私の経営しているリサイクルショップに、ある日、不思議な宝石が持ち込まれた…
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「店長?これなんの石ですかね…?」
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うちで働いているアルバイトの
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『皐月 美緒』
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が、手にしていたネックレスを受け取り見てみたが、今まで見たこともない石で、困惑を隠しきれなかった…
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最近、私の体調不良が原因で殆ど彼女に店番を任せてしまっている…
7時からは、彼女が他の仕事のため出かけて行くため、私も店に立つが…なんとも情けない話だ。
持ち込まれたネックレスをどこで手に入れたのかを聞くために、店に出る…
すると、これまた不思議なファッションをした中年女性が美緒に出されたコーヒーを啜っていた…
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「あの、どうも…私この店の店主をしているものです。」
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と挨拶をすると、コーヒーをテーブルに戻し会釈をした…
マダムと言った雰囲気の彼女は、一つ咳払いをすると、この石について話してくれた。
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「私が生まれた頃…うふふ…こう見えて私(わたくし)齢90を超えてるのですけれど…」
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その言葉に、私も美緒も驚き顔を見合わせた…
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「うふふ…見えないでしょう…まあ、それは置いといて…その石は私が生まれた頃、私のお婆さんが私の母に送ったものなの…その後、直ぐにお婆さんは死んでしまったのだけれど…」
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それを、またこのご婦人がお母様から頂いたのだろう、と察し…
そんな大事なものをこんな、しがないリサイクルショップに売っていいのかと、尋ねた…
すると、顔にニッコリとシワを寄せ…ある不思議な話を話してくれた。
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なんでも、この石には不思議な力が宿っているとのことだった。
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「このネックレスを私が貰ったのは実はつい最近なの…ふふふ…お気づきかしら?母から貰ったのよ…」
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え?
さっき、この婦人は90歳以上だと言った…お母さんは一体何歳なんだ…?
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「うちの母は140歳を超えているわ…私は末っ子だから、母が50を超えてからの子なの…」
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だいぶ、高齢の出産だ…
しかし、140歳を超えてまだ生きているのか…
それを聞くと、流石に亡くなっていると話した。
しかし亡くなったのはつい最近だということも付け加えた…
それは、このネックレスを手放してから…急に歳をとりはじめ、あっという間に死んでしまったと言う…
その時に、一枚のカラー写真をカバンから取り出し私たちの前に差し出し、衝撃の一言を言った…
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「母です。」
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え?
これが?
孫じゃなくて?
そこに写っていたのは、とてもこの婦人の母親とは思えないお嬢さんが写っていた…
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私「ちょっと、ご冗談を…」
美緒「これ私より若いんじゃ…」
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私と美緒はその写真をマジマジと見て同時に口を開いた。
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「多分この石の力ね…」
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なんとも信じられない…
でも何故、そんな物をウチに売ろうというのか?そもそも、こんな初めて見るものに幾らの値を付ければいいのか…
手に取り、眺めた…
その時だった。
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「っ!!!ういったた!」
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背中に痛みが走り仰け反る…
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「い…いたたた!」
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すると、美緒が私の身体を支えてくれた。
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「どうなさったの?」
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と、婦人が驚き立ち上がったが、私は手のひらを前に突き出し
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「だ…大丈夫です。いつもの腰痛ですから…っ」
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と嘘をついた。
実は、私の背中には人には言えない不気味なデキモノが出来ている…
美緒にも話していない…
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『人面瘡』
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人はこれを見てこの言葉が頭に浮かぶだろう…
早い段階で医者に行けば、医者だって驚くことはないだろうが、今の状態はとても見せられない…それほど怖ろしく大きく育ってしまった…
ブクブクと背中が動く感覚にいつも悩まされている…
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なんとか、痛みが収まり気を取り直して石を見る…
不思議な色をしている…
グリーン。
ブルー。
パープル。
レッド。
クリアー。
ホワイト。
ブラック。
どれともつかない…そんな色。
見ていると、吸い込まれるような感覚に落ちる…
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「綺麗ですね…」
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その一言に尽きる。
しかし、買い取るには値段を付けなければならない…
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「お幾らで売っていただけますか?」
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と、いつも使う常套手段を用いる他ない。
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「そうね、ダイヤでも、サファイアでもパールでも古代ロマンの詰まった化石でもない、ただの綺麗な石ですもの…5000円位かしら。」
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この手段は、こちらが思っているほど、客が値を高く付けた時には、言葉巧みに安く見積もり、安く付けた時には、少し上乗せして見積もる手段だ…
だか、婦人は私の思うよりも安く付けた…
私的には万を超えるだろうと判断していた。
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「これぐらいでどうでしょうか?」
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と、電卓を打ち、婦人に見せる…
婦人は電卓に目を落とし、「あら…」と私の顔を見て…
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「それで構わないわ…これで、貴方がこの石の所有者ね…うふふ」
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と、意味深な笑顔を見せた。
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実際、この手のものには対した値は付けない…婦人が言った五千円がいいところ。
しかし私はその石に¥1,8000の値を付けた。
それほど美しくて…怪しくて…綺麗だった。
笑顔で頭を下げ、店を出てゆく婦人は…何処と無く来た時よりも老け込んでいるように見えた。
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さて、この石を店で売るかどうかだ…不老不死の石…何とも信じがたい…置いたとしても売れるとも思えない…遠目で見た感じでは、対した物には見えないからだ…
