八回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることや感じることができ、また簡単な除霊や霊的なものを落とすことができます。
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あれは高校二年の夏休みのことだった。
僕は近くで電気製品配送のアルバイトをしていた。その日も暑い中、ひたすら電気製品を配送し、仕事も終えて休憩室でくつろいでいた。
休憩室にはバイト仲間が5、6人いて、その中の一人が『怖い話』をしようと言いだした。僕も含めみんなで輪になり、心霊スポットに行った時の話や人から聞いた話等を一人ひとり順番に披露していった。僕は簡単に最近あったちょっとした怖い体験を話したりして、まわりの反応を見て楽しんでいた。
「ガチャ」
仕事を終えた笹木さんが休憩室に入ってきた。
「おめーら、円陣組んで何話してんだ?」
そう言いながら笹木さんはニヤニヤしながら近づいてきた。
「みんなで怖い話をしてるとこなんすよ!笹木さんも何か怖い話ありませんか?心霊スポットに行った話とか!」
バイト仲間の一人が言うと、笹木さんは「ドスン」と僕の隣に座り、あぐらをかいた。
「〇〇市の廃病院あんだろ?そこに仲間と何人かで行った時の話を聞かせてやるよ!あんまり怖くねぇけどな!」
笹木さんは話す前からどや顔していた。その廃病院はちょっと有名なところで(僕は聞いたことありませんでした。)、何度か取り壊そうとしているが、取り壊そうとすると事故が起きて取り壊せずに今も残っているという、少しありきたりな心霊スポットだ。その廃病院のまわりは更地になっており、廃病院だけがポツンと不自然に立っている状態らしい。
笹木さんは少し咳払いをして話し出した。
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五年くらい前、笹木さんの仲間内では心霊スポット巡りが流行っていた。いつもの様に仲の良い3人と仲間の家で集まってしゃべっていると、仲間の一人が心霊スポットに行きたいと言いだした。もちろんみんな賛成した。今回の行き先は、まわりからあそこは危ないと噂の絶えなかった○○市の廃病院に決まった。笹木さん達は夜中になるのを待ち、目的地までバイクで向かった。
40分くらい経つとまわりに何もなくなり、ただひたすら草木が生い茂る道をバイクで走っていた。少し行くと何やら病院らしき建物が見えてきた。何もない更地にポツンと立っている病院はさすがに笹木さんも怪しいと感じたらしい。
バイクを病院の目の前に置いた。病院の周りにはロープで囲ってあり、『立ち入り禁止』の看板が立っていた。病院の入り口を見ると、ガラスドアになっていたのか、地面にガラスが散乱していて、中に簡単に入れるようになっていた。ゾロゾロと笹木さんの仲間は「こえーよー」などと言いながら、病院の中に入っていった。
笹木さんも続いて中に入ろうとしたところ、後ろで人の気配がした。振り返るとそこには杖をついた腰の曲がった老人がいた。
「中は危険だから帰りなさい」
そう言いながら老人は笹木さんに近付いてきた。笹木さんはハッとした。老人の顔をよく見ると目が無いのだ。両目とも無く、空洞になっていた。その時笹木さんはこの老人のことをそういう障がいか何かだと思ったそうだ。
「じぃさんも夜道はあぶねぇから帰んな!」
そう言って病院の中に入っていった。病院に入るとすぐに待合室のようになっていて、椅子が何個も並んでいた。その先は診察室が何室か並んでいて、診察室のドアは全て閉まっていた。先に中に入った仲間たちの姿が見当たらない。もしかしたら診察室に隠れてるかもしれないと思った笹木さんは、診察室を一つずつ入ってみることにした。
一つ目、二つ目と入っていくが誰もいない。三つ目の診察室のドアノブに手をかけた時、奥にある階段から何かが落ちてくる音が聞こえた。診察室には入らず、その先の階段の方へと足を進めた。階段の下に何か落ちている。仲間が被っていたヘルメットだ。笹木さんは階段の上に目をやった。見上げた瞬間、何かが走り去る姿が見えた。仲間がふざけているんだと思い、笹木さんは階段を上っていった。
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二階に上がるとすぐに『ナースステーション』があり、その先は4人部屋が並んでいた。この部屋のどこかに必ずいると思い、一つずつ部屋を確認した。全ての部屋を確認したが、誰一人見つからなかった。その時笹木さんは何かがおかしいと感じたらしい。もしかしたら笹木さんたちがこの病院に来る前に誰かが来ていて、仲間たちはそいつらに襲われ、どこかに閉じこめられていると思い込んだ。
「バタン、バタン、バタン」
奥から妙な音が聞こえてきた。もしかしたらと思い、音のする方へ向かった。少し進むとそこにはトイレがあった。笹木さんは迷わず中に入っていった。トイレの中に誰か必ずいると強く感じたらしい。
