母親が亡くなって一人暮らしになった頃の話。
でっかいオスネコが家に住み着いた。
白地に黒の斑の入ったネコである。
懐くでもなく、物置の中に入り込み、私が用事で中に入ると、激しい威嚇、そして、激しい勢いで逃げ回る。
触りでもしたら、大怪我させられる。
過去に、家に入ってきた野良ネコを触って、指先を貫通するほどの怪我をさせられたことがあり、
このネコは、そのネコよりかなり大きい。犬に近い大きさ…。
小さな猛獣が、私のテリトリーに入り込んで来た。
ある時、私が物置の二階に上がって、戸を閉めて作業道具を探していた時、そのネコが入り込んでいた。
大暴れして、逃げ回る。度肝を抜かれた。
散々暴れて、陶器類を粉々にして、有ろう事か、開けてある窓から飛び降りた。
殺してしまったか?
窓から下を見る。そこにはネコはいなかった。
あくる日、玄関から出て物置の方を見ると、
獲物を狙う時の姿勢で、様子から見ると狙われているのは私のようである。距離5〜6メートルである。
私は、足下にあった瓦礫をネコの方に投げた。
当てる気は毛頭ない。
走って逃げる様子から全く怪我はしていないようである。
ひとまず安心した。
しかし、5メートルほど退き、ネコはさっきの姿勢で、こちらを睨みつけている。
それから毎朝、ネコは私を睨みつけていた。
距離は少しづつ近づいてくる。
恨まれているのか?
ある日、何時ものように外に出ると、ネコはいなかった。
諦めたか?
そう思った時であった。
私の背後から、足首あたりをザリっと何かで擦られた。それはタワシのような感触であった。
驚いて振り返る。
そこには件のネコ、いつもとは違った感じの…。
もしかして、と思い、私はネコの前足のところ両手を入れて持ち上げた。
酷く抵抗されて、噛みつかれるのを覚悟して…。
ネコの反応は以外であった。
こいつ完全に力を抜いている。
相当の重量、後ろ足をだらんとして尻尾だけ動かしながら、
喉を思い切り鳴らしている。
嗚呼、家族が増えた。
鬱陶しいくらい甘えん坊な奴が…。
かなり昔の体験である。
彼は一人暮らしの寂しさから、私を救ってくれた。
彼は家にいる時は、私のそばを離れなかった。
そして、息を引き取る時も、私の膝の上であった。
その後も、時々会いにきてくれた。
私が寝ている時に、ざらっとした硬い毛並みの頭を私に擦り付ける感触を感じることがある。
今は天国で暮らしているだろうか?
もしくは、生まれ変わっているのかもしれない。
今は、BOSSにありがとうと言いたい。
作者純賢庵
大き過ぎる猫の話、怪談というかほんの少しの怪で申し訳ないです。
大切な絆は人と人との間だけではないと思われた出来事だったから書きました。