これは、僕が高校一年生の時の話だ。
時期は、12月の半ば頃。
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・・・・・・・・・。
「なぁ、頼みが有るんだけど。」
そう、電話で薄塩は切り出した。
僕は答えた。
「今度は何をやらかしたんだ?」
「違ぇよ。」
返って来た声は、あくまで冷静だった。
「・・・付いてきて欲しい場所が有る。」
「・・・わかった。」
有無を言わせない様な声に、思わず返事をした。
「じゃ、明日、学校、五時に終わるよな。集合は六時で。何時もの神社な。」
「・・・了解。」
プツッッ
電話が切れた。
僕は、夕食に使うタマネギを再び刻み始めた。
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・・・・・・・・・。
次の日。
午後の六時。神社の前。
薄塩は一人で立っていた。
「・・・のり姉とかピザポは?」
僕がそう聞くと、薄塩はゆっくりと頭を横に振った。
「・・・行くか。」
先に立って、薄塩が歩き出した。
僕は、黙ってその後を付いて行った。
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・・・・・・・・・。
連れて行かれた先は、近所の道路沿いだった。
あまり使われなくなった道で、人も車も居ない。
しかし、生々しい赤黒い染みと、沢山の生花が、此処で何があったのかを雄弁に物語っていた。
「・・・・・・事故現場?」
僕がそう聞くと、薄塩は小さく頷いた。
生花達の前に有る、沢山のお菓子にジュースに漫画。
恐らく、若い人が此処で亡くなったのだろう。
と、言う事は・・・。
「・・・薄塩の、友達か?」
薄塩がまた、頷いた。
「小・中学校で同じだった奴。」
「・・・・・・そうか。」
それ以上言うべき言葉が見付からなくて、僕はそっとその場にしゃがみ、手を合わせた。
「・・・なぁ、コンソメ。」
僕に、そう呼び掛けながら、薄塩も僕の隣にしゃがんだ。
「・・・・・・ん?」
「ちょっと聞いて欲しいんだけど。」
「・・・・・・うん。」
僕がそう返事をすると、薄塩は淡々と話を始めた。
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・・・・・・・・・。
・・・なぁ、お前って小・中学校、友達居た?
・・・・・・。
ごめん。聞いた俺が悪かった。
あー俺?
俺は結構ぼっち気味だったな。うん。
・・・あ?知ってる?
・・・まぁ、そりゃそうだ。
でもさ、そんな俺にも、世に言う《親友》と言う奴が居た訳だな。
うん。
・・・・・・。
まぁ、此処で轢かれた奴なんだけどな。
確か・・・小学校一年とか二年の頃に初めて会ったんだよ。
それが可笑しな奴でなー。
小学校の図書室に籠って、毎日毎日怖い話を読んでる奴なんかにいきなり話し掛けたんだよ。
「何か面白い話を知ってるか」ってな。
・・・・・・。
・・・まあ、その図書室に引き籠っている奴って、俺だけどな。
で、そこから俺達はよく話す様になったんだな。
・・・。
どんな奴だったか・・・?
えーとだな。
五月蝿い奴だったよ。うん。
そうだな・・・。
あー・・・。
お前のお人好しとピザポのお節介を足してそのままにした感じだな。
・・・な?濃いだろ?
・・・え?
いやいやいや。
お前相当なお人好しだからな。騙され易い所も有るからな。間違っても冷静沈着じゃ無いから。
忘れんな。
・・・まぁまぁ。怒るなって。
あ・・・・・・。
あと、コーヒー淹れるのが上手かったな。
俺がブラック飲めるのって、何気にあいつのお陰かもな。
あとはー・・・。
あー・・・・・・。
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・・・・・・・・・。
そこまで言うと、薄塩は口を噤み、眉をしかめた。
「・・・ヤバイな。思い出せない。」
そして溜め息を一つ。
「親友だったんだろ?思い出せないって・・・。」
僕はやや呆れ気味に言った。
薄塩は暫く考え込んでいたが、軈て、ベッタリと地面に腰を下ろした。
「駄目だなー・・・。」
そして、頭をボリボリと掻いた。
「お前な・・。」
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「居なくなるなんて、聞いて無かったからな。」
僕が口を開こうとすると、薄塩がポツリと呟いた。
「こんな早くに居なくなって、こんな話をする事になるなんて、思ってもみなかったしな。」
薄塩の声が少しだけ濁り、泣いているのが分かった。
「本当・・・意味分からないよな。」
僕は何を言えばいいか分からず、黙って頷いた。
横を向いたら泣き顔が見えてしまうので、じっと、備えられているコーラの缶に目を遣る。
薄塩が言った。
「・・・なぁ、コンソメ。」
「・・・ん?」
「俺達さ、《見える》だろ?」
「・・・そうだな。」
「何で、どうでもいい奴は幾らでも見えるのに、・・・会いたい奴には会えないんだろうな。」
