十九回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることができます。
あれは高校三年の春頃のことだった。
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「ピロリロリ、ピロリロリ」
部屋でテレビを見ていると、携帯電話の着信音が鳴った。
携帯電話を手にとって開くと、画面には『メール』のお知らせがついている。
メールを確認すると『杏里さん』からのメールであった。杏里さんは僕のアルバイト先の強面の先輩『笹木さん』の妹だ。杏里さんと関わると大体は危険な目に遭う。
嫌な予感を感じつつメールを開く。
『タスケテ』
メールにはそれだけ書かれている。何か胸騒ぎがする。
いつも杏里さんは長文のメールを送ってくるし、簡単な用事なら電話で済ますタイプの人だ。明らかにこのメールはおかしい。
僕は携帯電話のアドレス帳から杏里さんの番号を探し出し、杏里さんに電話を掛けてみた。
「プルルルルル、プルルルルル…」
何度コールを鳴らしても、杏里さんは一向に電話に出る気配はない。
杏里さんに何かあったに違いない。時間を確認すると夜の七時を少し過ぎたくらいだ。
僕はとりあえず杏里さんの家に向かうことにした。
外は冷たい風が吹いていたが、大汗をかきながら全速力で自転車を漕ぐ僕には心地良く感じた。
杏里さんの住んでいる綺麗なレンガ調のアパートの近くまでくると、アパートの入口に女性の姿が見える。
更に近付くとその女性は『杏里さん』だと分かった。
杏里さんは背の高い男性と何か話している様だった。
そうか、杏里さんはあの男性につきまとわれていて困って僕に助けを求めたんだ。きっと今も揉めているに違いない。
勝手な想像を膨らましながら二人に近付いていく。自然と自転車のハンドルを握る手に力が入る。
「キキー」
僕は力強く急ブレーキをかけた。
杏里さんとその男性がキスをしたのだ。
僕がかけたブレーキの音に気付き、二人とも僕の方を振り向く。
「おい!見てんじゃねーよガキ!」
僕は何も言い返すことができない。
「あっ、あの子はお兄ちゃんの友達なの」
「はっ?そうなのっ?あのおっかないお兄さんの??と、とりあえず俺帰るから、また何かあったら呼んでくれよな!」
「ありがとう哲也くん」
男性は近くに止めてあった車に乗り込み、すぐにその場を去っていった。゛
杏里さんは僕に近付き、にこりと微笑む。
「龍悟くん来てくれたんだ。ありがとう」
あんなメールが来たから心配して飛んできたなんてことは格好悪すぎて言えやしない。
「邪魔しちゃってごめんなさい。彼氏さん帰っちゃいましたね」
「ん?さっきの人は彼氏じゃないよ。ただの大学のサークルの仲間」
「えっ、でも…キスしてたじゃないですか」
「あぁ、あれね」
杏里さんは大きな瞳を細めて僕に顔を近付ける。
「家にゴキブリが出ちゃってパニックになって助けを呼んだら、彼が一番に駆けつけてくれてゴキブリを退治してくれたの。あのキスはただのお礼みたいなものよ。龍悟くんもしてほしいのかな?」
杏里さんは僕をからかうかの様に無邪気に笑う。
「僕は結構です」
杏里さんが心配でここまで来たというのに杏里さんの言動に腹が立ち、僕は自転車に跨がり帰ろうとした。
「待って」
杏里さんが僕の腕を強く掴んでくる。
「来てくれたお礼にご飯作るから食べてって」
「いや、今日は結構です」
杏里さんは物凄い目力で僕を見つめてくる。心なしか掴まれた腕が少し痛い…
「食べてって」
「はい、いただきます」
僕は杏里さんの勢いに簡単に負けてしまい、ご飯をご馳走になることになった…
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杏里さんの部屋に入ると早速杏里さんは台所へ向かった。
「適当にくつろいでてね」
そう言いながら手際良く料理を始める。僕はソファーに腰掛けテレビを見るとにした…
「はい!お待たせー!」
明るく跳ねるような声が聞こえ、ソファーの前に大皿が置かれる。
『カレーライス』だ。しかも大皿に空高く盛られたご飯に、溢れんばかりのカレーのルー。とても食べきれそうにない。
「す、凄い量ですね…」
「お兄ちゃんは一瞬で食べちゃうんだよ!しかもおかわりするし!」
杏里さんは何だか嬉しそうに笑っている。そしてほんのり頬が赤い。
杏里さんの手にはいつの間にかビールが握られていた。
「パンッ」
カレーライスを黙々と食べていると、急に杏里さんは手を叩いた。
「そうだ!龍悟くんに見てもらいたいものがあるんだ!」
杏里さんはそう言って部屋の隅に置いてあるバッグを持ってきて僕の目の前で開き、バッグに手を入れてガチャガチャとまさぐり始めた。
「んー、確かこの中に…」
バッグの中から御札やら塩が入った小瓶やらが顔を見せる。
