大学生のハルカさんは、オカルトが大好きである。
心霊関係の番組は必ず見るし、心霊体験談をまとめた本も何冊か所持している。
ホラー映画が公開されれば、その日に見に行く。ネットで、同じようにオカルト好きな人達と絡むのは日常的なことだったし、心霊スポットにも何回か出掛けたことがある。
「とにかくオカルトは好きでしたね。3度のご飯よりも好きなくらい。当時、付き合っていた彼もまた、私に負けないくらいのオカルト好きだったんです」
ハルカさんは同じ大学の、1つ上の先輩と付き合っていた。彼はトミヤさんという。
友人の紹介で知り合い、オカルト好きな2人はすぐに意気投合し、付き合うことになった。デートは遊園地やテーマパークなどではなく、殆どが心霊スポットだった。
「あちこち行きましたねぇ。心霊スポットとして名高い廃病院やトンネルとか、自殺者があとを絶たないって評判の湖とか。昔、殺人事件が起きたっていう廃ビルにも行ったし」
そして出掛ける際には、必ずデジカメを持って行き、心霊写真を撮ろうと試みていたとか。
「でもねぇ、なかなかこれぞ心霊写真!って写真は撮れたことがないんですよ。小さな発光体が無数に散らばっているくらいが精々で…こう、見る人がゾゾッとするような写真は撮れなくて」
例えば人の顔や、手足が写っているとか。リアルに「怖い!」と思えるような写真を撮ってみたかった。
その年の夏休みのことである。トミヤさんがふいに霊山として名高い山に行ってみないかと提案してきた。そこなら心霊写真が撮れそうな気がすると言うのである。
2つ返事で頷き、早速その山へと向かった。その山には遊歩道はなく、おまけに一般人は立ち入り禁止だったが、少しくらいなら平気だろうと特に気にも留めなかった。
小枝を踏み鳴らし、前へと進む。鬱蒼と生い茂る樹木が不気味だったが、あとは何の変哲もない。ただの山だった。
ただ…夏だというのに、山を取り巻く空気はしっとりと冷たく、やたらと湿っぽい気がした。
「流石に頂上まで登山する気にはなれなかったから、適当な場所で引き返しました。写真も何枚か撮ったんです。ツーショットを3枚くらい撮ったのかな…あとは風景を5枚撮って、その後帰ってきたんですけど…」
その日以来、トミヤさんの様子がおかしくなってしまっはた。何を話し掛けても「うん」とか「ああ」しか言わず、いつも上の空。大学も休みがちになり、その内全く姿を見せなくなってしまった。
心配したハルカさんが携帯で電話やメールをしても返ってこない。彼のアパートを直接訪ねてみたが、留守だった。
アパートの大家さんにトミヤさんの行方を知らないか、どこに出掛けたのかを知らないかと聞いてみたが、ここのところ、全く姿を見掛けないと言われてしまった。念のため、トミヤさんの部屋に上がってみたが、財布や携帯などは残されていたという。
「彼のことも気掛かりだったんですけど…私もあの山に行って以来、体調が悪くて。もしかしてよくないモノに憑かれたかなと思って、写真を現像してみたんです…」
そこまで話すと、ハルカさんは急に黙り込み、俯いてしまった。どんな写真が撮れたのかと尋ねると、彼女は顔を引きつらせて首を振った。
膝の上で重ねられた両手が小刻みに震えている。
「言えません…。それは言えないんです。ただ、あまりにもおぞましくて不吉な写真が撮れてしまったとしか…。あの山は、決して足を踏み入れてはならない場所だったんです」
ハルカさんは写真を供養して貰おうと、霊能者を探してお願いした。だが、断られてしまったという。
「私の手には負えない…。そう言われました。霊能者の方曰わく、写真に写っているのは霊ではないそうなんです。霊よりももっと高度な、山の神様の化身みたいなモノらしくて。私達が遊び半分で山に入り込んだことを、大層怒ってらっしゃるとかで…」
トミヤさんが失踪した原因も、もしかしたらこの写真にあるかもしれない。彼の両親が捜索願いを届けたらしいが、未だに見つかってはいないという。
取材後、ハルカさんはこんなことを言っていた。
「例の写真なんですけど…私がまだ持ってるんです。神様の化身が写ってる写真ですもの、簡単に棄てるなんて出来ないし…。あのう、お知り合いとかに霊能者の方とかいません?インチキ臭い人じゃなくて、本物の霊能者の方。本当、困ってるんです。体調も一向に回復しないし…。これ、私の電話番号です。もし敏腕な霊能者の方が見つかったら、電話頂けます?」
渡されたメモ用紙には、震えた字でハルカさんの携帯番号が書かれていた。
取材から3週間後。敏腕な霊能者が見つかったわけではないが、彼女のことが気掛かりだったので電話してみた。
電話は繋がらず、その後も何の音沙汰もない。
作者まめのすけ。