長編16
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灯火の花

これは、僕が高校1年生の時の話だ。

夏休みでの出来事。

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ピロロロロ♪ピロロロロ♪

鳴り響く電子音で目が覚めた。

今日は平日だから目覚ましはセットして無い筈

・・・いや、というか今は夏休みだ。

学校は無い。

と、いうことは電話か。

こんな朝早くに僕に電話を掛けてくる人物・・・。

僕の頭に二人の人物が浮かび上がった

のり姉とピザポだ。

・・・全く。電話する時間帯位考えてほしい。

いや、考えていないのでは無い。

考えた上でやっているのだ。

本当に質が悪い。

いっその事、無視してしまおうか。

・・・否。そういうのは僕の性に合わない。

ついでに言うならば、この間僅か3秒。

僕は、まだポヤポヤしている頭を必死に起動させ、スマホの通話ボタンを押した。

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「もしもしコンソメ君?!助けて下さい!!」

電話越しに聞こえてきたのは、予想とは全然違う人の声だった。

「私は一体どうすれば・・・!!」

間違い無い。木葉さんだ。

かなり動揺しているみたいだ。

僕は一気に目が覚めた。

だって、あの、何時も穏やかで冷静沈着な木葉さんがこんなに慌てているのだ。

きっととんでもない事に巻き込まれてるに違い無い。

折角、僕を頼ってくれているんだ。

絶対に力に成らなくては!

「どうしたんですか木葉さん?!僕で良かったら、微力ですが幾らでも協力しますから、兎も角は落ち着いて下さい!!」

意気込んで僕が言うと、木葉さんはホッと息を吐いた。

「・・・はい。有難う御座います。・・・年下のコンソメ君にこんな事で助けを求める何て、申し訳無く思ってはいるのですが・・・。頼れる人が他に居なくて・・・。」

頼れる人が居ない・・・。

心霊関係だろうか。だとしたら先ずは状況の確認をしなくては。

「取り敢えず、今の状況を説明して下さい。」

電話の向こうで、大きく深呼吸する音が聞こえた。

「よく聞いて下さいコンソメ君。」

その後、ゆっくりと木葉さんは言った。

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「御嬢様に、デートに誘われたんです。」

「・・・は?」

僕は、自分の中の感情が一瞬にして冷めて行くのを感じた。

「・・・御嬢様にデートって?」

僕の声が明らかにトーンダウンしたのにも気付かず、木葉さんはこの世の終わりでも来るかの様に話し続ける。

「それが、昨日いきなりメールが来て・・・。」

長いので、メールの本文そのまま載せる。

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「こんにちは

元気ー?

今週末ちょっと買い物に行くんだけど、良かったら、一緒に行かない?

荷物も増えそうだし、来てくれると嬉しいです。

詳しくは電話して!

じゃ(*・∀・*)ノ 」

だそうだ。

木葉さんが言う。

「私、デート用の私服何て持っていなくて・・・。だから、買い物を兼ねてデートの下見に行こうと思ったんです。」

「だからって何で僕を・・・。」

・・・そうだった。忘れてた。

確かに、木葉さんは何時も穏やかで冷静沈着だけど、ヘタレだった。

スピーカーから更に木葉さんの声が聞こえる。

「・・・コンソメ君以外に、そういう事頼める友人が居ないんです。・・・交通費は出すので、御願い出来ませんか?」

そして、ぼっちでもあった。

僕は小さく溜め息を吐いた。

「分かりました。・・・僕も服の事は詳しくないので、助っ人を呼んでいいですか?」

木葉さんの声が、一気に明るくなった。

「勿論です!えっと、それじゃ明日、午前9時に○○駅で。」

そんなに遠い所なのだろうか。

「あの、デートの場所って?」

木葉さんは嬉しそうに答えた。

「池袋です!それではまた明日!」

ハッ(゜ロ゜)

僕の頭にある記憶が甦った。

「木葉さん!それは恐らくデートじゃない!のり姉が行こうとしているのは・・・!」

叫んでみても、電話はもう既に切れていた。

「遅かったか・・・。」

唇を噛む。

池袋・・・。

僕は、木葉さんに黙祷をした。

のり姉が言う池袋とは、それ即ちアニメイトの事。

・・・可哀想に。きっとあの姿を見てしまったら、100年の恋も冷めるだろう。

僕の頭の中では、様々なグッズを嬉々として買い漁るまるで猛獣の様なのり姉が雄叫びを上げていた。

・・・この場合、真実を伝えるべきなのだろうか。

否、少しの間だけでも、夢を見させてあげよう。

・・・ちゃんとしたデートの可能性も、無くは無い様な気もしないでもない。

取り敢えずは僕に出来る事をするまでだ!

