数年前のことです。
その頃、よく友人達から「昨日、○○町にいたね」と言われることがありました。
しかし私は、これまでに1度も○○町に行ったことがないのです。でもあまりにも友人達が口を揃えて言うので、初めて○○町へと行ってみることにしました。
買い物をしたり本屋に行ったりと、あちこち見て回りましたが、もう「もう1人の私」とやらは見つけることが出来ませんでした。
日も暮れかけていたし、疲れてもいたので、とりあえず今日のところは帰ろうと駅に向かって歩いていた時のことでした。
ふと歩道橋を見上げると、見覚えのある女性が私を見下ろしていました。誰だろう…と目を凝らすまでもありませんでした。
そこにいたのは…「私」でした。
服装から髪型まで、寸分の狂いもない。確かに私だったのです。
彼女は私をジッと見つめ、「おいで」と言うようにゆっくりと手招きをしました。
…それから私は、○○町には行っていません。
作者まめのすけ。