「あったあった!」
杏里さんは満面の笑みで『それ』を取り出し、テーブルの上にトンッと置いた。
「へぇー!ビデオカメラですか!いいなぁ!」
テーブルの上にはあまりお目にかからない『ビデオカメラ』が置かれ、思わず僕のテンションが上がっていく。
「ちょっと高かったけど買っちゃった!」
杏里さんは上機嫌で舌をペロっと出してウインクした。
「この前ね、大学のサークルのみんなで心霊スポットに行ったんだ。その時にこれで撮影してたんだけど、変なものが映り込んでるの!」
杏里さんはそう言ってテレビとビデオカメラを一本のコードで繋いだ。
正直心霊スポットの映像など興味は無かったが、杏里さんの機嫌を損ねると後で大変なことになりそうなので黙って見ることにした。
テレビ画面には眼鏡をかけた女性一人と男性三人の姿が映し出される。撮影している杏里さんを含めて五人で心霊スポットに行ったそうだ。薄暗くてよく分からないが、舗装がされていない獣道を歩いているようだが、明るく楽しそうに会話をしている様子が流れている。
「これ、本当に心霊スポットに行ったんですか?随分とみなさん楽しそうですが…」
「みんな心霊スポットには行き慣れてるからね!ちょっと飛ばすよ」
杏里さんはビデオカメラのスイッチを押し、映像を早送りする。
「ところでどんな場所に行ってきたんですか?」
杏里さんは『よくぞ訊いてくれた!』というような表情を見せる。
「首狩り小屋!」
杏里さんは何故かどや顔をしている。首狩り小屋なんて聞いたことない…
「首狩り小屋って何ですか…?」
杏里さんは僕の言葉に目を丸くして、手で口を押さえた。
「嘘でしょ…嘘でしょ龍悟くん!あの『首狩り小屋』だよっ!知らないって言うの??いくら龍悟くんでもそれはヤバいよ」
杏里さんは軽蔑した目で僕を見ている。何故ここまで言わるのか僕は不快でしょうがなかった。
「ねぇ見て見て!ここからが本番だから!」
僕の気持ちを察することなく、立ち上がろうとした僕の腕を強く引っ張り、ビデオカメラの再生ボタンを押した。
仕方なく僕は座り直し、テレビの画面を見ることにした。
画面には遠くの方に小屋らしきものが見え、四人がそれを見つけて興奮してはしゃいでいる姿が映し出され、撮影している杏里さんの声も興奮気味であった。
少しずつ小屋に近付いている。
「じゃあさぁ、小屋に着いたら中に入ってみようぜ!」
「中に入れるの?でも噂だと小屋に入れないようにドアに厳重に鍵が掛かってるって話だよ?」
「そんなの壊せばいいんだよ!」
さっき杏里さんとキスをした『哲也さん』も映っている。
小屋に着くと四人とも体が固まった様に動かなくなる。
「こ、これが首狩り小屋か…」
「近くで観ると迫力あるね…」
「何怖がってるんだよ!ここまで来たら中に入るしかないっしょ!」
哲也さんが促し、小屋の扉に近付く。小屋の扉には鍵ではなく小さな木の板が、扉が開けられないように何枚も釘で打ち付けられていた。
「おいおい、こんなに厳重じゃあ骨が折れるよなぁ」
哲也さんが打ち付けられている木の板に手を伸ばす。
「ガサガサッ、ガサガサガサガサッ」
急に小屋の回りで草木が擦れる音が聞こえた。
「えっ、やだ!怖い怖い怖い!」
「何だよ何だよ!」
ビデオカメラの映像は小屋の回りを映し出したが、特に異変はみられない。
「大丈夫、ただの風だって」
哲也さんはそう言いながら木の板を必死に剥がそうとしている。
「ドンドンドンドンドンドンドンドン…」
小屋から物凄く強い力で壁を叩く音が鳴り始める。
「きゃああああああ!」
眼鏡の女性が叫び声を上げている…
「龍悟くん、ここ見て!」
杏里さんは映像を止め、テレビ画面を指差した。
「ほらここ!この子の足下!」
杏里さんは叫び声を上げた女性の足下をトントンと指で叩く。
画面に近付き、杏里さんが指で何度も叩いている場所を確認してみる。
「顔…ですかね…?」
女性の足下には白い顔らしきものが映っている。
「そうなの!それにここもほら!」
杏里さんは数カ所画面を指差す。杏里さんが指さす場所はどれも白い顔らしきものが映り込んでいる。しかし、それはあくまで『らしきもの』であり、ぼやけているためはっきりとは分からない。
「まぁ顔に見えなくもないですが…」
「何よそれ!顔に決まってるじゃない!それに…」
杏里さんは眉間にしわを寄せ、ビデオカメラに視線を移す。
「それに…何ですか?」
杏里さんは僕に視線を戻すと、真っ直ぐに僕を見つめる。
「それにね、顔が増えてるの」
杏里さんの顔が曇った表情に変わる。
「顔が増える?どういうことですか?」
「最初にこの映像を見たときは何も映ってなかったの…」
いつもの明るい杏里さんらしくない暗いトーンで語り始める。
