時刻は夜の八時頃
会社帰りのサラリーマン等で電車が一杯になる所謂『帰宅ラッシュ』の時間帯
あるギュウギュウ詰めの満員電車に一人の背の高い、若いサラリーマン風の男性のTさんが乗っていました
周りの人より文字通り『頭一つ分』抜き出ていたTさんは、その車両の中でとても目立っていました
(嫌だなぁ、あんまジロジロ見ないでくれよ・・・・・)
Tさんは人に注目されるのがあまり好きではありませんでしたが、その背の高さから彼が人に注目される事は日常茶飯事でした
本当は帰宅時間を遅くしてラッシュ時間帯を避けたい所なのですが、嫁が最近うるさいので仕方なく毎日寄り道もせず帰るしかありません
Tさんは目の前にいる女子高生達の視線を避けるように、顔を横に向けながら小さくため息をつきました
するとTさんはある事に気付きました
彼が乗っていた車両の反対側、奥の方に彼と同じように周りから頭一つ抜き出ている男の人がいたのです
遠くて顔はよく見えませんでしたが、なんだか気になってその人をしばらくじっと見つめていました
そのうちあちらの男性もこちらに気づいたようで、彼もじっとこちらの方を見つめ始めました
Tさんは自分と似たような人がいた事になんだか嬉しくなり、軽い会釈をしました
なんとなく気持ちが通じた気がしたので「お互い大変ですね」位のつもりでしたものでした
しかしその直後にTさんが思いもしなかった事が起きました
相手の男性がゆっくりとこちらに近づいて来たのです
最初は次の駅で降りる為にドア付近に移動するのかと思いました
しかしその男性は顔をTさんから全く逸らす事なく、ジリジリとこちらに向かってきていました
Tさんはその不気味な光景に徐々に不安を感じていきました
そしてその不安は男性の顔がTさんから3M位の距離までになった時に一気に恐怖へと移り変わりました
男性には首から下の体がなかったのです
頭一つ抜きでていると思っていた「それ」は、ギュウギュウの人間の頭の上を彷徨っていた生首でした
Tさんは慌ててその場から逃げようとしました
ですが、満員の電車の中ではろくに動く事も出来ません
焦ってわたわたしているうちに生首はゆっくりとTさんの元へと近づいてきます
すぐ近くまで顔中血管の浮き出た顔がニヤニヤと笑いながら迫ってきた時、Tさんは「もはやこれまで」と諦めかけました
プシューッ
その時、運良く電車が次の駅に到着し左前方にあったドアが開きました
「お、降りますっ!すいません降ります!」
半ば強引に人を掻き分け、Tさんは前だけを見てドアの方向に必死に逃げました
満員の電車から溢れる様にズルリと抜け出すと、まるでタイミングを見計らったかの如くドアは大きな音を立てて締まりました
喜ぶ事もなくすぐに周りを見回してみましたが近くにあの生首はいませんでした
「た、助かった・・・・」
Tさんは安心した瞬間力が抜けてしまいペタリとその場に座り込んでしまいました
そして何の気なしにふと顔を上げてまだ駅に残っていた電車を見た時、Tさんは思わず悲鳴をあげてしまいました
電車のドアの窓には駅のホームに座り込んだTさんを不思議そうに見つめる沢山の顔と、目を吊り上げてTさんを睨む一つの顔がありました
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作者バケオ
前回のお話に「怖い」やコメントをくれた皆様ありがとうございました
今回は電車のお話です