「・・・。」
僕は何も答えられなかった。
薄塩は続けた。
「・・・あいつさ、部活でレギュラー取ったばっかりだったんだよ。・・・確か。」
薄塩が、生花の横に有ったシューズに手を伸ばした。
「なのにさ・・・。未練だって残ってない訳が無いのに・・・なんで、なんで・・・」
後半はもう、声が震えて、何を言っているのか分からなかった。
僕は黙って、泣いている薄塩を見ない様にしながら背中を叩いた。
シン、と静まる道路に、薄塩の嗚咽が響いた。
コンクリートにボタボタと雫が落ちた。
しかし、幾ら薄塩が泣いても、《彼》が薄塩の前に現れる事は無かった。
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・・・・・・・・・。
暫く泣くと、薄塩は手をパーにして此方に突き出した。
「・・・飴。」
僕は無言で掌の上に薄荷飴を置いた。
ペリペリと袋を破る音がした。
「・・・ありがとな。」
隣で、薄塩が大きく息を吸い込んだ。
「よいしょっ・・・と。」
そして、そのまま立ち上がる。
ポンポン、と服に付いた汚れを払い、薄塩は大きく伸びをした。
「帰るか。」
「・・・え?」
スタスタと薄塩が歩き出した。
「結局、此処でも会えなかったしな。・・・もう、居ないんだろ。」
「・・・・・・。」
ベシッッ
僕が何も言えずに屈んだままで居ると、薄塩が戻って来て、何故か頭を叩かれた。
「ほら、何か食べ行くぞ。奢るから。」
そしてまた、さっさと歩き始める。
その声の感じは、限り無く何時もの薄塩だった。
僕は叩かれた頭を擦りながら、立ち上がろうとした・・・が、よろけて転けてしまった。
ヒョイと目の前に手が差し出された。
「・・・ごめん。」
立ち上がると、その手が薄塩の手では無いという事に気付いた。
「あいつのメンソール嫌い、直したの君だったんだ。」
手の持ち主は、頭がハロウィンのカボチャになっていた
「やるじゃん。」
彼はニヤリと笑った・・・様な気がした。
「・・・あいつ、メンソール、苦手だったのか。」
僕は驚きの余り、何だかどうでもいい事を口走ってしまった。
彼はクスクスと肩を震わせながら言った。
「チョコミントアイスも食べられなかったんだよ。・・・小学校の頃は。」
「そう・・・だったんだ。」
彼はコクリと頷いた。
僕は頭の端で、薄塩を呼んで来なくては、と思った。・・・が
「あの・・・。」
「じゃー、後は頼んだ。」
「え?」
右手をヒラヒラと振り、彼は消えてしまった。
僕は只々、呆然とその場に立ち尽くしていた。
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・・・・・・・・・。
「何やってんだアホかお前は!!」
戻って来た薄塩に、つむじを押された。
「止めろ縮むだろ。」
「ならボケッとしてんなよ。」
薄塩が、また歩き出す。
僕は、急ぎ足でその後を追いかけた。
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・・・・・・・・・。
道を歩いている時、薄塩がポツリと言った。
「・・・血筋、なのかな。」
「・・・何が?」
前に居る薄塩は、ぼんやりと上を見ながら歩いていた。
「ほら、姉貴も親友が死んでるだろ。・・・だから、こう・・・。親友になった奴が早死にする、みたいな。」
僕は軽く溜め息を吐いた。
「・・・あのな。」
「コンソメは、死ぬなよ。」
薄塩が小さく呟いた。
「死ぬな。どうしても死ぬなら姉貴も連れて逝ってくれ。マジで。」
「死んでもお断りする。」
薄塩の言葉が余りに本気で、僕は思わず噴き出した。
僕は言った。
「て言うか寧ろ、今のお前の発言が死亡フラグだけど。」
「・・・じゃあ、これから食べるのが最後の晩餐だな。」
薄塩の声が、少しだけ嬉しげになった。
「何にする?あ、高いのは無しな。」
僕は答えた。
「アイスだな。アイス食べたい。」
呆れた様に薄塩が言った。
「おい、今十二月だぞ。」
「知ってる。アイス食べよう。チョコミントの奴。高くなければいいんだろ?」
薄塩は暫く黙っていたが、軈て大きな溜め息を吐いた。
「・・・取り敢えず、ラーメンな。アイスはその後。」
「了解。あ、ラーメンは別に自費でいいから。」
「・・・おお。何で?」
「別に。」
そうして僕達は、今居る場所から一番近い幸○苑へと向かったのだった。
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冬の空は星が多かった。
「薄塩はアイス、何にする?」
「・・・あんまん。」
「チョコミントな。」
「何故にそうなる。寒いだろ。」
「いいから。チョコミントで決定。」
風が身を切る様に冷たい。
僕は、○楽苑へ向かう足を速めた。
作者紺野
どうも。紺野です。
ミントに薄荷は僕の動力源です。
現に今も薄荷飴を嘗めています。
最近・・・と言うか土曜日からピザポが五月蝿いです。
作品への感想なら学校で言って欲しいです。
実況は止めて欲しいです。
勿論、話はまだまだ続きます。
良かったらお付き合い下さい。