部屋の中にいたのは、一人の女性だった。
僕が始めから見えている・・・ってことは
「生きて・・・・・・る?」
いや。薄塩の目が死んだ。
「おおぉぅ・・・ぐふぅ。」
・・・グロいらしい。
女性は、ブツブツと何かを唱えていた。
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「ヮダシノァ"ガチャ・・・ヮダシノ・・・チャァァ"」
女性が顔をこちらに向けた。
グロくはない。グロくても僕にはそう見えない。
でも・・・。
その顔は、僕が今まで見たどんなものより、怖かった。
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本当に狂ってしまった人の顔。
焦点の合わない虚ろな目。
背筋を這う様に上ってくる悪寒。
足が床に張り付く。
おもむろにのり姉が口を開いた。
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「首吊りでしょ?」
女性は、またブツブツと言う。
「ァ"ガチ"ャッッ・・・ワタッ"ヮダシノッッ・・・」
女性が吼えた。
「ぃイィなァあ"ァ"イィィッッ!!!」
のり姉が顔をしかめた。
「当たり前だし。」
・・・?どう言う事だろう?
薄塩が、教えてくれた。
「目とか舌とかヤバい。《私の赤ちゃんがいない》って、騒いでる。」
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「ダッデダッテダッ"デッッショウグンッッジョウ"グンガッッ」
※薄塩同時通訳
「だってだってだって、ショウ君がショウ君が。」
のり姉が冷たく言う。
「ショウ君がじゃないでしょ。」
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「殺したのは、貴女だから。」
女性が更に吼える。
「ヂガゥヂガゥヂガゥ"ゥゥゥ"!!」
「違くない!!」
※薄塩同時通訳
「違う違う違う、な。」
「ああ。・・・状況がよく分からないんだけど。」
その間、のり姉は女性と怒鳴りあっている。
「ヮダシハヮダシハァァ"!ワルグナイィイ""!」
「ざっけんな!!この腐れ×××!!」
「ァ"ァ"ウ"ルザィィィ"!!ダッデダッテェェ!!」
「あ"あ"?!だってじゃねえ!この××!!!」
薄塩が、溜め息を吐いた。
「あの女の人、カレシに子供降ろさせられたっぽい。で、今、姉貴と全面戦争。・・・女子が使う言葉じゃねぇな。」
「確かに。」
「まったく・・・しゃあないな。」
薄塩が、また溜め息を吐いた。
そして、
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ガクッと、倒れた。
「薄塩?!」
だが、直ぐに薄塩は起き上がった。
薄く微笑みを浮かべて。
「おまっっどうした?!」
僕の問いに答えず、薄塩が女性に言った。
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「お母さん・・・。」
お母さん?!
「お母さん、行こう?」
薄塩がニッコリ笑って言う。
女性の目から、涙が溢れた。
「ァァ"ッァァ"ッ!◯◯ッッ◯◯ゥ"ゥ"ッッ!!」
誰だ◯◯って。
薄塩がまたニッコリ笑う。
「行こう?」
女性が、ズッ・・・ズッ・・・と、こちらに向かって来る。薄塩が、フラフラと歩きだした。
ちょうど小さい子どもみたいに、上半身をゆらゆらと揺らしながら。
「行くよ。」
のり姉が、薄塩の後に続く。
僕ものり姉についていった。
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薄塩が止まったのは、さっき開かなかった霊安室。
そこで、またドサッと倒れる。
のり姉が言う。
「先に行ったっぽい。・・・あんたも行けば?」
女性は、
「◯◯・・・◯◯ゥ"。」
と言いながら扉に手を掛けた。
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ガチャリ
いとも簡単にドアが開いた。
広がっていたのは、闇
女性の姿が、闇の向こうに消える。
女性が完全に見えなくなると、ドアは勝手に閉まった。
必死に僕が抱えていた薄塩が、いきなりムクッと起き上がった。
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「もう行った?てか逝った?あの人。」
は?
「薄塩・・・乗っ取られてたんじゃ?」
薄塩が、ニヤッと笑う。
「ハッタリ。」
「はぁ?!」
「前にも言ったじゃん。人間を乗っ取るのは、そうそう出来る技じゃないって。」
「えぇー・・・。」
「うん。取り敢えず放そうか。」
僕は慌てて薄塩を放した。
のり姉が薄塩に向かって顔をしかめた
「甘過ぎじゃない?」
薄塩が肩を竦めた。
「姉貴がキツすぎるんだって。」
むう。と、のり姉が膨れっ面をした。
そこで敢えて質問するのが僕だ。
「あの、このドアって・・・霊安室じゃ??」
のり姉が言う。
「この病院、扉は全部引き戸なのに、ここだけわざわざ普通のドアでしょ。・・・このドア、この病院の奴じゃないよ。」
「じゃあ!このドアは・・・?」
事も無げにのり姉が言った。
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「あっちとこっちを繋ぐドア。」
思わずのり姉に聞く。
「じゃ、最初なんで開けようとしたんですか・・・?」
「開いたら面白いから。」
「えぇー・・・。」
ポン、と薄塩が僕の肩を叩いた。
「そういうのが姉貴だ。」
・・・・・・何か納得。
「行こーぜ?」
薄塩が颯爽と出口に向かう。
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パチパチパチパチ・・・
何処からか拍手が聞こえた。
薄塩がスッと片手を挙げた。
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・・・で、最後に少しだけ。
あのドアは、まだあそこにあるのだろうか。
ショウ君とは、何処の誰なんだろうか。
本当に最後に
貴方がもし、病院で見慣れないドアを見つけたら、それは・・・・・・。
作者紺野
どうも。紺野です。
あの時の目は、本当にトラウマです。
正直、ミズチ様の時よりビビりました。
話はまだまだ続きます。
もし良かったら、今後もお付き合い下さい。
年内にはもう一本書きますよ!
・・・出来れば。