こんばんは。ごめんね、こんな時間に。
電話に出てくれたってことは、起きてたのかな?私もね、実は全然眠れなくて……。だって、明日のことが凄く楽しみで仕方ないんだもの。
いよいよだね。私達の結婚式。長かったなぁ。結婚に至るまで5年も掛かったもんね。
あなたがなかなかプロポーズしてくれないんだもん。嗚呼、別に責めてるわけじゃないよ?私には分かる。キッカケがなかなか掴めずにいたんだよね。
え?何を言ってるんだ、って?
だからキッカケのことだよ。ほら、私のお腹の中にいる新たな命のこと。世間では「できちゃった結婚」とか「授かり婚」とか言われてるけど、私は全然恥ずかしくないよ。ちょっと順番が逆になっただけ。珍しいことでもないしね。
赤ちゃんの名前はどうしようか。字画の本を買って調べてるけど、なかなか候補が決まらないのよね……。あなたはいい名前の候補ある?
あー、黙ってるところをみると、考えてないんでしょ。男の人ってこれだから駄目なのよ。いい?名前は大切なものなんだよ。パパとママが初めて送る大切な贈り物なんだから。ちゃんと考えてよね。
それにしても楽しみだよね、明日の結婚式。白無垢もいいなぁとは思ったんだけど、着物はお腹が苦しくなっちゃうし……。やっぱりドレスにして良かったんだよ。
そうそう。私が注文しておいた指輪も取りに行ってきたよ。あなたが照れて、薬指のサイズを教えてくれないから、私の方で選んできちゃったからね。デザインも素敵なの。お互いの名前も指輪に刻んで貰ってあるのよ。
え?どうして謝るの?それにさっきから声が震えてるみたいだけど……どうかしたの?
頼むからつきまとうのは止めてくれ?
ははっ。何言ってるの。つきまとってなんかないよ。あなたのことを愛してるから、ずっと傍で見ていただけじゃない。婚約者に向かって、ストーカーみたいな言い方はよして。
え?妊娠なんてしてるわけがない、って?
やぁだ、本当、どうしちゃったの?今日はやけに意地悪なことを言うのね。
妊娠はしてるよ。だってもう3ヶ月も生理きてないもん。病院?行ってないよ。病院なんて行かなくたって分かる。最近、毎日毎日気持ち悪いし、食べてもすぐ吐いちゃうし……これって明らかに悪阻でしょ?
え?そんなもの、ただの妄想だ、って?想像妊娠だ、って?
あははははははははははははははは。莫迦ねぇ、あなた。人を妄想癖があるような言い方しないでよ。そんなことあるわけないじゃない。私のお腹には、確かにあなたとの赤ちゃんがいるんだよ。
さっきから妙に意地悪言うから変だとは思ってたけど……あなた、仕事のし過ぎでストレスが溜まってるんじゃない?あなたは真面目な人だからね。そして誠実で、とても優しい人。だからストレスも溜まりやすいのよ。でも大丈夫。安心して。結婚したら、私があなたを支えるから。ずっとずーっと、支えてあげる。死ぬまで一緒よ。
嗚呼、そうそう。言い忘れていたけれど、今、私がどこにいると思う?
……実はね、あなたのアパートの前にいるのよ。ドアを隔てた1枚向こうにいるの。あなたに会いたくて、深夜なのに来ちゃった。
ねえ、開けてよ。せっかく来たんだから、部屋に上げてよ。早く開けて。あなたの顔が見たいのよ。ねぇ、何してるの。早く開けて。ねえってば、ねえ。
電話切っちゃうの?でも無駄だよ。この間、あなたに内緒で合い鍵作っちゃったの。だって、結婚したらどうせ一緒に住むんですもの。それくらい当然よね?
ほぉら、開いた。
あれ?どうしたの、そんな青ざめた顔をして。
作者まめのすけ。