前回の餓鬼①で主人に助けられ、スーツは一着ダメにしてしまいましたが、過食は抑えられました。
しかし、私は身体が小さく、食べると言っても身体に見あった量しか無理なので、明日が休日で本当に良かったと思いました。
二人で自宅を片付け、主人の晩御飯を作り、寝る準備ができた時は日付けを跨いでいました。
「夜中、いつでも起こしてよ?」
「ありがとう。でも大丈夫やと思うよ。久々にゆっくり寝れそう。」
ベッドに入ると、すぐに眠りに落ちました。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
どのくらい眠ったでしょうか。
違和感を感じ、目覚めました。
「⁉︎」
私はベッドの上で頭と足が逆向きになり、バンザイをしていました。
しかもそのバンザイ、腕組みをそのまま頭上に上げた感じ。
その組んだ部分に昨晩のドーベルマンが前脚の関節部分を引っ掛け、引っ張っているのです。
私は怖さより何故執拗に私にこだわるのか知りたくなりました。
「フンッ‼︎」
力一杯ドーベルマンを振り切り、彼?と対峙しました。
ドーベルマンは睨んできます、いや、影なので表情は分かりませんが、憎悪に似たものが伝わってきます。
しかし、憎悪の殻の中には底知れぬ悲しみと寂しさが伺えました。
「自分さ。」
『‼︎』
「自分、言葉解る?」
『• • • 。』
「もし解るんやったら私の話聞いて?」
『• • • 。』
「自分、すごくかわいいよ。私は自分みたいなワンコ大好きなのよ。」
『• • • 。』
「私が愛情を持って接したら、かわいいワンコに戻るかな?」
そう言った時。
彼の口元から青黒い塊がすうっと抜けて行ったのです。
塊が抜けた後の彼はとても素直なかわいい子でした。
すると、私の隣で寝ていた主人が起きてきました。
「え、ゆ〜、誰と喋っとん?」
「ドーベルマンちゃんよ。」
「え、餓鬼じゃなくて⁉︎」
「ガキ?あぁ、餓鬼ね?ちゃうちゃう。」(違う違う)
「ドーベルマンて、犬やん。喋るん?」
「私が一方的にね。ほら、見て?かわいい 顔してるでしょ。」
「ごめん、見えんわ。」
「そうやんな• • • 。おいで、ワンコ。」
『クゥン• • • 。』
「ほら、こっちおいで。」
両手を差し出すと、少し戸惑いながら私の腕の中にやってきました。
「え、抱っこできるの?」
「うん、出来るよ。さあ、ワンコ、気が済むまで、満足するまでここに居たらいいよ。ね。」
頭を撫で、身体をさすり、声をかけてしばらく一緒にいました。
すると• • • 。
ドーベルマンは顔を上げ、じっと私を見つめました。
「めっちゃかわいい顔やな。赤のカラー(首輪)もよう似合っとぉわ。せやけどドーベルマンよりもっと似た犬種がおるなぁ、何やろ。」
ドーベルマンは私の顔を舐めまわしました。
「うふふ。くすぐったいよぉ• • • 」
「おい、おい、俺の前で何をイチャイチャしとんよぉ〜(笑)」
「うふふ、ごめんね、パパ。さ、ワンコ。もっと抱っこしたげるよ。」
『クゥン、キュゥン• • • 』
ドーベルマンはひとしきり甘えるとスッと立ち上がりました。
改めて彼の全貌を見て、その立派さに驚きました。
そしてなんとなく身体に模様も見えました。
「あれ?この子。分かった!グレート•デーンちゃう⁉︎」
そう言った途端。
「ワオン!」
轟音でした。
そして下から霧のように消えてしまいました。
「え?ドーベルマンちゃうの?」
と、聞こえなければ、見えてもない主人。
「あ!消えてもた!」
「え、消えてもたんや。満足したんかもな。てゆーか、昨日はドーベルマン言うとったけど、同んなじ子なわけ?」
「うん、同じ子。でも種類はグレート•デーンやわ。」
「グレート•デーンとか、めっちゃデカいやん。何色?」
「白地に黒のマーブル。赤いカラーしとんねん。めっちゃかわいかった。」
私達夫婦の元に現れたドーベルマンならぬ、グレート•デーン。
彼の目的は生前の寂しさを満たしたかったと言う事は分かりましたが• • • 。
主人に先ほど起きた事を全て話しました。
「あの子、寂しかったんやね。てゆーか、昨日私が過食してる時、あの子見えてたん?」
「いや、見えてへんかったで。ゆ〜が一人でオッソロシイ顔してガッツいとった(笑)」
「え。」
「冗談、冗談!ゆ〜一人だけやったで?」
「じゃあ、なんで粗塩とお酒で清めたん?」
「ゆ〜の症状見とったら餓鬼やなぁと思って。朝聞いたドーベルマンの話もあったし、何かあると思ってん。キッツぅ(キツく)言うたんは、餓鬼を追い出すためや。」
「なるほど。」
「どっちにしてもお寺さんは行こう。」
日が昇り、私達は支度をして近所のお寺へ行きました。
「やぁ、よういらした。ささ、こちらへ。」
「お忙しいところ申し訳ございません。」
いつも私達が檀家としてお世話になっている住職さんが温かく迎えてくださりました。
住職さんは私達夫婦と、親世代の丁度中間の年代です。
「ほほう、グレート•デーン。この近所にもかなり前ですが居ましたよ。」
この後、住職さんから聞いたグレート•デーンの壮絶な生涯とは。
餓鬼③に続きます。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
餓鬼②をお読みくださりありがとうございました。
ドーベルマンではなく、グレート•デーンだった、ワンコ。
彼の生い立ち、そして私達夫婦の元に現れた理由も明らかに。
餓鬼③も頑張ります。