《木葉宅アルバイト後編》

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《木葉宅アルバイト後編》

これは、僕が高校一年生の時の話だ。

詳しくは前回の《棺姫》を読んで頂きたい。

※僕のキャラが可笑しな事になっていますが、そういう仕様です。

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・・・・・・・・・。

「暇ですねぇ。」

「お客さん、来ませんねー。」

今は午後の二時頃。

僕と木葉さんは、縁側でオセロをしながらお客さんが来るのを待っていた。

オセロは僕が黒、木葉さんが白だ。

小さく欠伸をしながら木葉さんが言う。

「この店、基本は予約制ですからね。飛び込みでの御客様は珍しいんです。・・・別に、何時も閑古鳥が鳴いてる訳では無いんですよ。」

パチ。

オセロは今の所、僕が優勢だ。

「分かってますよ。それ位。」

パチ。

「はい、角取ったーー。」

あ、木葉さんの敬語がログアウトした。

パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。

黒かった盤が一気に白くなる。

「形勢逆転ですね。」

木葉さんがあくまでも淡々と言った。

僕は思わず呼び掛けた。

「ま、待った!」

「待った無し!」

「子供相手にムキになるなんて、木葉さんらしく無いですよ!」

「自分を子供と称する何て、コンソメ君らしくも無いですね!」

確かにその通りだ。

しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。

「あーあーがっかりだー!木葉さんにはがっかりだー!!」

「どうとでも言って下さい。」

く、くそう・・・!

「モヤシー木葉さんのモヤシーー!!」

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「だ、誰がモヤシだ!!」

敬語ログアウト、再び。

「どうとでも言えって言ったじゃないですかー!」

「どうしてモヤシ何ですか!!」

「ヒョロッとしてナヨッとしてるからです!」

「だったらコンソメ君は豆です!豆!!」

「モヤシの弟が豆で何が悪いんですか!!」

「・・・・・・。」

いきなり木葉さんが黙った。

え?

僕なにかマズい事言った?!

木葉さんは下を向き、暫く黙ったまま顔を歪めたり戻したりしている。

流石に我が儘を言い過ぎたか、と僕が焦っていると、木葉さんがゆっくりと顔を上げた。

「・・・・・・それでも、駄目な物は駄目です。」

「・・・はい。」

その顔が何時も通りの困り顔で、僕は胸を撫で下ろした。・・・・・・仕方無い。

パチ。

僕は此処からの更なる逆転を狙い、石を置いた。

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・・・・・・・・・。

それから約一時間後。

僕等は退屈のあまり庭の掃除をしていた。

落ち葉を集めながら木葉さんが言う。

「出来れば、営業時間中にこう言う事は余りしたく無いんですけどね。」

「何故にですか?」

「・・・やはり、イメージの保持が大きな理由です。ほら、頼り無さげじゃないですか。御守り屋が庭掃除してるとか。」

そして溜め息を一つ。

「ですが・・・・・・何せ、暇ですからね。」

そしてまた落ち葉を集め始める。

だがしかし、木葉さん家の庭は本当に馬鹿みたいに広いのだ。

たった二人の掃き掃除なんかでそう簡単に綺麗になる筈が無い。

感覚としては、校庭の砂をスプーンで全て運び出す様な感じだ。

ひたすらに不毛。

僕は何だか悲しくなり、小さく溜め息を吐いた。

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「暇そうだね。丁度良かった。」

「・・・ふぁ?!」

突然聞こえて来たしゃがれ声に驚いて振り向くと、僕等の数メートル後ろに、何時もの猿面を着けた、烏瓜さんが立っていた。

「久しぶりだね?」

「あ、どうも。お久し・・・ぐぇっ?!」

頭を下げようとしたら、木葉さんに首根っこを掴まれた。

そして、そのままグイッッと引き寄せられ、後ろに隠される。

「・・・・・・何の御用でしょう。」

木葉さんが狐面を被りながら言った。

烏瓜さんが答える。

「・・・借りていた資料を返しに。そして次の資料を借りに、だよ。・・・・・・それにしても。」

面の下で烏瓜さんがクスリと笑った。

「君達が本当に兄弟だったとはね・・・。驚いたよ。」

「貴方には・・・関係の無い事でしょう。」

僕を後ろに隠しながら、木葉さんが言った。

「・・・資料ですよね。倉へと案内致します。・・・野葡萄。お前は下がっていなさい。」

僕は《烏瓜さんは僕と木葉さんが兄弟では無いのを知っている筈なのに、何故あんな事を言っているのだろう》と《烏瓜さんキャラおかしくね?》と思いながら、縁側へ上がった。

