地元ネタです。
私は廃墟マニアである。
廃墟へ赴くなら出来れば早朝か日中の方がイイ!
夜な夜な廃墟を巡るのは基本的に美しくない。
怖さを求めたいのか?
霊体験をしてみたいのか?
それなら墓地か火葬場に行けばいいのだ。
私は廃墟美を求めたい。
ある日曜日の早朝・・・
前日から決めていた廃墟へ向かう為、原付に跨った。
市内の廃墟へ赴くには駐車スペースを必要としない原付が一番いいのだ。
もう30年程前のスクーターなのだが「ヤマハ サリアン」をご存知の方はそう多くは無いだろう。
まだまだ現役で元気に走っている。
そんなことは、どうでも良いことなのだが・・・
今回の廃墟は精神病院跡である。
新築のドデカイ病院に移転となった為、お払い箱になった物件だ。
2スト特有の青白い排気を撒き散らしながら走ること15分・・・
国道沿いにその病院はある。
1階は全ての窓と扉に目張りがしてあり一見侵入する所など無い様に見える。
しかし・・・
そんなことは、どこの廃墟に行っても同じことで建物を1週すれば何処かに必ず侵入口はあるものだ。
愛すべき同胞たちに感謝する瞬間である。
この病院だが実は廃墟になる前に何度か来たことがあった。
脳や思考に障害があったとか、心の病だった訳ではない。
私がデパートマンだった頃、パジャマやタオルなどを外販に訪れていたのだ。
仕事ではあったが10回は来院していたので昔のこととはいえ内部構造はある程度把握していた。
1階は外来受付と診察室
2階はラウンジとナースステーション(大)とリハビリ施設
3階4階は病室とナースステーション(小)となっている。
B1階は当時行ったことが無かったので今回の目玉である。
まあ、病院のB1階は大体相場は決まっている。
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当時、3回目に外販に訪れた時にこんなことがあった。
いつも通り2階のラウンジスペースを借り商品を並べているとナース2人がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
「ピンクばばあムカつくよねぇ」
「言ってることも意味不明だし頭オカシイわ!」
・・・そもそも
「だからココに入院してんだろ!」と突っ込みを入れたかったが、若かった私は「ピンクばばあってエロイばあさんか??」などと馬鹿なことを考えた。
準備も終わり簡易的な売店を開店する。
途端に暇を持て余した少々一般離れした方々がナースや介護士に連れられやってくる。
殆どの者は自分の意思で購入することなど出来ず、それぞれ付き添いの者が強制的に購入する。
毎回2時間の時間制限があるので終了10分前からボチボチと片付けを始めるのだが結構な売れ行きなので持ち帰る商品などは殆ど無かった。
「今回も良く売れたなぁ」などと思いながらシングルハンガーを片付けていると・・・
視界の隅に何かが焼付いた。
目をやると全身、真っピンクの女性がこちらに近づいてくる。
ピンクのパジャマ、ピンクのスリッパ、ピンクのスカーフ、ピンクの髪の毛、ピンクの眉毛、ピンクの手袋・・・とにかくピンク尽くめなのだ!
一目で「あ!これがピンクばばあだ!」と判る徹底的なピンクだ。
しかし・・・
想像していたよりもずっと若く、どう見ても30代中盤位で中々の美人であった。
その異様な出で立ちとのギャップに固まってしまった私は「ピンクばばあ」に釘付けになった。
「ピンクばばあ」はドンドン近付いてくる。
私は我に返り、とっさに「今日はもう終わりですよ」と出来るだけやさしく言った。
次の瞬間、止まる事無く「ピンクばばあ」が私に抱きついてきた!
そして私の股間を弄りながら耳元で囁いた。
「私、サチコなの・・・もうすぐ殺されるの・・・」と・・・
突然の出来事と意外な言葉、そして「ピンクばばあ」いや「サチコさん」の淫靡な香りが若い私の動きを完全に止めてしまった。
一人のナースが「こらこら!また何してるの~」と割って入って来るまで動けなかった。
「今度来る時はピンクのパジャマ持ってきて貰わないとねぇ~」と言いながらナースは「サチコさん」を連れて行こうとした。
サチコさんは「今度なんか無い!もう殺されるんだから!」と言いながら暴れ出してしまった。
「キィー!キィー!」と甲高い奇声を発するサチコさんは職員4人に押さえ込まれ、引きずる様にエレベーターに乗せられ4階まで上がっていった。
こんなことは日常茶飯事なのだろう、職員もナースも別段驚いた様子も無く淡々と処置をしていた。
精神病院で有りがちなドラマのワンシーンでも観ているかの様な感覚であった。
「ピンクばばあ」いや「サチコさん」は文字通りピンクでエロでファンキーだった。
次の月・・・
また外販の日がやってきた。
今回はしっかりピンクグッズを仕込み「対サチコ対策」は万全だ!