僕は、時計の針が動くのを待ち、スマホの発信ボタンを押した。

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プルルル。プルルル。

呼び出し音が鳴る。

呼び出している相手は友人のピザポだ。

「出ないな・・・早すぎたか?」

今は朝の8時半だ。

幾らで何でも、もう起きている時間帯だろう。

いや、でも・・・。

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「うっせーな!しつけーよ!!いい加減にしろよキチガイ死ね!!!」

突然耳に入って来た声に、僕は唖然とした。

この声は確かにピザポだ。

けれど・・・。

何なんだこのキャラの変わり様は?!

寝起きで気が立っているのだろうか。

・・・。

ピザポが誰かに《死ね》とか《キチガイ》って言うの、始めて聞いた。

大体、行くのは明日なのだからこんな早い時間に電話する事無かったのだ。

此処は素直に謝るべきだろう。

「・・・ごめん。でも、話だけでも聞いて貰えないか?」

暫しの沈黙。そしてまたピザポは口を開いた。

「・・・スミマセン人間違いでした。・・・コンちゃんだよな?」

「いや、そうだけど。」

僕が答えると、ピザポは申し訳無さそうに言った。

「あー・・・。完全に人間違いだわ。H田だと思ってさー。合コン参加しろって五月蝿くて。・・・ごめん。・・・で、どしたの?」

「ああ。ちょっと明日開いてるか?買い物に付き合って欲しいんだ。」

僕が尋ねると、ピザポは不思議そうに返事をした。

「別にいいけど・・・。コンちゃんが買い物って珍しいね?何買うの?」

「んー。僕の友人のデートの服選び。そう言えば、ピザポは会った事無い人だな。」

「へぇ・・・。どんな人?同中とか?」

僕は、極々普通に、木葉さんを紹介した。

「・・・歳は僕等より上だな。性格は・・・優しいんだけど、おっとりしてて、少し天然入ってるな。友達少ない。僕位しか居ないらしい。ヒョロっとしてて、でも、結構力持ちだな。まあ、のり姉よりは全然、癖の無い人だから。」

「名前はー?」

「本名は知らない。本人は、《木葉》って名乗ってるけど。」

その途端、ピザポのテンションが一気に急上昇した。

「え、マジ?!マジで?!《コノハ》?!」

・・・こいつ、何か勘違いをしていないか?

「・・・歳上だからな?ちゃんと敬称つけろ。」

「うわー!マジで《コノハ》とか!!めっちゃ楽しみ!!え、明日の何時?どこ集合?」

話聞いてないな。

「○○駅。午前9時。」

「了解!」

電話が切れた。

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・・・・・・・・・。

時間通りに駅へ行くと、木葉さんが待っていた。

「あ、コンソメ君。御早う御座います。」

「御早う御座います。・・・それ、制服ですか?」

木葉さんが着ていたのは、白いYシャツに黒いスラックス。とても私服には見えない。

「いえ、私服です。・・・夏服は、これ位しか洋服が無くて。」

・・・私服だった。

あれだ。うん。

たまに思うのだが、この人、本当に3次元の人間何だろうか。

暫く、気まずい沈黙が続いた。

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「おーーーい!!!」

沈黙を破ったのは手を振りながら此方に駆けてくるピザポだった。

「ごめん!遅れたー。」

キョロキョロと、辺りを見回す。

「コノハさんはー?」

僕は、右側に立っている木葉さんを手で指した。

途端に、露骨にピザポのテンションが下がった。

「デスヨネー・・・。」

木葉さんが自己紹介をした。

「木葉と言います。今日は宜しく御願いします。」

慌てて、ピザポも頭を下げた。

「どうも。ピザポです。」

そしてまた沈黙。

・・・あれ?

もしかして僕が何とかしなくちゃならないのか?

僕が何とかすべきなのか?

そういう空気なのか?

