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『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)最終話『水霊(みづち)』

中編7
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『水霊(みづち)に呪われた女』(存在しない記憶vol.1)最終話『水霊(みづち)』

1:衣通(そとおり)カナコは突然の連絡に驚いた。

それは、別天津神(ことあまつかみ)タルパからの申し出。

『もう、協力は出来ない。蘭(あららぎ)さんを、これ以上苦しめたく無い』

タルパが何故そう言い出したかは、カナコは知らない。

それは、蘭(あららぎ)ユウジが見た夢こそ、カナコに憑く水霊(みづち)の呪いであると知ったからである。

その呪いの強さを知った。

何故、ユウジがその夢を見たか、疑問は残るが、おそらく彼の能力が本物だからだろう。

カナコはその申し出を了承した。

その代わりに、東京へ研修も兼ねた出張に行くので、事情を話さず彼を紹介する事を条件とした。

カナコがこれから住むウィークリーマンションは、ユウジが住む家からは、3駅しか離れていないのだ。

割と近い位置だった為、都合が良かった。

2:数日後、タルパとカナコがユウジの務めるコンビニエンスストアに来店した。

自然の流れで、カナコを紹介するタルパ。

カナコが直接会い、ユウジをマーキングする事で式神を送る事は距離が近ければ、可能になった。

カナコは次第に、気付いて来た。

ユウジが不動明王真言を使える理由は、彼では無く、信心深かった父親の影響で、不動明王に守られている。

しかも、ユウジ自身も父親に連れられて、その寺院を参拝している。

その為、身を守る為に使用出来ると予想した。

残る謎は、ガムランボールだ。

神の力がユウジに協力している。

自分が送った式神が迫り来る事を彼に報せている。

国籍が違えば、神の力は違うと思われがちだが、神の力とは、すなわち自然の力だ。

自然の本質は差があれど、国籍で変わらない。

しかし、ユウジに、水霊は祓えない。

カナコの目論見は崩れた。

しかし、呪いを媒体とした式神であれば祓える為、カナコはユウジを誘惑する作戦を立てた。

ユウジを自分の虜にしてしまい、呪いを移す。

3:カナコはまず、ユウジの出勤日を狙って店を訪れて、より、仲良くなる事を目指した。

ユウジは何より、本物の能力を持つカナコに対しての興味が強い。

それが美人で、28歳と若いなら尚の事である。

カナコがユウジの連絡先を手にするのは、そう時間は掛からなかった。

カナコは今までの経験から、どうすれば男が靡くか分かっていた。

会社の人間に呪いを移した事も何度かある。

呪いのコントロールも出来る様になっていた。

しつこく言い寄って来た同僚に強く呪いを乗せ、数日体調を崩していたのを見ていた。

カナコは何処かで、男性を見下していた。

男なんて、単純だ。

少し誘惑するだけで、簡単に乗って来る。

自分が呪われるとも知らずに。

しかし、ユウジは違った。

モーションを掛けても、動じない。

ある日の会話。

「ねぇ?そろそろ、私を名前で呼んで良いよ」

「いや、そこは、名前で呼ばないで、だろ?」

カナコはユウジが何を言ってるか分からない。

カナコが困惑した表情を見せると、なんでも無いと、返すユウジ。

大抵その場合はアイドル系の話題だろう。

「また、アイドルソング?」

「くっ、何故バレた?」

「蘭さんが私に分からないネタの時は大抵アイドルネタだもん」

ユウジはそんなカナコに笑顔で答える。

カナコは、アイドルが好きな男性は、普段容姿の良いアイドルを見ているせいで、女性を見る目が養われ過ぎて、一般女性に靡き難いと言われてる事を感じた。

しかし、ユウジはカナコに対しての気遣いは感じる。

カナコは混乱した。

ユウジは所々で、カナコに対して異性を感じてる様に見える。

現に、カナコがボディタッチした際には、身体が反応している。

ユウジはカナコに対して誠実に接している。

カナコが次第に、自分に靡かなく、ユウジの持つ誠実さに惹かれている事にカナコはまだ気付いていない。

4:カナコの研修も終わりの日が近づいている。

東京に居れるのもあと僅か。

カナコは覚悟を決めた。

最終日にユウジを宅飲みに誘う。

これで駄目なら諦める。

カナコはユウジを呪う事に、抵抗を感じ始めて来た。

ユウジはその誘いに応じた。

その当日。

カナコは手料理を振る舞う事にした。

部屋のチャイムが鳴り、来客を告げる。

ユウジだ。

カナコは部屋に招き入れた。

カナコの部屋にはテーブルと椅子があり、2人は早速飲み始め、自分の料理をユウジに食べさせた。

ユウジは美味しいと言った。

「誰かの手料理なんて何年振りだろう」

なんて言われて、悪い気しないカナコ。

やはりだ。

自分は目の前にいる男を、呪いたくは無い。

そう思い始めた時。

カナコの意識は朦朧とし始めた。

5:ユウジの目の前に居るカナコが突然、椅子から立ち上がった。

「どうしたの?」

カナコは何も答えず、妖艶な笑みを浮かべ、ユウジにもたれ掛かった。

ユウジは、バランスを崩して、倒れる。