病院に着き受付に挨拶をして2階のラウンジで準備を始めた。
一番目立つ場所にピンクのパジャマとネグリジェ、ピンクのバスタオルとフェイスタオル、ピンクのスリッパ、肌着売り場から借りてきたピンクのブラとパンティを並べた。
1時間経ってもサチコさんは現れない。
「もうすぐ閉店の時間なのに・・・」と考えていると一人のナースがピンクグッズを手に取りながら言った。
「これサチコさん用で持ってきたのね。」
「・・・でもね・・・サチコさん2週間前に亡くなったのよ・・・」
「折角持ってきてくれたのに御免なさいね。」
・・・ショックだった。
たぶん死ぬまで外界に出ることは無いサチコさんの唯一の楽しみが「ピンク」だったに違いない。
もっと早くサチコさんのことを知っていれば色んなピンクグッズを着せてあげられたのにと思った。
衣料品業界に居ながら、これだけ嗜好が明瞭な、お客様に満足を与えられなかったことを悔やんだ。
どうして亡くなったのかも気にはなったが、そんなことを聞いたところで私などに教えてくれる筈も無いので聞かなかった。
ただ・・・
あの時の囁きがどうしても引っかかっていた。
その後、何度か外販で赴いたのだが「紫ばばあ」と「グリーンばばあ」と呼ばれる患者も居たことを余談として付け加えたい。
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前置きがずいぶんと長くなってしまったが・・・
院内に侵入するときに上記の様な出来事を懐かしく思い浮かべながら目張りされ全く陽の入らない1階へ入った。
1m先も見えない。
すかさずマグライトを点け耳の横へ持っていく。
階段を発見したが、十数年ぶりに来た為か?少し狭く感じた。
1階から2階の踊り場を折り返すと2階の窓からの陽が入りマグライト無しでも問題は無い。
そのまま4階まで上がる。
東海廃墟探訪②でも書いたが私は上から順に攻めるタイプなので一度上がれる所まで上がるのだ。
一応、屋上にも行ったが鍵が掛かっており出ることが出来なかった。
4階を探索。
「そういやサチコさん4階に連れていかれたっけ・・・」
また思い出す。
無意識のうちにサチコさんの片鱗を探すが、ある筈も無い。
院内は大変明るく綺麗だ。
各窓に嵌った鉄格子が異様な雰囲気を醸し出してはいたが・・・
中通路にトイレと、その横に風呂を発見!
迷わず風呂へ!
病院廃墟探索で私の一番の楽しみが風呂なのだ。
扉を開けると六畳程の脱衣場があった。
その向こうに曇りガラスのスライドドア・・・
建物の中央付近にある風呂なので窓も無く暗い。
すかさずマグを点灯。
スライドドアを開けた。
十畳程のスペースに私の大好きなステンレスの湯船があった。
興奮のあまり思わず「おっ!ステンじゃん!」と声を出してしまった。
5人はゆったりと浸かれそうな大きさだ。
暫く使われていないのだが、締め切られた空間にあった為か保存状態がすこぶる良い。
あまりの美しさに見惚れてしまった。
多分、10分は居ただろうか・・・
そろそろ下の階へ行こうとスライドドアに手を掛けた。
「???」
何か違和感が・・・
「なんだ?」
匂い・・・?
嗅ぎ覚えのある淫靡な香りだ!
「サチコさんがいる!」と直感し湯船の方へ振り向いた。
「いた!!」
湯船の中に素っ裸のサチコさんが立っている。
やっぱりサチコさんは綺麗だった。
顔は勿論、大きくツンと上を向いた胸とピンクの乳輪&乳首、括れたウエスト、スラっと伸び均整の取れた足、その付け根にある整ったピンクのデルタ・・・
怖いなんてこれっぽっちも思わなかった。
多分、この廃墟に入る時からサチコさんのことを思い出していたので呼んでしまったのだ。
しかし、そんなことで現れるのは成仏出来ていない証拠だ。
私は訪ねた。
「何か言いたいことがある?」
「・・・・・・」
「言ってもイイんだよ」
「・・・サチコ・・・溺れたの・・・」
「お風呂で?」
「そう・・・誰もいなかったの・・・」
「介護の人は?」
「タオルを取りに行ったの・・・サチコ、白いタオルは嫌なの・・・」
「ピンクのタオルを取りに行ってくれたんだ」
「そう・・・そしたら・・・」
「そしたら?」
「死んだお父さんが・・・」
「お父さんが?迎えに来たのかい?」
「うん」
「苦しかった?」
「全然苦しくなかったけど・・・死んじゃった・・・」
「そう・・・お父さんには会えたの?」
「うん、毎日会えるよ」
「ふ~ん良かったね」
「うん」
「・・・そろそろ帰ろうね」
私は数珠を構え般若心経を唱えた。
サチコさんは徐々に透け・・・逝った。
綺麗で穏やかな顔だった。
余韻に浸っている場合ではない!
私は足早に階段を駆け下りた!
一刻も早く、この廃墟から出なければならない!
今の出来事で他の霊達も助けを求めて集まり出した!
流石に一体一体の相手は無理だ!
入って来た1階の目張りを突き破って外に出た。
俗世界の光は眩しく目が痛い位だった。
それよりも膝から着地してしまったので膝が痛い。
痛いが数珠を構え般若心経を唱える。
廃墟全体を包み込むイメージで・・・
廃墟全体から感じる「ざわざわ」した感じが無くなるまで続けた。
やれやれ、とんだ目に合った。
膝が痛い・・・
見るとジーンズに血が滲んでいる。
廃墟で怪我するなんて最悪だ!
更に目張りを壊してしまった。
痛い膝を引きずりながら目張りを直す。
いつか訪れるであろう同胞達の為に・・・
サリアンのシートに腰掛けタバコを一服。
携帯を取り出し嫁に電話をした。
「玄関に塩頼むわ」
作者andy兄
地元ネタです。
地元の方は何処なのか判ってしまうかもしれませんが・・・
懐かしく思い出したので書きました。
読んで頂けると嬉しいです。
まいど書きますが読者様と投稿者様の利益を守る為、コメントをお返しすることは致しません。
ご理解下さい。
SNS的な個人にコメント出来るシステムが有れば個々にお礼が出来るのですが・・・
ただし質問には出来る限りお答えします。