回でくたばるだろうと思ってたんだけど、この子、意外にしぶといわね。

英彦さんも死んだ元嫁なんかにいつまでも執着していないで、早く私と一緒になってくれないかしら」

祥子さんはドカリと1人掛けソファに腰を降ろした。

僕は薄眼を開けたままで天井を見つめていた。

すると、僕の気持ちが届いたのかいつもの様に暗闇が渦を巻き始め、グニャグニャと周りを歪めながら、お婆ちゃんの大きな顔が現れた。

お婆ちゃんはいつになく悲しい表情をしていた。

僕がどうしたの?と心の中から問いかけると、お婆ちゃんは「お前の母親が心配して泣いておる。この女はワシが始末するけえ、お前は父親がいない隙にこの家から離れるんじゃ、そして母親の言う通りの場所へ行くがいい、分かったな?」

僕が返事を返すと、途端、お婆ちゃんの両目はギョロリと祥子さんを捉え、大きな口を開けて、あっという間にソファごと祥子さんを呑み込んでしまった。

「ねえ、もう一緒にゲームはできないの?」

僕はグニャグニャと姿を変えていくお婆ちゃんに向けてそう尋ねた。

するとお婆ちゃんはニンマリと微笑みながら「ワシの役目はここまでじゃ。大丈夫、この家から出さえすればいつも坊やのそばには母ちゃんが居る。何も寂しい事はない。ゲイムはもう終わりじゃ。」

そして僕はその三日後の夜、お婆ちゃんの言い付け通りに玄関前で待つ母親と共に、誰も知らない場所へと向かった。

【了】

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