中編6
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祖父母の体験 ①

私の両親は混血です。

父はインド系タイ人。

母は日本人とアメリカ人のクウォーター。

そんな両親を育てた祖父母は四人共個性的で面白い人達でした。

今回は母方の祖父の体験談を。

前回お話しました母方祖父は父親が日本人、母親がネイティブアメリカンでした。

私が幼い頃にネイティブアメリカンの曽祖母は亡くなりましたので、ぼんやりとしか記憶がありません。

金髪で青い瞳をした曽祖母は日本人曽祖父と出会い、祖父を始めとする七人の子供を産みました。

祖父はネイティブアメリカンの曽祖母に一番似ていました。

黙っていれば全くのアメリカン。

しかし一度口を開けばバリバリの関西人でした。

「ゆ〜ちゃん、ゆ〜太郎。じいちゃんが戦争中に体験した不思議な話ししたろ。」

「わぁい!おじいちゃんのお話大好き!」

『オン!』

「お?ケビンも聞きたいか?」

『ハッハッ!』

「おっしゃ、ほなここおいで。ええ子やなぁケビンは。ほいたら始めるで。」

◎ ◎ ◎ ◎ ◎

じいちゃんが大学時代、第二次世界大戦が始まってな。

その頃、じいちゃんは電気工学の勉強しとったんや。

もうすぐ卒業っちゅー時に、学校で研究室残らんかって話が持ち上がってな。

まぁ、言うたら戦争で使う無線やラジオやらの通信関係で人手がいるちゅー事やってん。

で、じいちゃんは仲間と共に、兵隊ならんと東京残ったんや。

その時、じいちゃんはばあちゃんと婚約しとったさかい、ばあちゃんに綺麗なべべ(着物)着してやりたかったから早めに式だけ挙げたんや。

で、戦争が激しぃなった頃、ばあちゃんも連れて満州に渡った。

満州では地元の人らに良うしてもろた。

食べもん、着るもん、住むとこ困らなんだ。

せやからじいちゃんもばあちゃんも今より肥えとったんやけどな。わっはっは!

分からんやろ、普段痩せとるからな。

いや、あん時は人生で一番太っとったんちゃうかな?

まぁ、置いといて。

そんなワシら夫婦が満州での暮らしにも大分慣れた頃。

休みの日ぃに二人で庭に出てな、日光浴しとったんや。

ほなな、ばあちゃんがうつらうつらしだしてわしも暖かいし気持ちようなって一緒に寝てもたんや。

◎ ◎ ◎ ◎ ◎

「どこや、ここは。なんやみんな焼けてもて、生きとるモン、おらんのかいな。」

気づいたら日本のどっかの街にじいちゃんは立っとったんや。

その街はまるで火事の後みたいに焼けとった。

訳分からんとウロチョロしとった。

何故かそん時はばあちゃんが隣におらんとか全然思わんかった。

夢って分かっとったんや。

じいちゃんはとにかくこの酷い状態の街で生きとる人がおらんか探しはじめた。

暫く歩くも、誰にも会わん。

「やっぱり夢やさかい、誰にも会わんなぁ• • • おーい!誰か生きとるモンはおらんかぁー⁉︎」

試しに叫んでみた。

「もし• • • 」

消えいるような声で呼ばれた気がして、じいちゃんは振り向いた。

ほしたら若い女性が立っとる。

よう見たら履いとるモンペみたいなモンが血にまみれとる。

「どないしたったんや!あんた、えらい血ぃ流して!どこ怪我したんや!」

「あの、日本人の方ですか。良かった。アメリカの兵隊さんか思うて身を隠してましてんけど、日本語で話しなさったから• • • どうしてもこの子を託したくて。」

「えぇっ⁉︎」

見たら血だらけの両手のひらですくうように何かを持っとった。

「それは?」

「私の赤ちゃんです。昨日の空襲で私• • • 」

女性は崩れるように座り込んだ。

でも手のひらの赤ちゃんはしっかり持っとった。

「あんたお母ちゃんなんか?お母ちゃんやったら子供のためにしっかりせぇ!お母ちゃんだけでも子供のために生きなあかん!」

女性は泣き出した。

「あんた、ご主人は?」

「主人は、南の島へ行ってます。」

「ほんだらご主人のためにも頑張らなあかんでしょう!」

「私は、多分もうあかんでしょう。主人も、わかりません。でもこの子は今ならまだ間に合います。後生ですからどうか、この子の父親になってやって下さい!この子は立派な男の子です。ただ、七つの年に血液の病気にかかります。でも近所の軍医さんがしっかり看てくれますから大丈夫です。ほんまお願いします。たのんます。たのんます• • • 」

