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お久し振りです、宵です。
帰省初日に本当に怖い思いをいたしましたので、ご報告いたします。
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八月十一日。
母とカフェでご飯を食べ、塩竃神社に行って厄落としをし、午後三時くらいに実家へ向かいました。
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すると、母が松島あたりで山を指差し、
「富山観音ってお寺が、あそこの山にあるんだけど、行く?」
と聞くので山を見てみると、立派なお堂が山の上に建っていました。
塩釜神社に行った後だったので、また別の聖域に行ってみるのも素敵だと思った私は
「行く行く~行ってみよう~!」
と快諾しました。すると母は急に脇道へと車を走らせます。
小さな看板に「富山観音」の文字がありました。
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「こんな、急な脇道へはいるんだ…すごく細い道だね、蛇行しまくりだし」
鬱蒼と茂る木々とクネクネと曲がる細い道が既に物悲しい雰囲気を醸す場所でした。
木々の所為で陽光が入らず、真夏の昼間だと言うのに、とても薄暗かった。
「大丈夫?行ってもいいの?」
「え? あ、うん、行ってもいいよ」
するとまた、富山観音に少し近づくと母が聞くんです。
「大丈夫? 行っても大丈夫? 変なの居ない?」
「うん、大丈夫。って言うか、なんで聞くの?怖いんだけど…」
「うーん、別に…」
それからもう一度聞かれました。しつこくて、私は少しムッとしました。
「ねぇ、宵……本当に行くの?」
「ママン、何かあるの? ここって、変な所なの?」
「ううん、違うよ。変な所じゃないよ」
「なら、何度も聞かないでよ……怖くなるじゃん。薄暗いから、ただでさえ怖くなってきちゃうのに。心霊スポットみたいに言うなんて、観音様に失礼だよ」
「そ、そうよねぇ……ごめんね?」
「もぅ~!罰当たりなんだから」
せっかく来たんだし、観音様を拝顔できるのが嬉しいと言う気持ちの方が勝って、とうとう富山観音の階段登り口で車を止めました。
本当に木々が鬱蒼している林の中にひっそりと伸びる階段が一つ。人気は全くありません。
夏休みなんだし誰かしら参拝にあがってもおかしくないだろうに……と思いましたが、人気が無いのかと私は首を傾げました。
そんな事は露とも知らず、息子は元気にひょいひょいと階段を登ってく。
「若いねェ」
「ほんとだよねぇ、アタシらにはキツイ階段だわ……」
私と母も息子の後を追う形で登り始めた。
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ところが、階段一段目を足にかけた瞬間。何故か私は腹の底から怖い…と言う気持ちが湧いて来た。
ヤバイかもしれない。 でも母を叱った手前、怖いとも言えない。
大体にして観音様に失礼だ。でも、なんか怖い。怖いんですよ、凄く。全然笑えない。
折角の母たちとの思い出づくりなのに、笑えない……。
階段はすごく長くて、登り終えるのにかなりの時間がかかりそう、などと母と話しながら少しずつ登りました。
階段30段くらい上にある踊り場付近まで登り、母と私はやっぱ辞めよう、面倒だわ、と言う事にして、息子を呼び戻して降り始める事にした。
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……限界だった。
この空気の淀み具合と、整備されていない階段。
そして、人っ子一人いない静かな空気と外界から完全にシャットアウトされたかの様な閉鎖感に痺れが切れてしまった。
だって、鳥の声一つしない。
先程まで煩いぐらい聞こえた蝉の声が、全く聞こえないんです。
階段を上ってから全く。おかしいでしょ。
八月ですよ? 真夏の盛りにある森の中ですよ?
虫が居たっておかしくないし、羽音をたてるのが自然と言うものでしょう?
でも、聞こえないんです。しん、としているんです。おかしいよ、こんなの。
もう帰りたい! 怖い!
