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music:4
丸山は、ふと時間が気になり「相談室」にかけられている時計を見た。
時刻は午後14時を過ぎている。
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(随分と長い間ここにいてしまったな......。)
時間が惜しい丸山は、今更ながらに焦っていた。
実際、明後日がリミットだとしても、明後日のいつ死ぬのかは分からない。
つまり今日と明日、残りおよそ34時間以内には、全てを終わらせる必要があった。
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「では、神山さん。
早速行きましょう....!」
丸山がそう言った途端、前田がニョキっと横から顔を出し、呆れたような表情を見せた。
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「本当に目先のことしか考えてないんでしゅね〜丸ちゃんは....。
まずは準備が必要だろーが。」
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「そ、そんなこと分かってるよ!
......行く途中で買おうと思ってたんだよ、馬鹿っ!!」
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実際、まさしく図星を突かれた丸山だったが、すぐにフォローを入れた。
当然、苦し紛れの言い訳は前田にバレている。
前田は、目を細めニヤニヤしながら「ププ。」と笑う仕草を見せた。
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久々に前田の嫌味が炸裂したことを余所に、丸山は神山と二人、そそくさと市役所を後にしたのだったーー。
*************
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三人は前田の車へ乗車した。
後ろへ神山を乗せ、丸山は助手席だ。
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「必要なものは.....。
水と食料と懐中電灯、一応スコップと護身用にバット、って所かな?
...神山さん、古文書はどちらにあるんですか?」
ボーっと流れる景色を見ていた神山は、ハッとしたように丸山を顔を向けた。
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「あっ、は、はい。
古文書は、恐らく病院の金庫に入れてあるはずです。」
「分かりました。
では、病院へ案内してください。」
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神山は前田をナビゲーションし、神山の病院へと案内した。
......20分ほど走ると、徐々に住宅が無くなり、やがて林道へ入った。
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「あ、ここを右折してもらえれば、30m程で病院です。」
言われた通り、細く曲がりづらいT字路を右折すると、右手に木々に囲まれた古びた病院があった。
すっかり廃墟化していたが、20年前まで営業していただけあり当時の面影を残していた。
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「そういえば、神山さんは今どちらにお住まいなんですか?」
ふと丸山が尋ねた。
聞いた話では、病院が自宅だったはずだが、見たところ住んでいる様子がなかったからだ。
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「......えぇ、今は市役所から5分程の小さなアパートに住んでるんです。
この病院を売りに出すのも、また新しい家を購入するのも、何だか気が引けちゃって....。
独り身ですしね。」
神山は軽く微笑み、ポリポリと頭を掻いた。
*************
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病院は、二階建ての比較的小さな病院であった。
こんな街から離れた場所にあるにも関わらず、当時は繁盛していたと言うのだから、神山は確かに腕のいい医者だったのだろう。
そんなことを丸山は考えながら、神山の案内する病院の裏口へ向かった。
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「.........ん?」
気のせいだろうか。
ふと、病院の周りにそびえる木々の合間に、誰かがいたような気がした。
ほんの一瞬、視界の隅に映り込むように.....。
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shake
「!!!!!!!」
.....いや、気のせいじゃない。
先程の気配があった辺りから、確かに感じる身体にまとわりつくようなネットリとした視線。
間違いなく、「そこ」に何かがいる。
丸山は、ゆっくりと視線の感じる方へ顔を向けた。
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「......あ....れ....?」
そこには、サラサラと風になびく木の葉と、スラッと伸びた幹があるだけだった。
.....いつの間にか、気配も消えている。
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(今......確かに何かが......。)
ギィー.....
「どうぞ、こちらからお入り下さい。」
......丸山は、「気のせいだ」と思うことにしたのだった。
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神山は病院の裏口を開け中へ入り、丸山と前田も後に続いた。
二人は案内されるまま、受付フロアの椅子へ座った。
.....随分と埃が溜まっている。
恐らく、清掃などはしていないのだろう。
他の細かな小物にいたるまで、病院は当時のままを残しているようだ。
それこそ、綺麗に掃除をすればまた営業が出来るのでは?と思う程に....。
しばらくすると、神山が奥から戻ってきた。
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「....お待たせしました。
これが、あの古文書になります。」
神山は、くしゃついた紙の古びた薄い本を丸山へ手渡した。
表には何も書かれていない。
更に、本は所々に茶色いシミや汚れが目立つ。
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「聞いてなかったですが....。
神山さんはこれを一体どこで?」
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「はい.....。
あの日、私は宮坂勇樹の遺体からメモを取り出した後、儀式の行われた屋敷へ戻りました。
この古文書を回収し、私が保管することで、確実に封印を解かれないようにするためです。
案の定、これはあの「儀式部屋」から見つかりました。」
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「そう....でしたか。」
丸山は、もう一度古文書を見た。
あの部屋で見つかったということは、この本に付着している茶色いシミは.....。
丸山はそれ以上考えないようにしたのだった。
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「それじゃあ、行くぞ。
モタモタしてる暇はねぇからな。」
前田が丸山の背中を軽く押し、早く行くよう急かした。
先程開け、開いたままになっている裏口の扉へ歩いた....。
.......その時だった。
バタンッ!!
