届かない声(吹き溜まりパートⅡ)

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届かない声(吹き溜まりパートⅡ)

今日こそは今年四十路に突入する俺は、彼女いない歴=年齢という不名誉な肩書きを脱出するつもりだった。

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身長は170センチに若干届かない塩顔のフツメンで、年収は300万を行ったり来たり。

今時の女子たちのいう、いわゆる理想の男性像には程遠いかもしれないが、そんなことを気にしていたら何も始まらない。

とにかく行動しようと、年明けの初詣で誓ったんだ。

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それで前月張り切って挑んだとある恋活パーティーで、何と32歳の歯科衛生士の女性と知り合ったんだ。

はっとするような白い肌で、しかも美形でスレンダー。ドキドキしながらも勇気を出して声をかけると意外にも好反応。

お互い話題も共通して意気投合。

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一回目のデートは彼女行き付けというイタリアンでパスタランチの後、湾岸をドライブ。

終始笑顔だった彼女に別れ際、緊張しながら二回目のデートを切り出したら何とすんなりオーケー。

そこで今日は奮発して都内にある四ツ星ホテル内にあるフレンチレストランで、コース料理を予約したんだ。

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午後六時半きっかりに彼女が登場

白のミンクコートが眩しい。

セミロングのストレートの黒髪と透き通るような肌に見とれながら、着なれないスーツの袖を気にしつつ話題をと切らせないように終始頑張ったよ。

彼女も食事の間、よそ見なんか一度もしないで優しげに微笑み続けていたんだ。

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─これは、もしかしたら、、、

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俺はこれからの彼女との未来に、胸を膨らませていたんだ。

決して安くはない会計を済ませたときは、八時を過ぎていたな。

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「少し歩こうか?」

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と言って、夜のビジネス街を颯爽と歩きだしたのだが、なぜか彼女が付いてこないんだよ。

振り向き後戻りして、一抹の不安を感じながらも尋ねてみる。

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「どうしたの?」

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しばらく彼女は顔を伏せたまま立ち尽くしていたんだけど、やがて途切れるような小さな声でこう呟いたんだ。

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「ごめんなさい。あなたとはもう会うことは出来ないの」

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軽いめまいを感じながらも、頑張って尋ねてみたよ。

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「ど、どうして?」

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彼女からの返答は、予想もしなかったものだった。

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「実は昨晩、ずっと音信不通だった彼氏から電話があって、、、」

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その後も彼女はしばらく何かしゃべり続けていたようなのだが、なぜか俺の耳は両方ともほとんど機能を停止していて、全く聞き取れなかった。

ただはっきり言えることは、彼女と会うのは今日が最後ということだった。

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その後俺はどこをどう歩いたのか全く記憶がない。途中何度となくすれ違う人とぶつかり罵声を浴びたりした。

そしてようやく駅にたどり着くと改札を通り、プラットホームを夢遊病者のようにフラフラ歩いていたところまでは何とか記憶があるのだが、その後はどうしたのか、意識を取り戻した時はホームのベンチに座っていた。

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ふと辺りを見ると、何故か構内は人で溢れかえって騒然としており、どうも様子がおかしい。

どうやら人身事故があったらしく上下線とも後一時間は復旧の見通しがついていない、ということだった。

途方にくれながら、再び外に出てふらふら駅周辺を歩いていると、駅前テナントビルの真横に、古びた一軒の喫茶店が目に入ってきた。

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─あれ、、、こんなところに、喫茶店なんかあったかな?

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オレは特に理由もなく、重々しい木の扉を開ける。

カラカラカラーンという音とともに、かなりキツイ脂の匂いが鼻をつく。

それから小ぢんまりとした薄暗い店内を見渡す。

ワインカラーのカーペットに同色のソファー。

壁には、ビートルズのラストアルバム「アビーロード」のジャケットが飾ってある。

奥には、五、六人座れそうなカウンター。

その向こうには、白のワイシャツに黒い蝶ネクタイのマスターらしき男性。

まるで、昭和の時代にタイムトリップしたようなレトロな内装だ。

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俺は、窓際にある二人がけのテーブルに俯きながら腰かける。

ふと顔を上げると、向こう側の二人がけのテーブルに女性が一人、こちらを向いて座っている。

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年齢は30代後半くらいかな。いや、もっといってるかもしれない。

ロングのストレートな黒髪に、細面で色白の顔。

黒のタートルネックのセーターを着ていて、かなり痩せているようだ。

華奢な長い指で長い黒髪を軽くかきあげると、ゆっくりとコーヒーカップを口元に近づける。

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それとなく目線を動かしていると、何度か目が合ったような気がした。いつもならそれで終わるのだが、なぜかその時の俺は違っていた。

今日のことで、少しやけくそになっていたかもしれない。

彼女が次にこちらの方を向いたタイミングを見計らい、思い切って

「こんばんは」と声をかけてみた

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彼女は一瞬少し驚いたような様子を見せて、俺の方を見たのだが、すぐに先ほどの落ち着いた表情に戻り、またコーヒーカップを口元に近づける。

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「あの、ここには、よく来られるんでしょうか?」

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俺は必死に言葉を繋げていく。

果たして俺の声が聞こえているのかいないのか、向こう側のテーブルの彼女はちょっと考えこむように窓の方を覗きこむと突然、後ろを振り向き口を開いた。

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「すみません、駅に人が多いみたいですけど何かあったんでしょうか?」

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「え!?駅に人?あ、、それは」

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意外な質問をされた俺は、どぎまぎしながらも最後まで説明しようとしていたら、カウンターの向こう側にいたマスターが、しゃべりだした。

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「あ、あれね。人身事故があったらしくて、上下線がしばらく不通になっているみたいだよ」

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「人身事故?」

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「うん、詳しくは分からないが、40代くらいの男が線路に飛び込んだらしくて」

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「え?飛び込み自殺ですか」

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「みたいだね。

まあどこかのアホが失恋でもして衝動的に飛び込んだんだろう。本当に死ぬ時くらいは、人に迷惑をかけないようにして欲しいもんだよ」

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そう言って、マスターは困ったように白髪混じりの頭をポリポリ掻くと、チラリと俺の方を見た。

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むぅ 様
コメント、怖いポチ ありがとうございます
お褒めの言葉をいただき、恐縮です

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