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長編10
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赤い村-始まり-(1)

music:4

2009年6月10日(水)

丸山は頭を抱えていた。

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(はぁ.....。

なんもねーなぁ、俺の人生って。)

だらしなく椅子に座り、丸山はパソコン画面と向き合っている。

ただ咥えてるだけの煙草は、火がついたままジリジリと煙を吐きだし、灰に変わってゆく。

無駄なのは分かっていても、ついやってしまう丸山の悪い癖だ。

少しずつ増える灰は、自らの重さに耐えきれず丸山の胸元へポトッと落ちた。

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「うぁぁあっ!」

胸に落ちた灰を慌てて払ったお陰で、今度は咥えていた煙草が火をつけたまま太ももへ落下した。

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「あっ...つっっ!!」

丸山は勢いよく立ち上がった。

(あーあ....ホント最悪。)

見事に火種の方から落下した煙草は、丸山のスーツに穴を開けた。

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「おいおい、落ち着きねーなぁ。

一体あなた何才ですか?」

それを見ていた隣のデスクの前田が、カッカッカと下品に笑いながら私に嫌味を言った。

彼は丸山の同期で、一番の理解者だ。

....ただ、こういう所がたまにウザい。

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「ふん、ほっとけっ!」

私はそう言い放ち再びデスクに座るも、仕事は相変わらず手が進まなかった。

2流大学を出て、雑誌の編集社に就職を決めてからこれまで、丸山の人生には一つの花もない。

そして今日も、任された雑誌の3ページすらを埋めるネタが出てこない。

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「考えたって何も出てこないでしゅよ〜。」

隣から相変わらずウザい言葉が聞こえてきたが、それに答える気力も無かった。

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(俺だって....もう少し花のある人生なら、こんなとこに座っても無ければ、たかだか雑誌の3ページにこんなに悩みはしねーんだよっ。)

そんな事を考えつつ、丸山はため息をつきながら煙草に火をつけた。

「....ふーっ。」

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すると、終始それを隣で見ていた前田がボソっと言った。

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「丸山よぉ、何もネタってのは自分で考える必要はねーんだぞ?

他人から聞いた話でもいいし、他人の体験談を元にアレンジしてもいいし。

要はもっと頭じゃなくて行動、つまり足を使えってことだよ。」

偉そうな事を言ってる前田のパソコンには、どこかのエロサイトが画面を埋めていた。

それを見た丸山はもう一度深くため息が出たが、座ってても何も浮かばないのは事実だったので、前田の言う通りにしてみることにしたのだった。。

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「おーい高橋くん、一般投稿の手紙とかって何処に置いてあるのかな?」

「あっ、は、はい。

確か第一倉庫の壁際にある段ボールがそうですけど....。」

「そっか。サンキュー。」

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高橋は、去年この会社に入った新入社員だ。

素直で要領も良く、丸山のお気に入りの後輩だった。

一般投稿の処理は、基本的に新入社員の仕事だ。

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music:2

ガチャ...

(えーっと..壁際の段ボール....っと、あれか。)

パッと見、みかんでも入ってそうだなぁと思った段ボールの横には、しっかりと「愛媛みかん」の印刷がされていた。

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「何か面白いネタあるといいけど...まっ、期待するだけ損か。」

一般投稿の大部分は、嘘くさいオカルト系、つまらない下ネタが書いてあるイタズラで埋まる。

それらを毎日確認し、5%にも満たない厳選したマトモなものだけを、一般投稿欄に提載しているのだ。

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(新人さんは大変だなぁ。。)

毎日デスクで咥え煙草に没頭している丸山は、少しだけ自分の仕事ぶりを反省し、そしてすぐに忘れた。

....一般投稿を漁り出して1時間が経つが、面白そうなネタは見つからない。

むしろマトモな投稿すら、まだ2つの「毎号読んでます!」といったような、応援メッセージだけだ。

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「あぁ〜果てしねぇ〜わ....」

段々と飽きてきた丸山は、手紙で溢れた段ボールの中に手を突っ込み、グルグルと回し始めた。

(何が出るかな〜何が出るかな〜。)

