『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)後日談『眷属水霊(みづち)誕生』

中編6
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『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)後日談『眷属水霊(みづち)誕生』

1:蘭(あららぎ)ユウジの今の悩みは2つある。

一つは水霊(みづち)だ。

衣通(そとおり)カナコに憑いた水霊をユウジが2つに分けて、お互いのガムランボールに宿った。

その水霊が安定するのに、数ヶ月を要した。

しかし、安定すると、水霊はしきりにユウジに契約を持ち掛けて来た。

水霊は龍の姿をしている。ユウジの持つガムランボールから出て、ユウジの身体に巻き付き、彼にしか聞こえない声で契約を持ち掛けてくる。

正直、鬱陶しい。

ユウジにとっては某アニメの台詞

『僕と契約して○○になってよ』

と思っている。

ユウジが契約に対して、後ろ向きな事には、理由がある。

それは、カナコと分けた水霊をどうするか。話し合っていた。

ユウジは切り分けた水霊には、怨念が少し残っている事は感じ取っていた。

切り分けた傷もある。

ユウジは当初、水の綺麗な川に水霊を放す事を考えていたが、カナコに却下された。

理由は、自然に放す。つまりは、水霊を自由にすると、再び一つになり、散った怨念を呼び起こしかねない。

そう。それこそ、ユウジの切り分けた行動が無意味になり、救われたカナコは水霊の呪いを受ける。

それこそ、想い合う2人が別れた意味も無くなる。

そして、水霊自身が、長い年月受け入れ続けた怨念から解放したユウジに感謝している。

カナコが言うには、切り分けた水霊のレベルなら、人間が眷属として使える。

これを放すなんてもったいないと。

人間は『気』持つ。人によってはそれを霊力と呼ぶ者もいる。

それは、人が生きるのに必要なもので活力に繋がる精神エネルギーだ。

眷属として契約すると、『気』を吸われる。

しかし、契約者の指示で動いてくれる。

水霊なら、大抵の霊を倒す事は容易い。

強力な護衛になるだろう。

現時点で、不動明王に守られているユウジの護りは硬い。

しかし、攻撃する方法は少なく、水霊を眷属にすれば、可能になる。

魅力的な部分は多いが、半分に分けたとはいえ、元は神。

その吸われる『気』多い。

カナコは才能を持ち、修行しているので、それをある程度制御出来るが、ユウジにはそれが無い。

『気』を吸われれば、身体の怠さなどが出る為、生活に支障が出る可能性もある。

吸われる『気』をある程度制御すれば、そんな事も無いが、それがユウジに出来るかどうかである。

2:来店を告げるチャイムが店内に鳴り響く。

ドアに視線を向けると、ユウジは来店客に身構える。

「ユージさーん、こんばんはー」

そう言いながらユウジに抱きついてくる女性。小坂(こさか)ミズキである。

ユウジと同じアイドルグループが好きな、常連客の小坂ナオキの妹で、年齢はユウジの一回り下の22歳。

「また酔ってるな。離れろ、暑い」

ミズキは目を閉じて唇を尖らせ、ユウジの顔に近づける。

「酒臭い。近づくな」

すると再び、チャイムが鳴る。

ミズキがユウジから離れる。

来店したのは、ナオキだった。

「なんだー、お兄さんじゃん、ならまだくっつくー」

「ほら、小坂さん迎えに来てくれたんだから、離れろ」

「蘭さん、何時もすみません。ほら、ミズキ帰るよ」

ナオキが言っても離れないミズキ。

仕方なく、ユウジが頭を撫でてなだめる。

ミズキはようやく、ユウジから離れ、手を振り店から出ようとする。

「またおいで」

笑顔で兄妹を見送った。

酔いが覚めれば普通に謝罪してくる。

からかわれているとしか、ユウジは思っていない。

ユウジのもう一つの悩みこそ、ミズキの事である。

3:ナオキとユウジが話す様になったきっかけは、ユウジが働く店のキャンペーンで、アイドルグループのグッズを配っていた時に話す様になった。

