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sound:3
※一応実体験なので、オチが弱かったりなかったり、一部身バレ防止の為に話を盛っていますが宜しかったら聞いて下さい。
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music:4
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一人のか弱そうな女の子がスエット姿で私の前にやって来ました。
小動物みたいに可愛らしい顔をした女の子です。
ピンクのブランケットで肩を包んで、小さな声で何かを話します。
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その子は最近よく見かける女の子でした。
路上商売者と言う者の中で、夢を追う人はまだ人間が出来て居る事が多く、常識的な人も多いです。(まぁ、警察に届けを出さずに商売している以上、非常識ではあるんですが……そこは棚に置かせて下さい)ですが、中には詐欺師や嘘つき、曰くつき。
任侠の下っ端を抜けて逃亡中とか、家出少女や借金逃亡等の曲者も多いのです。
逃亡途中で路銀がそこをついて、口八丁な商売をして小金を取るなんて奴もしばしば居ます。
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彼女はその中で言う、家出少女でした。(少女と言っても二十歳は過ぎていた)
家出して数か月、男性路上商売者の家に泊まり込んで家賃を体で支払うと言う、そんな不安定な女の子。
女商売人の中では毛嫌いされる部類の子です。
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ストリートミュージシャンたちの音楽が流れる中、彼女の小さな声は聞こるものじゃありません。
「ちょっとこっちに」と言って、隣の絵描きの女の子が眉を顰めるのを見ながら苦笑し、音が静かになる路地裏まで女の子を連れて行きます。
開口一番、彼女(以下、レイコちゃんとします)は「私、霊感がとても強いんです」と言いました。
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うん、だからどうしたんだ。
私は戸惑いましたが「お店を出したいの?」と聞き返すと「うん。だから、教えて。何を用意したらいいの?」と。
私は路上商売で最低限必要な物を教えて「それと霊視相談を開くなら私の商売と被ってしまうから、並んでは商売出来ないけれど、大丈夫?」と聞くと、彼女は頷き「詩人のキメラ君の隣でやるから大丈夫」と言ってその夜は去って行きました。
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翌日、教わった物をキメラ君(路上商売でお客さんを見て詩を書くと言う男性)に買ってもらったのか、彼女はお店を開きます。
小さなテーブルと画用紙の看板に敷布と言う簡素なお店でした。
「あの子、心霊相談やるんだって。宵ちゃんのお客さん盗られるよ?」
「それなら、私のサービスが至らなかったと言う事だから、精進するよ。お客様には選ぶ権利があるもの、いいじゃないか。あの子にもいろんな事情があるんだよ、きっと」
それにしても、斜め向かいでやらなくてもなぁとは思ったものの、私はそれを口にできる程、気の強い人間ではありませんでした。
「絶対、嘘っぽい。占い関係が一番ラクって思っただけだよ。真相なんかわかんないんだし!」と、絵描きの女の子は終始ご立腹。
無理もない。レイコちゃんの周りはトンと良い噂を聞かない。
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その夜の深夜。路上を行きかう人も疎らになったら終電過ぎ。
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――――あの白ワンピの女が現れた。
前回、前々回の様にシースルーのワンピースを風に揺らし、11月の初冬で冷たいアーケードを裸足で歩く。こんなに寒いのに、コートなんて着ていない。ゆっっくりと歩いて、右から真っ直ぐに駅前方面へと歩いていく。
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「……まただ……」
「……え?」
「白いワンピースの、秋口に言っていた人」
「えー……どこ?」
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やっぱり見えないんだ……と、ここで漸く完全に女が人じゃない事を認識しました。
殆ど人通りの無い路上で、ゆっくりと歩く白いワンピースの女が何処にいるのか分からないなんて、おかし過ぎる。
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幽霊の類いなんて私は半信半疑だし、居るかもしれないけれど見間違いかも知れない。否定はしないけれど、肯定もしきれないと言う考えの私は、幻覚を振り払うかのように頭を振り、目を擦った。
