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※実体験なのでオチが弱かったりなかったり、一部身バレ防止の為に話を盛っていますが宜しかったら聞いて下さい。
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私が某所で路上占い師をしていた頃の話です。
当時、私は路上占い師になって2年目のまだまだ実務経験の浅い駆け出しの頃でした。
路上で占い師をすると言うのは結構大変な事なんですよ。現実的にも、霊的な意味でも。
他の同業者は分かりませんが、簡易的な結界を張るよう師匠に教わりまして、私と同じ師を仰いだ仲間たちも、ハコの中(ショッピングモールや大型店での出店をハコと呼びます)でも、路上でも四隅に何かしらの結界をひいて仕事を始めます。
要は、仕事前の験担ぎみたいなものです。酔っ払いに変な事をされませんように。良いお客さんが来ますように。そんな意味の験担ぎでした。
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路上で占いを初めて二年も経てば、毎週末の路上観察にも嫌でも慣れます。
「今夜のゴールデンタイムは早く終わるなぁ」
(ゴールデンタイム=終電2時間前のかき入れ時)
「そうだねぇ。秋口に入って、寒くなって来たし。給料前だし」
東北の秋って、昼間は暑いけれど夜は滅法冷えるって事がしばしばあるんです。そんな日は、皆早く帰りたがるので占い師を見つけてキャーキャー言うОLや学生も「また今度来たいんで、来週も居る?」とだけ質問して帰る事が多いんですよ。
「今夜は早くシケが来るなぁ」と、絵描きの女の子や詩人と話をして、何時上がりにする?とかの相談をしていた時です。
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アーケード内の道路を右手からペタン……シ、ペタン……シ、と。裸足で歩いてくる白いワンピースの女が。
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「変わった人もいるもんだなぁ」と呟いて、私はその人を見ていました。
世の中には変わった人ってのが少くなからず居るもんです。
深夜のアーケード街を着物の裾を引きずり、裸足に赤い鼻緒の草履を履いて髪も緩く後ろでひっつめたノーメークの眼鏡っ娘が純文学文庫を片手に読みながら歩いていくと言うのも見た事があります。お前は夜鷹のコスプレがしたいのか、それとも大正キネマの真似がやりたいのか?と言うオタクっぽい女の子とか。アーケード内で真剣に鬼ごっこをする大人たちとか。
色んな人や趣味趣向を表沙汰にしたいと思う面白い輩が居るものです。
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けれど、彼女はそんな可愛い人達じゃありませんでした。
髪は長いのだけれど櫛で梳いていないのか少々パサついていて、これでもかと言う程に猫背。手をだらーんをさせてペタン、シ。ペタン、シと裸足で雑踏の中を歩いている。
路上の夜は薄暗くて、街灯も消える23時過ぎ。
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女の顏なんて薄暗くて見えもしないのに、何故か目の下に真っ黒なクマがあり、ぎょろりとした目玉が瞬きもしないで進行方向を噛みつくように見据えているのが分かる。
その目玉の黒い事と言ったら、瞳孔が開きっぱなしで憎悪に満ちているんです。
この世のありとあらゆる不幸をいっぺんに受けたかの様に絶望と憎しみを辺りに撒き散らして、彼女はゆっっっくりと歩くんです。裸足で。
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こんな秋口の冷える路上で、冷たい道路を裸足で歩く人は稀です。しかもノースリーブのワンピースは二枚重ねだけれど、薄い生地と中のシルクっぽい生地だけでは、絶対に寒い。なのに、彼女は鳥肌も立っていない。
尋常じゃない雰囲気を醸し出していました。
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「これは、ヤバイな……」と私は思った。
自殺でもしに行くか、誰かを殺しにでも行くんじゃないかと思いましたよ。
占いをやっていると「これから死のうと思うんだ……」と言って、今までの人生を語って帰ろうと言う人もしばしば居るので、私はどうにかして彼女に声を掛けなくてはと思いました。
が、いざ声を掛けようと思っても一介の占い師がテレビドラマみたいに「死相が出ておるぞよ!」なんて言ってもキチガイ扱いしかされない。
助け舟か手を借りたい一心で「ねぇ、あの人。ちょっとマズイんじゃないか?」と軒を連ねている詩人の男の子と絵描きの女の子に話しました。
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「え、何処?」
「ん? 誰が?」
「ほら、あそこの白ワンピの女の人」
「えー……何処?」
「白いワンピ?」
終電前だからか、駅前へ急ぐ雑踏の中から白いワンピースの女の人を探してと言っても、見つけられなかったのでしょう。彼らは雑踏を見て「何処何処」と言うだけでした。あんなに目立つのに。秋の流行って、ダークトーンの洋服が多い為、彼女はとても浮いているのにも関わらず。
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その時に、ゾッとしたんです。何故か。
悪寒が走って「あの人は人なのか?」と言う疑問を初めて自分に問いました。
こんな薄暗い雑踏の中、目立つとはいえ肌の質感や目の下のクマまで見えるのっておかしくないか?
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そう思って、もう一度彼女を見ようと雑踏へ視線を投げかけましたが、彼女は見当たりませんでした。あんなにゆっくりと歩いていたのに。薄闇の中にぼうっと浮き上がる白いワンピース姿は、何処にも見当たらない。
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「やっぱり、人じゃなかったのかな……。あんなにハッキリしているのに」
「ちょっとやめてよ、これから一人で帰るのにー」
「何か見たんですか?」
「ううん、別になんてことないさ。ちょっと変な人だったんだよ。心配になったから声かけようと思ったんだけれど……縁がなかったのかもね……ごめん、怖がらせたい訳じゃないんだ」
「本当?」
「大丈夫、大丈夫。仕事に戻ろう」
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その後は普通に占いでお客を取り、深夜営業のファミレスで体を温めた後に帰宅しました。そう言う人も世の中には居るんだろう。
もしかしたら、恋人と別れて悲しく帰っていた人なのかもしれないじゃん?と矢鱈リアルな想像をして無理に納得させていました。
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――――問題はこの後。
私はまた彼女を発見します。同じ場所で。
その時は昼間でした。同じように白いシースルーのワンピースを着て、猫背で裸足。
友人との買い物途中で、私も雑踏の中に居ました。彼女は私達から少し離れた所をゆっっくりと歩いています。ブツブツと何かを喋りながら。
普通、そんな人がいたら人は避けるものですが、誰も気にしていない。
嗚呼、この女性は『人ではないナニか』なのかもしれないと半ば確信しました。
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一度、話を此処で終えます。
物語みたいな方が、この体験も嘘っぽくなり、虚構として消化できるような気がするので。
作者宵子
占い師である『私』が体験した不思議な事、怖かった事などを徒然と語って行こうと思います。
この『悪霊デパートの白い店長』は、私がまだ駆け出しの占い師だったころのお話です。
※一応、実体験ではありますが、一部身バレ防止の為に話を盛っています。オチが弱かったりなかったりもします。世の中、なんでもきちんと結果やオチがないと言うのは、有難い時もありますよね。
お暇な方、宜しかったら聞いて下さい。
この場にて、素材を使わせて頂いた皆様、有難うございました。