『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)第3話『衣通(そとおり)カナコ』

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『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)第3話『衣通(そとおり)カナコ』

1:近代に入り、衣通(そとおり)カナコが、この世に生を受けた。

衣通家では、久しぶりの女子である。

その為、掟も廃れて来ていた。

更に、近年、衣通家で代々、受け継がれて来た池も、湧き水は枯れていた。

カナコの父も、掟を不安に思う一方で、それを軽くみていた。

神職に携わる者として、それは、最大の間違いであろう。時代の流れとは、残酷である。

しかし、これは、偶然か、神の気まぐれか。

カナコには生まれつき、それらを感じる才能があった。

成長と共に、自分は水霊(みづち)に取り憑かれ、呪いを受けている事、その事実は感じ取っていた。

まず、カナコは父親に神社で行う祭り事の仕方を学んだ。

そして、宮司を務める父親の人脈を使い、陰陽術の修行も始めた。それは、カナコが10歳の時である。

カナコが20歳になる頃には、自身の霊感も相まって、宮司の手伝いも出来る様になっていた。

しかし、どの手段を用いても、この水霊だけは、祓う事も、呪いを解く事も無理だった。しかし、呪いを抑える事は可能だった。

最初は事を軽く考えていた父親も、カナコを修行に出した陰陽師でもある宮司からも言われた為、事を重く捉えた。カナコには、神社の事は兄に任せ、自由に生きる様に言った。

水霊を体に宿すカナコは、長くは生きられない。

カナコには、一人暮らしをする部屋を与え、ある程度の生活費を与えられた。

娘を一人暮らしさせる不安は父親にもあったが、神社の敷地内の家に居れば、娘も安心出来ないだろうとの親心である。

定期的に連絡をする事。

何かあった時の為に、神社の連絡先を書いた紙を持つ事は言われた。

2:修行中は泊まり込みなどは基本的には無く、カナコは普通に学校に通っていた。

その為、友人が全く居ないわけでも無い。

高校時代には恋人も居た。

高校卒業後、大学進学もしていた為、父親が探した部屋は大学から近かった。

「大学卒業まで生きられるかなぁ」

これが彼女の心配事だった。

大学生としての生活を楽しみ、友人達と遊び、平穏な生活を送っていた。

ある日、同期の男から告白され、付き合う事となった。

彼氏となった男と酒を飲んで居た時。

唐突に感じた。

水霊の呪いが自身を蝕んで居る事に。

もう長くは無いだろう。

せめて、最期の思い出に。

残される彼に悪いとは思ったが、その男は、カナコの初めての男になった。

目覚めてカナコが感じた事があった。

身体が少し軽くなった。

隣で寝ている彼氏を視た。

彼に少しではあるが、水霊の呪いを受けて居る。

まさか、こんな方法で水霊の呪いを少しでも、移す事が出来るなどとは、思いもしなかった。

父親にも、彼氏にも言えない事だか、自分は生きる事が出来るかもしれない。

カナコは知らない事だが、元々は『その行為』を知らずに死んだ娘の怨念を水霊が取り込んでいる。

つまり、『その行為』にて、相手の男に呪いを分ける事が出来る。

カナコがその事実を知らなかったのは、水霊が禍つ神と化したきっかけを知らなかったからだ。

カナコは、自分が助かる為に、彼を利用して良いか悩んだが、自分の命の為と自分に言い聞かせた。

3:分かった事があった。

『その行為』によって、カナコに憑く水霊の呪いは相手に蓄積する。

自身に取り憑いた水霊から生まれた呪いなので、自分では祓えない。ほぼ一体化しているからだ。

「最近ついてないんだよなー」

「お祓いでも受けたら?」

「俺そうゆうの信じて無いから」

こんな事言われれば、どうする事も出来ない。

そんなある日の事。彼氏から、先輩を視て欲しいと言われ、紹介された。

これが、3歳年上の別天津神(ことあまつかみ)タルパとの出会いであった。

見た目がイケメンだった事よりも、カナコが驚いたのは、驚くくらい、空っぽだった事。

彼氏が言うにはタルパは、身体が重い、怠さを感じるとの事、カナコが神社の娘で、霊感がある。ので、そうゆうの信じてるなら、視て貰えばと言ったと。

意識を集中してタルパを視る。

生霊だ。それも1体じゃない。5体は憑いているのでは無いだろうか?