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――――でも、居る。
進行方向をどっぷりとした黒眼で見据え、酷く疲れた猫背で一歩一歩進んで行く。道路の真ん中を、ペタン……シ、ペタン……シ、足の裏が地面と張り付いて剥がれる音まで聞こえるようだった。前回もそんな音を聞いていたのだから、あの雑踏の中でそんな音が聞こえる筈もないと思えば、最初から女が『人じゃないナニか』だと気づいたのに、私は認めたくなかっただけなんだと悟る。
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所謂、自分が今見ている女が霊なんだって事。
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今までだって、それられしいモノを見た事はあるけれど、自分は霊感があるとかそう言う事なんて考え無いようにしてきた。
それは今現在もそうだ。
最近体験したことだって疲労による幻覚だと現実的に考えたりもするし、非現実的に「そうなのかなぁ……」と考える時もある。
その位、霊感って曖昧なものだって思う。
(よって、こういう心霊話のサイトなどを読んでは、何かしらの情報を得ようしているのかもしれない。単に好きって言うのもあるけれど)
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因みに、霊が居るか居ないかって話に関しては、私は居るかもしれないし、居ないかもしれないとしか言えないし、言いたくない。
単に疲れていたり、精神状態がダウンしている時の幻覚かもしれないし、実際にこの世って人間以外の何かが作用しているんじゃないかとも思う。
証明のしようもないモノだし、いつも真相は闇の中。何を語ろうが、真実にも虚構にもなるんだし……って曖昧ですね、申し訳ありません。(汗)
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こうやって、怖い部分を書く時に余談を入れて話の腰を折っているのも、自分が見た者の事を曖昧に捉える事で安心したいからなのかもしれません。
だってハッキリとした結論、出したくないです、怖いもの。
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話を戻しましょう。
この白いワンピースの女、何を思ったのか感じたのか、レイコちゃんの真ん前でピタっと立ち止まった。
本当に、単に立ち止まって俯き、足は一歩踏み出したままの状態で硬直している。
「何がしたいんだろう……」と思った私は、そのままお客さんも居ないので観察を続けていた。すると、女はレイコちゃんの方をぐりんと首だけ回して眺め始めると、上半身もレイコちゃんの方へ向けた。かなり、無理のある姿勢だと思う。
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私が一度、瞬きをした瞬間に。
女は、レイコちゃんの背後に立っていた。
既に素早い身のこなしって話ではなくなっている。
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嗚呼、人じゃない。人じゃないんだ、この人。
何なんだろう、何がしたいんだろう、レイコちゃんに何が起きているんだろう。
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当の霊感少女レイコちゃんは、何も見えていないらしく、お客さんと何かを話しては涙を誘い、二人で頷き合っている。女はその後ろで突っ立って、動かなくなった。
何も無きゃいいんだけれど……と心底思った。
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その日から、白ワンピの女とレイコちゃんのぴったり生活が始まった。
彼女がやって来ると、白ワンピの女もやって来る。
レイコちゃんが帰ると、女はその後ろを着いていき、何処かへ消えて行く。そんな週末の光景が暫く続いた。
レイコちゃんの霊視は、次第に行列を作り始めた。私の常連客さんも何人かそっちにも通いだしていた。(彼女は定位置で店を出すと言う事をしないので、いつも居場所を聞かれる程に人気があった。)
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その日の夜もレイコちゃんは別の所でキメラ君と他で店を出しているのか、見かける事も無く、女も見なかった。
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けれども、絵描きの女の子伝いに嫌な事を聞いた。
レイコちゃんが段々エスカレートしていると言うものだ。
最初は心霊相談を受けて霊視をし、アレが見えるコレが見えると言う話をしていただけだったのが、ここ最近はお祓いと称して何やら儀式めいた事もするらしいとの事だった。
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それから間もなく、レイコちゃんの霊視で気分が悪くなった常連さん達がやって来て「死ぬって言われたのっ。私、大丈夫なの?!」とかなり慌てて来る様になった。