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『首狩り小屋』に大学のサークルメンバーと行き、撮影したビデオカメラの映像を最初に一人で確認した時には霊的なものは映り込んではいなかった。
大学にて首狩り小屋の映像をメンバー全員が集まった際に確認してみると、杏里さんが僕に最初に教えてくれたところの白い顔が映っているのを見つける。巻き戻しをして再度白い顔を確認すると、同じ場面に白い顔がもう一つ増えていた。もしやと思い、更に巻き戻しをして再生してみると、またも白い顔が増えたとのこと。
流石に気持ち悪く感じたメンバーはこの映像を御祓いするように杏里さんに提案したが、杏里さんは好奇心に負けこの映像を何度も見続けているのだそうだ…
「この白い顔がどれたけ増えるのか気になって見続けてるけど…あることに気付いちゃったの」
杏里さんは画面に映っている無数の白い顔の一つを指差した。
「これ、私の顔に似てない?」
僕は杏里さんが指差した顔を確認する。
似ている。似てるどころか杏里さんの顔そのものだ。とてつもなく嫌な予感がする。
杏里さんは画面を凝視している僕の顔を見て、不安げな表情に変わる。
「ねっ、似てるでしょ…」
「似てないですよ!それにこんな真っ白い顔じゃあ見方によったら誰にでも似てるように見えるんじゃないですか?」
「そうかなぁ…。そうだよね。そうだよそうだよ!私気にし過ぎだよね!」
これ以上杏里さんが不安にならないように嘘をついたが、これは危険な匂いがする。
「そうですよ!気のせいですよ!でもこんな映像をいつまでもとっておくのは不吉な感じがしますし、消しちゃいましょうよ!」
「そうだね」
僕が映像を消すように促すと、杏里さんは案外あっさりと消すことに同意した。
杏里さんは映像を消そうとビデオカメラを操作し、消去ボタンをぽちりと押す。
しかし画面は停止状態のままであった。
「あれぇ、おかしいなぁ」
杏里さんは何度も消去ボタンを押すが、ビデオカメラは何の反応も示さない。
映像を消そうとしている杏里さんの横で僕は画面の映像に釘付けになった。画面に映っている白い顔が微妙に動いているのだ。
再生ボタンが押されたのかと思ったがそうではない。白い顔以外は静止している。
「杏里さん、これ見て!」
僕は杏里さんの肩を叩くと、杏里さんはゆっくりと視線を画面へと移した。
「何これ!動いてる!」
画面に映る白い顔は徐々に動きが大きくなり、それぞれ頭を上下左右に激しく動かしているように見える。
そして急にピタリと動きが止まると、口を大きく開いた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
「だずげで!だぁずぅげでぇぇええ!」
「ぎぃぃいやぁぁああああ!」
大音量の断末魔の叫び声が部屋全体を埋め尽くす。あまりの叫び声の大きさに体が硬直してしまう。
「ドサッ」
杏里さんが床に倒れ込んでしまった。苦悶の表情を浮かべ、両手で自分の首を押さえている。
「杏里さん大丈夫ですか!?」
杏里さんは首を押さえたまま、全身をぐねぐねと動かし悶えている。
「くっ、苦しぃ…」
杏里さんの首から上がみるみると赤らんでいく。
何とかしなくてはいけない。そう思ったところに部屋のテーブルの横に杏里さんのバッグが見えた。確かあのバッグの中には杏里さんの『秘密道具』が入っていたはず。
僕は杏里さんのバッグに飛びつき、迷わずバッグの中に手を突っ込んだ。
「あった!」
僕はバッグの中から『御札』を取り出し、杏里さんの方を振り返る。
「ぐっ、きふぅ…」
杏里さんは充血しきった瞳で僕を見つめ、片腕を僕の方に伸ばし、体は小刻みに震えている。
「バシンッ」
僕は御札を杏里さんの胸辺りに叩き付け、そのまま御札を手で強く押さえた。
「痛っ!」
思わず声が漏れてしまう。杏里さんが御札を押し付けている僕の腕を両手で掴んできた。とても女性の力とは思えない程の強い力で、僕の腕を握り締めてくる。
杏里さんの体から少しずつ黒いオーラが放出されている。
「っぷふぅぅぅぅうう」
杏里さんは大きく息を吸い込んだ。
「杏里さん!」
僕の腕を強く握り締めていた杏里さんの両手の力がすぅっと抜け、僕の腕は締めつけられた痛みから解放される。
杏里さんは両目を瞑り、肩を上下させながら激しく呼吸をしている。
「龍悟くん、ありがとぉ。死ぬかと思った」
杏里さんは目を開けて僕を見つめる。杏里さんの目は酷く充血したままだ。そして杏里さんの胸に押し当てている僕の手に重なるように、杏里さんはそっと手を乗せてきた。
「杏里さんの御札は良く効きますね」
「この御札は『特注』だからね」
杏里さんはそう言って無邪気に笑った。
僕も安心して笑っていると、部屋の入口の方から物凄い殺気を感じた。
恐怖で額から汗が湧きだし、自然と涙が溢れて頬を伝って地面へと落ちていく。