暫くは、裏にしまっておこう…
と、貴金属などをしまう金庫に入れた…
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「あれ?店に置かないんですか?綺麗なのに…」
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美緒が、私の肩に手を置き金庫を覗き込んでそう言った…
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「うん、売れるとも思えないしね。それに、なんて石か尋ねられた時、困るだろう?まさか、不老不死の石ですぅ…とも言えないしな…」
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「あはっ…それもそうですね」
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その時だった…美緒が声を上げた。
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「きゃあ!!?何ですかコレ!?」
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首元に違和感がある…
恐る恐る、首に手を回してみて驚いた…
何かある…
それは、クネクネと動く…
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「赤ん坊の手…?」
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美緒の言葉に寒気を覚えた…
急いで鏡の元に行き、服を脱いだ…
背中を見る…
人面瘡に手が生えている…
いや、身体が出来つつあった…
部屋の入り口で、真っ青な顔で美緒が覗き見ている…
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「そ…それなんなんですか…」
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「驚くのも無理は無いよな…人面瘡だと思う…」
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美緒に見られてしまった事は仕方がないと、全て話した。
私の体調不良の原因がまさか、こんな異常としか言いようがないものだなんて、と驚きを隠せない様子だった。
すると、美緒はある話を話し始めた。
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「弟が…店長の後ろに何か憑いてるって話したんです。
まさか…ってその時は信じなかったんですけど…やっぱりあの子…見えるんですね…」
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彼女には弟さんが居る。
名前を
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『皐月 未来』
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と言った。
以前、彼が美緒を訪ねて来た時に、彼と色々と話をした。
その時、会話中、私の後ろに何者かが憑いていると話した…
その時は、私自身も信じようとも思わなかったが、この通り人面瘡が出来ている…
美緒は更に続けた。
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「弟は、何か…何者かの呪いだって話していました…」
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呪い?
私が呪われる覚えなど無かった…
一体誰が…
その時、ピンと頭によぎるものがあった…
私は最近、毎晩、悪夢を見る…
その夢に、一人の老人が現れ
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『呪い殺してやる…呪い殺してやる…』
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と、私を追い回すのだ…最終的に、私の背中に抱きつき、私が倒れ、噛みつかれ、食い潰され、死に至ると夢から覚める…
衝撃的なこの夢を何度も見ているため、頭から離れずにいた。
その老人の顔は、何処かで見た覚えはあるものの、思い出せなかった。
その夢の話をさわりだけ美緒に話すと、あることを思い出したように話した…
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「店長!弟が話していたんですけど、この店にアコースティックギター置いてませんでしたか?」
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あった。
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『MARTIN(マーチン)D-18 1939』
三十年代製造のアコースティックギター界の名器だ…
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「弟の友達で『美波』くんって子がいて…今は死んでしまって居ないんですけど…その子、不思議な子で…
人を惹きつける魅力があって…
でもそれだけじゃなくて、霊とか、おかしなものまで惹きつける子だったんです。その子が、この店にあったギターに触れた後…何かに取り憑かれたようにして亡くなったんです…列車に飛び込んで…」
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何?
あのアコースティックギター…
そうだ…確か…おかしな札が貼られていた…
札自体は封じる為の物だったが…
私を呪いにかけようとした者は、恐らく、私がその札を剥がすと予想していたのだろう…
表からは見えないが、ほんの少し角度を変えただけで見える微妙な位置に貼られた「呪い封じ」の札…剥がせば必ず呪いにかかるように細工をして…
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「そうだ!!あのギターをこの店に持ち込んだあの老人!あの人が夢に出てくる老人に間違いない!」
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私は思わず大声を出していた。
この店に品物を売った人には署名をもらっている…
そのリストを急いで開く…
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「何処だ…何時だったか…」
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「あった…」
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『木村 宗四郎』
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ん?聞き覚えがある…
確かあれは、30年前…この名前の人物がこの店に訪ねてきたことがあった事を、その時の強烈なインパクトから覚えていた。
この店は元々質屋で、父の代から、今の買取販売スタイルに変更したのだが…その頃はまだ質屋として営業していた。
祖父がまだ生きていたからだ…
『木村 宗四郎』なる人物は、お金を、ある物品を質入れして、借りようとこの店にやって来た…
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「木村…宗四郎さんでよろしかったです?」
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父がその中年男性に尋ねると、
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「おう!そうだ!!」
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と、彼的には普通に話しているつもりなのだろうが…私的には、声の大きな人だな…ってことが、第一印象だった…
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「どうも何時もご利用頂きありがとうございます…
で、木村さん…このダイヤの指輪…言いにくい話なんやけどな、ニセモンなんですわ…
また…しょうもないモン持ってきましたなこりゃ…あはは」
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大阪出身の父が関西弁の強めの口調で話す時は、お帰り頂く時のお決まりパターン…
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「な!なんだと!そんなわけは無い!!もう一度見直してくれ!」
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「何べん見たかて、変わりませんよ…ですから、希望の20万はお貸しできませんわ…貸せても1000円位のシナモンでっせ?」
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「千円⁇馬鹿な…三十万で購入したものなんだぞ?!!」
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「そんなこと言われましても、ホンマにニセモンなんやから…」
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「千円ばかり借りたって…
教祖様になんて言われるか…」
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「木村さん…前にも言ったけど、そのおかしな宗教…辞めた方がよろしおまっせ?