トイレの中に入ると、個室が四つあり、手前の三つの個室のドアが閉まっていた。
「誰かいるかー?」
笹木さんは叫んだが反応はない。静寂が笹木さんを包んでいた。
笹木さんは手前の三つの個室の中を、ドアをよじ登り確認した。しかし、そこには誰もいなかった。
一番奥の個室を覗いたとき、
「あっ!!」
便器の床に、腕時計が落ちていた。個室に入り、腕時計を拾い上げる。間違い無い。仲間が着けていた腕時計だ。仲間を助けなくてはいけない、そう思った瞬間
「バタン」
笹木さんが入っている個室のドアが勝手に閉まったのだ。とっさにドアを押すがびくともしない。ドアの上から笑い声が聞こえてくる。ドアの上を見ると、ドアに両手をかけ、笑っている男の顔半分が見えた。男は笑っているが、その男の目は憎悪に満ちているように、濁っていた。
笹木さんは男と目を合わせたまま、ゆっくりと個室の奥の壁まで後ずさりをした。重心を低くして両足に力を溜めた。
「バゴーン」
笹木さんは全力で個室のドアに体当たりした。かなり劣化していたこともあり、個室のドアを支える金具はいとも簡単に壊れ、笹木さんはドアと一緒に真っ直ぐ倒れていった。
すぐに起き上がり、ドアの下を確認した。さっきの男がいない。
笹木さんは視線を感じ、トイレの入り口に目をやった。さっきの男が笹木さんを睨んでいた。しかし様子がおかしい。その男は裸で、皮膚が焼けただれたみたいになっており、更に所々皮膚が黒ずんでいた。ツンと消毒液の臭いがトイレの中に充満した。
男は両腕を上げ、笹木さんに掴みかかろうとした。男が笹木さんの両肩を掴んだと同時に、笹木さんは男の首を両手で掴んだ。グッと歯を食いしばり、殺気を込めて男の首を絞めている手に力を入れた。
「あああああああああああ」
男は悲鳴を上げ、スゥッと姿が消えた。同時に全身の力が抜けていく感じがした。笹木さんは今の出来事を頭の中で整理しようとしたが、
「きゅるきゅるきゅるきゅる」
トイレの外で車輪の回る音がした。トイレの外に出てみると、先ほど上ってきた階段辺りに人を乗せる台車があり、それを誰かが押しているのが見えた。
「きゅるきゅるきゅるきゅる」
徐々に笹木さんの方へ近付いてきているのが分かった。目を凝らして見てみると、台車を押している人はナース服を着ていた。しかし、その人には首から上がなかった。頭のないナースが台車を押しながら、笹木さんに近付いてくるのだ。
笹木さんは今起きていることが理解できず、ナースが近付いてくるのをただ見ているしかなかった。
笹木さんとの距離が数メートルくらいになった所で、ナースは足を止めた。
「消灯時間よ」
何故か足下から女性の声が聞こえた。笹木さんは自分の足下に目線を落とした。
笹木さんの足下にはナースキャップを被った女性の生首があった。目は酷く充血していて笹木さんを見上げて笑っている。
「早く部屋に戻りなさい」
女性の生首はニタニタ楽しそうに笑っていた。そして急に無表情になり、
「ここから出れると思うなよ」
そう言うと大声で笑い出した。
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笹木さんは台車にゆっくり近付き、台車をがっちりと両手で掴んだ。そして全速力で台車を階段まで押していき、一気に台車を首の無い女性ごと突き落とした。
「ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガッシャーン」
台車は階段を転がり落ち、壁にぶつかりひっくり返った。階段の下を見ると、女性の姿は消えていた。
とりあえず入り口のところまで戻ろうと、階段を下りた。階段を下り、廊下を歩いていると、外で会った老人が立っていた。笹木さんが老人に気付くと、
「コツンコツン」
と老人が診察室のドアを杖で突いた。
「おぬしの探し物はここじゃ」
老人が杖で突いた診察室は、笹木さんが二階に上がる前にドアノブに手をかけた部屋だった。すぐさまドアノブを回してドアを開ける。ドアを開け目に入ってきたのは、笹木さんの仲間の二人だった。二人とも倒れていて、白目を剥き、痙攣していた。笹木さんは二人に駆け寄り、
「起きろおまえら!」
耳元で叫んだ。その拍子に二人とも目を覚まし、飛び起きた。
「何があった?!」
二人とも頭を抱えている。
「病院に入ったら急に目眩がして、それから何も覚えてないんだ。」
「信二はどこだ?」
仲間がもう一人見つからない。診察室の中にはいなさそうだ。とにかく仲間二人に外に出て待っているよう伝えた。
診察室を出ると、まだ老人が立っていた。
「じぃさんありがとな!もう一人が見当たらないんだが、じぃさん知らねぇか?」
「たぶん下じゃな。地下のどこかにいる。でもそやつはもう手遅れじゃ。あやつに魅入られておるだろう。」
「あいつって何だよ」
老人は何も言わずに入り口の方に歩いていってしまった。
笹木さんは地下に行くことにした。階段を駆け足で下りていく。