女性は泣いとったけど、今生の別れっちゅうんか、子供を生かしたいっちゅー強い意思が感じられたんや。

同時にじいちゃんしかこの女性の子供を助けれん、そう思った。

じいちゃんは赤ちゃんを受け取った。

女性は泣きながら何べんもありがとう言うてな。

「この子がワシの子ぉになるんか。可愛らしいなぁ。よぅ、お前、どこの土地のモンや。」

「神戸です。この辺は生田言うんです。」

女性が答える。

「ほうか。分かった。お前、神戸の子なんやな。」

次に女性に話しかけようと前を見たらもう、その人はおらなんだ。(いなかった。)

「あれ?どこ行った?」

じいちゃんは手のひらに目線を戻した。

じいちゃんの手ん中にはな、小さい魚みたいなモンが眠っててな。

なんか力強い生命力が溢れとった。

じいちゃんはその魚みたいなモンが愛おしゅうて涙が出てなぁ。

大事に胸ポケットに仕舞うたんや。

そこで目が覚めたんやけどな。

もちろん夢から覚めて胸ポケット見たけどなんも入ってへん。

あぁ、夢やったんやな、と思っとったら。

「神戸で空襲が相次ぐ」

こんな知らせが入ってきて。

ちょうどじいちゃんが夢を見たんは昭和20年3月17日に起こった神戸大空襲の翌日やったんや。

で、その一年後、昭和21年3月17日.ばあちゃんは元気な男の子を産んだんや。

それがゆ〜ちゃんらのママのお兄ちゃんに当たる章(あきら)おじちゃんや。

章おじちゃんが生まれたんは神戸大空襲のちょうど一年後や。

じいちゃんは一日遅れで、空襲でめちゃめちゃなった神戸の街に夢で行っとったんや。

幽体離脱っちゅーやつかも知れん。

今でもその女性が誰かは分からへん。

せやけどばあちゃんも、

「その女性の赤ちゃんの魂をお預かりしとんやから大事にせなね。」

と言うてくれたんや。

ほんで。

章ちゅう名前はな、日本人としての誇りを忘れるな、っちゅー意味で付けたんや。

章は日章旗の「章」やさかい。

◎ ◎ ◎ ◎ ◎

「ねぇ、おじいちゃん、章おじちゃんは血液の病気にかかったの?」

「せや、ちょうど七つの誕生月にな、小学校一年の終わりや、足に模様がある言うて帰って来てな。なんや見とる間にその模様がどんどん増えてくるんや。じいちゃん、血液の病気思い出してな。すぐそこの、ほれ、葛城のおっちゃん、あの人内科しとるけどあの人のお父さんは軍医やったんや。急いで看せに行ったわ。」

「すごいなぁ!その女の人、そこまで分かっとってんなぁ!」

「せやねん。ほんで葛城先生に看せたら紫斑病や言うねん。紫斑病言うたらな、血液の病気で足の先から順番に紫の水玉が出来るんや。で、先生、点滴してくれてな、後は家で安静にしときなさい言うからその通りしたんや。」

「ほんで治ったん?」

「せや。ホンマやったら死んでまう病気らしいけど、治ったから今もピンピンしとうやろ、わっはっは!」

「わぁ!章おじちゃんすごい!」

「せや。章、来年帰国する言うとったで。ゆ〜ちゃんとゆ〜太郎に会いたいなぁ、言うとったわ。お!ケビンもな!はっはっは!」

『ウォン!』

「ケビン、楽しみやなぁ!」

◎ ◎ ◎ ◎ ◎

「ね、おばあちゃん、章おじちゃんのお話しさ、聞いたよ!すごいね!」

「おやおや、ゆ〜ちゃん、ゆ〜太郎君にまで章の話をしたんやねぇ。ほほほ• • • そうよ、不思議な体験やったわぁ。章が紫斑病なった時もあの女性のおかげでゆったり構える事が出来てんよ。いまでも女性に感謝してるんよ。」

『ワン!』

「あらま、ケビンちゃんも聞いたの?」

『オン!』

「まぁまぁ、かわいいねぇ。」

「章おじちゃん、ケビンに会うのも楽しみにしてくれとんねんて。」

「そりゃあそうよ、章は動物が大好きなんやからねぇ• • • 。」

「ケビン、良かったね!」

『ワン!』

翌年、章叔父が帰国した時に、紫斑病の時に体験した不思議話も聞くことになります。

それはまたの機会に。

ご拝読ありがとうございました。

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欲求不満様
コメントありがとうございます。
紫斑病、かかられた事があるんですね。
叔父以外には初めて聞きました。
怖い病気ですよね。
治って良かったです。
その時の体験談、是非読みたいです。
よろしくお願いします。

返信

紫斑病は白血球が減少していく病気ですよね。幼い頃私もそうでした。トンボ注射だよと看護師に言われ背中の腰あたりにものすごく激痛を伴う注射を打たれた事を思い出しました。その当時のおじちゃんの生命力は凄いですね。またお話し楽しみにしています。私もその当時の病院での不思議な話を書いてみようと思いました。

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