どんっどんっ、お金をむしり取られるのがオチなんやから…」
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「馬鹿なことを言うな!!彼の方はな…俺を…俺の家族を救ってくれた救世主なんだぞ!!!その方のお言葉を頂くためには、どうしたって金が必要なんだ!…頼む!千石さん!頼むぅぅ…」
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と、父にすがる姿は、みっともなく惨めなものだった。
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私は子供ながらにこの会話を店の奥で聞いていたが、『宗教』という言葉を聞いて、何とも気味が悪かったのを今でも覚えている。
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「店長!そのお爺さん…私も知ってる!
そのリストの名前の書かれた所にある日付の、その翌日の新聞に載ってたの…
『木村 宗四郎さん(87)トラックに跳ねられ死亡…』って…その記事を読んだのは、たまたま。
弟から美波くんが事故で亡くなったって話を聞いて…そんな馬鹿な…って新聞を開いたの…そしたら、その記事が…美波くんの記事の隣に…
弟が言ってたよ…人を呪わば穴二つ…って言葉があるように、人を呪うとその呪った人も死ぬか地獄に落ちるって…」
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そんな馬鹿な話が…
しかし、老人はなぜ私を恨み呪うのか?
父を恨むなら未だしも…とは言っても逆恨みなんだが…
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「なんで俺なんだ…」
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と口にすると、美緒が仏壇の父の遺影を見て、「店長あの人にソックリ…」と言った。
そうか!
私を父と勘違いしたのか!
何て事だ…
背中では、未だ、クネクネと動き、
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「いひ…ひ…」
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と、悶え動く感覚がしている…
鏡にもう一度写し、見てみる…
あの時この店に来た老人に何処と無く似ている気もする…
「いひ…」
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「お前は、俺を殺すのか?」
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「いひひひ…おうよ…あんたの生気、吸い取って、殺すよぅ…いひ…」
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こいつ、言葉を喋るのか…と驚いていると…
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「そうはさせない!その人を殺させはしないもん!」
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と、美緒があの不思議な石を手に、部屋の入口に立っている…
そんなものを持ってきてどうするつもりなのか?
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「うへぁ…そいつを近づけるな!」
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人面瘡が動くたびに痛みが走る…
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「ぐあっ!いてて…動くな…」
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あっ…なるほど…先ほど私が不老不死の石を眺めている時、痛みがあったのは、こいつがこの石を怖れ、動いたからか…
それを、見ていた美緒がそれに気がつき、今この石を武器として持ってきたのか…
美緒は更に石を近づけた…
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「いひゃぁ…やめてくれ!溶けてしまうぅぅ!」
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人面瘡が激しく動いたことにより私の背中に劇痛が走る。
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「うぐぅぅ!痛い!動くなってんだろ馬鹿野郎!いててててて!で…でも…」
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これほどまでに石に怯えるということは、もしかしたら、この石には、何らかの力があるのかもしれないと思い
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「美緒!俺のことは構わない!そいつをこいつにくっつけろ!」
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と、指示した。
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「う…うん…でも店長…大丈夫ですか?」
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「構わねえから!早くしろぅ!」
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「ふぐ…わ…分かりました…行きますよ!」
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「やめろ!辞めてくれ!!いひゃぁ…!」
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「やれぇぇ!!!」
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「はいぃぃぃ!」
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美緒が決心して、石を背中の化け物にあてがうと
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「ぎゃぁあああああ!!!」
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と、断末魔が店内に響いた…
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そこからの記憶はない…
まぶたに明かりが当たっているようだ…眩しい…
目を開ける…
ベットの上にいるのか?
何時も朝見る天井が見える…
そばで、寝息が聞こえる…
横を見ると、美緒が可愛らしい寝顔で寝ている…
そうか…私は助かったのか…
美緒を起こさないよう、ベットからおり、鏡の元に行く。
Tシャツを脱ぎ背中を鏡に写す…
以前のなんの変哲もない中年の背中が写る…
美緒…ありがとう…
首に何かが掛かっている…
奇跡の石が埋め込まれたネックレスだ…
そうだ…この石と美緒に助けられたのだ。
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その数十年後…
近所の者は、こんな事を口にしていると噂に聞いた。
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「あそこのリサイクルショップの夫婦は奇妙だ…歳を取らないんだぜ…気持ち悪いよな…」
作者ナコ