半ば遊び半分でいた丸山の手に、硬い何かが当たった。

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sound:18

「ん、なんだ...?」

それは、真っ黒な一昔前のホームビデオ用のカセットテープだった。

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「ビデオなんて珍しいなぁ。

しかもかなりの年季物....。

まさかの大スクープネタだったり!?」

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丸山は、物珍しい一品にテンションが上がった。

(確か、家のテレビ台の奥にホームビデオ用のカセットテープが再生できるケースがあったなぁ。)

少しルンルン気分でデスクへ戻る丸山は、忙しそうに動き回る高橋をわざわざ呼び止め、カセットテープを見せつけた。

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「高橋く〜ん、面白そうなもん見つけたよ〜。

....これ、もしいいネタだったら使ってもいいかなぁ?」

高橋はカセットテープをしばし見ると、重たそうに持っていた荷物を一度持ち直し、首を傾げて答えた。

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「えっ、それ、あの段ボールに入ってたんですか....?

おかしいなぁ、僕があの段ボールの中身を処理したんですけど、そんなもの無かったですよ...?」

「.....へっ?」

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「あっ、でももしかしたら僕の勘違いかもしれないですね。

今週使う一般投稿欄のネタはもう決まってるんで、もしお気に召したなら使っていただいても大丈夫ですよっ!」

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想像とは違う返答に呆気に取られた丸山の顔を見た高橋は、すぐに気を回しフォローを入れた。

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「んー、そかそか、ありがとうね。

にしても高橋くん、相変わらず仕事が早いね〜。」

すぐに元の上機嫌に戻った丸山の言葉に少し嬉しそうにした高橋だったが、持っていた荷物の重さのせいで半笑いになってしまっていた。

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「おっ、その顔はいいネタ掴んだのかよ?」

前田が、デスクへ戻った丸山を見て尋ねた。

待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべ、丸山は前田の目の前にカセットテープを目せつけた。

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「へー...随分と年季入ってんな。

タイトルは無し...か。

中身は?」

「いや、まだ見てないんだよ。

ウチに確か再生用ケースがあった筈だから、ウチで見たら報告するよ。」

それを聞き、嬉しそうにしていた前田の顔が呆れ顔に変わる。

「.....って、中身見てねーんじゃまだ分かんねーじゃねーか。」

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やれやれ....といった面持ちで自分のデスクへ椅子を滑らせると、前田はエロサイトの物色にいそしんだ。

それでも丸山は何故かこのカセットテープに、不思議と期待をしていた。

自分では何とも言えない感覚だったが、ただのイタズラではなく、大スクープになるような、そんな気がしていたのだったーーーー。

*************

music:4

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「ただいまー。」

「あ、おかえり。」

丸山には子供がいなかったが、一応結婚はしていた。

妻の朝子(あさこ)とは、フラッと行った合コンで知り合った。

そして何の壁もなく付き合い、親の反対もなく結婚まで至った。

ドラマ化は到底出来そうにない、ごくごく普通の家庭だ。

それが丸山には物足りず、不満でもあった。

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帰ってくるなり、丸山は早速テレビ台の奥を物色した。

「ちょっと、何やってんのよ。」

それを見た朝子が、晩御飯をテーブルへ並べながら言った。

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最近、朝子とは少し倦怠だ。

夜の営みも相当していない。

お互いに子供への執着が無かった二人は、子作りの必要性もさほど感じてはいなかった。

それも原因の一つなのだが....。

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「なぁ、ホームビデオ用カセットテープを再生するケースってどこにしまったっけ?」

普段いじらないテレビ台の奥を物色したお陰で、スーツの腕の裾にたっぷりと埃が付着していた。

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「あぁ、それなら寝室のテレビボードの右の引き出しだったかしら。

.....それより、ちゃんとスーツ脱いでからご飯食べてよね。」

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呆れたような顔で再びキッチンへ戻る朝子の背中に、丸山は「いちいちうるせーよ」の意味合いを込め、舌打ちをした。

当然、丸山はスーツを脱がなかった。

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「あたし、先にお風呂入ってもいい?」

晩御飯を食べ終わり、食器をキッチンへ運びながら朝子が言った。

丸山はゴールデンタイムのバラエティを見ながら、手でOKのジェスチャーだけした。

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朝子がお風呂へ行ったと同時に、丸山は寝室へ移動し、カセットテープを取り出した。

「さぁて、何が映っているのやら...?」

テレビの前で、ウキウキしながらカセットテープをセットし、リモコンの再生ボタンを押した。

*************

music:3

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.....ジジ......ジ.....