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「おい、おめぇ俺の妹の胸触りながら、何ニヤニヤしてやがる」
聞き慣れた声だが、今の状況では絶対に聞きたくない声が聞こえた。
僕は咄嗟に手を引き、声のする方を素早く振り向く。
「笹木さん落ち着いてください!これには事情があります!」
僕が笹木さんに事の経緯を説明しようとすると、杏里さんはゆっくりと上半身を起こして、笹木さんを睨みつけた。
「お兄ちゃんいきなり勝手に入ってきて何なのよ!いい加減子供扱いするのはやめて!私が何してようが私の自由でしょ!?」
杏里さん、ここでその発言は不味い。火に油を注いでしまっている様な気がする。
笹木さんは無言で僕に近付いてしゃがみ込み、僕に目線を合わせてずいっと顔を近付けてくる。
僕は誤解を解こうとしたが、笹木さんのあまりの気迫に言葉を発することが出来なかった。
「覚悟を決めてるってことだな!」
「何の覚悟のことでしょうか?!」
部屋の中は笹木さんの怒りに満ちた赤いオーラで充満している。
「ドサッ」
杏里さんが床に倒れてしまった。
「杏里さん!どうしたんですか!?」
杏里さんの肩を揺らして声を掛けたが、力無く体がゆらゆらと揺すられるだけで反応が無い。
「何だありゃあ…」
笹木さんは眉間にしわを寄せてぼそりと呟き、テレビの方を見つめている。
僕もテレビの方を見てみると、信じられない光景が待ち構えていた。
テレビには男性と思われる顔が画面に大きく映し出されている。目は細く頬はコケていて、顔の色は薄い灰色のように見える。
画面に映る男性の顔は怨めしそうな表情で杏里さんを睨みつけている。
「杏里の魂を喰ってやがる…」
「えっ?」
笹木さんは立ち上がり、テレビにのそのそと近付いた。
テレビの前に足を広げて立ち、右手の手の平を天井に届きそうなくらい高く上げ、一気に振り下ろす。
「バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!…」
笹木さんは手の平でテレビを何度何度も激しく叩いた。テレビを叩くその顔は眉間に酷くしわを寄せ、歯茎が見えるほど歯を食いしばり、まるで『鬼』のような形相をしている。
僕はあまりの騒音に両手で耳を塞いだ。
笹木さんは渾身の力で数十回テレビを手の平で叩きつけた後に動きを止めた。テレビの画面は真っ暗で何も映っていない。
笹木さんは僕と杏里さんの方を振り返り、僕の隣にドスンと座りあぐらをかいた。
「龍坊、俺が分かるように一から説明しろ」
笹木さんはそう言うと腕を組んで俯いた。僕は笹木さんがなるべく理解し易いように杏里さんの部屋で何が起こったのか説明した…
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「匂うな…」
僕の説明が終わると、笹木さんはゆっくりと顔を上げた。
「な、何がですか?」
笹木さんは鼻の下を人差し指で軽くこする。
「俺と同じ匂いがするんだよ」
僕は全身に鳥肌が立った。笹木さんと『同じ匂い』…兎に角ヤバいに違いない。
笹木さんは愛おしそうな表情になり、深く眠りについている杏里さんの頭を優しく撫でる。
「笹木さんごめんなさい。杏里さんがこんな事になってしまって…」
笹木さんはポンッと僕の頭の上に手を置き、髪の毛がくしゃくしゃに乱れるまで僕の頭を撫で回した。
「何でおめぇが謝んだよ。それより早く杏里を何とかしないとな」
笹木さんの言うとおりだ。杏里さんの呼吸は弱々しく、何度呼びかけても反応はみられない。笹木さんの言う『魂が喰われる』状態になっているということなのか…
そう言えばビデオカメラの映像の中にアパートの前で杏里さんとキスをした『哲也さん』が映っていた。哲也さんに聞けば何か分かるかもしれない。
「笹木さん!首狩り小屋に拓也さんっていう杏里さんのサークルの仲間が一緒に行ったみたいなんですが、その人なら杏里さんを助ける方法を知ってるかもしれません!」
「よし、それだ!」
笹木さんはテーブルの上に置いてある杏里さんの携帯電話を手に取ると、慣れた手つきでボタンを押し始めた。
「杏里の仲間ってことは携帯のアドレスに入ってるはずだよな」
「笹木さん、その携帯電話使い方やけに慣れてませんか?」
「あ?俺と杏里の携帯はおそろだからな」
笹木さんと杏里さんの携帯がおそろいだなんて、少し気持ち悪いと思ってしまったが、怖いので黙っていることにした。
笹木さんは携帯電話を耳に当てている。アドレスから哲也さんを探し出したのでだろう。
「あ、俺だ!今から来い!あ?俺だよ!杏里の兄だ!あ?だから杏里の家に来いって言ってんだろ馬鹿野郎!話は後だ早く来いよじゃあな」
笹木さんは荒々しく携帯電話をテーブルの上に置いた。会話はまるで無茶苦茶なように感じられた。これで本当に哲也さんは来るのだろうか…