倒れたユウジに馬乗りになり、カナコは言う。

「早く、私と一つになりましょう」

ユウジはカナコの目を見た。

明らかに正気では無い。

しかもカナコの力だ。

細腕であるカナコの筋力とは思えない。

カナコを振り解く事が出来ないのだ。

そんな時。

シャリーン。

カナコの胸元で銀色に光る物が音を立てた。

ガムランボールだ。

そう。カナコはユウジを誘惑する際に、ユウジが購入したガムランボールを自分も購入して、お揃いと言ったのだ。

ガムランボールの音色には、もう一つ。邪気を払う効果があると言われている。

その力が働いた為か、カナコの力が弱まる。

ユウジは素早く、カナコを振り解くと、自身のガムランボールを取り出し、鳴らし続けた。

次第にカナコの表情が元のカナコに戻る。

「カナコさん、少しで良い。その水霊の動き止めれない?」

正気を取り戻したカナコが、右手の人差し指と中指を立てる。

これを陰陽術において、『刀印』と呼ばれる。

そして、カナコが呪文を唱える。

「上等」

ユウジが同じく、右手で刀印を結び、更に左手で同じ物を作り、右手の刀印を被せる。

両手を左腰に当てて、左手を鞘に見立て、刀を抜く様に右手を出す。

そのまま、カナコを刀印で切る。

切り終えた後。右手を左手に戻し、両手を広げた。

「カナコさん、左手を出して、俺の右手を握って」

カナコが言われた通りにする。

「今、カナコさんに憑いた水霊を半分に切った。切った半分は俺が預かる。もう大丈夫。君を苦しめてた水霊はもう居なくなるから」

ユウジの右手の温もりを感じる。

それと同時に、今まで、呪いを移した時と比べ物にならない位カナコは身体が軽くなるのを感じた。

それもそのはず。

二つに分かれた水霊は、自らの持つ怨念を散らしながら、それぞれの持つガムランボールへと移動したのである。

6:2人は再びテーブルに着いた。

まず、カナコは照れ隠しの為、第一声に選んだ言葉は

「初めて名前で呼んでくれたね」

ユウジはまさか、そんな台詞をカナコの笑顔で言われるとは、思わず、胸に熱いものを感じた。

しかし、その後、怒涛の様な問い詰めが始まった。

ユウジは諦め、酒を飲みながら、話し始めた。

まず、カナコは陰陽術の刀印の使い方をユウジが知って居た事。

一体どんな術を使い水霊を切ったのか。

「そうだね。まず、カナコさんの事情は全部別天津神さんから聞いてたんだよ」

そう。タルパは、またもカナコを裏切っていた。

ユウジが言うには、紹介される前に既に全部聞いていたと。

タルパは、

『カナコの呪いを受けるかどうかの判断は、ブラザーに任せる』

そう、ユウジがカナコの誘惑に乗らなかった理由は、命の危険がある事を知っていたからである。

更にユウジは、アイドルネタでふざけないと、カナコの魅力に負けそうだったと話した。

その台詞には少し、カナコは嬉しく思った。

そして、本日。ユウジはカナコの呪いを受ける覚悟で、誘いに応じた。

しかし、カナコとの約束の前、夜勤の後寝ると、夢にカナコの実家が祀る神が現れて、刀を授けてくれた。

『この刀で、衣通の娘。それから、かつては哀れな娘の魂を救っていた水霊を救って欲しい』

そう。ユウジが神の力に反応した理由は、カナコを通して、ユウジの才能を神が見出し、カナコと水霊を救う為に力を貸したのである。

衣通家では、運悪く、その才能を水霊に憑かれたカナコが持ってしまった。

神の術は自身を切る事は出来ない。

神は自分の刀を授ける、才能を持つ者をカナコを通してさがしたが、他の神社に付いている者には渡せない。

相性が悪い事が理由である。

そこで見つけたのは、ユウジだ。

ユウジは才能を持ちながら、神にも仏にも付いて居ない。

更に神に纏わる物、ガムランボールを持っている。

神はユウジに夢と言う形で事情を知らせ、刀を授けた。

夢で刀を授かったユウジは刀印の使い方が頭に浮かんだと言った。

「でもさー、ブサメンの俺が、カナコさんみたいな美人に言い寄られるなんてもう無いだろうなー。悲しいけどこれ、現実なのよねー」

「今からでも、私は良いけど?」

「いや、せっかく切り分けた水霊がまた繋がるでしょ。この刀、1回しか使えないし」

ユウジは笑いながら、夢を見せて貰ったからそれで満足しとくと言った。

そう。ユウジとカナコが交われば、再び、水霊は元に戻り、カナコに憑き散った呪いを戻し。カナコの命を脅かす。

お互い別れるしか無いのだ。

「ねぇ。ガムランボール、交換しない?」

ユウジはそれに応じた。

手渡そうとするユウジに、彼の手で付ける様に要求するカナコ。

そして、カナコがユウジに首に自分のガムランボールを掛ける時。

ユウジに抱き付いた。

これが最期だ。ユウジは抵抗する事も無く、同じく、カナコの身体を抱きしめた。

7:シャリーン。

今まで生霊に喰わせていた分水霊の呪いと、散った怨念が集まっている。

『あっは、これで水蛭子(ヒルコ)造れるかな』

これで二人の負担も少しは減るだろう

ユウジとカナコが持つ、月をモチーフにした、ガムランボールでは無く銀河系のガムランボールがタルパの手の中あった。

『さて、次はこいつ使ってどんなイタズラしようかなぁ・・・』

『水霊(みづち)に呪われた女』完

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