大学に進学するために上京し、アパートを借りて暮らすこと半年。1人暮らしには慣れてきたものの、私にはどうしても上手く出来ないことがある。
上手くいかない、というよりは面倒臭くてやらない、と言ったほうが正しいかもしれない。
それは…家事一般である。
掃除から始まり、食事の支度とか洗濯とか。それらの全てがどうしようもなく面倒であり、億劫で仕方がない。
まあ、食事は近くのコンビニでお弁当を買ってくるなりファミレスに行けばいいことだから、何とかなるのだが。掃除や洗濯はそうはいかない。この2つばっかりは、自分が動かなくてはいけないから。
最近は便利になったもので、掃除用のロボットやコインランドリーもある。面倒臭がりの私にとってみれば、とても暮らしやすい世の中だ。
その日も、私はいつものように紙袋に溜まった洗濯物を詰め、近所のコインランドリーへと向かった。大分夜も更けていたので、客は私以外誰もいなかった。
機械に洗濯物を入れ、スタートボタンを押す。洗濯が終わるまで暇だったので、外で一服しようと煙草を片手に店外へと出た。
ライターで煙草に火を点け、口から煙を吐き出す。しばらく立ち上る紫煙を目で追っていると、いつからいたのか、小学生くらいの女の子が立っていた。
その子は何か言いたげに私をジッと見つめていた。他人からジロジロ見られて、気分を害さない人間はいないだろう。正直、少しムッとした。
何、この子…。負けじと訝しげな視線を向けると、女の子はどこかへ走り去っていった。変な子ねぇと独り言を呟き、2本目の煙草に火を点けた。
2本目の煙草が短くなってきた時だ。暗がりから先程の女の子が現れた。その子の母親だろうか、見知らぬ女性も隣にいた。
女の子は少し離れた場所から私を指差すと、母親に何かを話している。母親は話を聞くなりみるみる青ざめ、物凄い形相でこちらに走ってきた。
「あなた!!!あなた、一体何てことしたの!?何で気付かなかったのよ!!どうするのよ!!どう責任取ってくれるの!?」
彼女は私の胸倉を掴み、金切り声を上げて凄んだ。しかし、私には彼女が何を言っているのかサッパリ分からない。目を白黒させることしか出来なかった。
「玲奈ちゃん!玲奈ちゃんが!!」
彼女はハッとしたように私から手を放すと、店の中に走っていった。呆然としている私に、先程の女の子が話し掛けてきた。
「私ね、玲奈とかくれんぼしてたの。玲奈は私の妹なの」
「か、かくれんぼ?」
「私が鬼でね、玲奈が隠れる人。玲奈ね、このお店の中入っていったんだよ。だからまだお店の中に隠れてるよ。私、玲奈がどこに隠れるか、コッソリ見てたの」
「で、でも、さっきまで私も店の中にいたけど、誰もいなかったわよ。私1人しかーーー」
ーーー待てよ。
この子達はかくれんぼしてたのよね。かくれんぼしてたってことは、どこか見つからないような場所に隠れてたってことよね。
あの店の中で子どもが隠れられそうな場所。子どもが隠れられるような場所だから、恐らく狭いスペース。尚且つ、その玲奈って子はかくれんぼしてたわけだから、見つかりにくいような場所を選んだわよね。
コインランドリーの店……狭いスペース……子どもが隠れられそうな場所……見つかりにくい場所……まさか。まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
ま さ か 。
最悪の予想を想像し、背中に冷たい汗が流れた。そういえば、洗濯物を機械に掛ける時、奥のほうで何かが動いたような……。
目を見開く私の手を、女の子がギュッと握った。
「お姉さん、玲奈が隠れた所にお洋服入れてたよ」
その直後、店の中から甲高い女性の絶叫が響き渡った。
作者まめのすけ。