そして、ある日。女性連れで来た為、軽い挨拶で済ませようとしたら、妹と紹介された。

すると、次からは、ミズキが1人で来店し、少し話す様になった。

ナオキとの待ち合わせに店に来ていて、兄が迎えに来る。

そんな日が続いた。

そして、いつしか、泥酔状態で来店し、ユウジに絡む様になった。

いくらユウジが言ってもやめず、レジに居ると、レジまで入って来るので、諦めたユウジはレジから出て応じる様になった。

この話を聞いたタルパは

『俺なら食う』

という彼らしい事を言った。

ユウジがそれをしない理由。

年齢だ。

一回りも歳下だと、抵抗を感じる。

ユウジはとアイドル好きなところから歳下が好みなのは、言うまでも無い。

しかし、若者の未来を奪う事に強く抵抗を感じている。

ミズキが本気で自分に想いを寄せているのであれば、その時に考える。

それがユウジの出した結論である。

文句を言いながら、無理矢理引き離そうとしないのは、悪い気していない現れだろう。

4:数日経った時。

暫く、ミズキの姿を見なかった。

ナオキが、暗い顔で来店した。

理由を聞くと

「蘭さん。ミズキが交通事故で…死にました」

葬式には、ユウジも参加した。

ナオキ達には、母親しか居ない。

幼い頃病気で父親を亡くしているのだ。

祖父母がそれなりの資産を持っていた為、生活に困る事は無かったが、ミズキはその影響で、歳上に惹かれる様になった。

ユウジに絡んで居たのは、父親に甘える事が出来なかった反動では無いかと聞かされた。

ナオキが一通り説明した為、母親から感謝された。

ユウジはミズキの自分への態度の理由が分かったのであった。

5:49日を過ぎて、成仏出来ないでいるミズキの霊の存在に最初に気付いたのは、水霊だった。

怨霊になりかけている。

もっと、ユウジに甘えたい。

ユウジと一緒に居たい。

その気持ちが強過ぎて成仏する道を拒んでいる。

水霊は良く知っている。

かつて、人柱として川に沈められる少女。

この世を怨みながら逝く魂の怨念だけ引き取り、天上へと送ってきた。

長い年月見て来た光景だった。

水霊はミズキの霊に話しかけた。

『人の子よ。あの男に近づけないか?』

水霊は、怨霊になりかけているミズキに説明した。

このままでは、怨霊となり、ユウジを苦しめる事になると。

下手をすれば、不動明王の炎で焼かれる。

その苦しみは辛いと。

水霊は提案した。

それは、自分の中に入る事だ。

意識は残らないだろう。

しかし、ユウジのそばには居れる。

このまま怨霊になれば、いずれ祓われる。

もちろん、ユウジが怒って契約しない可能性もある事も水霊は言った。

ミズキは選択した。水霊と同化する事を。

6:ユウジの帰宅後、水霊は起きた事をユウジに話した。

彼は怒るかも知れない。

余計な事をした。

しかし、水霊は怨霊となりかけたミズキを見過ごせなかった。

水霊は自らを犠牲にして人を救って来たのだ。

暫くの沈黙。

「水霊、一つ聞きたい。名前を字違いで同音にしたら、ミズキちゃんの魂に悪い影響ある?」

『いや、問題無い。字が違えば、それは別だよ』

「よし、水霊。俺と契約だ。お前に『美月(みづき)』の名前を付ける。これからは俺の眷属だ」

水霊の宿るガムランボールのモチーフが月の為、月という字を入れたかったのだ。

水霊、もとい、美月の姿がミズキの姿に変わる。

『ユウジさん、これからはずっと一緒ですよ』

ユウジが見たミズキの最期の姿だった。

7:数日後、ユウジは、とある地方の川に来て居た。

美月を水の綺麗な川で一度は遊ばせたい。

そう思ったからだ。

美月も喜んでる。

帰り道。

髪を短く切りそろえ、サングラスをかけた女性とすれ違った。

膝丈のスカートから覗かせる脚線。

その美しさに目が行くのが、ユウジが男だからだろう。

女性が振り返る。

「やっぱり。彼、面白いモノ憑けてる」

ユウジがこの女性、氷乃(ひの)ユリナと出会うのはまだ先の事だ。

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