大学を中退し、アルバイトでどうにか食いつないでいたが、毎夜の酒盛りが祟って金が底をついた。
こうなったら恥も外聞もない。飢えて死ぬくらいなら、犯罪に手を染めたほうが幾らかマシだと思い、俺は携帯を手にした。
適当に番号を押す。
やった、繋がった!これであとは巧く騙せれば話は早いんだが…。
「もしもし」
相手が出た。声から察するに中年のおばさんてとこか。しめたと思い、「お母さん?俺だよ俺」って喋った。
勿論、電話の相手は本当の母親じゃない。俗に言う「オレオレ詐欺」というやつだ。
俺は相手の返答を待ったが、黙りこくったまま一向に喋らない。こりゃあバレたかと思って電話を切ろうとすると、相手がようやく喋った。泣くのを必死に押し殺してるような声だった。
「…息子は去年亡くなりました。あなたの声、死んだ息子にそっくりなんです。どうかもう1度だけ、お母さんと呼んで貰えないでしょうか」
俺は数秒黙ったあと、「お母さん」とだけ呟いて電話を切った。
作者まめのすけ。