学校から帰ってきた僕は、玄関で靴を脱いだ。友達から借りた漫画を早く読みたかったから急いでた。脱ぎ散らかしたスニーカーを揃えようともせずに。
そのまま部屋に上がろうとした時だ。僕より先に帰ってきていたお姉ちゃんが手で「待った」を掛けた。
「靴。揃えてきて」
「えー、別にいいじゃん。急いでるんだもん」
「だめ。脱いだ靴はちゃんと揃えなきゃ」
お姉ちゃんはスッと玄関を指差した。
「昔はね、お葬式から帰ってきた時は必ず靴を揃えなきゃいけないって言われてたんだよ。死んで仏様になった人にとって、靴は生きた人間の象徴だから。死んだ人は靴を履いて歩くことは出来ないからね。靴を脱ぎ散らかしたままにしておくと、死んだ人が羨ましがって集まってきちゃうの。だからちゃんと揃えなきゃだめ」
「……嘘だぁ。そんなのメーシンだろ」
お姉ちゃんはたまに怖いこと言って僕をからかうことがあった。その時も冗談だと思って、特に気にしないまま部屋に上がった。
すれ違いざま、お姉ちゃんはポツリと言った。
「なら見てみなよ。自分の靴を」
はっと振り返る。
狭い玄関先に、いつの間にか大勢の人が集まっていた。大人から老人、僕と同じくらいの子どももいた。みんな窮屈そうに身を寄せ合ってじっと立っている。
その人達は一斉に指差した。
ひっくり返しのままになっている僕のスニーカーを。
作者まめのすけ。