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shake
「!!!!!!?」
開いていたドアが一人でに閉まったのだ。
明らかに風ではなく、人が力いっぱい閉めるような勢いで。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ....
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「お、おいおい、嘘だろ.....!?
.....ドアが開かねぇぞっ!!」
丸山が何度もドアを開けようと試みるが、扉はビクとも動かない。
力尽くでも試すが、それはすでに普通の扉ではなかった。
.....とにかく、開かないのだ。
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「窓、突き破るしかねぇだろ!」
前田が近くにあった消火器を持ち上げ、思いっきり窓へ投げつけた。
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shake
ガーンッ!!
「まじ.....かよ。」
ガラスで出来ているはずの窓ですら、まるで割れる様子がない。
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shake
「ああっ....!!!」
三人は唖然とした。
先程まで、昼間だったはずの空が、まるで夜のように赤黒く変色していくのだ。
徐々にそれは空全体を覆い、病院のいたるところにまで及んだ。
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「なん...ですか、これ....。」
神山にもそれは同様に見えているようだ。
ガタガタと足を震わせ、神山はペタっと床へ座り込んだ。
辺りはまるで夜の様に光が奪われ、とうとうお互いの顔すらろくに認識出来なくなっていった。
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「くそっ....懐中電灯はあるか、オッサン!!?」
「あぁ....ぁぁ....。」
神山はガタガタと震え、まるで前田の言葉が耳に入らないようだった。
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「ちっ...おい、丸山。
恐らく小さめな施設だから、裏口の扉付近に懐中電灯が防災用にあるかもしれねぇ。
手探りでいいから探してみてくれ!」
「あ、あぁ....わかった!!」
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扉の周りを手探りで探してみるものの、なかなかそれらしいものが見つからない。
......その時だった。
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sound:18
「ひっ....!!?」
丸山の手の先に、何かが当たった。
ゴワゴワとした感触。
丸山はすぐにそれが何か分かった。
(髪.....の毛.....?)
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「おいっ、あったか丸山!?」
「い、いや.....み、見つからないっ.....!」
すでに丸山の頭からは懐中電灯など無くなっていた。
今自分の手に触れたものは何なのか。
それのみが思考を埋めつくした。
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「丸山ぁ!!
お前の煙草のライターを付けろっ!」
そうだ。
丸山はヘビースモーカーであり、常に胸ポケットには煙草と一緒にライターも忍ばせてある。
震え始める手で胸ポケットを探った。
(あった....。)
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カチッ....
カチッ......
ライターに火が灯った。
淡いオレンジ色の光がぼんやりと周りを映す。
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shake
「う、うぁぁああぁぁあ!!!」
その明かりの先に、ぼんやりと浮かぶ青白い顔。
目は絡みつく髪でよく見えないが、大きな口がニタァと微笑んで此方を見ている。
実際、丸山との距離は1mもない。
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shake
ガターンッ!!
丸山は、勢いよく後ろへ尻もちを付いた。
その際に、何かが倒れ静まる病院内に落下音が響く。
倒れた反動で、ライターの火が消えてしまった。
.....それでも、今だに感じる「顔」の気配。
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「か、か、顔っ.....顔がっ!!」
「おいっ!どーした丸山!?」
前田が物音を頼りに、丸山へ近づいた。
手探りで丸山の居場所を特定し、倒れた丸山を起こした。
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「なんか見たのか!?
.....ちょっとライター貸せっ!」
半ば強引に丸山の持つライターを奪い、前田が火を付けた。
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カチッ....
「......何もいねーぞ....?」
前田がライターを付けたと同時に、「ソレ」の気配は消えていた。
ぼんやり浮かぶ明かりには、先程の扉があるだけだった。
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前田は、ライターの明かりを頼りに辺りを探し、扉の右下辺りに設置されていた防災用の懐中電灯を発見した。
ガチャ....