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「ピンポーン」
電話が終わってから20分程度でインターホンが鳴った。
「よし、来たか」
笹木さんは膝をパンと叩き、玄関へ向かっていく。
「ガチャ…」
玄関のドアを開けると、哲也さんが立っていた。だが様子がおかしい。顔色が悪く、体が震え、視点がまるで合っていない。
嫌な予感がしたその時…
「すいませんでしたぁぁあ!!」
哲也さんがいきなり凄い早さで頭を下げた。
「あ、杏里さんとキスをしたのは今回が初めてで、僕の方からではなく杏里さんの方からキスをしてきたというか、無理矢理キスをされたというか。本当にすいませんでした!」
哲也さんが深く頭を下げているのを見下ろしながら、笹木さんは静かに拳を握り締めた。
笹木さんが怒っているのは確実だが、これで哲也さんと喧嘩をしてしまったら大変なことになる。それでは哲也さんを呼んだ意味が無くなってしまう。
「笹木さん!時間がありませんよ!杏里さんを助けるために話し合いましょう!哲也さん、とりあえず中へ!」
震えている哲也さんの腕を掴み、無理矢理部屋の中へ連れていく。哲也さんは部屋でぐったりと横になっている杏里さんを見て、戸惑いを隠せない様子であった。そんな哲也さんに部屋でのことをなるべく細かく説明した。
「噂は本当だったんだ…」
哲也さんの表情が険しくなる。
「噂って何ですか??」
哲也さんは静かに『首狩り小屋』のことを詳しく説明してくれた。
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『首狩り小屋』はとある県の山の中にひっそりと立っている。その山は毎年自殺者が後を絶たないといわれる曰く付きの場所。業者の人が数人で自殺者がいないか確認しながら山の中を歩いていると、小屋の近くを通った。小屋の扉が半開きになっていたため中に人がいるかもしれないと業者の二人が中に入っていき、残りの人は小屋の近くを探すことにした。30分程経っても小屋に入った二人がなかなか合流してこないため小屋に戻ってみると、小屋の扉が完全に閉まっていた。念のため小屋の中を確認すると、業者の二人は小屋の中で首を吊っていた。業者に関わらず小屋の中での首吊り自殺は多く、また小屋に入った者の多くは不慮の死を遂げるという…
「あまりにも小屋での首吊りが多くて、地元の人はその小屋のことを『首吊り小屋』や『首狩り小屋』と呼ぶようになったらしい」
哲也さんは説明が終わると大きく息を吐き、俯いてしまった。
「まさか杏里はその小屋の中に入ってねぇだろぉな?」
笹木さんは哲也さんの胸ぐらを掴む。
「小屋から変な音が鳴り出したからみんなビビってしまって、ジャンケンで負けた杏里さんだけが小屋の中に入りました…」
笹木さんは哲也さんに殴りかかろうとしたが、僕が咄嗟に二人の間に入り込んだため、間一髪で防ぐことができた。
「笹木さん!何度も言いますが、時間が無いんです!哲也さん!杏里さんを助ける方法はあるんですか?!」
「あることはあるんだけど…」
「早く教えてください!」
「本当かどうか分からないけど、ネットの情報だとロープに名前を書いて、小屋の中でハサミでロープを切れば助かるらしい」
「それで行きましょう!」
今は手段を選んでいる暇は無い。助かる可能性があるならやるべきだ。
「おめぇらはここに残ってろ。俺一人で行く」
笹木さんはそう言うと哲也さんの胸ぐらを再度掴んだ。
「『首狩り小屋』の場所を教えろ」
「笹木さん!僕も行きます!杏里さんを助けたいんです!」
足手まといになるのは承知で僕はどうしてもついて行きたかった。杏里さんを助けたい。僕はその一心で笹木さんと首狩り小屋に行く覚悟を決めていた。
「俺も行きます。始めて行くと迷いますから、俺が小屋まで案内します」
哲也さんは立ち上がり、笹木さんのことを真っ直ぐと見つめている。
笹木さんは僕と哲也さんの目を見て軽く頷いた。
「よし、行くか」
杏里さんをベッドで寝かせ、僕たちは『首狩り小屋』へ出発した。近くのディスカウントショップでロープ二本と油性マジックとハサミを買った。リスクを最小限に抑えるため、小屋の中に入るのは笹木さんだけということになり、ロープは笹木さんと杏里さんの分で二本となった。
笹木さんの車で向かったが、笹木さんの運転で高速道路を使っても小屋がある山の近くまで行くのに三時間は掛かった…
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「そこのカーブを曲がった所で車を停めてください」
無言の車内に哲也さんの声だけが響く。細い山道のカーブを抜けると車を数台停めておける様なスペースがあった。笹木さんはガードレールに沿わせて車を停め、エンジンを切った。