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コーン、コーン・・・・

突然玄関の方から、鐘の様な音が聞こえて来た。

「・・・おや、客人の様だね。」

「・・・・・・。」

木葉さんの顔がグッと険しくなった。

烏瓜さんが、ニヤリと笑った・・・様な気がした。

「ねぇ、出なくていいのかい?」

「・・・・・・弟に手を出したら。」

「殺す・・・とか?おお、こわいこわい。そんな馬鹿な事はしないよ。」

「・・・。」

木葉さんは面を少しずらし、キッと烏瓜さんを睨み付けて、玄関へと歩いて行った。

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・・・・・・・・・。

「・・・下りて来れば?」

木葉さんの姿が見えなくなると、烏瓜さんは僕にそう呼び掛けた。

僕は靴を履き、烏瓜さんの数メートル手前に立った。

「・・・あまり、兄をからかわないで下さい。」

「ゴメンネー。」

「謝り方に誠意が皆無ですね。」

「謝る気が無いからね。」

「・・・・・・。」

へらへらと言ってのける烏瓜さん。

本当にキャラの安定しない人だ。

「あ、そうそう。」

烏瓜さんがポン、とわざとらしく手を打った。

「何故に君がこんな所に?」

「僕は兄さんの弟ですから。」

「そんな事言うと、のり塩さんが寂しがるよ。・・・言い付けるよ?」

渋々と僕は答えた。

「・・・バイトです。」

「何の?」

「言わなくてはなりませんか?」

「そんな言いたく無い様な事を・・・?」

「倉掃除です。」

「成る程ね。・・・だったら、倉まで案内してくれないかな。こう広いと迷子になってしまいそうだよ。」

「迷子になってしまえ。そして干からびてしまえ。」

「随分な言い様だね。」

「胸に手を当てて自分の素行を思い出して下さい。」

ツタンカーメンの様に両腕をクロスさせて、烏瓜さんが数秒考え込んだ。

明らかにポーズがおかしい。

「・・・初対面の時の事なら、この間ケーキ買ってあげたじゃないか。」

「僕が負った心の傷はケーキ一個分ですか?」

「そう言えば、この間の報酬、まだ貰って無いんだけどな。」

※詳しくは《胡蝶の夢》を参照して下さい。

「《何》を《どれだけ》払うか言われてないんですよ?どうやって払えと。」

「倉の案内でいいよ。見せたい物もあるしね。」

「・・・・・・分かりました。」

僕は頷き、烏瓜さんと倉へ歩き始めた。

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・・・・・・・・・。

倉に着くと、烏瓜さんは真っ直ぐにある棚へと向かって行った。

「ほらこれ!」

棚の奥に手を突っ込み、黒いノートを取り出す。

薄闇の中に浮かび上がる白い文字。

そう。そのノートには、はっきりとこう書かれていた。

《DEATH NOTE》と。

「前見た時は開かなかったんだけど、本物だったら凄いと思う!!」

「開けてはいけません!」

咄嗟に僕は叫んだ。

倉中に僕の声が響いた。

「・・・開いてはいけないんです。」

もう一度僕が静かに言うと、烏瓜さんは一言

「・・・・・・ごめん。」

と言って、ノートを棚に戻した。

・・・烏瓜さんには少し悪い気もしなくなくなくはないが、全ては木葉さんの黒歴史を守る為だ。

「・・・資料は二階の箪笥の中だった筈だよ。取りに行こう。」

烏瓜さんが階段へと歩き始めた。

僕は、烏瓜さんに呼び掛けた。

「あ、電気点けましょう。暗いですから。」

「別にいいよ。二階には《彼女》が居るからね。・・・あれ、山葡萄君、会ってない?」

烏瓜さんが不思議そうな声を上げた。

あと何気に呼び方間違ってる。正しくは、山葡萄では無く野葡萄だ。

「いえ、会いましたけど・・・。二階にも、電気のスイッチ、有った筈ですよ?あと、僕の名前を勝手に食用にしないで下さい唐瓜さん。」

「可笑しいな・・・。木葉から、スイッチは一つしかないと教えられていたんだけど・・・。あと私の名前を夏野菜の代表格にしないで欲しいね。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