かれこれ1分程、画面にはノイズの入った砂嵐が流れていた。

「んだよ、これ....

やっぱりイタズラなのか?」

そう呟き、丸山がガクッと肩を落としたその時だった。

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ザ....ザザ....

一瞬真っ暗になった画面に、ふと現れたのは古い町並みの様子。

そこには、何棟かの古い家とそれを囲うようにして生える木々。

画面はゆっくりと、一つの大きな屋敷の前に移動した。

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(随分古い家だな....。

何処だろう....。

これは町....というより村っぽいな。)

音は無く、映像はカラーだったが、ほぼ白黒に近い。

更に、時々ある画面の乱れが邪魔で非常に見づらかった。

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画面は家の玄関へと入っていき、正面左奥の襖を開けた。

「...な、なんだ....これ。」

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画面には、五人の大人と一人の少女。

声は無いので聞こえないが、見れば分かるほどすごい表情で泣き叫んでいる10代と見られる白い服の少女。

その少女に、赤装束の大人達が数人がかりで手足を抑えている。

部屋の周りには何十本もの赤いロウソクが並び、画面横中央には何やらお祈りらしきことをしている老婆。

一目で、何かの儀式なのだと分かった。

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ごくっ....

(一体、何が起こるんだ...?

少女をどうする気なのだろうか。)

しばらく祈りを続けていた老婆だったが、しばらくするとおもむろに立ち上がり、赤装束の大人の一人から小太刀のようなものを受け取った。

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小太刀には、よく神社で見かけるような紙垂(一般的には白い紙で三つ編みのように折ってあるやつ)が巻かれているが、何故か紙が赤い。

恐らく、画面がもっと綺麗であれば、赤だらけの画面になっている筈だ。

白黒に近いお陰で、赤色は薄っすらとしか分からない。

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(え、おい....。

つか、その小太刀で何する気だこのババア....。)

丸山の頭に、嫌な予感がよぎる。

同時に、丸山の身体にはジワリとまとわりつくような汗が滲んでいた。

そして画面の老婆は、小太刀を少女の喉仏へ突き刺した。

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痙攣するようにもがく少女の身体。

周りへ飛び散る血しぶき。

少女はしばらくもがき、口を何度かパクパクさせ、動かなくなっていった。

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(うわ...な、なんだよ...。

....最悪。)

目を見開いまま、丸山は気分が悪くなりリモコンの停止ボタンを押した。

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shake

sound:18

「!!!!!!」

どういうわけかビデオが止まらない。

画面には、今だ繰り返される儀式の様子。

老婆が執拗に少女の首を何度も小太刀で突き刺している。

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(おいおい、なんで止まんねーんだこれよぉ。)

丸山は仕方なく、ビデオ本体に付いている停止ボタンを押した。

......が、何故か映像が止まらない。

焦った丸山は、ビデオとテレビのコンセントを引っこ抜いた。

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「ハァ.....ハァ......。」

sound:18

shake

「!!!!!!」

全くコンセントに繋がっていないテレビとビデオ。

にも関わらず、映像が流れているのだ。

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(う、嘘だろ!?)

丸山は呆然としながら、つい画面を見てしまった。

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ゴト...

画面の少女の首が床へ落ちた所だった。

ゴロッと転がる少女の首。

目は見開いたまま、瞳は上を見るように止まっている。

ほぼ白目と言ってもいい。

口は大きく開いたままだ。

首は画面の手前の方まで転がり、こちらを向くようにして動きを止めた。

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口を開けたまま、不思議と画面を見入る丸山。

その時だった。

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shake

「うわぁ!!!!」

画面に映る首。

その少女の瞳が、スッと此方を向いたのだ。

そしてそれを見た丸山は、雑誌編集者として数々の映像を見てきた経験で分かった。

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(これは....イタズラじゃない。)

じっ...と此方を見つめる少女。

それは、撮影者の持つカメラを見ているのでは無かった。

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(こ、こいつは俺を見ている...!)

そう直感で感じた丸山。

事実、今このビデオは再生などあり得ない状況で映っているのだ。

そして、丸山を包むジワリと重い空気と圧力。

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「....マズイ。」

このままでは、丸山は精神を保てなくなりそうだった。

それでも、どういうわけか画面から目が離れない。

画面の少女は、ずっと此方を見続けた。

....まるで、丸山の顔を覚えるようにして。

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「ちょっとー!

