黒猫は不吉?
いえいえ、黒猫はとても律儀なんですよ。
私の実家は港町にあります。
ここは平成七年一月十七日に阪神大震災により、壊滅的な被害を受けた場所です。
この地に引っ越してきたのは今から約三十年前。
引っ越してしばらく経ってから犬を迎えました。
名前はケビン。
ケビンは精悍な黒マスクに立派な体躯、頭の回転の非常に早い大型犬でした。
ある日、親戚の猫を一週間預かることになりました。
猫の名前は『吾輩』。
何故かというと、吾輩は真っ黒の日本的な猫で、夏目漱石の『吾輩は猫である』の挿絵とよく似ているから、だとか。
確かに小さい頃は似てたかな?
ケビンをケージにいれ、キャットハウスの中の吾輩とご対面。
圧倒的存在感のケビンに吾輩は少し緊張気味でしたが、徐々に慣れていき、三日目にはお互い意識もせず、リビングで思い思いの行動をしていました。
その頃ケビンはまだ3〜4歳の若い盛りでした。
一方吾輩は14歳と、高齢でしたが、まだまだ猫じゃらしでも元気に遊ぶ子でした。吾輩が跳ねるたびにカラーに着いた鈴がシャンシャン鳴りました。
預かり期間、特に異常もなく、元気いっぱい過ごしてくれました。
そして親戚が引き取りに来た時、吾輩は私の鼻先に自分の鼻をつけ、グルグル言ってから帰りました。
ケビンが少し寂しそうでした。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
それから何年か経ったある日。
私は夜中に鈴の鳴る音で目が覚めました。
寝ぼけているので、何の音か理解するまで少し時間がかかりました。
シャンシャン• • •
「あ!この音!」
慌てて起き上がると。
「吾輩?」
私のベッドの足元から床へ黒猫が飛び降りたように見えました。
部屋の電気をつけ、探してみましたがもちろん吾輩は居ませんでした。
時計を見ると朝の四時五分をまわったところでした。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
朝になり、母に聞いてみました。
「ねぇ、ママ。吾輩、元気かなぁ。」
「そら、元気やろ〜。シャンシャン言わして走り回っとるわよ。」
「四時過ぎにね、シャンシャンで目が覚めたの。だから気になって。」
今朝の出来事を話すと母は
「今晩でも電話してみるわ。」
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「あ、そうですか。• • • 四時過ぎに。そうですか。」
夜になって、吾輩が老衰で亡くなったと知りました。
やはり今朝の四時過ぎ。
私が目覚めた時は息を引き取った直後だったようです。
彼は我が家でお世話になったという事をちゃんと覚えていて、お礼に来てくれたのだろうか。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「ゆ〜、郵便届いとぉで。」
数日後、私の元に一通の封筒が届きました。
開けてみると。
「ママぁ!吾輩のカラーよ!」
「うふふ。良かったわねぇ。」
吾輩の赤いカラー。
鈴の着いた赤いカラー。
シャンシャン• • •
今でも彼の鈴の着いた赤いカラーは私の手元にあります。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
黒猫、お読み下さりありがとうございます。
吾輩は私達家族と過ごした時間を覚えていてくれたんですね。
ケビンとも仲良く過ごせて良かったです。
猫は気まぐれと言うけれど、恩は忘れないんですね。