俺には4つ年上の姉がいる。最近、怪異絡みの事件が発生し、それによるアクシデントで、髪型をロングからショートへと変貌させた姉さんだ。これは好み云々の話だが、俺としてはショートヘアの姉さんの方が可愛いと思う。本人も「軽くなったし、髪の毛が早く乾くので助かる」と、まんざらでもないらしい。
そんな姉さんは、かなりのブラコンである。ブラザーコンプレックス、略してブラコンだ。
話が一旦逸れてしまうが、俺は国民的アニメともいえる某有名アニメに出てくるヒロインがお気に入りである。彼女もまたショートヘアで、青い髪の持ち主である。そのアニメのDVDを見ながら「やっぱり可愛いよなぁ、○○」と独り言を言ったら、姉さんはその日の内に美容院に行き、髪を青く染めてきた。あれにはマジでビビッた。
だって……俺、その時「1人」で観てたんだよ?姉さんは2階の自室でお昼寝してた筈なんだけど……これって偶然なのか?もしかしたら盗聴器でも仕込まれているのだろうか。深く考えたら怖いから考えないけどさ。
さて、無駄話はこれくらいにして。そろそろ本題に入らせて貰う。いつもながら、ありきたりで、それこそどこにでも転がっているような小話だけれどーーー御清聴願いたいものだ。
時は遡ること2日前。その日は体育で長距離走をやったもんだから、ヘトヘトに疲れ切っていた。恥ずかしい話だが、俺には持久力があまりない。50メートルも走らされれば、あっという間に息が上がってしまう。それが400メートルともなれば……冗談抜きで死にかけた。
めちゃくちゃ疲れたし、足も痛い。体も怠い。家に帰るなり、制服姿のまま、ドテッとベットに倒れ込んだ。そのまま、ウトウトしてしまったらしい。とはいえ、完全に寝ているわけではなく、意識は朧気ながらちゃんとあった。
キィ……。部屋のドアが開く音がした。目は瞑っていたので、誰だとはハッキリ断言出来ないが、恐らく姉さんだと思った。俺の部屋をノックもなしに入ってくるのは姉さん以外に考えられない。
『…、何か用?』
言葉には出さないが、僅かに顔を上げる。目は瞑ったままだ。開ける気力は既にない。すると、サッサッサッと足音が近付いてきた。そしてギシリとベットを軋ませ、上に上がってきた。
何、と尋ねる間もなく。姉さんはうつ伏せで寝ている俺の腰に跨がり、マッサージをしてきた。首筋から始まり、肩、肩甲骨、背骨……グリグリと適度な強さで揉まれ、これが結構気持ちいい。疲れた体にはあうってつけのマッサージだ。
「姉さん、マッサージ上手だねー。知らなかった」
思わず感嘆の声を上げたが、返事はない。いつもなら、もっとお喋りしてくれるのに、この時は終始無言だった。今思えば、この時に変だと気付いておくべきだったかもしれない。しかし、あまりにマッサージが気持ち良くて、夢心地だったのだ。
続いて腰の辺りを揉んで貰っていると、また部屋のドアがバタンと開いた。そこには風呂上がりらしく、桜色に上気した頬をした姉さんがTシャツにショーツという出で立ちで立っていた。
「風呂空いたぞ。入れ」
「……え?」
ピキンと固まる。ちょっと待て。何だって姉さんがそこに立ってるんだ。姉さんがそこにいるってことは、俺に跨がってマッサージしてくれてるのってーーー誰?
恐る恐る振り返る。すると、天井から2本の長い腕が伸びてきていて、俺の腰を揉んでいるのだった。
「ッ、ぎょえええええええぇーっ!!」
ベットから転がり落ち、ベットの脚で後頭部を思いっ切りぶつけた。あまりの痛さに頭を押さえてうずくまっていると、姉さんがニヤニヤしながら俺の前に立った。
「また何か出たのか?お前もよく怪異に遭遇するねぇ」
……思わず涙が出る。安全地帯と思っていた自分の部屋で、まさかこんなことが起きるとは。これじゃ怖くて眠れないじゃないかよ。俺はこう見えても、かなりのビビリでチキンだというのに。
姉さんは、そんな俺の心中を察したように、右手の親指で右隣を差した。
「何なら、私の部屋で寝るか?一緒なら怖くねーだろ?」
その提案に、俺がどういう答えを出したのかはーーー秘密にしておこう。
作者まめのすけ。