僕が焦ってワタワタしていると、駅に電車の到着音が鳴り響いた。

「ほら、早く乗りましょう。」

僕等は席を確保する為、急いで電車の降り口へと向かった。

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・・・・・・・・・。

数度の乗り換えをし、僕等は東京の池袋に着いた。

相変わらず人の多い町だ。

さて、ここからは一々状況を説明していたらとんでもなく文字の無駄使いなので、ダイジェストというか・・・所々掻い摘まんで書く事にする。

基本台詞だ。

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・・・・・・・・・。

道を歩いていて。

「おい・・・!腕を掴むな痛い痛い痛い!千切れる!腕が!千切れる!」

「コンちゃんコンちゃん!いる!何かいる!めっちゃ睨んでる!」

「気にするなよ。日常茶飯事だろう。」

「いやいやいや!違う全然違う!睨んでるから!ガン見して来てるから!」

「・・・ん?ピザポ君、どうかし・・・ヒッッ」

ガシッッ

「痛っ!!木葉さんまで!止めてください力強いんですから!」

「何か居ます!よく分からないけれど何かが居ます!怖いです!!」

「ほら、あの影になってる所!」

「言うな!うわ見えた!・・・・。ペンギン?」

「んな訳あるか!ぐちゃぐちゃのおばさん!」

ガシッッッ

「そんなのが居るんですか?!怖いです!!」

「痛い痛い痛い痛い!!おばさんじゃなく僕の腕がぐちゃぐちゃになりますって!!」

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・・・・・・・・・。

服を買いながら。

「・・・こんな感じで、雑誌を見ながら・・・。」

「雑誌通りに買ったら、予算オーバーしてしまいませんか?」

「当たり前ですってwww押さえておくポイント以外は、似てるので揃えるんですよー。」

「そうなんですか?」

「全部揃えたりしたら、何万になるか分かりませんよwwww」

「あ、これとかどうだ?」

「いや高い!高いから!」

「え?そうでも・・・・・・。悪い。桁、間違えてた。」

「うっかり買ったら大惨事wwww」

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・・・・・・・・・。

昼食中。

「もー無理!辛い!あとコンちゃん宜しく!」

「おい!まだ半分も食べて無いだろ!」

「だって辛い!」

「激辛何だから当たり前だ。だから普通のにしようって言ったのに。・・・僕ももう嫌だ。」

「辛い・・・。ですか??普通じゃないですか?」

「「!!!」」

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・・・・・・・・・。

雑貨屋で。

「んーー・・・・・・?」

「どうかしました?」

「いえ、この曲・・・。素敵な曲ですけど、不思議な声だなーと・・・。」

「ああ、初音ミクですよ。」

「ミクさんという人が歌っているんですか?」

「歌っているのとは・・・少し違いますね。」

「説明なら任せろwwwボーカロイドっつー音声合成ソフトの1つ何ですよ。」

「ソフトが曲を作るんですか?」

「曲を作ってんのは人間ですよー。」

「・・・この曲は、ハ○さんという人が曲を作っているんです。僕のウォークマンにも入ってますよ。」

「・・・何だか、難しいですね。でも、綺麗です。結構好きです。こういう曲。」

「後でCD貸しますよ?僕、○チさんのアルバムなら持ってますから。」

「いえ・・・。何だか悪いですから・・・。」

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・・・・・・・・・。

こんな感じだった。

分かり難くて申し訳無い。

そして今は帰りの電車の中。

乗り換えは済んだので後は駅まで一直線だ。

隣では、ピザポがグースカと寝ている。

木葉さんは、じっと前を見ている。

僕も1日中歩き回って疲れた。

駅までは未だあるし、少しだけ眠ろう。

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木葉さんに肩を揺すられ、目が覚めた。

電車は未だ走っている。

スッッと、速度が落ちた。

止まる。

「降りますよ。」

僕は、未だ寝ているピザポを起こそうとした・・・が、木葉さんに止められた。

「彼は起こさなくて大丈夫です。」

木葉さんが、僕の腕を掴む。

「ほら、立って下さい。」

ほぼ引き摺られる様にして、電車を降ろされた。

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降り立ったのは、小さな無人駅。

周りは一面田んぼばかりだ。

こんな駅、行く時にあっただろうか?

