伯父さん。【姉さんシリーズ】

中編3
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伯父さん。【姉さんシリーズ】

俺には4つ年上の姉がいる。でも、俺とは血縁関係はない。様々な事情が重なって俺達は姉弟になったんだが、そこら辺の事情は込み入り過ぎた話であるため、割愛させて貰う。

姉さんは小さい頃から「見える」側の人間だったらしい。天井に女がへばりついていたとか、壁一面に赤ん坊の顔が浮き出ているのが見えたりだとか、そんなことが日常茶飯事だと言う。

「怖いって思ったことはないよ。だって、見えることが当たり前なんだもん。どうせ、見えなくなることはないんだろーしね」

そう話す姉さんの自室には、年頃の高校生とは思えない物ばかりで溢れている。梵字の御札、御神酒、榊とか。そんな物に囲まれて寝ているんだから、我が姉ながら只者ではない。

因みに俺はまるっきりオカルトには無縁な男であり、かつビビリでチキンでもある。ホラー映画なんて絶対見れないし、心霊スポットに出向くなんて言語道断。勿論、幽霊の類を見たことはない。

……そう。一生、見ることはないんだと、ずっとそう思っていた。姉さんのように「見える」体質じゃなくて本当に良かったと、心底感謝していた筈だったのに……。

あれは蒸し暑い真夏の夜のこと。あまりの暑苦しさに眠れなくなってしまった俺は、1階のキッチンへと向かった。

冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いだ。ふとリビングの方を見やると、誰かがソファーに座っているのが見えた。

「母さん……?」

そっと呼び掛けてみたが、返事はない。麦茶の入ったコップを片手に近付いてみると、どうやら男の人のようだった。

「父さん?何してんの、電気も点けないで」

明かりを点けようとして、ハッとなる。父さんは会社の出張で北海道に行っていて、帰ってくるのは明後日のはず。

じゃあ……誰だよ、こいつ。

まじまじ見つめると、そいつが青っぽいシャツに、白いズボンを履いているのが分かった。そして、その服装には見覚えがある。

「伯父さん……?」

父さんの兄貴で、俺にしてみれば伯父にあたる人だ。伯父はよく青いシャツに白いズボンを履いていることが多かった。

だが、数年前から精神を病み、今は東京の病院に入院している筈なんだが……。

「伯父さん、どうして……」

ポツリと漏らすと、伯父は急に立ち上がった。

いや、立ち上がったというより、何者かに首根っこを掴まれて無理矢理立たされたような、不自然な動きだった。

俺がポカンと口を開けていると、伯父はガクガクと激しく頭を上下に振り始めた。ロッカーよろしく凄まじい勢いでガックンガックン首を振り続けている。それはだんだん勢いを増し、今にも伯父の首がもげてしまいそうな速さになった。

「…ッ、ぐっ!」

悲鳴を上げたいのに声が出ない。逃げ出したいのに足が竦んで動けない。

俺は押し潰された蛙のような声を上げ、その場にへたり込んでしまった。

どれくらいの時間そうしていただろう。ふと気付くと、伯父は頭を振るのを止め、静かに立っていた。

次の瞬間、「ボキリ…ッ」と嫌な音がし、伯父はうなだれるように頭を下げた。

もう限界だった。

「○×▼□■@£≒±≦……!!!」

わけの分からん悲鳴を上げ、俺は2階へと駆け上がり、姉さんの部屋を乱暴にノックする。数回のノックの後、姉さんは安眠を邪魔されたことが相当不愉快だったらしく、般若の形相で出てきた。

「うっさいな。今、何時だと思ってんの。ガキが騒いでいい時間帯じゃねぇんだよ」

「で、で、で、出た……!」

俺はやっとのことで姉さんに今さっき目の当たりにした出来事を語った。姉さんは寝ぼけ眼のまま、俺の話を聞いていたが、最後にぼそりと言った。

「そう…。そりゃ可哀相に。”堕ちた”ね、伯父さん」

「堕ちた……?」

「うん。地獄に、ね」

あるんだよ、地獄は。

そう言いながら、姉さんは御神酒の入った瓶を持ってくると、それを喇叭飲みした。そして俺の後頭部を右手で押さえると、口の中の御神酒をぶっかけてきた。

「わっ!つめて!」

「清めの酒だよ。舐めとけ舐めとけ。んじゃ、お休み」

そう言うと、姉さんはバタンとドアを閉めてしまった。

翌日。東京の病院から連絡が入り、伯父が亡くなったことを聞かされた。部屋のカーテンを引き千切ってロープ代わりにし、首吊り自殺をしたらしい。

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やはり、自殺をすると地獄に''堕ちる''のでしょうか?