「カチッ」
笹木さんは煙草に火をつけて煙を吸い込み、深く煙を吐き出す。車内に煙を漂わせながら、笹木さんはフロントガラスの先を見つめている。ただならぬ緊張感を感じながら笹木さんが一服を終えるのを見守った。
車から出ると上着にパーカーを羽織っているだけの僕には、軽く体が震えるほど外が寒く感じた。時間は夜中の二時を回っている。
ガードレールから先は林になっていて、月明かりも街灯も無く、どこまでも続く暗闇がまるで僕たちを山の中へ誘っているに感じた。
「こっちです」
哲也さんの手には懐中電灯が握られている。僕は勝手に持ってきた杏里さんのバッグの中に手を入れ、懐中電灯を取り出した。林の中に入っていこうとする哲也さんに続こうと、ガードレールを跨いだ。
後ろから笹木さんがついてこない。ふと振り返ると笹木さんは車を降りたところで立ち尽くしているようだ。更に何やら一人でしゃべっているようだが、何を言っているか分からない。
「笹木さん?」
笹木さんは僕の声に反応し、すぐに近付いてきた。
「笹木さん、何一人でしゃべってたんですか?」
「あ?いやぁじぃさんがうるさくてな」
「えっ?お爺さんなんていましたか?」
「いや、気にすんな」
笹木さんはそう言って哲也さんの後を追って林の中に入っていった。
僕は回りを見渡してから、笹木さんの後に続いた…
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「ザザッ、ザザッ」
林の中は道など無く、草木をかき分けて前に進む訳だが、全く整備のされていないところを歩いていくのは初めてで、なかなか骨が折れる。
必死に前を歩く二人の後を追って30分程度経ったところで、二人の歩みが止まった。
「あそこです…」
哲也さんは腕を上げ、林の中に向かって指を差した。
哲也さんか指差した方を見てみると、暗くてはっきりとは見えないが確かに小屋らしきものはある。
笹木さんは何のためらいもなく小屋に近付いていく。僕も哲也さんも恐る恐る笹木さんの後に続き、小屋へ近付いた。
「こりゃあヤバそうだな…」
小屋の前に着くと、笹木さんは両手を腰におき、小屋を見つめる。
小屋は大分劣化が進んでいるように見え、所々壁が朽ちているのが分かる。小屋の扉辺りには御札が乱雑に何枚も貼られている。そして、小屋の周りにはお供え物が置いてあるのも見えた。
「こんな小屋なんて取り壊しちまえばいいのによ」
笹木さんはそう言って小屋の壁をパンパンと叩いた。
「取り壊せないみたいですよ…」
哲也さんがポツリと呟くと、笹木さんはそれを鼻で笑った。
「簡単に中に入れそうだな」
杏里さんが撮影した映像には、入り口の扉に木の板が何枚も張り付けてあり、小屋に入るのに苦労していたが、今見える限り障害物になりそうなものは何もない。
「ギ…ギィィィ…」
笹木さんが扉のドアノブに手を掛けると、扉はいとも簡単に開いた。笹木さんは小屋の扉を少し開け、隙間から小屋の中の様子をうかがっている。
「ロープを渡せ。それに何があっても小屋の中にはお前らは入ってくんなよ」
笹木さんは念を押すかのように僕たちをじろりと睨み付ける。
僕は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。そしてバッグからロープを取り出し、ロープに間違いなく笹木さんと杏里さんの名前が書かれていることを確認して笹木さんに渡した。
「笹木さん、気を付けて」
笹木さんは静かに頷くと、小屋の中へと消えていった。
「笹木さん頑張れ!笹木さん頑張れ!」
哲也さんは目を瞑り、両手を合わせている。
今は笹木さんを応援することしか出来ない。僕も哲也さんと同じように手を合わせて、笹木さんが無事に小屋から出てくることを願った…
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「うぅおおおおおおおおお!!」
静寂は突然破られた。笹木さんが小屋に入って10分も経っていない。笹木さんの雄叫びが小屋から漏れ出している。
「ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!」
地面から響いてくるような音が聞こえてくる。これはただ事ではない。
「笹木さん!」
小屋の扉に近付こうとしたが、哲也さんが僕の腕を掴んでそれを制止した。
「離してください!笹木さんが危険かもしれません!」
「駄目だ!もしこれで中に入ってしまったら誰かが助からないことになるぞ!ロープは二本しかないんだ!」
「がぁぁああああああ!!」
尚も笹木さんの雄叫びは続いている。
僕は腕を無理矢理振り払い、小屋の扉を勢いよく開けた。恐怖で足が酷く震えていたが、思い切り小屋の中に足を一歩踏み入れた。