地下に降り立ったところで、笹木さんの足が止まった。空気が今までと全く違うのだ。どこからともなく、不気味な寒気が笹木さんを襲っていた。
意を決して歩き出す。少し歩くと『霊安室』と書かれたドアが見えてきた。笹木さんはそのドアノブを掴んだ。
「ゾゾゾゾゾ」
背筋に悪寒が走った。ドアノブをゆっくり回し、ドアを開けた。
ドアを開けると、中には信二が立っていた。ただ、そのまわりには信二を囲むように人らしきものが数体立っている。その姿は、頭が半分無いものや内臓が出てしまっているもの、片腕が無いものなど様々だった。
「信二!」
笹木さんが叫ぶと、得体の知れないもの達が笹木さんの方へ顔を向ける。
「出ていけ、出ていけ、出ていけ、出ていけ」
一斉にしゃべり出したのだ。
その瞬間に笹木さんの怒りや溜まっていたものが弾けた。笹木さんはスゥッと大きく息を吸い込んだ。
「黙ってろクソ怪物ども!」
力の限り叫んだ。部屋の中に笹木さんの声が鳴り響く。すると一気に部屋の中は静かになり、得体の知れないもの達の姿が見えなくなった。すぐに信二に近付き肩を揺すった。しかし信二の目は焦点が合わず、何かをぶつぶつ呟いていた。
とにかく外に連れだそうと、信二の腕を掴み、無理やり歩かせた。霊安室から出る瞬間、物凄い吐き気に襲われた。体が動かなくなり、冷や汗が止まらなくなった。部屋の奥から呻き声が聞こえてきたのだ。
「がぁぁぁああああ!」
笹木さんは大声を上げ、無理に重いからだを動かし、信二を部屋の外に投げ出した。
振り返ると、部屋の奥に何やら奇妙な形をした人が立っているのだ。そして、おぞましい呻き声が部屋を包んでいる。
目を凝らしてその姿を確認した。その姿は人だ。人であるが全身に苦痛の表情をした顔が何個も、いや何十個も付いているのだ。そして禍々しい黒いオーラがそいつから溢れ出しているのだ。
笹木さんはその姿を見たとき、流石に怯んだという。ただ、同時にこいつをどうにかしないといけないという感情が体を支配していったのだ。笹木さんは拳を握り締め、拳に意識を集中した。力がどんどん湧いてくる。笹木さんが一歩前に足を踏み出したとき、腕を誰かに掴まれた。
「あやつを相手にしてはならぬ。」
またも老人が現れ、笹木さんの腕を掴んでいた。そして、その姿からは想像が出来ないほど強い力で、笹木さんを霊安室の外に引っ張り出した。
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霊安室の外に出た笹木さんは、自分が恐怖で震えていることに気付いた。膝が笑い、今にも座り込んでしまいそうだった。まわりを見ると、老人はどこかへ消えていた。
笹木さんは信二を抱え、病院の入り口へ向かった。信二は未だ正気を取り戻せずにいた。病院から出るときに「二度と来てはいかん」と老人の声が聞こえたような気がした。
病院の外には仲間二人が待っていた。信二も病院から出た途端に、正気に戻っていた。
「なんともないのか?」
笹木さんが信二に聞くと、信二は黙って頷いただけだった。とにかくここから離れようということになり、それぞれバイクに跨がり、地元へと帰っていった。地元に戻ると、みんな疲れ果てていたため、すぐに解散となった。
帰り際に信二が
「死にたくない」
と呟いたように聞こえたそうだ。
それから三日後、信二は行方不明になった。笹木さんと仲間たちは協力し合って、探しに探した様だが、今もまだ行方不明のままだという。
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僕たちは笹木さんの話を聞いて、無言になってしまっていた。あまりの出来事に衝撃を受けていたのだ。
「これで俺の話は終わりだ。まぁあれだな、心霊スポットってのは軽い気持ちで行くところじゃない。行くなら死ぬ覚悟をして行くことだな」
笹木さんはそう言うと、みんなに帰るように促した。僕は最後まで残った。
「笹木さん、やっぱり霊感あるんじゃないですか!笹木さんも見える人なんですね!」
「あ?だから初めから言ってるだろ!俺は見えるものしか信じない。」
笹木さんは煙草を胸ポケットから取り出し、口にくわえて火を付けた、そして深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。
そしてポツリと呟いた。
「そろそろあいつを見つけてやらないとな」
笹木さんの拳は固く握られているのがわかった。
僕は嫌な予感がしたので、急いで休憩室を出ようとした。
「おい龍悟!」
恐る恐る振り返る。
「お前も霊感あるんだよなぁ?」
笹木さんはギラギラした目で僕を見てきた。この嫌な予感が現実にならないことを祈りながら僕は静かに休憩室のドアを閉めた。
作者龍悟
僕の話を読んでくださった皆様のおかげで、怖話アワードを受賞することができました!
僕の話で少しでも楽しい時間を過ごしてもらえるように、これからも投稿していきたいと思います。
これからもご愛読の程よろしくお願いします!