なに一人で騒いでんのよ!」

ふと、朝子の声がリビングから聞こえた。

お風呂から上がったようだ。

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music:4

「あ....れ...。」

ふと画面を見ると、そこには真っ黒な画面が静かに映っていた。

電源も入っていない。

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(なんだったんだ....今の。)

ビデオを取り出すために画面に近づいたその時だった。

丸山のすぐ真横、まるで耳に直接口を当てているかと思うほどの距離から、女の声がした。

shake

「さ.....がせ.....。」

sound:18

(....ハッ!!!)

丸山はすぐに振り返ったが、そこには誰もいなかった。

「探せ....?」

確かに聞こえた声。

それでも、ビデオの一件で精神的に参っていた丸山は、自分に気のせいだと言い聞かせた。

そして、カセットテープを仕事用の鞄へしまい、リビングへと戻ったのだった。

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(何も起こらない.....よな?)

あり得ない現実を目の当たりにし、丸山は不安と恐怖にかられていた。

だが、これから丸山におぞましいほどの恐怖と試練が待っていることを、丸山はまだ知らずにいるのだった。。。

続く

Concrete
コメント怖い
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名作は何度読んでも面白い…ひ…

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初めから怖い・・・けどこれからもっと面白くなっていきそう。
けど、これ読んでから寝るのが怖くなっているのだが・・・(笑)

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xxAOKICHIxxさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

読んで下さって、心より感謝いたします。
長いかもしれませんが、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいですね^_^

....そして、ぜひ夜中に部屋を暗くして見ていただきたいと思います。

宜しくお願い致します。

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序盤からもう怖くなるってわかる流れ。。
夜中に見てもいいのだろうか。

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チェリールゥさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

少々グロテスクな内容がある中、読んでいただきありがとうございました^_^

不幸にならないことを私も望んでいるのですが.....
それは、最後にお話いたします。

また、お時間が許すのであれば、ぜひ読んで下さいね^_^

どうぞ、宜しくお願い致します。

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わー、キツかったー
もう、すっかり体が重いです
ぐったり…笑
あまり、みんなが不幸にならないといいけど、いきなり少女があれだもんなぁ…

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翔さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

廃病院、読んでいただいた様でありがとうございました。
この作品は、廃病院とはまた違うホラーを表現したくて書いています。
なので、少し退屈させてしまうかもしれませんが、時間が許すのであればぜひ読んでいただければと思います^_^

これからも宜しくお願い致します。

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廃病院も面白かったから気にはなってたけどナカナカ読む時間が取れず…やっと読み始め(o^^o)
シリーズ沢山出てるから今日から楽しみ♪

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マッスル樽さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

これから読んでいただけるんですね^_^
とても嬉しいです^_^

まだ先のあるお話になりますが、ぜひ最後までお付き合い願えれば嬉しいです(T ^ T)

どうぞ宜しくお願い致します。

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はじめまして、今から始まる物語に楽しみでたまらないのですが…先にコメントさせて頂きました。
新しい素晴らしいストーリーテラーさんの登場にワクワク致しております、、

返信

ロビンMさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

いえいえ、こうしてまた書こうと思えたのも、ロビンMさんを含め皆様のおかげです。
感謝しています^_^

ぜひ、駄作かもしれませんが、しばらくお付き合い願えれば幸いです。

また宜しくお願い致します。

返信

やあロビンミッシェルだ。

NAOKI氏、やはり只者ではないなお主…ひひ…

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VEILEDGOTさん、早速のコメント&怖いをつけていただき、ありがとうございます^_^

ご期待に添えられるか心配ですが、頑張ってVEILEDGOTの怖いのお手伝いが出来るよう、精一杯考えていきますので、また少しの間お付き合い願えれば、と思います。

どうぞ、宜しくお願い致します^o^

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早速読ませて頂きましたー(*’ー’)ノ

これから広がっていく話に期待特大です!

前のコメントを見た限りでは少し間をあけるのかな?と思ったんですが、
早い更新にびっくりw
しかしまた戦慄するような恐怖を味わえるのだと思うと、とても嬉しいです(`・ω・´)

次の話を楽しみにしています!

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