「ほら、行きましょう。」

木葉さんが腕を引っ張る。

僕は、また木葉さんに引き摺られながら、田んぼの畦道を歩いて行った。

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・・・・・・。

暫く歩いていると、頭がハッキリしてきた。

木葉さんは何も言わず、僕の腕を引っ張っている。

「腕、離して貰えませんか?」

僕が言うと、木葉さんは前を向いたまま答えた。

「駄目ですよ。はぐれてしまいますから。」

僕は少しムッとした。

流石に、高校生になってはぐれるだなんて・・・。

幾ら道が暗いと言っても、有り得ない。

「はぐれませんよ。離して下さい。」

「はぐれるんですよ。此処では。」

木葉さんは、依然として前を向いたままだ。

「・・・何処へ行こうとしているんですか?」

「秘密です。」

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・・・・・・・・・。

どの位歩いただろう。

遠くに淡い光が見え始めた。

不意に、木葉さんが止まった。

「そろそろですよ。」

また腕を引いて、歩き出す。

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僕等が着いたのは、田んぼの端にある、空き地だった。

光は、その空き地から、発せられている。

否、正確には空き地からではない。

空き地に、咲いている花が、光っているのだ。

鈴蘭を引き伸ばした様な坪型の花。

中に蛍でも入っているのだろうか。

だが、その割には蛍が空中を飛んでいない。

花だけが、暗闇の中で揺れながら光っている。

「綺麗だ・・・。」

僕は、思わず感嘆の声を上げた。

木葉さんが、

「綺麗・・・ですか。」

と言って、クスクスと笑った。

「私が初めて見た時は、恐ろしい、と思ったんですよ。」

「恐ろしい・・・・・?」

木葉さんは、何処か遠い目をしながら話始めた。

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・・・・・・・・・。

私がこの光景を初めて見た時、私は小学生でした。

祖父に連れられて来たんです。

怖い、と感じたんです。

きっと、この光景が自分の中の《普通》とはかけ離れていたからでしょう。

でも、それと同時に、

「この光景をずっと見ていたい。」

と思ったんです。

思えば、私はずっとそうでした。

自分が《普通じゃない》事を恐れて、見えてしまった、《普通》だったら、何も居ない筈の場所を見て悲鳴を上げて。

自分に害を為すかではなく、《普通》か、《普通じゃない》かで、世界を見て。

でも、そんな自分を馬鹿にして貶す皆の《普通》の定義も怖くて。

きっと、全てが不安で怖かったんでしょうね。

・・・・・・。

実を言うと私、昔は苛められっ子でして。

小学生の時でしたかね・・・。

クラスメイトに、言ったんです。

「君達が僕を嫌いなのは、《うざい》からでも、《キモい》からでもなくて、僕が《普通じゃない》からなんでしょ?」

って。

今考えるとかなり痛い事言ってましたね。

言葉も考えも、足りなかったんですね。きっと。

クラスメイトみんなに、《死ね》だの《消えろ》だの・・・挙げ句の果てには、《気違い》と言われてしまいました。

悲しかったですね。

まあ、此処で嬉しくなってしまったら其れは其れで問題ですけどね。

・・・きっと、彼等も怖かったんでしょう。

当たり前ですよね。

得体の知れない奴が平然とクラスに紛れ込んで居るのですから。

自分達の場所を、守りたかっただけ何でしょう。

只、彼等も言葉が足らなかった・・・。

・・・御免なさい。

こんな事を話そうと思った訳では無かったんです。

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そこまで言うと、木葉さんは頭を掻いた。

「ボキャブラリーが増えても、口下手では、どうしようもないですね。」

コホン、と軽く咳払いをする。

「こんな風に友人と遊ぶ何て初めてで、とても嬉しかったんです。今日は、有り難う御座いました。」

「・・・・・・と、言いたかったんですが。」

そして、恥ずかしそうに笑った。

けれど、僕は笑えなかった。

さらっと話してはいるけれど、結構重たい過去を聞いてしまったからだ。

そして、あと一つ。

「・・・・・・。木葉さん。」

「はい。何ですか?」

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「少し、相談事が有るんです。」

木葉さんは、一瞬驚いた様な顔をしたが軈て小さく頷いた。

僕は、光り続けている花野を見ながら、話した。

「僕、どうやら少し変なんです。」

「何処が?」

「頭。」

木葉さんは、また驚いた様な顔をした。

「・・・ある友人が、《キチガイ》とか《死ね》と言ったんです。僕に向けてではありませんが。」

「・・・はい。」

「でも、僕は其れを嫌だと思ったんです。」

「・・・当たり前ではありませんか?」

風が通り過ぎて行く。

花達が一斉に揺れた。

「そうでしょうか?だってその友人は、本当にその人の事を《キチガイ》だとは思ってないんですよ?況してや、《死ね》何て本気で思っている筈が無いんです。分かっているんです。只のじゃれあい何だって事位。それでも、《何故》って思うんです。《何故そんな酷い事を言うのか》って。・・・自分でも、何故こんなに嫌なのか分からないんです。いつも不安になるんです。もし、こんな事を言われたらって。どう返せばいいんだろうって。怖くて仕方がないんです。」