僕は取り敢えず、パチリと電気を点けた。

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・・・・・・・・・。

二階の階段を上りきり、僕はまたパチリとスイッチを押して、電気を消した。

「何時見ても美人だね。」

先を歩いていた烏瓜さんが、ポツリと言った。

青い光の元、ガラスの棺の中で相変わらず小雪さんは眠っていた。

・・・いや、起き上がっていたら、それはそれで恐ろしいのだけれど。

「・・・さて、資料資料・・・。」

烏瓜さんが、壁に並んだ箪笥の引き出しを開いた。

箪笥の中は一見、帯や着物が入っている様に見えたが、どうやらそれは表面だけで、下には資料がぎっしり詰まっているらしい。

烏瓜さんは本を鞄から取り出し、水色の帯が置いてある場所にしまうと、今度はその隣にある橙色の浴衣が置いてある場所から、数冊の本を取り、鞄へとしまった。

「・・・・・・よし、と。」

クルリと小雪さんの方を向き、またクルリと今度は此方を向く。

「・・・名前は、確か・・・《小雪》だっけ?」

「はい。」

「・・・彼女について、少し話しても?」

「どうぞ。」

僕がそう言うと、烏瓜さんはコホン、と咳払いをして、チラリと小雪さんを見遣った。

「・・・本人を前にして話すのも何だね。場所を変えようか。」

僕は頷き、先に階段を下り始めた烏瓜さんの後に続いて歩き出した。

後ろから、カタリと何かが動く様な音がしたのだが、・・・恐らく気の所為だろう。

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・・・・・・・・・。

倉から出て縁側に腰掛けると、烏瓜さんは倉の方を向き、話を始めた。

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・・・・・・・・・。

・・・さて、何から話そうかな。

・・・・・・野葡萄君。君、木葉から何処まで教えて貰った?嗚呼、勿論《小雪さん》についてね。

・・・・・。

ふーん。て事は何で彼女がああ成ったのかは、全然知らないんだ。

まあ、内容の後味が悪いのは確か何だけどね。でも、だからと言って全く話さないと言うのもどうか、と私は思うんだよ。

だから、私は君に話すんだ。分かったね?

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・・・・・・。

昔々、まだ日本が国として未熟だった頃の話だよ。

ある華族の家に、年頃の娘さんが居てね。

世に言う《箱入り娘》だったそうで、本当に家からは一歩も出た事が無かったらしい。

・・・え?

まぁ、その時代では格段珍しくも無かったんだよ。

家族構成は、両親と兄が一人。家にはメイドも数人居た。

で、ある日その娘さんがお嫁に行く事になってね。

でも、結婚して3日も経たずに破局と言うか・・・一方的に離縁されてしまってね。

その理由がだね・・・何だ・・・。

相手・・・つまり旦那さんに成る人は、相手が《箱入り娘》だから娶る事を決めたんだ。

《箱入り娘》って事は、当然、今までの男性経験も・・・無い筈、とその男性は思った思っていた訳だ・・・・・・。

でもね・・・。

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・・・・・・・・・。

そこまで言うと、烏瓜さんは困った様に頬をポリポリ掻いた。

お面の上から掻いても、意味は無いと思うのだが。

「えーとだね・・・。うん。・・・木葉が君に話さなかった理由が分かったよ。」

このままでは、埒が明かない。

僕は未だにポリポリと面を掻いている烏瓜さんに、言った。

「つまり、箱入り娘=生娘だと思い込んでいたその男は、初夜だか何だかに相手がnot生娘な事を知って一方的に離縁をした。で、・・・合ってますか?」

「・・・うん。合ってるよ。合ってるけどさ・・・・・・。」

「続きどうぞ。」

そう僕が促すと、烏瓜さんはまたポリポリと面を掻いた。

「・・・続きって言ってもな・・・・・・。」

「え?」

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「野葡萄君。彼女は箱入り娘だった。家から一歩も出ない程にね。・・・男性経験を持つって・・・・・・誰と?」

