散々、書いてきたが私は廃墟が好きだ。
だが、それと同じくらい「釣り」が好きなのだ。
正確には「好きになった」と言った方が良いか・・・
私には2人の弟がいる。
2人共「釣り」が巧い。
メインは「フライフィッシング」になるのだがプロ級なのだ。
そんな2人の誘いを何度も断り続けていたのだが・・・
「老後に兄弟3人で釣り三昧するべ!」という彼等の言葉に、まんまと騙され釣りの世界へ足を踏み入れてしまったのだ。
ずっとやりたかった・・・
やりたかったのだが何にでも嵌ってしまう自分の性格を熟知しているからこそ断り続けていた。
今でこそ毎朝出掛けたりはしないが覚えたての頃は毎朝3時に起き近くの川へ虹鱒やアメマスを釣りに出掛けていた。
毎朝だ!
しかし北海道には冬が来る・・・
どの地域にも冬は来るが北海道の冬は寒く雪深い。
空気はしばれ、川も湖も氷に覆われ釣りにならない。
「いや~今日もしばれるねぇ~」は何も吾郎さんだけが使う言葉ではない。
道民全員の冬の朝の挨拶なのだ。
・・・・・・・・・・
すっかり釣りに魅せられてしまった私は、どうしても釣りがしたかった。
1月の北海道は連日マイナス20℃以下になる。
夜中にはザラにマイナス30℃を下回る。
一番下の弟に聞いてみた。
「この時期は何釣るの?」
「ワカサギだべ!」
「連れてって!」
てな具合で連れて行ってもらったのだが・・・
日中は遊漁料を徴収しに来るらしく、たかだか数百円をケチって夜釣りに行くことになった。
初めてのワカサギ釣り・・・
しかも夜釣りだ!
何か特別なことをしている様でウキウキだった。
旭川を21時に出発し富良野にある金山ダムに23時頃到着した。
それから機材をソリに積みダム湖の中央まで歩くこと15分・・・
気温はマイナス35℃・・・
鼻で息をすると鼻毛が凍り、くっ付く位のしばれだ。
「この辺でやるべ」弟が言った。
そして専用ドリルを組み立て氷に穴を開け始める。
「1人2穴として4穴でいいな」などと言っているがかなりの重労働に見える。
「兄貴、自分の穴開けろよ」
「・・・はい・・・」
思っていた以上の重労働・・・
「俺・・・初心者だから1穴でいいわ」・・・一つだけ開けた。
穴を真ん中にしてテントを張る。
アウトドア用のガソリンストーブを点けるとTシャツでもイイ位あったかい。
たまに換気をしないと大変なことになるのだが・・・
タバコを吸うときにライターの点きが悪くなったら換気の合図だ。
いよいよワカサギ釣りがスタートしたのだが夜釣りは氷に開けた穴からテント内のランタンの光が水中に漏れ、そこへワカサギが集まって来るらしい。
「陽が昇ったら遊魚料徴収に来るから暗い内に帰るぞ!」
「了解!」
面白い様に釣れた!
3時間で私が100尾、弟は300尾・・・
「兄貴は穴1つだからなぁ」
・・・なんて兄思いの言葉
ワカサギ釣り・・・ハマった・・・
次の日・・・
同僚にコノ話をした。
「彼女がやってみたいって言ってたから今度連れてって下さいよ」とのことなので休みの前夜に出発することにした。
道具が無いので弟に3人分の釣具を借りたのだが・・・
問題は「穴」である。
3人分・・・
最低3個だが私は2回目だし2個は使いたい。
弟に良い方法は無いか?と訪ねると・・・
朱鞠内湖なら日中アチコチでやってるから開いてる穴を使えるぞ!と教えてくれた。
後で知ったのだが・・・
日中が有料で夜間は無料な訳ではない。
夜間は釣ってはいけないらしい。
ワカサギ釣りの管理費は遊魚料と各市町村の経費で賄っている為、私達がやっていた行為は厳密に言うと密漁だった。
この場を借りてお詫びする。
「ごめんなさい」
さて、同僚とその彼女、私の3人は朱鞠内湖に向かった。
「午前0時前には着くな」
「そうですね!着いたらジンギスカンでもしましょう」
途中のスーパーで食材を買い準備万端だ。
23時半には現地到着。
穴を探す。
うまい具合に6個の穴が密集した場所を発見!
