その日は雨が降っていた。
ツイてねぇなぁと思いつつ、傘を差して家路を急ぐ。早く帰ってレポートを仕上げなくちゃならんかったし。
ふと視線を上げる。いつの間にか歩道は混雑気味だった。人、人、人…人波に呑まれそうになりながらも、何とかそれらをよけて進む。
「あれ…?」
そういえばおかしなことがある。
道を歩いている連中は、誰1人として傘を差していないないのだ。
雨ったって、小雨っていうレベルじゃない。結構ザンザン降りだってのに、誰も傘を差さないで黙々と歩いているのだ。
何か変だな…。そう思ってると、「おい、あんた!そこにいる黒い傘差してるあんただよ、あんた!
」
黒い傘というと…俺か?
声がしたほうを見ると、タクシーの運転手が窓から顔を出していた。
「ちょっと来て。乗せてってやるからさ」
「いや、別に。歩いて帰れる距離ですし」
「いいからいいから。乗りなさい」
「いやでも…」
「早く!」
俺は渋々タクシーに乗り込んだ。別にタクシーなんぞに乗らなくてもいいのだが、オッサンがうるせーんだもん。
「何なんすか、一体」
多少キレながら尋ねると、オッサンは安堵した表情を見せた。
「いやね…。あんたが誰もいない歩道を、まるで誰かをよけてるみたいに歩いてたからさ。これは助けなきゃと思ったんだよ」
作者まめのすけ。