一気に言ったから、息が苦しい。涙まで出て来た。

僕は、そっと木葉さんの方を見た。

木葉さんは、優しげな顔で花野を見ていた。

「当たり前ですよ。・・・コンソメ君、コンソメ君はニンジン、食べられますか?」

僕はいきなりの質問に少し戸惑いながら答えた。

「・・・はい。」

木葉さんが、のんびりと言った。

「凄いですねぇ。私はどうしても無理なんです。砂糖とも果物とも違う変な甘さが有るでしょう?」

クスクスと、笑いながら続ける。

「ほら、たかが野菜一つですら個人の意見は違うんです。他人の言葉遣いが気になるだなんて、当たり前の事だと思いませんか?まぁ、コンソメ君の歳にしては、少し珍しいですが。」

「もう少し我が儘になってしまえばいいんですよ。嫌なら嫌と言えばいい。あ、勘違いしないで下さいね。横暴になれと言っている訳では無いですよ。コンソメ君は、気を使いすぎな所が有りますから。」

その後、木葉さんは小さく息を吐いた。

ゆっくりと瞬きをして、言う。

「まあ、その御友人も、コンソメ君に対する時の《禁句》位は分かっているでしょう。」

「友人って、そんな物ですよ。・・・ぼっちの私が言うのも、おかしな話ですが。」

そして、にっこりと僕に微笑んで見せた。

僕は、今更ながら恥ずかしくなって、適当に返事をしながら、花野を見つめた。

木葉さんも、それ以上何も言わなかった。

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・・・・・・・・・。

暫くして、木葉さんが元来た道の方へ歩き始めた。ずっと腕を掴まれていた僕も、また木葉さんの後に付いて歩いた。

帰りは二人共無言だった。

駅にはあっという間に着いた。

行く時はもっと時間が掛かっていたと思っていたけれど。

電車は未だ駅に停まっていた。

今考えてみると、そんなに長い間、一本の電車が駅に停まり続けている何て、おかしな話だ。

席に戻ると、ピザポがまだ居眠りをしていた。

音も無く、電車が動き出す。

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カタカタと揺れる車内で、僕は、木葉さんに聞いてみる事にした。

「木葉さん。」

「何ですか?」

「何で、あの花野にピザポを連れて行かなかったんですか?」

すると、木葉さんはにっこりと笑った。

「ああ、あの光ってるの、花だったんですか。」

「え?」

僕は驚いた。

暗くてよく見えなかったのだろうか。

木葉さんが薄く笑った。

「いや、何か綺麗だとは思っていましたが、花だったんですか。あれ。」

私には、ぼんやりした光しか見えないんですよね。

そう、木葉さんは言い、寝ているピザポの方を見た。

「ほら、ピザポ君にはハッキリ見えてしまいますからね。私には綺麗に見えていても、本当に綺麗な物かは分かりませんでしたから。」

僕は更に聞いた。

「じゃあ、何で、僕は?」

「フィルター掛かってるでしょう?」

「あ、そうか。・・・ふわわわ」

思わず欠伸が出てしまった。

木葉さんが

「疲れたでしょう?寝てて下さい。着いたら起こしますから。」

と言った。

僕は無性に眠たくて、返事を返す事が出来なかった。

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・・・・・・・・・。

木葉さんの声と、電車のアナウンスで目が覚めた。

今度は三人で電車を降りる。

木葉さんは、

「今日は有り難う御座いました。」

と言って、薄暗い路地の中へ消えていった。

僕は手を振りながら

「ご健闘をお祈りしまーす。」

と声を掛けた。

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・・・・・・・・・。

帰り道、僕とピザポは自転車を押しながら帰った。

ピザポが話し掛けて来た。

「コンちゃん、ちょっとスマホ見てみー?」

「何だいきなり。」

「いいからいいから。」

僕が立ち止まってスマホを確認すると、のり姉から連絡が来ていた。

内容は、

「やあ(*・∞・*)ノ

今週の週末、アニメイト行こーぜ!!