堕ちるという一言にいろいろな意味があるのでしょうかね。
凄くドキドキする作品でした!

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墜ちた
この一言にいろんな意味が込められてるのでしょうね。
叔父さんの過去に興味あります。
地獄というものについて姉さんの考えにも興味あります。
百話おめでとうございます!
これからも毎回楽しみにしています。

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怖い(泣)やはり自分で命を絶つことは罪なのかな?

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feroz様。コメントありがとうございます。

「叔父」ではなく「伯父」でしたね。ご指摘感謝致します。只今、修正を終えました。

温かいお言葉、感謝感激です。拙い作品ですが、自分の世界観を大切にして書いた作品ですので、思い入れが大きいものとなりました。少しでも皆様の暇潰しとなれば幸いです。

今後とも宜しくお願い致します。

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いつもながら貴女の作品はその場の情景が目に浮かびます。
このクオリティでの連投は本当にお見事!としか言いようがありません。

しょーもないことですが、父さんの兄は「伯父さん」ですよ。

つまらんコトをすみません(^。^;)
今後も期待しております。

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宵子様。コメントありがとうございます。

ついに100話突破致しました。早いようで、でも短かかったような……。この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございます。

地獄……文字にしてみるだけでも、何やら鬼気めいた迫力を感じます。

宵子様はご友人から地獄について何か聞かれたのですね。差し支えなければ、私も聞いてみたいです。

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*chocolate様。コメントありがとうございます。

オラオラ姉さんを気に入って頂け、ありがとうございます。私もとても嬉しいです。

天国や地獄というものは抽象的であり、壮大なスケールに感じますが。一説によると、「現世こそが地獄」という考え方もあるようてすね。

この間、本屋に「地獄」とのタイトルが付いた絵本を見かけ、買うべきか買わないべきか真剣に悩んでしまいました。結局、買わなかったんですけどね。

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端美豆様。コメントありがとうございます。

姉さんは私の中では「相手が誰であれ物怖じせず、愛想がなくてクール。喋り方がぶっきらぼう」というイメージでしたので、それに沿って書き上げましたら、些か口調が悪い姉さんになってしまいました(笑)。

女度が低いことだけは、私と同じです(笑)。
これからも姉さんを宜しくお願い致します。

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たらちねの様。コメントありがとうございます。

たらちねの様のコメントを読み、思わずニヤけてしまいました(笑)。確かにこの姉さんは片膝立てて「半!」
とか「丁!」とか言ってそうです(笑)。

なかなか時間が取れず、他の投稿者様の作品が読めずにおります。たらちねの様のお名前を見かける度に、「この方の作品、読みたい……」と思っておりました。

たらちねの、という響きが奥ゆかしくて美しいと思いました。

今度、ゆっくり作品を読ませて下さいね。

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記念すべき百話目ですね!お目出度うございます。

友人から聞いた事をふと思い出し、姉さんの堕ちると言う言葉に感慨深い思いを覚えました。
とても怖いですね…。

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叔父さんは何をして地獄に堕ちたのか。それとも、自殺をしたから地獄に堕ちたのか。

激しすぎるヘドバンとか凄い怖いw

お姉さんシリーズ面白いです(*´艸`*)

次にも期待してます♪

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姐さん…
意外と口が悪いのね…(T_T)

そして相変わらずの男前( ♡ω♡)

またまた次回作待ってます♪

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いつも丁半賭博の壺振り師をイメージしてしまうんですがそんな姉が好きです。次作も期待してます。

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