「生霊だね。5体は憑いてる」

「やっぱかー。カナコちゃん。祓えない?」

「祓えないよ?別天津神さんへの気持ちが消えても、生霊は残るから」

生霊の厄介な所は、祓っても、生霊を飛ばした本人に戻れば良いが、大抵は飛ばされた所に戻る。

しかし、飛ばした本人も、生命力を減らす為、ダメージはある。

今度何か奢るよと礼を言われ、その日は解散した。

その後、程なくして、タルパと再会した。

大学のメンバーで飲み会をした帰り。

男性陣は2次会行く事となり、女性陣は帰る事となったのである。

駅で解散し、歩いていると、声をかけられた。

「あれ?カナコちゃん?」

そこに居たのはタルパであった。

どうやら、タルパは彼女を送った帰りだった。

酒も入っていた。

悪い事だと分かっている。

しかし、カナコは、生霊を持つタルパに呪いを分たらどうなるか。それを試したくなった。

誘惑に勝てず、近くのコンビニで酒、つまみを買い、部屋に招き入れた。

その一夜だけ、タルパと『その行為』をしてしまった。

朝起きて、隣に寝るタルパを視た。

予想通りであった。

タルパに巣食う生霊と水霊の呪いが戦っている。

暫くしたら、どうなるか。

結果を見たくなってきた。

しかし、自分にも恋人が居る。

何か方法は無いか考えて居たら、タルパが起床した。

タルパは連絡先の交換を持ち掛けてきたが、それを断った。

「昨夜の事は2人だけの秘密ね」

とお約束の様な台詞を言ってタルパを送り出した。

4:月日は流れ、卒業が近づいていたある日の事。

カナコは突然の訃報を受ける事になる。

彼氏が亡くなった。

遺体は川に浮かんでいた。

友達と飲んだ帰りに誤って川に転落。

事故では無いかと警察は話した。

カナコは泣き崩れた。

自分のせいだ。

きっと、約1年、水霊の呪いを受けたからだ。

彼の両親はカナコの事を知っていた。

葬儀中にも泣きながら、『ありがとうね』と言われた。

辛かった。自分には、その言葉をかけてもらえる資格など無い。それを言えない自分を責めた。

自分は生きていて良いのだろうか。

そんか考えが頭によぎるが、これは自分が生き残る為と自分に言い聞かせた。

そんな葬儀から、一月程経った時。

知らない番号からの着信を受けた。

誰かと思いながら、電話に出た。

なんと、その相手はタルパだった。

タルパはどうやら、彼の両親と面識があり、彼の携帯から、カナコの連絡先を入手していた。

何故そんな事をしたか聞くと

『あいつの葬儀の時のカナコちゃん、何か違うって感じた。何かなぁ、自分を責めてる様な。気になったから』

驚いた。まるで自分の心を見透かされてるみたいだ。

直ぐに、待ち合わせをして、以前の様にコンビニで、酒やつまみを買い、部屋に招き入れた。

そう言えば、彼は霊視の依頼をカナコにしている。

彼なら分かってくれるかも、と全てを話した。

話を聞いたタルパが怒る可能性もあった。

何せ自分も巻き込まれているのだ。彼氏の様に命を落とす可能性だってある。

しかし、タルパが言ったのは

「なるほど、今まで大変だったね。なら、僕が救ってあげるよ」

意外な言葉だった。

命を落とす可能性だってある。現にタルパの後輩は命を落とした。

「死んでも良いの?」

「死なないよ。僕は不死身の吸血鬼(ヴァンパイア)だから。何なら死にたい位さ」

子供の様に笑ってタルパは言った。

それを聞いたカナコは、人間が吸血鬼なわけが無いと思いながら、その無邪気な笑顔に惹かれた。

5:カナコの霊感が原因で、怪現象が日常茶飯に起こる部屋でタルパと暮らし始めると、呪いと生霊の喧嘩の結果が判明した。

結果的に、タルパに呪いは効かない。

生霊が、水霊の呪いを取り込んでしまうのだ。

しかし、呪いは消えない。生霊は呪いを取り込んで、少しずつ強くなって来る。しかし、呪いで相手は死ぬ事は無い。生霊はタルパを殺すつもりは無い。ただ、タルパを求めるだけなのだ。

呪いの効かない者が現れた事は、カナコにとってはまさに救済者であった。

自身の呪いも軽くなり、死の危険は無くなった様に思えた為、自身も就職した。

最初にカナコがタルパの異常性に気付いたのは、1ヶ月程経った時である。カナコが帰宅すると、タルパが刃物で自ら傷付け、自分の血を飲んでいる。

「何やってるの!」

そう言うとタルパから刃物を取り上げた。

「会社で何かあったの?」

タルパは、カナコに抱き付き子供の様に甘えた。

その姿を見たカナコは、更にタルパを愛おしく思った。

それはまるで麻薬の様に、カナコを蝕んでいった。

自傷行為を繰り返し、自分の血で遊んでいる。

手当てをしながらカナコは言う。

「タルパが死んだら、私も水霊の呪いで死んじゃうんだよ?」

カナコがタルパの態度に異変を感じたのは、3ヶ月程経った時だ。帰りが遅れる。帰宅しない。

タルパを問い正すと、残業になった。友達と飲んで朝帰りになった。と言うばかり。

最初は信じていたが、どうもおかしい。自分とは、別の香水の香りがする時がある。

カナコは式神を使い、タルパを監視し始める。

タルパは、当時高校生の鍋島(なべしま)リクと浮気していた。

カナコが問い詰めると、友達だと誤魔化したが、カナコは式神を通して、何処で何をしてたかを言い当てた。

流石に、タルパも少し恐怖を感じ始めた。

しかし、カナコはタルパが居なければ、生きていけない。

タルパもカナコに取り憑く水霊の呪いが、自身に巣食う生霊を強化する。お互いに依存し合う型なのだ。

それでも、リクとの浮気をやめないタルパ。

それは、カナコに対してリクの持つ憎悪の感情が、この上無く心地よいのだ。

ある日、カナコはタルパに、ラピスラズリのブレスレットをプレゼントした。

タルパが欲しいと言ったからだ。

リクに見せると、リクの憎悪の感情が増す。

リクも、タルパにラピスラズリのブレスレットを贈った。

しかし、カナコが贈ったブレスレットの全てがラピスラズリだったが、リクが贈った物はラピスラズリの玉が一つで後は木製。高校生の限界だろう。

流石のタルパも恐怖する事件が起きた。

それは、カナコから贈られたブレスレットのラピスラズリが変化していた。

ラピスラズリという石は確かに変化する不思議な石ではあるが、一つ、また一つと、開眼を始めた。

流石のタルパも恐怖した。

タルパは、ブレスレットをカナコに返し、カナコと別れて浮気相手の鍋島リクを追い、東京へ行く事にした。

そして、カナコは、タルパを恨む余り、禁忌を犯す。

水霊の呪いを媒体にして、式神を制作。

それをタルパに飛ばした。

それこそ、ユウジ達が呪いと呼ぶモノで、定期的にタルパに飛ばす事により、呪いを軽くする為、呪いを分ける事と同じ結果となった。

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