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前田が懐中電灯を外すと、明るい光が辺りを照らした。
その光の先には、座り込んで震える二人の男。
正直、前田は二人の情けなさに嫌気が差しかけた。
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「おいっ、いつまでそこでお座りしてるつもりだ、ん!?
さっさとここ出ねぇとヤバイんじゃないのかなぁ、お二人さん??」
前田の言葉に、フラフラと立ち上がる二人。
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「で、扉は開かねぇ、窓は割れねぇで、どうすんだ?
神山のオッサン、この病院の他の扉は何処にある?」
前田の質問に、震えてなかなか答えない神山。
前田はドカドカと神山へ歩み寄り、お尻をバシッと引っ叩いた。
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shake
「さっさと答えろっ!!」
その言葉にビクっとしたように正気を戻した神山は、慌てながら答えた。
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「は、はい、正面の入り口と、防災用の出口が奥の事務所にあります。」
「よし、とりあえず一箇所ずつ当たってみるぞ。
お前ら、この状況分かってんだよな?
次にアタフタしたら顔面引っ叩くからな。」
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前田の一喝に、二人はようやく目を覚ました。
だが、丸山の心は今だにあの「顔」と「時間」が離れない。
こんなところで時間を潰しているわけにはいかない。
そう思う中で、丸山はある一つの疑問が頭に浮かんだ。
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(俺たちは、あの少女を成仏させるために動いているはずだ.....。
なのに、なぜこんな時間制限をかけたり、俺たちの邪魔をするような行動を取るのだろうか.....?)
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「矛盾」。
その言葉がピッタリと当てはまった。
もし、少女が本当に成仏を望むのなら、丸山達を殺そうとする理由が見当たらないのだ。
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(まさか.....。
目的は成仏じゃ....ない.....?)
丸山達に、また新たな疑問が生まれたのだったーー。
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三人は懐中電灯の明かりを頼りに、正面入口へと回った。
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shake
ガンッ!
shake
ガンッ!
「くそっ....ダメだ、やっぱり開かねぇ。」
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正面入口も先程の窓同様、ガラス製にも関わらずビクともしない。
窓から見える外は、相変わらず赤暗い闇が覆っている。
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「仕方ねぇ、防災用の方を当たってみるか。」
三人は1F奥の事務所へと足を運んだ。
汚く大量の埃を被った机の傍に、防災用の小さな扉が隠れるようにして現れた。
前田が、その扉へ手をかけようとしたその瞬間ーー
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shake
バンッ!
「!!?」
shake
バンッ!!
「なっ、なんの音だ!?」
shake
バンッ!!!
先程いたフロアの方から、壁を叩くような音がするのだ。
しかも、その「音」は徐々に此方へ近づいてくるように大きく、早くなっていく。
shake
バンッバンッバンッバンッ!!!
事務所のすぐ目の前まで来ると、その音は静まった。
シーン....と静まりかえる空間。
しばらく三人は音のあった方を見つめたまま動けずにいた。
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「と、とにかく開けるぞ。」
ガンッ!!!
扉は勢いよく開いた。
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「ひ、開いたっ!!!」
三人は急いで外へ出た。
そして、すぐさま地べたへ倒れ込んだ。
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「ハァ.....ハァ......。
な、なんだったんだ今のは...?」
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愚痴るように前田が言うが、当然誰も分かるはずはない。
三人は急いで車へ乗り込み、村へと急いだ。
車の中では神山のナビ以外誰も口を開くことはなく、特に丸山は、下を向いたまま一人考え事をしていた。
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(あの「顔」....。
一瞬だったがあの少女で間違いないだろうな....。
でもなぜ?
もし成仏が目的じゃないとしたら、一体何をしてほしいんだ....?)
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車の外は、先程と何ら変わらない風景が広がっている。
それでも、空は相変わらず赤黒い闇が覆っていたのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-赤神-」
の続編となります。
日頃、皆様の暖かいご声援とても感謝しております。
本当にありがとうございます^_^
今回、予定では更新が遅れるはずだったのですが、急遽時間が取れたので更新します。
ただ、明日から私事で2〜3日ほど更新が空いてしまうので、大変ご迷惑をおかけいたしますがご了承くださいませ>_<
また、誤字脱字、矛盾がございましたら何なりとお申し付け下さい。
ご感想も、快くお待ちしております。
どうぞ、宜しくお願い致します。