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空は、相変わらず赤黒い闇に染まっている。
神山は後部座席で周りをキョロキョロと見回し、落ち着かない様子だ。
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「.....さっき、お前何見たんだ?」
運転している前田が、ふと助手席にいる丸山へ尋ねた。
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「あぁ.....。
お前に言われて懐中電灯を探してた時、ライターつけたろ?
その時、目の前にあの「少女」がいたんだよ.....。
不気味に微笑むようにしてな。」
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前田は、眉一つ動かさず「ふーん。」と答えた。
ふーん、とは何だ....。
どうしてそんな普通にいられんだ?この男は。
そんなことを思っていると、神山が後部座席からヌッと顔を出した。
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「み、宮坂さんが....。
あそこにいたんですか....?」
その目は、隠しようもなく動揺しているように見える。
暗くてよく見えないが、声から察するに少し震えているようにも感じた。
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「ええ、あれは恐らく「宮坂明子」で間違いない、と思います。」
「そ、そんな.....。
どうして....あの子があそこに...?」
神山の問いに、丸山は先程感じた「矛盾」も含め、今度は神山にも聞いてもらうようにして話した。
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「そう、俺も前々から疑問に思っていたんですがね。
なぜ、俺達の行動をあの少女が妨害するように現れるのか。
俺は、あの少女の「探せ」という言葉に従い動いています。
そして、その意味は少女のバラバラになった身体を集め、成仏させること。
.......そう思っています。」
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前田は黙って聞いていた。
神山も不安そうに聞いていたが、ふとハッとしたように「古文書」を取り出し、ページを開き始めた。
「あのっ......
この古文書には、こう書かれているんです。」
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そう言うと、神山はあるページを丸山へ見せた。
.....が、ミミズのような文字が書いてあるだけで読めない。
丸山は、昔から「古文」の類が苦手だった。
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「おい、見せてみろ。」
すると前田が、運転しながら本を片手に翻訳した。
丸山は、自分の出来ない分野をこなす前田に少し嫉妬したが、今はそんなこと気にしてる時間はない。
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「えーっと、大まかに訳すとだな.....。
切り離した6つの身体は、神聖な祠へ納め、封印する。
赤神の封印は、6つ全ての封印を成して始めて完全なるものとするが、一つでも解ければ微弱ではあるが封印は解除される。
儀式に使う生贄.....ってのはあのガキのことだと思うが、生贄の魂も儀式とともに封印されるが、同じように解除になれば封印は解かれる。
ただし解除をすれば、二つの魂はいずれ一つのものとなり、生贄の......。」
そう言うと、前田が訳すのを辞め、ページを見ながら黙ってしまった。
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「は?生贄の.....何だよ?」
丸山がすぐさま催促したが、前田はへっ....と小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ページを丸山へ見せた。
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「......見ろよ。
血みてぇな汚れで見えなくなってやがる。」
そのページの右下あたりには、茶色く汚いシミが文字を消してしまっていた。
恐らく、あの六人の飛び血によるものだろう。
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「まぁ、つまりは解除しなきゃガキの成仏はあり得ない。
でも解除したら赤神も一緒に解放される。
そんでガキの魂はいずれ侵食され、赤神と一つになっちまう。
......つーことか。」
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「......で、でもよ。
それが少女の「妨害」と何の関係があるんだよ?」
丸山の求めている答えはそうじゃなかった。
具体的な、妨害の意味する事を聞きたいのだ。
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「妨害......ねぇ。」
前田が意味深にそう言うと、空気を入れ替えるように運転席の窓を若干開けた。
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「だからよ、これはまたあくまで俺の推測だからな?
後で違っても文句言うなよ。
こいつから察するに、今赤神とガキの魂は同じ境遇にいるわけだ。
解除になれば解放、解除しなけりゃ永遠に封印ってわけだろ?
つまり、案外利害は同じなわけだ。
それでも妨害するとしたら、一つしかねぇだろ。
.......ガキが封印の解除を望んでいない.....って線だ。
赤神が解除を望んでないってこたぁねーだろうからな。」
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「なん....だよ、それ?」
丸山は考えた。
(......解除を望んでいない?
そうだとすると、あの「探せ」と言ったのはどういうことなんだ....?)
.....丸山がそんなことを考えていたその時、神山が呟くようにボソッと言った。
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「宮坂さんは.....優しい子なんです。
あの子はきっと、自分を犠牲にして赤神を抑えようとしてくれているんです。
だから.....。
だから私も封印を解除させないようにと.....思っていたんですっ.....!」
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神山は俯きながらそう言うと、鼻水をすすった。
恐らく泣いているのだろう。
だが、確かにそうなのかもしれない。
自分の成仏のためだと分かっていても、解除されることで赤神が解放されることを少女が望まず、妨害している可能性はある。
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「じ、じゃあ、探せってのは....?」
そう、丸山が今こうして動いている最大の目的である「探せ」の意味。
もしそれが少女の願いではないのだとすると.....?
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「その言葉、もしかすると「赤神」がガキに言わせた言葉だったのかもしれねぇなぁ.....。
自分を封印しているガキの身体を探させ、封印を解くことで解放されるわけだしな。
.....タイムリミットを設けることによって、強制的に俺たちはまんまと動かされている...ってわけだ。」
遠い目をしながら、前田が結論付けるように言った。
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「で、でもよ....。
赤神がそんなタイムリミットなんて人に呪いをかけるような真似出来るのかよ....?」
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「確かにな。
だが、こうは考えられないか?
六人をまとめて殺すことができる程の負の怨念を持つ少女の魂と赤神は、今「共存」しているようなもんだ。
その影響で、赤神自身もその怨念を利用できるようになったのだとしたら.....?