「ぐ、ぐぐっ…」
小屋の中に入ると空気が重く、息苦しさを感じる。
部屋の真ん中辺りに笹木さんがうずくまっているのが見える。
ゆっくりと笹木さんに近付くと、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「あんりぃ…あんりぃ…」
笹木さんは弱弱しく杏里さんの名前を呼ぶと、両手を硬く握り締めて床を叩いている。
「笹木さん、しっかりして下さい!」
笹木さんに声を掛けて体を揺するが、まるで僕のことを気付かないように反応が見られない。
「あんりぃ…どうしてこんなことに…」
笹木さんはそう言って天を仰ぐようにゆっくりと顔を上げる。笹木さんは目が充血し、まぶたは腫れ、顔をくしゃくしゃにしながら大粒の涙を流していた。
笹木さんが見ている方に視線を移すと、僕は尻餅をついてしまった。
誰かが中を浮いているのだ。いや、首を吊っている。両手両足は力なくだらんとぶら下がっていて、首は斜めに俯き茶髪の長い髪が下に垂れ下がっている。
そして首を吊っている人の服装に見覚えがある。僕の目の前で首を吊っているのは『杏里さん』だ。
体の震えが止まらない。止まらないどころか、徐々に強くなる。
「ゴキン…ゴキン…ゴキン…」
不可解な音を立てながら杏里さんは首を左右に傾けている。
そして笹木さんを見下ろしながらニタリと微笑んだ。
背筋が凍りつくような感覚が襲ってくる。
僕は肩に掛けているバッグに手を入れ、掴めるだけの御札を取り出した。
「笹木さん、よく見て下さい!あれは『杏里さん』なんかじゃありません!」
笹木さんに訴えかけるというか、自分に言い聞かせながら、笹木さんの背中に御札を叩きながら貼り付けていく。
「うぅぅぅ…うぅぅぅ…」
笹木さんは手で顔を覆い、肩を震わせながら泣いている。
このままでは駄目だ。笹木さんの心が壊れてしまう。
僕は笹木さんの横に落ちているロープとハサミを拾い上げる。ロープに笹木さんの名前が書かれていることを確認し、ロープを切ろうとハサミを入れた。
「嘘だろ…」
ありえないことが起きた。ロープを切ろうとハサミを入れたが、ハサミの刃がまるで粘土か何かで出来ているかのようにぐにゃりと曲がった。
「ケタケタケタケタ…」
天井から笑い声が聞こえてくる。笑い声のする方を見ると、杏里さんが僕を見つめて笑っているのだ。
「痛っ」
急に鋭い頭痛に襲われ、僕は床に倒れこんだ。
「うぇ、おえぇぇぇぇぇぇええ」
頭が割れてしまうような痛みと共に酷い吐き気により、僕は何度も嘔吐を繰り返した。
意識は朦朧とし、体の力がどんどん抜けていく。
「ズズズズズズズズ…」
誰かが僕の腕を掴み、床を引きずっている。
小屋の扉が開くのが見えたと思ったら、僕は小屋の外に放り出された。
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背中を地面に打ち、一瞬呼吸が止まるも、頭痛が治まっている。
体を起こすと、哲也さんが僕に駆け寄ってきているのが見える。だが、様子がおかしい。
駆け寄ってきている哲也さんが不自然な格好のまま動きが止まっているのだ。それに何も音が聞こえない。風も感じられないし、あれだけうるさかった草木の音も聞こえない。
世界が静止してしまったかのように感じられたが、不思議と怖くはない。
「切れたものはしょうがない…」
僕のすぐ後ろから老人の声が聞こえた。
「切れてもよい。切れてしまっても問題はさほどない」
僕の前を腰が曲がって杖をついた小さな老人が横切る。
「切れたらまた結べばよいだけの話。何度も、何度でも」
老人はそう言うと僕の方に顔を向け、薄ら笑いを浮かべた。老人が何を言いたいのかあまり理解が出来ない。
その老人の顔はしわだらけで、何より眼球が無かった。眼球のあるべき場所にはただ深い窪みが出来ているだけだった。
「おい!大丈夫か!」
哲也さんが僕の方を掴み、心配そうな顔で僕を見つめてくる。
時間が動き出したように、まわりの音が再び聞こえ出した。先程の老人はどこに行ったのか、姿が見えない。
まだ小屋の中で腕を掴まれた時の感覚が残っている。笹木さんが僕を小屋から出してくれたんだ。
僕は立ち上がり、再び小屋へ近付いて小屋の扉を開けた。
「何考えてるんだ!お前は何度小屋に入る気だよ!絶対ヤバい!もうやめとけ!」
哲也さんが僕を必死に止めてくれようとしているのが分かるが、僕にはまだやらなきゃいけないことがある。
僕は哲也さんの引き留める言葉を背に、小屋の中に入っていった…
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小屋の中に入ると、笹木さんが仰向けに倒れているのが見えた。
笹木さんに駆け寄り声を掛けるも、笹木さんはぴくりとも動かない。口元に耳を近付けると、微弱ではあるが呼吸はしている。