「・・・・・使用人の方とか。」

「彼女の家に居たのはメイドだけだよ。」

「・・・。」

「更に言うとね、野葡萄君。・・・彼女が離縁されたのは、別にそう言う経験が有ったからじゃ無い。・・・・・・妊娠していたから何だよ。」

「え・・・!!」

「そして、彼女の死因は練炭自殺。・・・彼女の兄が結婚式を挙げる予定だった日の朝、部屋で発見されたらしい。・・・もう、分かるね?」

僕は何も言わず、小さく頷いた。

彼女は、小雪さんは・・・・・・。

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自身の兄との子を為してしまったのだ。

「・・・まるで、三文芝居の様だね。」

烏瓜さんが吐き捨てる様に言った。

「彼女が腐らないのは・・・私はね、復讐じゃないかと思うんだ。彼女が、自分を裏切った兄を未来永劫責め続ける為にね。」

尤も、と烏瓜さんが続ける。

「此はあくまで目測に過ぎないけどね。・・・でも、多分合ってると思うよ。」

僕は烏瓜さんに聞いた。

「その・・・小雪さんのお腹に居た子は。」

烏瓜さんは、静かに顔を横に振った。

「・・・・・・道連れにされてしまったよ。」

「・・・そう、ですか。」

僕は視線を落とし、烏瓜さんはボソリと呟いた。

「・・・誰が加害者で、誰が被害者何だろうね。」

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・・・・・・・・・。

「・・・烏瓜さん、どうして貴方は彼女について、そんなに詳しく知っているんですか?」

僕がそう聞くと、烏瓜さんは言った。

「日記だよ。私の先祖のね。」

「・・・日記?」

「ゴシップ好きだったらしくてね。当時の色々な事件が書いてある。まぁ、下世話な話が九割だけど。読んでみると中々に面白いよ。」

「・・・・・・成る程。」

先祖代々ひねくれ者なのか。

なんだか納得した。

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烏瓜さんが立ち上がった。

「・・・もう、木葉も帰って来る頃かな。そろそろ私は失礼するよ。・・・・・・あ、そうそう。」

歩き出した歩を止めて、振り返る。

「・・・・・・何時も君の傍を飛んでいる小鳥が居るんだけど、心当たり、ある?」

「・・・え?小鳥?」

周りを見ても、小鳥どころか先ず鳥類が居ない。

「小鳥だよ。黄色くて小さい奴。種類までは分からないけどね。よく頭に乗って来る子だよ。この間何て、もちたろうが頭に乗られて困ってた。」

僕はハッと、昔に飼っていた小鳥の事を思い出した。

「・・・・・・ピヨ太。」

「やっぱり君のか。・・・今度からは、あまり頭に乗らない様に、ちゃんと言い聞かせて置くんだよ。見てる分には可愛いけれど、もちたろうが痛そうだからね。」

烏瓜さんはそう言って去ってまた歩き出した・・・かと思うとまた立ち止まった。

「ほら、飛んでる。」

そう言って、僕から見て左の空を指差す。

僕は顔を上げて空を見たが、滲んだでぼやけた空は青一色で、黄色は何処にも見えなかった。

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・・・・・・・・・。

その後、帰って来た木葉さんが涙腺崩壊している僕を発見し、

「・・・・・・・・・コロス。」

と呟いて名伏しがたきバールの様な物を持って出て行ったが・・・・・・多分大丈夫だろう。

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・・・・・・・・・。

後で木葉さんに、

《小雪さんの棺の蓋を勝手に開けなかったか》

と聞かれた。

見た時、蓋がずれて半分程開いていたらしい。

木葉さんは、

「あの猿野郎が開けたんですね!全くあの変態!!」

と言って居たが・・・・・・。

そんな筈は無い。

彼は僕と行動を共にしていたのだから。

しかし、とうに亡くなっている小雪さんが、蓋を開けられる筈も無い。

あの二階で聞いたカタリと言う音だって、気の所為に違い無い。

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死体は動かない。

動いてはならない。

だから・・・今回のこの話の真相は、《永遠に分からない》とでもしておこう。

Concrete
コメント怖い
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Uniまにゃ~さんへ

まさかのゾンビ化・・・ですと?!
もうこれはヘタレな兄に代わって、僕がネイルハンマーを・・・!
と、冗談はこれくらいにして答えさせて頂きますと、《復讐相手のお兄様は今、墓の下に居る》のです。
多分大丈夫です・・・多分!!
と言うか、怖くてあまり考えたくないです・・・。

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小雪さん動きそう…(T_T)
復讐なんですかね??
もちろんミイラ化してる姿で行くんですかね

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