呪いのタイムリミットくらいなら、かけられるような気がしねぇか?
......まぁあくまで、全て推測の域を超えねぇけどな。」
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shake
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「そういう....ことかっ....!!」
確かに、それなら「矛盾」が納得できる。
それでも、例え少女の「望み」が封印の解除じゃないとしても、そうしなければいけない理由がある。
それは、神山も分かっているはず。
だからこそ、少女を成仏させることに納得したのだ。
......例えそれが、赤神を解放することになるとしても。
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「....けど二つ、引っかかるな。」
前田は運転しながら、残してあった昨日すでにフタを空けた缶コーヒーを、美味しそうに一口飲んだ。
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「一つは、なぜそもそも封印されている奴らが俺らに呪いをかけたりできたのか。
もう一つはこの古文書のここ、「一つでも解ければ微弱ではあるが封印は解除される。」ってところだ。
これよぉ言い換えちまえば、封印を一つ解除する毎に封印が徐々に解けるってことだよな?」
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shake
「!!!!!!!」
確かに、そういうことだ。
つまり、解除する毎に赤神の力も少女の魂も解放されていく....ということに他ならない。
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「赤神はよ、恐らく封印を解いてもらいたいんだから大丈夫だと思うよ。
でも、ガキの方はそうじゃない。
封印を解こうとする俺たちを止めるため、妨害してくる......いや、最悪の場合殺そうとしてくる可能性がある。
.....そう思わないか?」
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ごくっ....
前田の言葉を聞きながら、丸山の背中に嫌な汗がつたう。
もし、今少女が封印されているから俺たちに手を出せないだけ、なのだとしたら.....?
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「殺される可能性は.....
あるかもしれない。」
「まぁもう一つの封印されているはずの奴らが、20年経った今、俺らに呪いをかけられた理由だが。
これはもう、何らかの理由で封印が若干弱まった以外に考えられねぇだろうな.....。」
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丸山も神山も、到底動揺など隠せずに震えていた。
車は静かに暗い道を進み、徐々に深い木々の囲う山道へと入っていったのだったーー。
*************
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闇の深いある地点から、山道は車の行く手を阻んだ。
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「.....ここからは、歩きになります。」
神山は、まだ先程の話を引きずっている様子だ。
それは丸山も同じであった。
呪いによる迫る時間、そして少女の妨害。
実質、心の休まる時間なんて皆無だった。
何もしなければ、いずれタイムリミットによって赤神に殺されるだろう。
封印を解除し、すぐに少女を成仏させなければ、少女の凶悪な怨念の魂を侵食した赤神が解放されるだろう。
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残された道は封印を解き、赤神の侵食の前に少女の魂を成仏させる。
これしか無いのだ....。
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三人は、各々準備していた荷物を背負った。
そして神山を先頭に、深い闇の森へと足を進めていくのだったーー。
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ザッ....
ザッ.....
静まる山道には、三人の足音だけが響いていた。
会話は既に無く、ただただ神山の歩く道を二人が着いて行く。
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しばらく歩いて、神山が周りを見回した後で歩くのを止めた。
そして、何の目印もない真っ暗な木々の間を指差した。
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「......確か、ここを入っていったはずです。」
ドク....
丸山の胸の鼓動が嫌な意味で高鳴る。
不気味にそびえる木々の間は、まるで丸山の命もろとも吸い取るように、周辺の風を吸い込んでいるように感じた。
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「行ってはダメだ。」
身体の全てがそう告げているのが分かる。
本能が危険を察知していた。
それでも、行かなくてはならない。
この先に待つのは地獄か....?
いや、既にテープを見つけたあの瞬間から、丸山の「地獄」は始まっているのだ。
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「....行きましょうっ.....!!」
そして、意を決して三人は山道から森の内部へと進んでいった。
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バキッ....!
足元を懐中電灯で照らしてはいるものの、全く人の手が加わっていない獣道ではなかなか足が進まない。
ましてや、恐怖ですくみかけている足は重くふらついているため、進みづらさに拍車をかける。
それでも、三人はどうにか進んでいった。
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「......あっ。」
深い木々の向こう、懐中電灯の明かりの先に、赤い何かが見える。
近づいていくと、それはあの「不気味な鳥居」だった。
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鳥居は既に赤みをかなり失い、湿気と年月によって苔が生え、さびれていた。
所々にヒビが入っているのも確認できる。
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「.....ここをくぐった先です、赤忌村は....!」
内股でガクガク震えながら、神山は呟くように言った。
既に相当参っているようだ。
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「神山さん、無理なさらないで下さい。
この先、命に関わる危険があるのは必至でしょう....。
引き返すなら、今しかないですよ。」
丸山が神山に気を遣ったが、神山は震えながら首を横に振った。
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「.....いいんです。
私は、最後まで見届けなければいけない。
それがあの子への、罪滅ぼしだと思っていますっ....!
例え、結果的にあの子に殺されることになったとしても.....!」
「.......分かりました。」
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さびれた鳥居は、静かに三人を待っていたかのように、不気味に佇んでいる。
この先の村で、どんなことが起きたとしても、必ず生き残ると丸山は誓った。
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家で待つ、朝子のためにも。
.....そして、お腹に宿る、新しい家族のためにも。
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......三人は、ついに村へと入っていくのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-矛盾-」
の続編となります。
私事により更新が遅くなり、ご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございませんでした。
皆様のたくさんのご期待に添えられるよう、今回も一生懸命考えましたので、どうか楽しんでいただければ嬉しいです^_^
また、誤字脱字、矛盾等ございましたら、遠慮なく言って下さいませ。
ご感想もいただければ幸いです^_^
どうぞ、宜しくお願い致します。