あ、拒否権は無いから。

じゃ、週末にねー。」

という物だった。

僕は思わず声を上げた。

「これって・・・!」

ピザポが何度か頷く。

「ドンマイだよねー。木葉さん。」

「・・・本当だな。」

僕等はどちらとも無く、笑い出した。

・・・木葉さんには、悪いとは思ったけれど。

ひとしきり笑うと、ピザポが、ふと思い出した、とでも言う様に言った。

「あ、コンちゃん、今朝はごめんな?」

「・・・何が?」

見ると、ピザポは、少し申し訳無さそうな顔をしていた。

「間違いとは言え《キチガイ》とか《死ね》って言っちゃった事。・・・コンちゃん、そういうの嫌いだったよね?」

僕は驚いた。

あのピザポが気が付いていたなんて。

「・・・知ってたのか。」

ピザポは、大きく頷いて見せた。

「コンちゃんはさ、俺とか薄塩が《グロい》とか《キモい》で済ましちゃう・・・ってか、済ませられちゃう物をさ、結構まともに見て《どうにかしなきゃ》ってなっちゃうじゃん?だからさ、嫌なんだよね。コンちゃんにとっての《死》とかは軽はずみに出来る事じゃないから。適当に悪ふざけで言われたく無いんだよ。・・・・・・合ってる?」

益々驚いた。

そうだったのか。

「知らなかった。・・・そうだったのか。」

「嘘?!なにこれ恥ずっっっ!!滅茶苦茶調子乗ってた!!恥ずぅぅぅ!!」

悶えるピザポを横目にして、僕は空を見上げた。

木葉さんの言葉が、頭の中に思い浮かんだ。

・・・くそう。何だか恥ずかしいぞ。

「恥ずかしい・・・。」

「あぁもうだよねー!うん!」

ピザポは未だ悶えている。

僕は、なるべく小さな声で言った。

「・・・・・・有り難うな。」

「うああぁぁ!!・・・何か言った?」

僕は

「別に。」

とだけ言った。

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空には夏には珍しく満天の星。

僕は、あの花達に少し似ていると思った。

Concrete
コメント怖い
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さぴばえるまーりおさんへ
楽しみに・・・。
本当に嬉しいです!
まだまだ続きますよ!

返信

ぱっくんさんへ
図々しいけど悪い奴では無いのがピザポです。
木葉さんは・・・。
すみません僕にも分からないですorn

返信

ピザポって、図々しいのか繊細なのかわからないんですけどwww
でもいい子ですね(^^)

そして木葉さん。
妖なのか人間なのか…そしてこのメールで「デート」って思ってしまうなんてなんて純粋と言うか世間知らずと言うかwww
いいキャラがいっぱいで、この先がとても楽しみです(^^)

返信

いつも投稿を楽しみにしてますっ\(^ω^\)
楽し過ぎて、2回も読んじゃいました!次作も楽しみにしてますヾ(*´∀`*)ノ

返信

コンソメくん本当に優しいですね。死ねとか言ってはいけないと思います。本当に一話一話何か考えさせられます。

返信

hikaさんへ

なってあげて下さい!
きっと木葉さんも喜ぶと思います。

返信

Uniまにゃ~さんへ
・・・何だか照れ臭いですね。
でも、そう言って頂けると嬉しいです。
有り難うございます(^^)

返信

いつも楽しく拝見させていただいております。木葉さんは登場してからというものの、とても好きになってしまいました^ ^
いつもは驚くぐらい冷静なのに…のり姉の影響力って凄いですね(*´◡`*)
私服がちょっと変でお友達が少ないとか不器用な感じがますます気になってしまいます 笑
(お友達に是非ともしていだだきたいと密かに思ってしまいますね)

しかし、フィルターがないとどんな光景だったのか….考えると背筋がゾクゾクします…

これからも楽しみにしております(੭ु ˃̶͈̀ ω ˂̶͈́)੭ु⁾⁾!

返信

誰もが持ってることです 経験のあることじゃないですかぁ

青臭い…

良いじゃありませんか。
種まいて、芽が出て、花になるんですから
青臭い時期は、花が咲く前です(*^。^*)

経験に勝る知識なしってね

まだまだ、経験不足のuniまにゃ~です

返信

あゆさんへ
《幻想的》ですか。
言い得て妙ですね。
確かにそんな感じの人です。
只、僕が書いている話は日常のほんの一部です。
本当はもっとヘタレ&泣き虫&ビビりですよ。
まあ、その分優しいんですけどね。
毎回コメント有り難う御座います。
次回も宜しければお付き合い願います。

返信

木葉サン..「コノハ」と読むんですね。
ワタシ勝手に「コバ」読みしてました(*>ω

返信