早速テントを張った。
外は寒い。
朱鞠内は道内でも有数の「しばれる」地区にある。
夜中は連日のマイナス30℃オーバーなのだ。
周りには何も無いので真っ暗だが夜釣りを楽しむテントが私達の他にも10張ばかりあったので心強かった。
唯一の心配と言えば若い女性がいたのでトイレだけだ。
彼女曰く・・・「大丈夫!その辺でスルからw」だそうで・・・一安心?
取り敢えずは腹ごしらえと言う事でストーブの上に鍋をセットしジンギスカンを始めた。
合間を見て私が全員分の仕掛けを作りセット!
同僚カップルはイチャイチャしながらビールを飲みジンギスカンを食べている。
「何か俺邪魔な様で・・・」と茶化してやった。
それにしても仲が良い。
一通り食べて仕掛けをそれぞれの穴に垂らした。
釣れる!
やっぱり面白い!
しかし・・・
釣れすぎて忙しい。
初めはそれぞれに2個の穴を使っていたが途中で1個ずつにした。
それでもシロートの私達には十分楽しめた・・・途中までは・・・
それぞれに100尾を越え少々中だるみに入った頃・・・
「・・・・・・・なの?」
「んあ?何か言った?」
「いいえ・・・」
気のせいかと思ったのだが・・・
暫くするとまた
「・・・・・・・なの?」「・・・・・い」
やっぱり聞こえる。
近所のテントからだろうと思った。
でも違った。
テント内の空気が濁る。
決して一酸化炭素のせいではない。
赤黒い濁りに見えた。
「こ、これはマズイ!」「テントから出て!」私が言った。
同僚は「友人宅にて・・・①」のKだったので何か霊的な問題が発生したのだろうと判った様ですぐに立ち上がった。
彼女の方と言えば「・・・なに?何がどうしたの?」てな感じで呆気に取られていた。
「早く!!!」私が言うと同時に使っていなかった穴から「手」が出た!
そして腕が伸び彼女の足を掴んだ!
もう一つの穴からも腕が伸びKの足を掴む!
厚さ80cm以上の氷だと言うのにニョキっと!
そして・・・
「シアワセナノ?」「ソンナノユルサナイ!!」
2人の足が引っ張られ穴の方へ引きずられた!
2人共恐怖のあまり声も出ない。
顔は引きつり今にも気が狂いそうな程だ。
今日は釣りだ!
私は数珠も塩も持ち合わせていない。
とっさに穴から出た2つの手首を掴み捻りあげた!
「悪霊退散!」とは言わないが除霊の佛紋を唱えながら。
「手」は2人の足から離れた。
離れた途端に皮膚が「どろ~」っと溶けて「ズルッ」と私の手から滑り落ちる。
そして・・・
穴の中へ消えていった・・・
私の手にヘドロ臭い皮膚の残骸だけが残った・・・
私は手を雪に擦り付けながら言った。
「帰ろっか!」
2人は頷く。
「ビビった?」
更に意地悪に聞いてみた。
Kは「なまらビビりましたよー!」とイイ
彼女はと言えば「オシッコしたかったから全部漏らしちゃったw」と言って笑っていた。
確かに笑うしかない状況か・・・
下半身が濡れた状態では凍えてしまうので2人は一足先に車に戻る様に言った。
氷点下35℃の中、1人での片付けはキツい。
ワカサギ釣りのことで頭の中が一杯になっていてココが最恐スポットであることをすっかり忘れていた。
雪の無い季節には何度と無く足を運んだ朱鞠内湖・・・
其の度に労働者や自殺者の霊を目撃していた。
今回、釣りをしたポイントは遠浅から急激に深くなる所で自殺者が溺れてしまうポイントでもあった。
聞こえてきた「声」から想像すると・・・
男女間の愛の縺れから自殺した女性の悲痛な叫びであったと推測される。
仲の良いカップルに嫉妬の念を抱いたのだろう。
片付けを終えソリを引き車に戻る。
初対面で失禁してしまった彼女は相当ショックだろうな・・・などと心配していたが・・・
そんな心配は不要だった!
スッポンポンになった下半身に、着ていたダウンジャケットを履いて余ったビールを飲みながら「オシッコ臭かったらご免チャイナw」などど言っていたから。。。
こんなノリの娘とKは、その後すぐに別れてしまった。
私はすごくサバサバしていてイイ娘だと思ったんだけど・・・
作者andy兄
欲求不満 様よりコメントを頂きましたのでお言葉に甘えて書かせて頂きました。
連休だったせいか新着投稿が多く前作がトップページから落ちましたのでこんなに早く投稿することが出来ました。
朱鞠内湖のほんの一例です。
近寄る方が減る可能性もありますが、これでも北海道の観光をアピールしているつもりです。。。