短編2
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おかしな街並み

バイト先の飲み会で聞いた話です。

ただ誰から聞いた話だったのかは酔っていたせいかよく想い出せません。

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15年位前の俺はサイクリングが趣味でよく知らない街を訪れる事が多かった。

その日は連休を丸ごと利用してある大都市を横断する計画で、その街は山をブチ抜いた8つの長いトンネルを抜けた先に存在していた。

トンネルを抜けて眼下に飛び込んで来たのは雲一つ無い気持ちの良い快晴に照らされた街並みだった。

街に到着してすぐグルメ雑誌で調べた穴場のラーメン屋で腹拵えをした後に俺は早速横断計画のスタート地点である駅へと向かおうとした。

その時、何か強烈な違和感に襲われたのだ。

最初に違和感を感じたのは俺の横を通り過ぎていく義足のお爺さん。

次に電柱。その次に公園の遊具を見て確信した。

その瞬間俺は情けない悲鳴を上げていた。

その街に存在する全てに本来ある筈のもの・・・・

何とその街には影が存在して無かったのだ。

自転車を街中に走らせて確かめた。

錯覚でも幻覚でも無かった。

その街のどこにも影が無かった。

数回ガラケーで影の無い街並みの撮影を試みた。

しかし真っ赤に燃える様な画面しか写っていなかった。

超常現象は信じてなかったが怖い話は昔から大の苦手だった。

俺は恐怖と不安からどんどん気分が悪くなっていきついさっき食べたラーメンを全て道路にブチ撒けた。

心底恐ろしくなって気付くと一目散にトンネルまで逆戻りしていた。

時刻はまだ正午位だった筈だが空はもう黄昏色だった事で恐怖は絶望に変わっていた。

水筒のスポーツドリンクを飲み干すと色々と準備してきた積み荷を全てトンネルの側溝に投げ捨て身軽になって爆走しながら絶叫していた。

行きは30分位で走り抜けた筈のトンネルが果てしなく長く感じられた。

俺はトンネルを3つ抜けた所で力尽き道路の真ん中で喘いでいた。

そこで奇跡が起こった。

車でビジネスホテルに向かう途中だと言うカップルに遭遇したのだ。

彼等が言うにはこのトンネルの名前は伊佐貫トンネルと言うらしい。

どっと疲れが出てそのままカップルの車中で眠ってしまった。

次に気が付くと俺は家の前で倒れていた。

きっと彼等が家まで送ってくれたのだろう。

その後に自分が訪れた筈の影の無い街やトンネルの話をしても誰も信じなかった。

試しに街の名前をネット上で検索してもヒットしない。

トンネルの名前はヒットしたが実在しないものの様だった。

本棚のグルメ雑誌も確認してみた。

穴場ラーメン屋特集号にはあの影の無い街の店が特集されている筈なのだ。

栞の挟んであるそのページを開く。

そのページだけが全体的に古い新聞の様に真っ赤に変色していて文字の判読は不可能だった。

ただラーメンを食べた時に見た温厚そうな店主の顔が記事では変色のせいか鬼の形相になっていた。

ちなみにその街の名前はきさらぎ市と言う。

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