その尋常じゃない慌てっぷりに、私は面食らい、最初はどうしていいか分からない程だった。
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まぁ、でも、それにしても可笑しな話です。
大の大人が何の変哲もないスエットを着た女の子に霊視をしてもらって「死ぬ」と言われても「ふーん、本当なの?」と、小馬鹿にする程度で済む話なのです。
けれども、来る人来る人、常連さんも一見さんも「大丈夫なの? このままだと死ぬって! どうしたらいいの?!」とパニック状態で、泣いてくる子も増えだした。
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「ヤバくない?」
絵描きの女の子がそう聞いて来たので、私は素直に答えた。
「うん、ヤバイ。手に負えなくなりそう……」
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その泣いてパニックになって来た人は、レイコちゃんに「私では除霊出来ない」と見放された人たちだった。
そう言うお客さんの為に、私はポットに入れたハーブティーを持っていき、出すようにもなった。
隣にいた詩人は、ちゃっかりと水晶のブレスレットなんかを自作しだして「お守りにどうですか」と、ブレスを売るぐらいの肝の太さも見せてくれりもした。
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その後、詩人はパワーストーンに嵌り出した(笑)
おいおい詩集のコピー本販売は如何したんだよ、お前……ってぐらいに。
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笑えることもあったが、事態は深刻だった。
暫くはそう言うお客さんの愚痴聞きと占いをタダでやって落ち着かせ、事の事態を把握しなくてはならなかった。
別に放って置いても良いのだが、お客さんの事を思うと何もしないでいるのがもどかしい程に、内容は酷くなる一方だった。
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するとある一定のパターンが幾つかある事に気が付く。
見るからに遊んでいそうなギャルには「知らずに流産した赤子が水子となって憑いている。子供の霊は厄介だから、私では何もできない」と言う話。
若いОLで恋人がいる子には「彼氏に想いを寄せている女の生霊が……」と言う話。
恋人の居ない人には「死んだ縁者が怒っている、とても怒っているので話にならない」とか、男性には「以前、遊んだ女が自殺して憑りついている」とか。
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一見するとちょっと思い当たる節もあるような無いような、ひょっとしたら……?
そんな隙間を巧みに突いて、不安を煽るだけ煽って見放しているようだった。
(後に知った事だが、このお客さん達は遊び半分で「霊視できるって本当?やってみてよ」と高圧的にレイコちゃん達へお金を払った人達だったそうだ。因みにレイコちゃんの料金はワンコインぽっきり。除霊をすると3千円だった)
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それを一つ一つ「知らぬ間に流産なんて出来ないよ」と教えたり「生霊が憑いた所でなんなのさ」と言ったり、屁理屈捏ねて現実に引き戻す作業に追われた。
何となく一時的にパニックになる程、レイコちゃんの霊視は凄みと真実味があるだと思い始め、常連さん達から更に詳しく話を聞く様になった。
そうこうしている内に、だんだんとレイコちゃんの所からお客さんが減って行く。
当たり前だ。
何とかして欲しくてやって来たお客さんの不安を煽るだけで、何も解決しないどころか余計な不安まで背負って帰る事になるんだから、お金なんか払いたくもなくなるだろう。
だからと言って自分の商売が鰻登りに成るようなことは無かったし、させなかった。
商人魂なら、狡賢にここで打って出る人もいるだろうが、ヘタレな私はこき下ろす事さえ怖いので、宥めて宥めて鎮圧という方法で地道に活動するのがやっとの状態。
(だって、背後にはぴったりと白ワンピが居るのだから、余計に怖い)
がしかし、狡猾に打って出た婆ちゃん占い師がいたのも事実だった。
一人の女の子相手に、こんな場末でこんな影響が出だしたのも変な感じだった。
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そんな騒ぎが最初に起こってから3.4か月程経って、年も明けての春先――。
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とある企業のイベントで占い師をと言う依頼で昼間から仕事をしていた私は、同業の友人を連れて終電でこの街に帰って来た所だった。
隣の県まで行ってきた後だったので少々疲れており、店を出して帰るかそのまま自宅へ直行するか悩みつつ、アーケード街を歩いていたと思う。
友人も別の所で店を出してみるのも面白いと思ってか、辺りをキョロキョロしていた。