音が聞きたいが為に喋り続けようにも、言葉にしたいのは『怖い』ばかり。
母と息子を怖がらせる訳にもいかず、私は口をきゅっと結んで黙りました。
何でこんなに怖いのかも分からない位、怖い。
今思えばそれも変です。
ただ薄暗いだけの大自然の中ってだけなのに、ここまで切羽詰るのも可笑しな話でした。
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降りると決まれば、息子はひょいひょいと階段を下がり、母もさっさと下がる。
一番最後に下り始めた私は、振り返って森の奥をじっと眺めた。
何と無く、階段を登り始めてから人に見られてる気がしていたからです。
何というか、自分の背後が自分で見える感覚が離れなくて、気味が悪い。
その原因みたいなのが、見ている方向に居る様な気がした。
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「……っ、あ……」
すると、前方2メートル位先の木の後ろから女がこっちを覗いてるのが見えた。
ハッキリと。
もちろん、人じゃないって事は直ぐに分かった。
雰囲気が異様だから、すぐに分かる。
女の形をしてるけど男の気配すら見える気がして、その女は『形だけ』なんだと何故か分かった。 何でか分かったんです。
(ああ、なんか死んだ人が寄せ集まって形になったんだなぁ……)って。
そんなお化けの集合体。
うわーっと思ったら、その女の首がストンと落ちた……。
まるで、ろくろ首が頭を落としたみたいに長い首が頭部の付け根から伸びている。
ドサッと落ちた頭が絶えずこっちを見ている。
恨めしそうに、妬ましそうに、悲しげに、じぃっと。
そして、此方に来ようとしているのが見て取れた私は、 これはヤバイと階段を急いで下がり、車に乗り込んだ。
ゾッとしたし、腹の筋肉が弛緩して力が入らない。
カタカタと小刻みに震えた。
そして深呼吸すると、私は一気に捲し立てた。
「怖い、怖い、怖い、怖い、怖いッッ!!」
「あーーーーーーーー!あーーーーー!」
と大声を出している娘の横で、母はドン引き。
マジで怖かった。
「行こう!早く!」
「は、はいはい、待ってね…」
母はキーを回すと車を急発進させて、来た道を戻る。
そして、私に聞いた。
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「みた?なんか見た?ここ、昔テレビで心霊スポットって事で紹介された事があったのよ」
「……ちょ、ちょっと!まさか何か見せる為に連れて来たの!?」
「だって、何か見るかなーって思ったんだもん。ちょっと早いけれど、怖い誕生日プレゼントと言う訳で、ね?」
母にあっさりと怖い事を言われて、心底びびった。
それから数時間たっても怖さが抜けなくて焦った私は、母に腕にびっしりと出てきた鳥肌を見せる。母は鳥肌を見て「あらまぁ…凄い鳥肌だねぇ」と言った。
「いい?マジで怖かったのっ!ホントにヤバイの、アレ!」
「ねぇねぇ、何見たの?」
「まだ言いたくない……着いて来るかも知れないから……」
少しだけ落ち着くと、不意に私はアレを「自殺した人なのかな」と考えるようになった。
けれども、まだ口には出さなかった。
実家が近くなってきてから、母に塩釜神社の塩を撒いて貰った。
そして見た事を話すと、母は嬉々として聞いていた。冗談じゃないよ、ママン……。
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アレは霊と言っても良いと思う。
どうしたら信じて貰えるか分からないけれど、書けば書くほど胡散臭くなるかも知れないけれど。私自身は、認めなくてはならない気がする。
白い店長の時もだけれど、稀に人にも見える変な物っているんだよ、きっと。
あの時も怖かったけれど、何処か自分の妄想って逃げ道があったし…。
でも、これは逃げ道がない気がするんです。
気が付いたんです……。
霊を見た時って、なんでか体の一部しか見ていなくても『性別』とか『目的』とか『その霊の背景』が胸に飛び込んでくる。確証もないのに確固たる情報として。
その事がとてもとても、不思議だったんです。
見えているのは、女なのに『女だけじゃない、もっと沢山の塊だ』って言う考えが自分から引き出されるのが、とても恐ろしかった。
そしてあの霊たちは、夏休みに此処へ遊びに来た幸せそうな親子達を見て、心底胸糞悪かった事だろうと思う。そんな目をしていたから……。
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ただ、自宅へ帰る際に見た、もう一つの富山観音の入り口は、とても明るくて光り輝くような……神聖な雰囲気がありました。
これで私の体験した話は以上です。
長くなり、大変申し訳ありませんでした。
終わり。
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~追記~
母は、数十年前にテレビで此処の事を見たような気がすると言う、曖昧な記憶でやって来た。当然、私は何も知らない。富山観音なんて初めて名前を聞いた。
これを書くにあたって、再度答え合わせでもするかのように、私は富山観音を調べてみたのです。すると、地元では有名な心霊スポットで、自殺の名所とありました。
ですが、調べる内に意見が二分します。
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・一何の変哲もない、景観も良くて怖くもなんともない場所。霊なんかいない、ただの噂。
・もう一つは、薄暗くて雰囲気たっぷりの怖い心霊スポット。
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そしてもっと詳しく調べる内に、分かった事が一つ。
怖い体験をした人の投稿や書き込み・情報には、私が行きで入った『薄暗くて蛇行する道の描写』が見られ、噂だったと言う人の書き込みには『反対側から入ったとされる道の描写』と『景色が良くて綺麗な場所』と言う感想が見られると言う事。
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これってさ、富山観音には『地獄の道』と『仏の道』があるって事なのかも知れないなって思った。
木々が鬱蒼と生い茂り、蛇行していく細い道を『地獄道』
見通しが良く明るい道を『仏の道』
そう思うと、なんかしっくりくる気がした。
そして、体験談。(個人のブログや投稿所など)
・女の話声が聞こえるが、姿はみえない。
・肝試しに行ったら、テールランプが見えたので先客がいると思ったのに、誰もいなかった。
・物陰に女の顏や無数の人影を見た。
・サイドミラーに男の顔が映った。
・戻って来たら車のワイパー全てが立てられていた。 など。
女の目撃証言が多いのを見ると、更にゾッとするし、自殺した人達かなと思った事が符合していいて更に怖かった……。
信じて貰えないかもしれないし、嘘くさいかも知れないけれど。
私は今も、本当に怖くて堪らない。
作者宵子
本当に怖かった。
思い出しながら書くのも、怖くてすぐには書けなかった。
そして思い出してしまって、今とても怖いです。
なのに、私はこの夏の終わりに『心霊スポット探索ツアー』に行ってきます。
その時の事も『何かあっても』「何もなくても」書こうと思います。