笹木さんの手にはロープが二本握られていた。そのロープは二本とも切られているが、切られた断面は刃物で切ったものではなく、引き千切ったようになっている。
そしてロープに書かれているのは杏里さんと笹木さんの名前ではなく、笹木さんの名前がマジックで雑に消してあり、隣りに僕の名前が書いてあった。
僕は床に転がっているマジックを広い、杏里さんの名前を消して笹木さんの名前を隣りに書いた。そして二本のロープとも、切れた部分を結んで再び『輪』を作った。
「よし、後はロープを切るだけだ」
僕は先程刃が曲がってしまったハサミを見つけて拾うとロープを床に置き、ハサミの刃の片方をロープに押し当てて力の限り刃を前後に動かした。
「ズリズリズリズリズリ…」
いくら力を入れて刃を動かしても、ロープはびくともしない。
「ケタケタケタケタ…」
僕の耳元で奇妙な笑い声が聞こえる。
咄嗟に振り向くと、そこには杏里さんの家で見た無表情の男性の顔があった。
男性は体育座りをして無表情のまま僕を見つめている。顔は笑っていないのに奇妙な笑い声を漏らしていて、身が竦んでしまうほどに気持ちが悪い。
僕はバッグの中に手を入れて塩を取りだし、そいつにふりかけようとした。
「ぎぃぃぃいやあああああ!」
「だずげで!だずげでぇぇええ!」
そいつの口が開くと同時に、断末魔の叫びがそいつの喉の奥の方から聞こえてきた。
その叫び声を聞いたとたんに喉に違和感が。首を絞められているかのように呼吸が思うように出来ない。みるみると頭に血が上っていき、視界に火花が散り始める。
やがて全身の筋肉がつってしまったかのように、体が硬直してしまった。
「ガバッ」
物凄い速さで笹木さんの上半身が起き上がった。
笹木さんは僕の持っているロープを取り上げると、そいつの首にロープを巻きつけた。
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「捕まえたぜこの野郎」
笹木さんはそう言うと巻きつけたロープを締め上げていく。
そいつはロープを両手で掴みながらバタバタと体を動かし、必死に抵抗している。
笹木さんは立ち上がり、そいつを持ち上げると床に叩きつけて馬乗りになった。僕の名前が書いてあるロープを拾うとロープに噛みつき、あっという間に引き千切った。
ロープが千切れると僕は首を絞められるような苦しみからすぐに解放されたが、疲れのせいか意識が徐々に遠のいてしまう。
薄れゆく意識の中で幻覚かもしれないが、僕は『鬼』を見た。その姿は全身が真っ赤で眉間に酷くしわを寄せて歯を食いしばっている。
その鬼は片手に魔物を掴むと喉元に噛みつき、そのまま首をのけ反らせ、『ブチュン…ブチュン…』と引き千切っていく。
そこで僕の意識は途切れてしまった…
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「プルルルル…プルルルル…」
携帯電話の着信音が聞こえる。
目を開けると、僕は笹木さんの車の後部座席に横になっていた。
体を起こすと、助手席に座っている哲也さんが心配そうに僕を見つめている。
「やっと起きたか龍坊よぉ」
運転席にはいつもと変わらない笹木さんの姿がある。車の窓の外を見ると、高速道路を走っているのが分かった。
「笹木さん、本当に…」
「いいから電話に出ろって!その音うるさくてしょうがねぇ」
「あっ、はい!」
電話に出ると、杏里さんの明るい声が聞こえた。杏里さんはすっかり元気になったとのことで安心した。
「龍悟くん、今回も助けてくれて本当にありがとね!でも私の携帯電話いじったでしょ?友達のアドレスが消えてるんだけど!」
「僕がそんなことしませんよ!それに杏里さんの携帯電話をいじったのは笹木さんだし。笹木さんと杏里さんの携帯は一緒のだから操作も慣れてて、すぐに哲也さんに連絡が取れたんですよ!」
「えっ?お兄ちゃんが?お兄ちゃんと私の携帯電話は違う機種のはずだけど…」
「えっ?」
僕は事の真相を知るのが怖すぎて、これ以上変に足を踏み入れることは止めにした。
「それよりね、龍悟くんにまだ見せたいものがあるの!それがね…」
杏里さんの無邪気な明るい声が聞こえてくるが、僕はもうこりごりで携帯電話をそのまま放り投げて再び横になった。
車内が少し血生臭い臭いが漂っていたが、僕は気にしないようにして眠りについた。
夢の中で『鬼』が出てこないことを強く願いながら…
作者龍悟
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
気がついたら話が長くなっていました(汗)
まだまだ高校生編は続きますので、今後も読んでいただければ幸いです!
無駄に話が長くなってしまっていますので、もっとこうした方が良い等のアドバイスを頂けたらと思います!