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すると――――レイコちゃんが居た。
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「ねぇ、宵。あの子、ヤバイね」
同業の光さんは霊感占い師と言うカテゴリーの占い師だ。
文字通り霊感とタロットで依頼者を視ているんだが、怖い程当たると言われて人気はあるのに売上そこそこと言うなんとも不思議な人である。
(当たれば流行るってもんじゃないのが、この商売だったりする。当たり過ぎる事は決していい事じゃないと彼女は良く言っていた)
「レイコちゃん……だよ」
勿論、レイコちゃんの周辺にはアノ女がいる。
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――――でも、女は既に『立って』は居なかった。
レイコちゃんの上半身に、がっしりと四肢を巻き付けて。
よじ登ったり、頭の上に自分の顎を乗せたり、耳元で大口を開けたりしていた。
「行こう、気づかれると手におえない」
光さんが私の腕を引っ張って近くのカフェまで足早に連れて行く。
レイコちゃんは私に気がついて会釈をするので「バイバイ」と手を振って苦笑しながら遠ざかった。
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「なんだアレ、悪霊デパートかよ……」
「は? 何デパート?」
「悪霊デパート。ウジャウジャくっつけて、ヤバイぞ。殊更に白い女がヤバイ」
「如何言う事ですか」
私は上記に書いた様な、事の経緯を話して聞かせ、光さんの返答を待った。
「まぁ、幽霊に対し半信半疑のアンタに説明しても分からんかもしれんが、あの子、独自のお祓いやってお客さんに一時的にくっ付いたものとか吸い取ってンだよ。素人祓いで塩撒くならいざ知らず、なんか本で見たような聞きかじりのお祓いでもやっているんだろう。修行もしていないのに、馬鹿な事してるよ」
「……そんな事で吸い取れるの?」
「出来るよ。一概には言えないが、その辺彷徨っている霊ってさ、占いのお客みたいに鬱憤が溜まっている状態が多いんだよね。どこ行けばいいとか、苦しいとか、その辺は分かるだろ。んで、そんな霊が憑いている人に対して『視えます』って一言行ってみ? わぁっさーとやって来るよ。話聞いて欲しい奴が」
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それはゾッとする話だった。手を広げてワサワサと指を動かし、ゆっくりと自分に向かってくるジェスチャーが妙にリアルな気がして。
霊感がある人ほど遭遇した時は知らんぷりをすると言うけれど。
実際に『視える』と言う人の口から聞くと異様な信憑性があった。
きっと、レイコちゃんのお客さんもこんな感じで信憑性があると錯覚し、パニックになったんじゃないかと思う。
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「一番ヤバイのが白い服の女だよ。あいつが主犯格。あー……なんつーか悪霊デパートの店長って感じだな」
「変な例えだけれど、分かりやすいよ……」
珈琲を啜って光さんは続ける。
「あの女さ、彼女にずっと泣きながら訴えているよ」
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聞イてよぅ
聞いてヨぅ
み゛え゛るんでじょヴぁぁぁああ゛あ゛……
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無視ずる゛なぁ゛あ゛あ゛ア゛。
ああーああぁぁぁ……ん
ヴぁあぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁんっ。
グるじィィィィィぃぃぃいい……
ざビジぃいぃぃいぃぃぃぃ……
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わ゛ぁぁぁぁぁぁあああ……
見えるっていっだじゃないかぁぁぁぁ……
ああーーんぁあああぁぁぁぁっ……
な゛ンっでアザジだけぇぇぇええええ゛え゛え゛え゛え゛……
聞けえ゛ぇぇぇぇ゛……ぎいでぇ゛え゛え゛ぇぇぇぇ……
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そうやって、悪霊デパートの店長である白ワンピの女は、お客(他の悪霊)を呼び込みしているそうです。
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その話を聞いてから、私は師匠から教わった『結界』を絶対に欠かすまいと思いました。
ポケットビンに入れた日本酒を毛筆に浸して四隅を囲い(本当は指なのですが、地面が地面だけに指が汚れるので、毛筆を使っていたんだけれど)師匠の行きつけの神社で貰った「切り麻(きりぬさ)」入りの塩を開店前に必ず少量撒きました。
作者宵子
これでお終いです。
夜中に書いているのが怖かった。
画像を使わせて頂いた作者様有難う御座います。
多少でも、曖昧にでも。
怖さが伝わったらいいなと思います。